シスターtoシスター!?
今日も俺は路銀を稼ぐため炎天下の中お子様たちに夢を与える人形使い(←かなり脚色された表現)としての腕を振るっているわけだが…
往人「なぜ誰もいない…」
この町の経済状況を疑うくらいに誰一人として道を歩く者がいない…ここは商店街のはずなのだが
往人「…帰ろう」
蝉さえも失神しそうな暑さの中で労働するほど俺は愚かではない、駅舎に帰って水浴びでもしよう
そう思い立ち上がったとき、後ろからぱたぱたと駆け寄ってくる足音があった
往人「客か!?」
そう思いマッハで振り返った直後…
少女「往人お兄ちゃ〜ん♪」
−だきっ−
往人「ぐはっ!?」
突然謎の少女に抱きつかれ俺は思わず尻餅をついてしまう、
一方少女の方は俺の腕の中で犬の匂い付けのように頬を摺り寄せていた
少女「えへへ〜往人お兄ちゃん、暖かいよ〜」
往人「暖かいと言うよりメチャクチャ暑いぞ…気温を考えて行動しろ」
俺は気だるそうに少女に言い放つと少女は小さな頬をぷうっと可愛く膨らませ怒りの感情を露にする
少女「もうっ、せっかくお兄ちゃんに会いに来てあげたんだからもっと喜ばないとダメなのっ!!」
本人は本気で怒っているのであろうが、その姿を見る限り可愛いとしか形容できない…
まぁしかし妹が折角炎天下の中、会いに来てくれたのを邪険にするのもアレなので…妹?
少女「どうしたのお兄ちゃん、考え事?」
能天気と言うかなんと言うか…
往人「一つ聞くが…お前は俺の妹だったりするのか?」
かなり神妙な質問に少女は一瞬きょとんとするものの、すぐに無邪気な笑みを浮かべ答える
少女「ん〜とね、違うと思うよ」
往人「では何故お兄ちゃん?っていうかお前は一体誰だ!?」
至極当然の質問である
少女「昨日も会ったばっかりだよ、一緒にお昼ご飯食べたよ〜」
昨日…?昨日は昼食しか食べてないよな、貧乏人の辛いところだな…しかもその昼食は霧島診療所で御馳走になったはず
相変わらずのソーメンだったのも覚えてる、しかしこんな可愛い子と飯を食ったことなどあったかな…もしかして若ボケ!?
往人「すまん…覚えてない」
少女は仕方ない…という様な顔をすると立ち上がり何かを始めようとしていた
少女「じゃあ私がお兄ちゃんにも解るように簡単に説明してあげるね♪」
そう言うと少女は何やら奇怪な踊りを始める…この暑さだからな、まだ若いのに気の毒だ…などと思っていると
少女の踊りにどこか見覚えがあることに気がついた、この虫唾が走るような動きはまさか…
往人「まさかとは思うが…お前毛玉か?」
少女「その呼ばれ方嫌いだもん!!」
毛玉という言葉に反応して少女は踊ることを止め、往人に批難の視線を浴びせる
往人「しかし何故あの地球外生命体がこんな可憐な少女に…?」
それ以前にもっと別の場所に着眼すべきであろうが、暑さのため思考が短絡的になっているらしい
少女「む〜、イジワルなコト言う往人お兄ちゃんには教えてあげないモン!!」
このまま放っておいてもいいのだが、とりあえずヒマなので知的好奇心を満たしてみようと思う、ただ勘違いしないで
もらいたいのは決して俺がただの暇人ではないということだ、今は休憩中なのだ…
往人「え…っとな、お前があんまり可愛くなってたからびっくりして
つい心にも無い事を言ってしまったんだ、だから気を悪くしないで教えてくれないか?」
そう言うと少女はにぱっと嬉しそうに微笑みを返してくる、ふっ、軽いな、所詮は畜生だな
少女「あのね、優しいお姉さんにジャムを貰ったんだよ、それを食べたらこんな風になってたんだ♪」
往人「…ジャム?」
少女「鮮やかなオレンジ色のジャムだったよ、美味しくなかったケド」
往人「世の中は不思議が一杯だからな…ってお前メスだったんかい!?」
ある意味それ以前の問題だが…
少女「酷いよっ、私ちゃんと女の子だもん!!」
例え毛玉と解っていても女の子に涙目で訴えられると弱い
往人「うぐっ…悪かったなポテト」
少女「その名前で呼ばれるのもなんかヤダなぁ…」
なんか贅沢な奴だな…
少女「えっと…由希って呼んで♪」
なんか言ってるし、この毛玉…
「…なんで【ゆき】なんだ?」
そういうと毛玉は照れくさそうにモジモジしながら一言
由希「往人お兄ちゃんの往からとったんだよ、えへへ、なんか嬉しいな♪」
うぬぬ…悔しいが可愛いぞ、ってもう一つ疑問があったんだ
往人「なんでお兄ちゃんって呼ぶんだ?」
ここでトドメの一言
由希「だって往人お兄ちゃんは妹が好きな変態だって聖さんが言ってたよぉ〜」
往人「ぐはっ!! 聖め、なんてコトを!!」
由希「往人お兄ちゃんが変態さんでもいいよ、由希、お兄ちゃんが大好きだもん」
絶対に何か勘違いしてるであろう由希…どうしようコイツ
往人「用がないなら早く帰れよ、俺ももう駅舎に戻る」
結局、妙な重圧に耐え切れなくなった俺はつい冷たく由希を突き放してしまう、本当はこんなこと言うつもりじゃなかったんだけどな
ま、俺がひねくれているのは今に始まったことじゃないからな
由希「うん、じゃあ帰ろっ」
そう言って隣に並ぶ由希、傍から見れば微笑ましい光景なんだろうな…アレ?
往人「ちょっと待て、何故ついてくる!?」
由希「だって由希、お兄ちゃんと一緒に暮らすんだもん、だから一緒に帰るんだよ」
そうか一緒に暮らすのか、じゃあ一緒に帰らないとな…って
往人「おい!! いい加減にしろ、正直迷惑だ!!」
俺の腕にしがみ付いていた由希の表情がみるみる曇っていく、そしてその場に座り込み泣き始めてしまう
由希「一緒に暮らすんだもん…グスッ、お兄ちゃんと一緒に暮らすんだもん…」
今ここで由希に優しい言葉をかければ俺の生活は新しいものになるであろう、だが俺はそれが怖かった…
だから由希を置いてこの場を去ろうと…
店員「おい兄ちゃん、妹泣かせてそのままってのはどういう了見だ!!」
子供「ママ〜、あのお姉ちゃん可愛そうだよ」
通行人「酷いわよねぇ、あんなに可愛い妹を泣かせたまま置いていくなんて…」
ぐはっ…何故こんなにも人が!? 俺が人形劇をしているときには一人もいなかったのに…
このまま由希を置いて立ち去ったら俺って極悪人だと思われたりするのか…
そうなったらこの町で商売が できなくなる…それはマズイ
往人「ゆ、由希〜、兄ちゃんちょっと言い過ぎたな、もう怒ってないから一緒に帰ろう」
そういうと由希は顔をあげ上目遣いに尋ねる…っていうかその顔は反則だ
由希「グスッ、ほんとに、由希、お兄ちゃんと一緒に暮らしてもいいの?」
往人「…ああ、一緒に帰ろう」
言ってしまった…もう後戻りは出来ないんだろうな
「うん、往人お兄ちゃんだ〜い好き♪」
向日葵のような笑顔とともに俺の首に抱きつく由希、そして手を繋いで駅舎へと向かっていく俺達、
これから由希を交えて色々な事が起こるであろう…でも今は由希の手の温もりを感じていたかった。
もしかしたら由希が俺の探していた少女なのかも
しれないな…
−続くかも‐