「亞里亞様、それは私たちが…」

「…いいの」

小さくいつものように、しかし普段とは少し力をこめた声で亞里亞が
じいや(本人は否定するのだろうが、じいやと呼ぶことにしよう)に答える

「これは…亞里亞が…やるの…」

いつも整えられ髪を、服を、汚しながら亞里亞はそれでも
めったに見ない表情で手を動かしつづける

「兄や…待ってて…」

日の差し込む窓に、ふと視線を送りながら亞里亞はつぶやく

 

 

 

 

〜ある日の過ごし方〜

 

 

14日だ

いや…だからどうした、と言われても困るのだけれども…

「こっちもどうしようかな…」

手元にあるのは10個のチョコレートに分類されるもの

いや、ほとんどはちゃんとしたものなんだけどね…
雛子ちゃんの分はもう食べちゃったし…

咲耶ちゃんや可憐ちゃんのはともかく、
千影ちゃんのは…少し調べてからじゃないと…

それにしても、たくさんもらっちゃったな…

「後は亞里亞ちゃんでパーフェクトか…ま、とりあえず冷蔵庫にしまいに行かないと」

中には常温じゃ溶けていきそうなものもあるしね

「これでよしっと…さて、ゆっくり頂きますか…」

さすがにこのままほうっておくとか、
ごみ箱に行ってしまうような事態はしないようにしないとね…

「今日は疲れたな…まずは…?」

そうして今日のことをゆっくり思い出しながら包みを開けていく

 

 

 

−朝−

「さて、学校に行かないと…って?」

朝からなぜか玄関に人影があった

しかも…

「ご無沙汰しています、兄上様」

「鞠絵ちゃん、驚いたよ…どうしたんだい?」

「その…届けに…」

そうしてゆっくり取り出したのはラッピングされた包み

「あ…チョコかい?」

「はい…」

いくら普段は咲耶ちゃんとかに、鈍い鈍い言われているとしても、コレぐらいはわかる

「そのためにわざわざ? ありがとう。でも体のほうは大丈夫?」

「ええ、と言ってもすぐにまた戻らなくてはいけませんけど…寂しいです」

言ってからしまった、という感じで口元を抑える鞠絵ちゃん

「ん、また皆で遊びに行くよ。きっと、ね」

「あ、おにーたまと鞠絵ちゃんだ〜♪」

そんな二人に、元気な声がかかった

「おはよう雛子ちゃん。一緒に学校に行きたいの?」

「うんっ、だからめざましもいつもよりず〜〜っとはやくしたんだよ?」

偉い?と聞いてくる雛子ちゃんの頭を撫でてあげる

「わ〜い、おにいたまにナデナデしてもらった〜♪ あ、そうだ!」

雛子ちゃんはそう言って、ごそごそとポシェットに手を入れて何かを探し始めたのだった

「えーと…はいっ」

小さな手にちょこんと乗っていたのはやっぱり小さなチロルチョコ

「これ、雛子ちゃんのおやつなんじゃないの?」

「うん、そうだけど、おにいたまにあげるためにヒナ、我慢したの♪」

笑顔でそれを受け取り、期待のまなざしにこたえるように
その場で口に入れる

「うん、おいしいよ」

「えへへ、よかった〜」

雛子ちゃんはずいぶん嬉しそうだ

手を口元に持っていって笑っている

「では兄上様、短い間で残念ですが、帰りますね」

「うん、気をつけてね…」

最後に軽く抱きしめ、背中をぽんっとたたいてあげる

「さ、雛子ちゃん、学校に行こうか」

「は〜い」

そして鞠絵ちゃんと別れ、二人で通学路を歩く

「おにいたまは今日いっぱいチョコもらうのかな〜?」

「あはは…もらってみないとわからないかな?」

なんてことを言いながらゆっくりと歩く

「あ、おねえたま達だ〜」

「ん、本当だ」

道の途中に、咲耶ちゃんらがきょろきょろとあたりを見渡していた

こちらを見つけると駆け寄って来て挨拶をする

「みんなして、どうしたんだい?」

「野暮な質問ね、お兄様。この日に女の子が人を探す理由なんて、決まってるじゃない」

「そうよ、お兄ちゃん…はい♪」

普段はフォローを入れてくれる可憐ちゃんも今日ばかりは手厳しい

「ああ。うん…ありがとう」

手渡される包み達

見るまでもなくチョコレートなんだろう

「じゃ、来月は楽しみにしてるわね、お・に・い・さ・ま♪」

「あは…あははは…うん、なんとかご希望に添えるようにするよ」

ここにこうしているわけにもいかず、総だって学校に向かう

学校についた後も、白雪ちゃんや花穂ちゃんからチョコをもらう事になった

ちょっと周囲の視線が痛かったかな…

 

 

 

「考えてみれば、確かに視線を向けたくなるよね、誰でも」

我ながら12人は…ねえ?

「さすがに飲み物を飲んでるとはいえ、くどいかな…」

一度に食べる事もないだろうと、今日は適当な量でやめておくことにした

時間ももう夜になる時間だ…

そんな時間だけど、呼び鈴がなった

「誰だろう…?」

不思議に思いながらも玄関を開けると、見覚えのある姿があった

「亞里亞ちゃん!? なんでこんな時間に…しかも一人で?」

「兄や…亞里亞ね、渡すものがあるの…」

小さな、でも勇気を振り絞ってるかのように、亞里亞ちゃんはこちらをじっと見て言う

「ん、何?」

しゃがみこみ、視線を合わせて優しく聞く

「これ…兄やにあげるの…」

そして渡されたのは、大きさはたいした事のない、
形もお世辞にもしっかりしてるとはいえないチョコレート

「これ…亞里亞ちゃんが作ったの?」

「…そう、亞里亞が作ったの…」

恥ずかしそうに隠す手を、見逃さなかった

「やけど…そっか、がんばってくれたんだね」

そっと、手を包み込んで笑顔になる

「うん♪」

亞里亞ちゃんもにこっと笑ってくれて、嬉しかった

亞里亞ちゃんが自分で、自力だけで作ったのは明白だ

とても…いいことだとおもう

「…今日は、兄やだけで食べていいの…」

「そう? わかった…」

口に入れ、思わずちょっと顔をしかめる

「兄や…おいしくない?」

「あはは…亞里亞ちゃん、お塩と砂糖が…逆だよ、うん」

「…クスン…兄や、ごめんなさい」

顔をうつむかせて泣き出す亞里亞ちゃんの頭を撫でる

「うん、次は、もっとがんばってみようね。楽しみにしてるから」

「…うん♪」

泣き止むのを待っているうちにお迎えがきたようで、
じいやさんは頭を下げて、亞里亞ちゃんを車に連れて行った

「さて、明日もいい日になるかな?」

 

空を眺めても、星が瞬くだけだった

 

 

終わり

 

 

あとがき

というわけーで、ゲームの1イベント並に短いですが、
雰囲気が出て…るといいな(笑

感想その他はメールかBBSにて

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