*あゆEND後、栞はただの風邪、真琴はまともに記憶喪失、 舞は佐祐理さんとエンディング(ぉ

 

 

 

 

 

「月宮あゆさんですね? えーと」

駆け込んできた俺は我ながら怪しいはずだが、それでも看護婦さんは素直に応じてくれた

なにせ水瀬家からずっと走ってきたのだ。息も荒いので怪しいと思う

コートもひどい汗で中が暑い

「…はー…」

ある部屋の前で息を整える

教えられた病室には確かにネームプレートがあり、
そこには彼女の名前が記してあった

−月宮あゆ−

見間違えることなくその名前がそこにある

さまざまな思いを胸に、扉に手をかける

キィ…

音がしてそこに見えたのは…

 

ずべしゃっ

「あら、祐一さん。遅かったですね」

 

 

その場でこけた俺に声をかけるベッドのそばで微笑む秋子さんだった

(な、なんで…)

 

〜それが守る理由〜

 

「秋子…さん?」

「はい、そうですよ」

ニコニコと微笑むのは確かに秋子さんだ。でも…

「だって祐一さんったら場所も聞かずに飛び出して…。
先に着いちゃいました。祐一さんも慌てていたんですね」

そう、俺は聞くなり飛び出し、病院の位置を聞くのを忘れていたのだ
なぜか学校に着いたり、商店街ではちょっと物忘れの激しいおばあさんに道を聞いて時間がかかったり…

「それで…その」

「はい。あゆちゃんですよ、間違いなく」

「そう…ですか」

それは昔のあゆとの記憶を肯定するものであり、
理由はわからないがあの冬出会ったあゆだということだ

「…ん…」

ベッドの上のふくらみが揺らぐ

「目覚めたようですね」

「あゆ…」

ごそごそと動き、その目が開く

「…あ、祐一…君?」

痩せている

第一印象はこれだった

ずっとベッドで眠っていたせいなのだろう

色も白く、体も細い

声だってあのあゆと比べたらずいぶん小さい

「ああ、祐一だぞ」

それでもあゆだという事実は確実に俺に染み入り、体を動かしていた

「・・・ただいま」

「ああ、お帰り」

優しく、目覚めたあゆの体を抱きしめるのだった

…秋子さんがにこにこと微笑んでいるのをすっかり忘れて…

 

「じゃあ、また来るぞ」

「あゆちゃん、ゆっくり養生してくださいね」

「うん、またねっ」

あゆの声を聞きながら俺は秋子さんとともに部屋を出る

 

「祐一さん…」

「はい?」

帰り道、秋子さんの声に顔を向けると真剣な表情だった

「あゆちゃんのことなんですが、連絡を取ろうと探したのですが、
あゆちゃんの親権を放棄なされたんです…ご親族の方々は…それで…」

「もしかして秋子さんが引き取るんですか?」

反射的にそう聞いてしまう

「ええ」

「そ、そうですか…」

その後、あゆが退院したときの着替えなどを買いに行く秋子さんの荷物持ちとしてついていく

 

 

そしてリハビリを続けるあゆにお見舞いに行くこと一週間

 

 

 

「でも退院できてよかったな」

「うんっ、祐一君…祐一君だよぉ」

「こら、荷物あるんだから…な?」

とりあえずは、と水瀬家に向かう途中、あゆはよほど嬉しいのか俺の腕を放さない

しかしやせ細った体ではたいした力は入らず、逆につかまっているせいであゆがこけたりしないか心配なぐらいだ

「ごめんなさいね、本当ならあゆちゃんの親族の方が引き取りに来るはずだったんだけど…。
皆さんご都合が悪くてすぐには…とおっしゃられたので代わりです」

秋子さんがすまなそうにあゆに振り向くがあゆはかぶりを振った

「ううん、あまり覚えてないおじさんやおばさんより秋子さんが来てくれた方がボク、嬉しいよ」

あゆは微笑むが、おそらくはあゆも察しているのだろう

数少ない親類も突然復帰したあゆをもてあましているのだ
ましてや今のあゆは教育も生育も遅れてしまっているのだから…

「お、着いたぞ」

風邪を引かないように俺のコートをしっかりと着込んだあゆがまぶしそうに目を細める

「…うん、覚えてる」

道を、空を、かみ締めるように見つめるあゆ

うっすらと浮かんだ涙をこしこしと手でこすってあゆは俺をつかむ力を強くした

 

 

 

「あ、お帰り。二人とも、そして…あゆちゃん」

何かの準備をしていたのか、エプロンをつけた名雪が迎えてくれた

「迎えについてこないと思ったら何か作ってたのか?」

「うん、そうだよ。ほら、あゆちゃんもこっちこっち」

同い年のはずだが、今のあゆはやはりというか名雪より一回り以上小さく感じる

荷物をリビングに適当に置き、あゆともどもキッチンへと向かう

 

「あ…」

「どうかな? 簡単なデコレーションしかできなかったんだけど…」

名雪は謙遜しているが、市販しているケーキと遜色ない

『あゆちゃん退院おめでとう!』

と文字がチョコでかかれている。その周囲は
たい焼きを模した砂糖菓子であるところがあゆのお祝いらしかった

「ご飯は今日はすぐには食べられないでしょうから、名雪に
これを作るようにお願いしておいたんですよ。明日か明後日辺りに食べましょうね」

ニコニコと微笑む秋子さん

あゆはずっと点滴からほとんどの栄養分を摂取していたが、奇跡的にも内臓の機能は
一般的な断食後の状況とあまり変わらない程度ですんだようである

「…うぐぅ」

ケーキを見ていたあゆが俺の胸に顔を押し付け、泣きはじめた

「お、おい…まったく」

最初は驚いたが、あゆを優しく抱え、頭を撫でてやる

「えぐ…悲しく…ないのにっ、でも…でもぉっ」

あゆを名雪も秋子さんも優しく見つめる

この場にいる誰もがあゆのことを思っているのがわかった

「おかゆでまずは様子を見ましょうか」

「ほら、せっかく作ってくれたんだから、食べようぜ?」

「うぐぅ…うん」

俺に背中を押され、あゆはいすに座る

「よいしょっと…うぐぅ、足がつかない…」

記憶(あの消えたあゆがなんだったのかはまだわからないが、当時の記憶が全部あるらしい)
では普通についていたのだからどこか戸惑った様子だ

それでもなんとか座り、小さな手でおわんを受け取る

「…おいしいよ」

白い頬がかすかに赤くなるのを見て、名雪も微笑んだ

柔らかなぬくもりのようなものを感じながらその時間が過ぎていく

 

 

 

「大丈夫か?」

「うん、動くのは大丈夫みたいだよ」

あゆの手をとって二階へとあがる

あゆの泊まる部屋はもともと真琴、記憶喪失で
居候していたが記憶を取り戻し、家族の元へと帰っていった。
そんな彼女の部屋を使うことになった

「ここがあゆの部屋になるみたいだ。俺の部屋は…覚えてるよな?」

「え? あ、うん…覚えてるよ…大切な思い出だもん」

あゆが白い肌を真っ赤にしてうつむいた…

(…? …ぐはっ)

俺はその理由に思い当たり一緒に赤くなる

部屋の思い出といえば真っ先に思い浮かんだのがあゆとの…夜の関係だったからだ

とはいえ、今のあゆの状況、特に身体的な部分を考えればそんな気も湧きにくいが…

「風呂が沸いたら呼ぶから、少し体を休めておいたらどうだ?」

ごまかすかのようにそう言い、あゆを座らせて部屋を出る

 

 

「…小学校か…」

あゆにお風呂に入れることを伝え、俺は部屋でくつろいでいた

あゆの退院手続きその他もろもろの最中に秋子さんから聞いた話からすると、
事実上はもう卒業となっているが、特別に見学扱いか何かで勉強をするらしい

しばらくは俺も手伝うことになるのだろう

何をするにせよ基本的な常識、学力は大切だ

コンコン

「ん? あゆか?」

名雪はすでに寝てしまう時間だ

たずねてくるとしたらあゆしかいない

「うん…」

入っていい?とは聞いてこなかった

「どうした?」

「うぐぅ、寒くて…」

わずかにあけたドアから滑り込むようにして枕を抱えたあゆが入ってきた
体脂肪もぎりぎりまで低下しているあゆでは寒さが厳しいようだ

「しょうがない奴だな。一人で寝られないのか?」

「うぐぅ…うん…」

うぐうぐと声を漏らすあゆに苦笑しつつ、手招きする

今日は疲れたし早く寝るのもいいだろう

 

 

そして最初は慌しく過ぎた日々も日常の中に埋もれていく

あゆが目覚めたことも、少し小さめなことも、
関係者には違和感無く浸透していったようだ

あゆの体も着々と健康を取り戻し、
ふくよか…は無理だったがある程度ちゃんとしてきた

問題は…

「…結局小ささだよなあ…」

「ぶー、また小さいって言ったー」

「事実だろ」

初夏のある日曜日、散歩と称して商店街まで出てきた俺たち

どう見ても周りからは兄妹にしか見えないだろうと思う

でも、大した事じゃない

俺もあゆも一緒にいる

何かとサイズが問題になるのがいただけない気もするが…

なんといっても、昔のあゆと奇跡の中のあゆの中間ぐらいなのだ

140cmぐらいだろうか?

とはいえ中身はあゆのまま…

「うぐぅ、でもね、でもねっ! 少しだけ背が伸びてるんだよ?」

ぴょんぴょん飛び跳ねるあゆは髪も伸びたし、確かに背も伸びている気がする…が

「もう少し歳相応の態度を取ったほうがいいんじゃないのか?」

やはり通っているせいか、どうも小学生っぽいのだ

ますます恋人には見えないのだが、本人同士がちゃんと思っていれば問題は無いだろう

「ほらほらー、たい焼き屋さんにいこーよー♪」

ぐいぐいと手を引っ張るあゆは笑顔で、明るくて…

俺が幸せだと自覚するには十分で…

「ああ…行くか」

これから先も守っていきたいと思える理由は単純なのだった

 

 

 

 

 

続くか終わるかはたまた…(謎

 

 

 

あとがき

中あゆSS第…何弾だ?(ぉ

ともあれ、これが一番メイン、ですね

普通7年だと筋肉やばいよっっとかのつまらないつっこみはご容赦願いますw

感想その他はメールなりBBSにどうぞ〜

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