「結局、俺たち皆がそれぞれに悪かったんだな」

「そういうことだねえ…ボクがもう少し…とか、音夢ちゃんがもう少し…とかね」

時は昼下がり、場所は縁側

…明らかに年寄り臭いがまあいい

「ほれ」

「あ、ありがとー。いやー、お兄ちゃんも来る前に連絡ぐらいくれればいいのに…」

短い足を縁側でぷらぷらさせながらさくら−一応の俺の恋人が言う

何故一応か…はそのうち嫌でもわかる

「こういうのは突然だから楽しいんじゃないか」

「そーかな? まだかな〜って待ってるのもいいもんだよ」

「そんなもんか」

再び手から手ごろな和菓子を作り出して放り込む

自分で食べる意味の無いことだが時間を潰すにはちょうどいい

「で、話は戻るが結局俺のコレも消えてないしな。
一体どういうことかと聞きにきたわけだが…」

そう、詳細は説明がかったるいので省略するが、
目的は達せられて桜も花が散ったわけだし全ては終わったと思った

ところが相変わらずぼんやりとだが夢の中継はあるし、
先ほどのように和菓子も出てくる

何より、噂じゃ散らない桜がまだ島のどこぞにあるとかどうとか

驚いて夢か?と本気で思ったぐらいだ

「んー、よくわかんない」

「わかんないって…」

指を口元に持っていく仕草は相変わらず幼い

…まあ見た目も全然変わらないのだが

「もしかしたらどこかに桜の枝が接木でもされてたかなあ?」

「おいおい…」

ということは後何本あるかはっきりしないということになる

「でも心配ないよ。もう本株である桜は無いんだし、
せいぜい強い願いのときに偶然が傾くぐらいじゃないかなあ?」

のほほんと言ってのけるがなかなかに重大なことのような…

「偶然がねえ…」

そう答えつつここ最近の俺の行動を振り返ってみる

…回想終了

「いかん、俺ってもうだめかもしれない」

「お兄ちゃん?」

「そう、それだっ!」

「わわわっ!?」

叫びに危うく縁側から落ちそうになる中学生からほぼ変化の無い容姿のさくら

「で、ボクが何?」

「つまりだな、音夢もそうだが俺の呼び方が問題だ」

びしっと指を突きつけて数日前に杉並から忠告か助言か判断しづらい話を聞いてから考えていたことだ

「あれ、前もそんなこと言ってなかったっかな?」

「ああ、そうだったな」

あの時は敵がさらに増えたが…今よりはましだった

「俺としてはこう…もっとわかりやすいのがいい」

「わかりやすい? …パパとか?」

痛い、改めて考えると痛すぎる呼び名だ

「人前では言うなよ。それはともかく、そんな感じだな」

うーん、と思案しながらうつむいていたさくらがはっと顔を上げる

「じゃあもっと小さい子に呼んで欲しい?」

「何故そうなる。というか既に…うっ」

「既に、何かなあーお兄ちゃん?」

さすがのさくらもこれに関しては少々触れがたい話題のようだ

「いや…なんでもない」

「そう? さて、そーだねー…じゃあさあ、お兄ちゃんはボクや音夢ちゃんがどうなったら楽なの?」

「楽じゃないような気もするけどなあ…」

少なくともほぼ同年代の姿よりは誤解が無いんだよな

−皆小学生ぐらいの小ささだったなら

その瞬間、俺はソレを感じた

「おい、さくら?」

「えへへ…ちょっといたずらしちゃった♪」

背中にかかった声は無視できない内容だった

「しちゃった♪、じゃないっ何をっって…」

イタズラに成功した子供のような表情であろうさくらを怒鳴ろうとして振り向いた先に想像した光景は無かった

それどころか視界が揺らいだ

「…あれ?」

「一眠り。それで夢という名の現実の始まりだよ、お兄ちゃん」

 

〜シスターパニック!?ダ・カーポ出張版〜

ざ・すもーらーわーるど

 

 

目覚まし-それは人類が発明した最高にして最悪の起床装置

叩き起こされ、まどろみから抜け出る不快感はそう並びえるものはあるまい

枕元にあるはずの固定されたそれに手を振り落とす

音を立て、それは騒音を収める

「んあ…朝か…ん?」

何かおかしい、俺は昨日いつベッドに入った?

そんな俺に影が差していることに気がつく

「兄・・・さん?」

そして声

間違うわけもなくこれは・・・え?

なんで音夢の声が真横から・・・っ!?

「音夢・・・なのか?」

「う・・・うん」

未だ呆然と自分を見下ろす音夢は・・・

なぜか昔の、多分小学生ぐらい?の大きさに縮み、
それに比例してYシャツがだぼだぼになっているという姿だった

朝日が射し込み、緩いのかずれた肩口を照らしている

「とりあえず出る」

「あ・・・」

何か言いたそうな音夢を振り切って着の身着のまま、
とりあえず制服だけを持って部屋を出る

ドアを閉めて周囲を見ればここは俺の部屋の前だ

ということは音夢が俺のベッドにもぐりこんでいたことになる

・・・そんな馬鹿なはずもないだろうが、事実がそこにある

『いいよ、兄さん』

何がいいのだろう?と疑問を浮かべつつドアを開く

ベッドの上で相変わらず音夢はぺたんと座り込んでいたが
袖や腰回りなどをしばったり工夫して着れるようにしたようだ

混乱と興奮からか、音夢の頬が赤い気がした

「取り合えず日課だ」

「もう、こんなときにも?」

コツンと額を押しあててじっとする

・・・少し汗ばんでるな・・・仕方ないか

「で?」

「で?って・・・兄さんにわからないのに私がわかると思う?」

少し怒った様子の音夢も今は迫力がない

「いや・・・聡明な音夢様だったらわかるかなーと・・・やっぱ無理か」

ため息をついていると音夢がベッドに座った俺の服の裾を引っ張る

見ると不安そうにもじもじと体を揺らしながら音夢が見上げてきた

「ねえ・・・私どうしちゃったのかな・・・昨日は妙な夢見ちゃうし…どうしてここにいるか覚えてないし」

前の事件のことがあるせいか、おどおどと怯えた様子だった

「まー聞いてみるか」

「誰に?」

俺は聞いてくる音夢の背後を指差す

「そこで見てる奴にだ」

「やほー」

「ふぇ・・・きゃっ!?」

これまた予想通りの入りかという感じだが、
枝を伝ってさくらが・・・って待て

「さくら・・・お前もかっ」

「ん? ああ、音夢ちゃんも縮んじゃったんだ?」

「音夢ちゃんもって・・・ああーーーっ!」

音夢はさくらの声に凝視し、気がつくと叫んだ

さくらも確かに縮んでいるという事実に・・・

と、騒ぐだけ騒いで目覚し時計が日常を刻み、
三人は三人ともさし当たっての現実である登校について考えた

「ボクはほとんど変わってないみたいだからいいけど〜。
音夢ちゃんはどうするの? 休む?」

「う”−・・・行きます。袖をまくってでも」

病気でもないのに(ある意味病気より厄介だが)欠席するのはプライドが許さないらしい

「朝飯は・・・買い置きで済ますか」

こういうときに普段の備えが活きたのだ。……あまりよろしくないのだろうが

 

−ようやくたどり着く教室前の廊下

「さて、出番だぞ杉並」

「おうっ! と言いたいのは山々なのだがな。
この状況の原因は朝倉のようだが?」

からかっているのがわかるだけに余計に杉並の声がうるさく感じた

「く、だからといってっ」

某機動戦士の一コマのようなせりふを吐きながら目の前の状況を把握しようと理性を叱咤する

そう・・・確認した限りでは俺の周囲のある程度親しい女生徒だけが目立って縮んでいるという事実

その中でも低年齢化が激しい人物たちがいる。

筆頭は音夢、そりゃあもう小さい

どれぐらいかといえばさくらからも撫でられてしまうほどの小学生っぷりだ

「朝倉妹がここまでかわいらしい容姿だったとはな」

杉並の一言に音夢が怯えるように俺の背中に隠れ、制服を掴んだことに気が付く

「おい、気持ち悪そうだぞ」

音夢への視線を値踏みをするような視線に感じたらしいことを伝えると奴はショックを受けたように沈んだ

まあすぐに復帰するだろう

なお、音夢以下ことりや眞子、萌先輩までもらしい

各人によって低年齢化には差があることはわかった

「ほとんと変わってない奴もいるしな」

誰にともなくつぶやくと背中に殺気らしきものがやってくる

「そ・れ・は、誰のことかなー?」

ぴくぴくと頬の一部を引きつらせる我らがろりっこのさくら

自他ともに認めているのだからこう表しても問題はないだろう、多分

「事実だろ? さてと、今日は授業になるのか?」

「だからってあっさり流さないで欲しいのが乙女心って奴だよお兄ちゃん」

めげずに食らいついてくるさくらは見た目のインパクトとしては前とそう変わらない

確かに小さいが、他よりも元との差がないせいで大きな衝撃はなかったのだから仕方がない

「あーーーっ! あさくらせんぱいですぅーーーっっ」

記憶よりも遥かに幼く、かつ舌足らずな叫びが背後の廊下からドップラー効果を伴ってやってくる

少なくとも音速よりは遅いということで、って当然か

落ち着いて振り返り、硬直した

その間わずか1秒足らず、しかし事故を起こすには十分であった

「・・・はっ! うぐっ」

振り返ったままで硬直している人間にブレーキを考えない走る人間が近づけばどうなるか、
正解は・・・衝突である

(冷静に分析している場合じゃない・・・と思う)

ぶつかってきた犯人、美春は予想を越えた低さ、
そして格好であった

「うわ・・・さすがに兄さんもうずくまってる・・・」

「音夢ちゃん、指でつんつんしてみようか?」

うずくまった俺の耳元で展開される少女二人の会話

それにつっこみを入れる気力はそのときの俺にはない

ただひたすらに美春が衝突した腹部とその下の痛みに耐えていた

「・・・ふ、欲望の代償といったところか? よくわからんが」

原因は知らずとも、誰が中心でどんな相手に、
がわかっているらしい杉並は悟ったような言葉を言って俺の肩を叩いた

峠を越えれば後は鎮まるだけだ。徐々に復活していく俺

「で、どこで用意した」

美春に向かっておそらくはその場全員の代弁を行う

「へ? なんのことですかぁ?」

美春、いやもうすでに幼女美春は自分を見回したり視線を周囲に動かしたりと
せわしなく動きながら答えた

・・・スモック姿で

スモックとは幼稚園児がよく着ている胸に組を示したりするバッジがついてたりするアレである

水色が一般的だろうか?

「服だ、服。制服はどうしたんだ?」

「ああ! そのことですかぁー。えっとぉ・・・変な夢を見て、朝起きて
・・・小さくなってたみたいです。そしたらお父さんが」

「もういい、わかった」

ふと公園での会話を思い出し、そこで会話を打ち切る

見知らぬお父さんグッジョブ・・・なのか?

比較的まだましな眞子や、袖をまくったりでぎりぎりの音夢あたりなどは
なんとか制服を着てきている

頻繁に肩口のずれを直しているあたり辛そうである

まだ登校していない生徒もおり、
そうこうしているうちに休校の放送が入る

「休校・・・ねえ」

俺は嫌な予感を覚えていた

「んー、仕方ないと思うよ」

さくら曰く、島全体に少なからず低年齢化は広がっているだろう、ということだった

現に男子も縮んでる奴いるしな・・・

「兄さんがあんなこと願うから・・・」

なぜかほとんどの生徒が帰宅し、教室も閑散とした中
俺とその他複数人は教室に残っていた

「ふははははははは。やはり責任は一人にあるようだな。
朝倉兄、この現象の起こし方を解明する人員は必要ないかね?」

「いらん」

にべもなく答え、確実に状況を楽しんでいる杉並を切り捨てた後に
ふと思い立って問い掛ける

「うわさはどうなってる」

こう見えても奴は情報網が広い上に多彩だ

「ふむ・・・いろいろあるが・・・まあいいか、という感覚が共通の認識のようだな」

それはつまり、おきたことは仕方がない?

「今のうちにカメラに・・・心配するな。あとくされのない相手だけだ」

「それはそれでどうかと思うが」

混乱する女生徒たちの弱みを握るわけでもないのだろうが、
杉並は教室から飛び出していった

「なぜ個人差がある?」

残ったのは俺と音夢とさくら

音夢は俺と一部夢も含めて共有している部分があるから事情の大体は把握しているはずだ

「それは・・・島にかかった魔法だからかな」

「魔法ねえ・・・前も言ったが願ったのは俺のようで、ところが俺が考えていないレベルの状況でもあるぞ?」

さすがに関係のない相手まで・・・と願った覚えはない

「私は・・・わかった気がする。願ったきっかけは兄さんで、かかった魔法の・・・
私やさくら、眞子なんかが自分で考えちゃったからじゃないかな?」

「あったりー♪ お兄ちゃんは願った際に具体的な年齢や容姿は
特に指定せず、漠然と願ったはずだよ?」

さくらに言われ、思い出す

あれは・・・

「さくら以外も幼くなれば呼ばれても敵が減るかな・・・だったか」

「兄さん、そんなこと願ったの?」

あきれた様子の音夢の声

話を聞けば、昔の、音夢いわく俺が優しかったころの夢を見たらしい

どうやら俺の願いをかなえるようなパターンの夢が
各人に出てきたようだ。それにしても優しかった、などということは
今の俺は優しくないということかね音夢君、後で問いただそう。だが…

「かったるい・・・」

「かったるいって・・・兄さんに責任はあるんでしょう!?」

「みゃー・・・ボクにもあるかも」

ふと浮かんでしまった願いを木に届けてしまったのはさくらであり、自覚はあったようだ

さくらがしゅんとなったのを見て音夢も高くなった声を収めた

「で、どうすればいいの?」

「どうってなあ・・・なんも考えてなかったし」

「あ、じゃあこれを期にいろいろやりたいことをやろうよ!」

さくらがぴょんっと跳ね、提案する

「「やりたいこと?」」

疑問を浮かべる俺たち兄妹にさくらがふふーんと得意そうに次の言葉を放った

「三人でおいしゃさんご・・あひゃぁっ!?」

すぱぁんと音夢がどこからか取り出した手帳らしきものがさくらの頭をはたいた

「さくらっ! 馬鹿なこと言わないでよっ」

身長ならさくら以下、そのため怒っても子供が意地をはってるかのような
こう・・・ほほえましい表情になっている音夢

「あいたたたた・・・だって・・・あのころは三人じゃ遊べなかったもん」

さくらの言葉に音夢がはっとなる

「今はそうでもないけどな」

もちろんさくらと俺は恋人状態だが、音夢はいまだにあきらめておらず、
さくらとの争奪戦?を時折繰り返している

「ごめん・・・そこまで考えてなかった」

「ううん、いいよー。じゃあ音夢ちゃんが患者さんねーうひゃぁっ!?」

「だからってなんでそーなるのよぉっ!」

駄々をこねる子供のように音夢は顔を真っ赤にしながらさくらをはたいていた

何を想像・・・って決まってるか

その後さくらとの過去を暴露され、音夢がおなか付近をぽかぽかと叩いてきたのは
ほほえましいシーンであったことは追記しておこう

所と時は変わって朝倉家

俺は買出しを頼まれ、その間に帰宅していた音夢と、
遊びに来たさくら、そしてスモック姿のままの美春を巻き込んで
一室で下着姿の三人を俺が診察している・・・などということはなく、騒いでいた

大体触診は素肌が基本って違うか・・・

「かったるすぎる・・・」

「でー、美春はごしゅじんさまー♪ とか呼んでみたいんですよ〜」

「そ、それはまずいわよ、美春」

音夢が引きつった表情で美春の暴挙を止める

「えー、なんでですかぁ?」

俺はそんな美春がわかった上で音夢をからかってるのだと見抜いた

なぜかコチラ方面について理解というか知識があるようだからな

「なんでって・・・さくらも何か言いなさいよっ」

「何かって言われても・・・ボクはお兄ちゃんやめてパパさんとかかなあとか考えてたし」

「ぶふっ」

逃げることはできず、三人の会話を聞いているしかなかった俺はその言葉に噴出す

「そ、それもまずい・・・」

「兄さん・・・呼ばれて嬉しいんですか?」

俺の表情を見た音夢がなぜか赤らむ顔に気がつかずに俺に言う

「まあ浪漫だからな。うむ」

もうどれになるかはわからないが危険な呼び方に決定されるのは
避けられそうに無いと悟った俺はできる限り開き直ることにした

それでも美春にご主人様とかさくらにパパはつらすぎる

なんていうか・・・変態の二乗三乗という感じだ

「その・・・兄さんが好きならご主人様・・・とか、おにぃちゃん、とか・・・えと・・・」

「どこから仕入れた。ってそこか」

俺の質問に一人を、すまなそうに縮こまるさくらを指差した音夢

「えへ♪」

「えへ、じゃないっ! ・・・どうせ杉並だろう・・・奴め」

俺が買出しのために離れた隙に吹き込んだに違いない

三人は幼少中、という感じなので俺は歳の離れた妹がいきなり三人になったような感覚を覚えていた

「あ、でも・・・やっぱりパパとかはまずいかな。お母さんがいないから」

さくらのせりふに妙に納得した様子の二人

・・・ご主人様はどうなる

俺の心のつっこみは当然届かず、なにやら会議らしき会話は続いた

そして数刻

「決まりましたぁ!」

「ん、何がだ?」

さすがに退屈になった俺は窓際にいる白い物体と戯れていた

そのために会話はほとんど聞いていない

「にゃー・・・三人が三人ともお兄ちゃんをお兄ちゃんみたいに呼ぶことになりましたー♪」

「なりました〜♪」

「まあ・・・私とさくらはあまり違和感ないしね」

三者三様、妙に嬉しそうな美春とさくら、
そして何か照れた様子の音夢

・・・杉並がいたらつっこみがきそうだな

また妹の魅力がどうこう、とか

今となってはうなずく部分もあるのが悔しい

そして戻る手段も探さないまま奇妙な世界は再び奇妙な人間模様を生み出していくのだった

(あんたも物好きだねえ・・・)

(ほっとけばーちゃん)

呆れた、それでも楽しそうな思い出の声に答える俺を中心にて・・・

 

後編へ続く

 


あとがき

やっぱこー…ねえ?(何

美春はこのぐらいがいいのですよ(笑

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