(誕生日か…)

商店街を一人、祐一は歩いていた

道行く人々は厚着で寒風の中を丸まるようにして歩いている

「俺も…帰るか」

よく読む雑誌を買いに出て来た祐一だが、そろそろ寒さも限界のようであった

片手に包みを持ちながら、帰路を急いでいく

 

 

〜水瀬家居間〜

俺は雑誌とは別の包みを抱え、居間に入る

「あ、祐一お帰り」

「ああ、真琴は部屋か?」

夕方のTVを見ている様子の名雪に聞く

「うん、さっき上に上がっていったよ」

「そうか…」

中身を聞かれなくてすむからな…

「祐一、それ何?」

「ん? まあ、それも含めて少し相談がある」

真琴がおりてくる気配が無い事を確認してから名雪に近づく

あいつが戻ってきてから半年以上、再びやってきたこの季節…やりたいこいとがある

・・・

・・

「祐一はやさしいね…」

「別にそう言うわけじゃない…その…家族…だからな」

言って自分が照れているのがわかる

「わたしからお母さんには伝えておくよ」

「助かる」

後は…

「また出かけてくる。ちゃんと呼ばないといけないからな…」

「そうだね。いってらっしゃい」

笑顔で手を振る名雪に背を向け、俺は再び寒風の中に身を躍らせた

 

 

〜二階真琴の部屋〜

「はぁ…」

床にだらけた様子でうつぶせになりながら真琴は息をはいた

「誕生日…かぁ〜」

ごろんと転がり、また止まる

「真琴の誕生日…いつなのかな?」

真琴は先日のあゆとの会話を思い出す

 

 

 

 

「ボク、7日が誕生日なんだよ」

「お、ついに15歳か?」

あゆの言葉に祐一は真顔で答える

「うぐぅ、…怒るよ?」

「いや、冗談だが。そうか…」

真琴は静かに聞いていた

二人っきりの時間を邪魔してきたあゆに怒っているわけでは…、
いや、少しはあるのかもしれない

見せつけるように祐一の腕に捕まっているのだから…

「そのときは家に来たら秋子さん達も歓迎すると思うぞ」

「あ、うん。そうだね…そのときに決めるよ」

「祐一…寒い」

真琴は話を途切らすように祐一の腕を引っ張った

「ん、ああ…今日は少し長く出てたからな…俺も寒い。あゆ、じゃあな」

「うんっ、またねっ」

 

そんなやり取りがあったのがつい数日前

冬休み真っ只中のことだった

 

 

「真琴は…まだ誕生日を…知らないなぁ…」

狐時代はもとより、こうして人間の姿になってからも
そんな機会はなかったのであるから当然であろうか

「寂しい…な」

天井を見つめたままの真琴の瞳が少しずつ閉じられ、
静かな寝息が暖房の音と一緒に部屋に響いた

 

 

 

 

 

「真琴はうたた寝しちゃってるみたいだよ」

「じゃあ今のうちに準備をしてしまいましょう」

俺が目的の相手を連れて帰ってくると、
秋子さんも帰宅しており、名雪から事情を聞いて動いてくれているようだった

「じゃあ…どうする?」

俺は傍らの彼女に声をかける

「そうですね…起きてくるまでゆっくりさせてもらいます」

そう言って天野は居間のソファーに腰掛けた

俺も特にする事がないので横に座る

「急に呼び出してすまなかった」

「いえ…とてもいいアイデアだと思いますから…」

「そう言ってくれると助かる」

俺が答えると、天野は静かに微笑んでくれた

途中寄った店で天野が買った包みがその腕の中でゆれる

「でも、どうして今日なんですか?」

「ああ…多分だが…」

そして俺は語り始める

真琴があの時期に何故人間になってきたのか

そこには何らかのきっかけがあり、それは俺のこの地への帰還ではないかということ

そして、ならばタイミング的にいつだろうか…ということ

「それで…俺がこの町に戻ってきたときじゃないかと思ったんだ」

そのための・・・1月6日

 

 

 

 

「ふぁ…あれ?」

真琴は下が騒がしい事に気づき、部屋を出ようと立ち上がる

「あ、真琴。起きたんだね、ほらほら」

「あぅ?」

丁度部屋にきた名雪に手を引かれ、真琴はわけのわからないままに一階へと連れて行かれた

・・・

・・

 

『真琴連れてきたよ〜』

「ああ、いいぞ」

『あぅ〜…』

真琴の不思議そうな声も聞こえてくる

俺は手に持った紐にちょっと力をこめる

そして…ドアが開くと同時に引っ張る

耳に響くクラッカーの音

真琴が降り注ぐテープなどの中でびくっと震えるのがわかる

…驚かせたか?

「真琴、誕生日おめでとう。勝手に決めた日だけどな」

代表の俺の言葉に真琴が首をかしげる

「え…誕生日?」

手短に俺は先ほどと同じ意味の説明を真琴にしてやる

段段と真琴の顔が嬉しそうなそれに変わるのを見、俺も笑顔になる

「あぅ〜…いいの?」

照れた様子で俺や天野を見渡す真琴

「わからないなら、自分で日を決めるしかないしな
…というわけだ。おめでとうって言ってもいいか?」

「…うん」

真琴の頷きを見て、名雪達も口々に祝辞を述べる

「はい、せっかくですからご馳走にしました」

秋子さんの言葉どおりに、とてもこの時間内で作ったとは思えないメニューが並ぶテーブル

「うわぁ〜」

真琴の声が…不意に思い出されるいくつ物シーン

それを振り払うかのようにして俺は包みを真琴に差し出した

「開けていいの?」

「開けてもらわなきゃ困る」

誕生日なのだからな

ごそごそと包みを開けていた真琴の動きが固まる

「ぐは…気に入らないか?」

慌てて聞くが、真琴は首を振った

「あぅ…そうじゃなくって、意外だったから…」

真琴にあげたのはこっそりサイズを秋子さんに事前に聞いておいたスカート

真琴に似合いそうなのを店員の視線に耐えながら選んだのだ

「じゃあ今度それでデートですね、相沢さん」

天野の静かなつっこみに俺と真琴は赤くなるのであった

 

 

楽しい時間もあっという間に過ぎ去っていった頃

「あぅ〜、誕生日はわかったけど…真琴って何歳?」

「「え?」」

そして、水瀬家に新たな問題が発生した

それが語られる日は…あるのだろうか

 

 

終わり

 

 

あとがき

 

みじかいですが、こんなもんもいいかなあと

誕生日関しては、関連する事柄から、こうだろうと推測してます

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