一人の少女がいた

孤独に眠りつづけ、王子様を待つ少女

一人の少年がいた

自分の手から零れ落ちた故の悲しみを塗り替えた少年

少年は少女が無事だったらと思いつづけ、
少女はまだ少年と無事に遊んでいたかったと思いつづける

 

それゆえに産まれた…物

少女が無事だったらという現象

眠りつづける少女が夢見るたびにそれは産まれ、
夢の終わりとともに消えていく

少年が記憶を塗り替えたがために増えるのは少女の想いだけ

待っては消え、また現れる

 

「そう…ボクは君と祐一君の想いが重なり合った現象…」

ボクは空から病院の一室で抱き合う二人を見下ろした

いまだにボクがいるのは二人の想いがそれだけ強かったという証拠なんだろうね

「でも…寂しいな」

実際に祐一君と恋をしたのは紛れもなくボクなのだから…当然だよ…

「一緒に走って…一緒にたい焼きを食べて…一緒に…一緒に…グスッ」

泣ける

まだボクは泣けるんだ

でもそれもきっともうすぐ終わる

二人がボクじゃなく、目の前にいるのが本物だと無意識に思うほど、
ボクという偽りの月宮あゆは消えていく

7年前にカチューシャをボクは受け取っていない

渡せたらという祐一君の想いがあったからボクはそれをつけていられる

「おかしいな…今年は望みどおりに出会えて…嬉しいはずなのに…」

涙が止まらない…

ボクはボクが無事だったらという二人の想いが作り出した幻影

限りなく本物寄りの夢の奇跡の塊

今視線の先で祐一君と抱き合う月宮あゆとイコールであってイコールじゃない

…難しい事はわからないけど、それが真実なんだと感じる

すでにボクはもう一つの可能性の月宮あゆなんだよ…

でも、ボクは本物じゃない

祐一君がボクのことを思い出すたびに新しく『自分の正体を少し悟って』産まれ、
そして完全に思い出した今、 消える運命にある

当然だよ…ボクが二人いちゃ混乱するし、理由が無いんだから…

「グス…でも…会いたい…会いたいよう…」

当然だよっ、ボクは…ボクは…

「祐一君が大好きな月宮あゆなんだもんっ!」

泣き叫び、涙が空に散る

そしてボクはどこかに引っ張られるようにして視界が暗転した

 

 

 

 

ゴスッ

俺は頭に響く音をそう理解した

というか、痛い

背中がとてつもなく痛い

「うぐぅっ!?」

腕の中のあゆが驚きにか、声をあげる

しかし…どうも妙だ

「いつつ…一体何が…は?」

痛む背中を見、真っ白になった思考のままで前を見る

……

「あゆが…二人?」

 

 

〜気がつけば二人、あるいは奇跡の残光〜

 

「ボクがいる…」

ベッドの上でボクはつぶやいた

祐一君の後ろにいるのはダッフルコートのボク

え…あれ?

「うぐぅ、どどどどど、どーしてっ!?」

その…祐一君と最後まで行ったボクそのもの…

実際問題このボクは体も細いし、体力もない、
何より初めてはまだだった…

「うぐぅ、どうしてまた会えたんだろう…」

自分の声を聞くというのはこんなに変な感じだとはボク、知らなかった…

「まー落ち着けあゆあゆ。まずはそれからだ」

祐一君の声にまずは深呼吸…あ、あっちのボクも同じように深呼吸してる…

 

 

 

 

「で、どういうことだ?」

「うぐぅ、ボクわかんない…」

ベッドの上のあゆは涙ぐみながらそう答える

うむ。俺もわからん

「うーん、わかる事は説明しようか? ボクがここにいる理由はボクにもわからないけど…」

「おおっ、あゆなのに中身は違うんだなっ!? あゆならそんな難しい事はいえな…ぐはっ」

言葉の途中でベッドの上のあゆのつっこみを背中にもらう

あー…わけわからん

「面倒だからいいか、そっちがあゆあゆ、で、こっちがあゆだ」

コートのあゆ、ベッドのあゆを順々に指差す

二人とも不満そうだが(特にあゆあゆ)今は押し黙る

そしてあゆあゆの口が開く

「実は…」

・・・

・・

「すると何か? あゆあゆはあゆであって俺でもある、みたいな〜?」

誰の真似だ、と自分につっこみつつ口に出す

「うぐぅ、その辺は省略するとして、問題はなんでボクがまたここにいるか、だよ」

「うぐぅ、なんでだろーねー」

…くっ

「うぐうぐうるさいぞっ」

「「無理だよっ」」

ダブルでつっこみ、むしろユニゾン

っと、待てよ…

「あゆあゆ、今は消えそうか?」

「ううん…なんか祐一君と最初に出会った直後ぐらい普通だよ」

「うーむ。これは仮定なんだが、あゆあゆが存在理由になってるんじゃないか?」

俺は浮かんだ事を話す

「「うぐぅ?」」

さすがあゆツイン、考えも反応も同じだ

「今までは俺とあゆが理由だったが、今はあゆあゆ自体がそうなんじゃないかってことだ。
あゆと同じなら、俺と…一緒にいたいって想ってくれたんじゃないか?」

口に出すと恥ずかしい事だが、あゆあゆが赤くなる辺り当たりのようだ

「あゆあゆ自体が存在理由となってあゆあゆが存在する。変な話だけどな」

「うぐぅ、いいのかな?」

あゆあゆがしゃくりあげるようにして涙をこらえて言う

「大丈夫だよっ…きっと…神様の誕生日プレゼントだよっ」

あゆは飛びつくようにして自分と同じ姿(多少体型が違うが)に抱きつく

「うぐぅ…ありがとう、ボク」

「こちらこそっ」

どうやら本人同士?では折り合いがついたらしい

「でも…秋子さんとかにどう言うかな…水瀬家で引き取りそうだけど…」

「了承」

「「「っっっ!?」」」

周りを見渡すが誰もいない

…恐ろしい

「うぐぅ、でも説明はどうするの?」

あゆあゆがぼやく

「んー…生き別れになった双子、でどうだっ」

「了承」

我ながら苦しい考えにどこからか声がする

「「うぐぅ…」」

どうやらあゆとあゆあゆの苦労は此処からのようである

 

「ともあれ…ハッピーバースデイだ…二人とも」

「「あんまり嬉しくない…」」

それはもっともだった

 

 

 

 

終わり

 

あとがき

あゆに対する私の解釈がこれです

去年のあゆ誕生日SSの続編ですね…

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