カノン大戦α

〜戦場を駆ける奇跡〜


第三十六話

〜硝子の階段〜

 

ラフレシアを含めたクロスボーンとの交戦によりデンドロビウムは
メイン武装であるメガビーム砲を損傷、小破。
名雪のVガンダムに至っては大破し、無事だったパーツは回収されたが出撃は出来ないようだ

「私たちはこれからルナツーへ向かおうと思います」

格納庫で状況を確認後、報告にあがった俺を待っていたのは美汐のそんな言葉だった

「ルナツー? あの地球の傍に浮いてる小惑星みたいなのか?」

頭にそれを思い浮かべる。とはいえ俺もそれぐらいしか知らないのだが…

「はい。現在ルナツーはOZの元にあるようです。そして、全艦でそちらに話し合いに向かうことになりました」

「OZに!? 話し合いが通じる相手なら苦労しないだろう…」

「ええ、私は反対しましたが、女王はそれすらも出来ないで人類全てが協力することはできない、ということでした」

「なるほど…美汐も大変だな」

「いえ、それが私の選んだ役割ですから」

自分よりも年下の少女が目の前でがんばろうとしている

それは美汐が大切な人であるということを差し引いても心を動かすには十分なのではないだろうか?

俺は自分の背中を、還る場所を守る美汐にそんな思いを抱いた

「俺は格納庫で調整をしている。何かあったらすぐに呼んでくれ」

「はい。ここは任せてください」

美汐のすべきことがグレイファントムの艦長としてあることなら、
俺がすべきことは誰一人として死なせずにその前に返すことだ

 

 

 

 

〜格納庫一角〜

「は〜…う〜…暇だよ〜」

自分のMSを破壊され、出撃が不可能になった上に
大破という状況のため調整などもすることがない名雪は一人格納庫の喧騒を眺めていた

MSの類の整備はこちらで行ったほうがやはり楽なのか、
グラン・ガランから一部のMS達はグレイファントムへとその身を移していた

それらのメカニックたちが駆け回る姿を見るごとに自分の実情が身にしみる名雪だった

「名雪さん、どうしたの?」

「あ、あゆちゃん。ううん、なんでもないよ。ちょっと手持ち無沙汰だから…ね」

作業の邪魔になるからという理由で
髪を後ろで軽く結った姿のあゆが名雪に声をかける

名雪はそれに苦笑気味に答えた。
思わず立ち上がるものの、やることは無いので視線を泳がせる

「そうなんだ。あっ、じゃあボクとシミュレーションしない?」

あゆも名雪が落ち込んでいる理由を察し、
気晴らしと実益を兼ねてそう誘うのだった

「そうだね。ここにいてもすることがないし、そうさせてもらおうかな」

(あゆちゃんに心配かけちゃったな)

笑顔で答えながらもそう自分に反省を促す名雪だった

「うぐぅ、じゃあどういう状況でやろうか?」

あゆは歩きつつそんなことを語りかける

「…わたし一人で、あゆちゃんと他自動でお願いできるかな?」

「うぐぅ、それはダメだよ。名雪さん無理してる」

頭を振るあゆに名雪はさびしげに微笑む

「心配してくれてありがとうあゆちゃん。でも…まずはこれを乗り越えたいんだよ。
圧倒的な立場でも頭をパニックにさせないようにね」

そして改めて表情を改める名雪を見てあゆも頷くのであった

 

- 

一方祐一は真琴と一緒に出撃に備えてメカニックたちとの会話の最中であった

 

「あぅー…思ったより関節や変形個所が磨耗してる?
うーん、どうにかならない?」

「無茶言わないでくださいよ。普通の設計はこんなレベルでの磨耗は予想外なんですよ。
各所のアポジモーター達もフルに使ってるのが原因ですけど、
相手の装甲材を斬るための抵抗が確実に負荷になってますね」

耳に入る会話に顔を向けると、油まみれのメカニックの一人が真琴にすまなそうにそう答えていた

「そう…じゃあ次からはそのあたりを考えながら努力してみるわ。
あ、祐一はどう思う? 何かいいアイデアない?」

「アイデア? うーむ、俺も同じような使い方だからなあ…」

俺の場合は能力である程度無意識化で
勝手にそのあたりを支えてるみたいなんだよな…

「そんなの簡単だよ〜♪」

俺たちが悩んでいると背後から間延びした声が届く

「「へ?」」

振り返ればなにやら資材や書類を抱えたままのナノハちゃんだった

「やっほ〜」

「や、やっほー」

にこやかに挨拶する彼女にはさすがに俺もそう返すだけで精一杯だった

「あぅ〜、で、どう簡単なの?」

「ふえ? あ〜、沢渡さんが特訓すれば良いんだよ〜。
無駄な動きが無くなれば自然と負荷は減るでしょ〜?」

「うむ、その通りだな。よし、真琴行くぞ!」

「行くってどこへ? わわっ、急に引っ張らないでよっ」

俺は真琴の手を取ってトレーニングルームへと向かおうとした

「あ、コレ読んで置いてね」

が、バンッと目の前に書類の束が突き出される

「ぐはっ、またか?」

「そうだよ〜。せっかくおにーさんがいるんだからいろいろ試さないと」

その色々で結構疲れるんですが…?

真琴の手前そんなことを口に出すわけには行かないので
心の中でため息をつく…うう…

「さて、何の特訓をする?」

「あぅー、めんどくさい…」

しゅんとする真琴に俺はやれやれと言わんばかりに肩を揺らす

「あのな、真琴」

「?」

俺は通路の隅で真琴の肩に手をやって窓の部分にもたれ掛かる

「真琴は俺や名雪達の機体が壊れても平気か?」

「平気なわけないじゃないっ! 心配…心配だよう」

想像してしまったのだろうか、真琴の反応は予想以上だった

「ああ、心配だな。俺だってそうだ。だから真琴も機体を壊さないようにがんばって欲しい…かな」

「あぅ…しょーがないわね。祐一だけじゃ頼りないから真琴に任せなさいよぅっ」

口調とは裏腹に笑顔で歩き出す真琴の背中は元気であふれているように感じた

「さて…俺も行くとするか。…気のせいか?」

俺は星の光る宇宙を見る

どこからか哀しいというか、なんとも言いがたい意思を感じた気がしたのだ

ひどくあやふやではっきりしないもの…やはり気のせいだろうか

「後でちょっとカノンに乗ってみるかな」

そうして俺も歩き出す

 

俺がそのときのことを思い出すのには少し時間を必要としたのだった

 

-グレイファントム近隣宙域

 

「…美凪は皆が嫌い?」

「どうして?」

狭いコックピットの中、自然と声は響いてしまう

「…なんとなく。あまり他の人と話してないような気がしてさー」

ここは遠野姉妹搭乗のヴァルキリーの中

いつものように偵察飛行中の二人は静かに語り合っていた

「…嫌いじゃないですよ。みんな良い人です」

「うーん、じゃあなんで? いつもさっさとこうやって偵察に出発しちゃうし…」

言えば誰かついてきてくれるんじゃない?と続けるみちるに美凪は少しだけ顔を向ける

「…私は臆病ですから。手の届かない範囲で仲間を作って失ってしまったときが…怖いんですよ」

「…ん」

みちるはそれ以上何も言わない

長いとは言わないが短くも無い姉妹としての付き合いの中、
美凪がそうつぶやくだけの出来事に遭遇したと真に知っているのは彼女一人だけだから…

そして、戦場という名の世界では自分達一人一人がいつ消えるとも知れない灯火だと
正しく理解する一人だったから…

祐一や彼女らよりもさらに一回り以上幼いみちるにそう悟らせる戦争は悪か、
それともその彼女を戦わせるのが悪か、
それは誰にもわからない

戦争は女子供も民間人も無関係に巻き込んでいくものなのだから…

一人一人がそれを回避しようと足掻き、もがき、そして生き残る

「…もう少し、話し掛けてみましょうか」

「うん♪」

そんな美凪の声を聞いて次はどこにぶつかろうか祐一を思い浮かべるみちるであった

 

 

「悪寒が…」

「え? あぅー…休憩する?」

ちょうど真琴とのトレーニングが一段落ついたところで俺は妙な予感に襲われた

「いや、そういうのじゃないんだが…おかしいな」

「もう、何か拾って食べたんじゃないでしょうね?」

首をひねっていると、真琴が呆れたように言う

「するかっ!」

「あ、真琴に祐一。減速に入ったみたいだよ?」

タオルを首にかけ、いつか学校で見た部活のときのようにポニーにした名雪がそう伝えてくる

「おう、じゃあここで休憩…って、あゆか!?」

「うぐぅ? ボクだけど?」

あゆが不思議そうに答えるが、
俺は恥ずかしいながら少しの間反応できなかった

名雪の手によるものだろう。
あゆの髪がいつものカチューシャを外され、
軽く結い上げられた上にミニポニー(祐一後日談)な髪型だったのだ

新鮮すぎて笑うべきか似合うと言うべきか悩む間に艦内に放送が入る

『まもなく全艦が停止位置につきます。パイロットは第二種戦闘態勢で待機願います』

「祐一、がんばってね」

「名雪は…どうするんだ?」

「う〜ん、多分砲座につくよ」

「そっか…」

思ったよりも元気そうで何よりだった

「よし、行くかっ!」

「まっかせてっ」

「うんっ」

真琴とあゆを引き連れて、俺たちは格納庫へと走った

 

-

「ルナツーの周囲に多数の機影確認。新型らしきものもかなりいますね」

「データは戦いながら集めるしかない。そうならないほうがいいんだろうけどな」

コックピットで待機する俺の前のモニタには拡大されたルナツーと、その周囲を覆う機影

恐らくはOZの新型と改良機…戦闘にならないほうがいいのだが、どうだろうな

「こちらの戦力は遠野姉妹と祐一さん、月宮さん、沢渡さん、ですね。
ロンド・ベルからの戦力も展開はしていますが、待機のようです」

とはいえ俺たちにできることは今は無い

恐らくは始まっているであろうルナツーのOZとの交渉

だがなんだ…この相手の全てを包むような言いようの無い感情、そして意思は…

怒りでも悲しみでも…勿論喜びでもない…

敢えて俺の知っている言葉に言い換えるなら…空虚?

そんな感情がルナツーを取り巻いていた

そして唐突に膨らむ感情、それは先ほどまでのはっきりしないものではなく、
ルナツーの内部や周囲の機影から生まれ出る正真正銘の殺意だった

『総員に通達っ! OZとの交渉は決裂。戦闘に入ります。
繰り返します。OZとの戦闘が開始されましたっ!』

美汐の悲痛な叫びがその事実を裏付けた

「数が多い。一人で囲まれるなよっ!」

言って、早くも光舞う戦場へと一足先に加速する

モニターには既に数多くの機影が写る

『…弾幕行きます』

「了解。タイミング合わせよーしっ」

複雑な軌道を描いてヴァルキリーからのホーミングミサイルたちが飛来する

「あゆ、真琴。遠野さんを中心に俺のワントップで陣形を崩すなよ?」

「「了解っ!!」」「…了解」

言いながらも俺は困惑していた

ほとんどの敵が感情や意識をぶつけてこないからだ

『うぐぅっ!? 速いよっ!!』

『こいつら…回避が無茶よっ』

あゆや真琴の叫びに俺は疑問を浮かべる

「これでパイロットが耐え切れるはずが・・・まさかっ!」

感じられない感情、無理な軌道、答えは・・・

「走査完了。生体反応ありません。無人機です」

遠隔操作か・・・それとも総合的なソフトだろうか

そうこうしている間にもそれらは絶え間なく攻撃をしかけてくる

「祐一さん、ここは普段の感覚に頼らない戦いのチャンスですよ」

「そうだな。ああ…そうだ」

俺はどこかで自分が敵意などに反応することに慣れていてしまったのだと考えた

『・・・相沢さん』

「どうした? 問題でもあったのか?」

写るモニターには回避を続けるその相手、遠野さんが写る

『・・・いえ・・・今度からはもっとお話できるようにします。それだけです』

「ああ。それも生き残ってからの話だ!」

俺は相手のMSをGに耐えながら切り裂いて考える

(奴らは遠隔操作か? それとも・・・)

瞬間、まじりっけの無い純粋な感情がぶつかってくる

「後ろっ!?」

他とは違う動き、でもどこか似ている−それは機体も周囲とは若干違った

牽制代わりにバルカンを放つが、その赤い機体の展開するシールドにあっさり弾かれる

(防衛用!?)

「機体内部にエネルギー確認!」

「シールド展開っっ!!」

避けきれない、そう判断した俺は意識を戻しシールドを展開する

『・・・その機体。貴様が相沢祐一か・・・』

周囲に敵の攻撃の影響によるジャミングがかかる中、そんな通信が入る

「お前は・・・」

一瞬往人さんの声かと思ったが違う、もっと若い

『かまってる暇は無いぞ』

「またっ!? いえ、違う機体ですっ!」

キャニーの報告に回避を行うと、今度は明らかに砲撃用の機体が攻撃してきた

その威力は回避した先にいたMS達を巻き込むことをいとわないもののようだった

「味方ごと? いや、そういうことか!」

ほぼ同じ回避運動と攻撃パターン、しかもそのパターンは・・・

「ええ、現在相対する2機と多くの類似点があります」

「秋子さんからのディスクにあったOZのシステムかっ!」

美汐が秋子さんに託されたというディスクの情報は膨大で、
まるで秋子さんがいなくなってもいいような・・・そんな感じを受けた中身

そんな中にあった各陣営の開発が噂される兵器やシステムたち

パーソナルデータを基盤とし、人間には不可能な機動を可能にする物だった

一般レベルではすぐ倒されるが予想した人物達のようなレベルをデータとすれば・・・

「そうとわかればっ! っ!?」

気合を入れて向かおうとした瞬間、戦場を光の槍、いや光の道が通り過ぎる

「これは・・・・・・」

幸いにもロンド・ベルや俺たちの中に被害があったような報告はない

しかし無数のOZのMSを巻き込んだ爆発が、いや爆発ごと巻き込んでビームが走る

「発射地点を確認。これは・・・ガンダムタイプ!」

望遠でも先ほどの攻撃で画像が揺らぐ中、それでも特徴的なその頭部

「あいつを・・・止めるっ!」

俺は言い切り、カノンのブースターをそちらに向けて解放する

今回は外れたが次にこちらに来ない保証はどこにも無い

何より奴から伝わる感情、そして・・・

「同機から膨大なエネルギー来ますっ!」

叫びと同時に目の前の戦場が光の奔流に飲み込まれる

またも無数の無人MS達は無言のままにその中に消えていく

『なんだ…また機械だったんだね…つまんないな。泣かないんじゃ』

戦場に全回線で響く感情の抑揚の無い声

誰だ…? いや、覚えがある…

「声紋照合…間違いありません。元ロンド・ベルの一時メンバー、あのガンダムパイロットです」

『こちらでも確認しました。彼は…それもあの機体はウィングガンダム?』

事態の異常性は美汐が通信を開いたまま惚けるという事態を引き起こす

『まだ戦うんだね…意味が無いのに…』

つぶやきと、意思、そして行動

「っ!! あゆ、真琴、グレイファントムへ戻れっ!!」

「うぐぅっ!」

「あぅーっ!?」

間一髪、急制動で後退してきた二人と戦闘していた一団が閃光に消える

あゆたちもその余波で一気に中破に追い込まれたようだ

膨大なまでのメガ粒子は直撃を受けなくても周囲の空間に影響を及ぼす

確認した限りでは真琴は変形不可、あゆも片腕の損傷が伝えられた

「小隊内部のエラーログを共有するのがよかったのか悪かったのか・・・」

共通のソフトウェアを使用し、誰がどのような損傷を受けたかわかるように
通信の届く範囲でわかるようにしたのである

無人機との戦いはロンド・ベル側と、乱入してきたガンダムによって拮抗、もしくは有利に運んでいる様子だ

『来るんだね? たった一人で・・・』

「お前は・・・カトルだろ!? そうなんだろ?」

群がる無人機を振り払い、射程を測りながらではあるが接近していく

『そう・・・僕はカトル。邪魔しないでよ。全部・・・全部終わらせるんだ。
このウィングゼロでね・・・どかないと消えちゃうよ?』

渦巻く感情、しかしこれは・・・本心なのか?

疑問を浮かべる間に二本の砲身が俺のほうを向く

止めるるまもなく放たれる光

とっさに回避を行うもののその先には・・・

「しまったっ!?」

コロニーの一基・・・それが半ばから折れて崩壊していく

「コロニーが・・・一撃で・・・」

俺はその光景に呆然と、だがそれも一瞬のことで頭を感情が渦巻く

光に消えていった人たちの最後の意識

困惑と悲鳴とが交錯しているのが手にとるようにわかる

目の前の……異常なまでの、残酷という言葉すら正しくない行為

『だめなんだよぅ・・・エゴがあるような戦い方じゃ・・・』

「人間なんてエゴがあって当然だろっ!」

そして・・・俺はその正体を掴む

向けられる感情の裏に潜む心の暴走に嘆き、叫ぶカトルの本心を・・・

それは俺の妄想かもしれない。そうであってほしいと思っただけかもしれない

ただ…自分の心が感じていた

「マスター?」

「避けられない・・・避けるわけにはいかないっ!!」

俺は叫ぶ、例えこの手にそれを防ぎきる手段が無いとしても
・・・・・・俺の後ろには新たなコロニーと、何よりグレイファントムがある

『祐一・・・』

『ボクは待ってるからっ』

『ヘマしたら承知しないからね』

ブリッジで名雪が涙ぐみ・・・あゆと真琴が機体で言う

『ゆーいち、ううん。相沢祐一っ!』

『・・・悲しむ人がいます・・・必ず』

ウィンドウの向こうでみちると遠野さんが俺を見つめ・・・

『あなたに・・・託します』

艦長席で美汐が祈るように言葉を口にした・・・

無人機達との死闘の光をスポットライトに、俺は目の前の存在を見る

純粋で・・・綺麗で・・・それ故に心が硝子の脆さを持ってしまった少年を・・・

彼は耐え切れなかったのかもしれない。この戦争というどうしようもない現在と事実に

戦っても戦っても見えてこない未来。そして報われない努力。
彼らはコロニーのために戦っていたという。だが現実はどうだ?

「来いよ、カトルッッッ!!!」

過ぎた力は心を飲み込む。恐らく前のウィングゼロも、そしてきっと俺のこの機体も・・・その次元にあるのだろう

俺は彼のためにも逃げないほうがいい、いや逃げることは出来ない

無言で俺に答えるようにウィングゼロのバスターライフルが光の奔流にその意思を乗せて放たれた

俺は叫ぶ、そして刃を産む

新しく装備された二つの光の刃の源

まだ増幅量にユニットが耐えられないのでこれっきりで壊れてしまうだろうが今使うべき武装

「力よ叫べ、輝けっ! 双剣が舞う・・・クレイモアっっ!!」

産まれた刃、意思を乗せ、意思が産みだす光の破壊

その維持に疲労がどんどん溜まっていくのがなんとなくわかる

「ここは、抜かせないっ!」

カノンが刃からの白光により白い輝きとなって、放たれたバスターライフルに自ら進んでいく。
双剣をだらりと後方に伸ばしつつ・・・

前面に多重展開されるアブソリュートシールド。
1枚1枚が強固たる防壁となって威力を削ごうと散っていく

まだ・・・足りないっ!

まずは右腕のクレイモアを振りあげる。接触した勢いそのままに機体が後方に揺らぎ、光が散る。同時に右手のユニットに火花が散った

間髪いれずに腰をひねるようにして左腕のクレイモアを振り上げるようにして振るう

勢いの乗せられた刃の前に再び光が散る・・・まだだっ!

ここまで時間にしてわずか数瞬。周囲に二撃で吹き散らされたエネルギーの奔流が花を咲かせる

最後の一枚、渾身の意思を込めたシールドが揺らぎつつもバスターライフルの残ったエネルギーとせめぎあう

(相殺は無理…ならばっ!!)

時間が間延びし、コンマの刻みを感じる感覚と空間の中、俺はさらに両クレイモアへと意思と力を注ぐ

エネルギーと駆動の負荷に機体の部分部分がエラーを起こすが構っていられない

「散らせっ!」

両腕のクレイモアを振り上げ、必殺の念をこめて交差させながら振り下ろす

爆音、予想したそれは来ずにただただ・・・光が視界を埋めた

最初は一直線に破壊を求めたソレ、バスターライフルの奔流は無数の光の破片となって散っていく

俺の背後、コロニーへと到達することなく虚空へと消えた

横から見ればカノンの位置でバスターライフルが数秒だけとどまり、そして四散したように見えたはずだ、と思う

「はぁはぁ…なんとかしのいだか…くっ」

コックピットには何個もの赤い警告やわずかながらも火花が出ていた

装甲も恐らくはいたるところで融解をしているだろう

(長くは持ちそうに無いな…)

『っ!? まだ…だったらもう一度だよっ!』

カトルの焦った声が聞こえる

だが俺の手には二度目を防ぎきれるだけの余裕は無い

「くそ…上手く逃げてくれよ…」

俺は小さくそうつぶやくしかない

「マスター、やらせませんよ」

「キャニー?」

覚悟のこもった声、そんなキャニーが何かをするより速く
ウィングゼロに二機のMSが取り付く

「あれは、ヒイロとトロワか!?」

声から判断した名前を呼び、身を乗り出してその光景に息を呑む

思わず叫んだその名は二人とも元ロンド・ベル

いくら元仲間(?)とはいえ今のカトルはそんな付き合いの想い出が通じるかどうか…

一瞬そう思い、だが考え直す

確かにカトルが動きを止めたからだ

もっとも油断はできないが…彼らは本音を見れるだけの付き合いがあることを信じよう

「キャニー、各部チェック。ダウンしたシステムは逐次再起動。
動けそうなら艦の護衛に移行する」

「了解。各部損傷チェック…、T−LINKシステム効率50%ダウン、
大出力光波ユニット全大破、各駆動制御混乱中ですが復帰中です。
通常兵器による交戦であればなんとかいけます」

言葉と共に警告のうちいくつかが消える

無茶につきあってくれたカノンはその息も絶え絶えながら、
しっかりと俺の操るままに動きを再開した

落ち着いて確認するとウィングゼロの乱入に双方の戦闘は混乱と、そして終結へと向かっていた

所詮は一定水準までの相手しか無人機では対抗できなかったようだった

「助かったぜ。新しい武器のおかげで・・・とはいえ武器らしい使い方はしてないな」

「これから先、例の異星人と戦うようなことになれば
もっと手のつけようがない出力の兵器と渡り合うかもしれませんね」

キャニーの言葉にそうなったらどうするか、疲労した頭で考えるが艦にたどり着くまでにいい案は浮かばなかった

同じように着艦していくMSを確認しながらも重い体に根性を入れて着艦し、低重力の格納庫に漂う

と、一人の人影が俺のほうへ軽くバーニアを吹かしながら向かってきた

接触し、絡み合うようにして抱きつく

「お、おいっ・・・名雪か?」

バイザー越しに見えた顔は名雪の泣き顔だった

『うぐ・・・ぐすっ・・・ひくっ・・・よかった・・・無事で』

接触回線で聞こえる泣き声と震える声

「ノーマルスーツで泣くと涙が溜まるぞ?」

からかってやると、答える代わりに力いっぱい抱きしめられてしまった

『もう・・・いいもん。おぼれたら祐一助けてくれるもん』

低重力を活かしてメカニックたちが無数に動き回る中、
俺と名雪は慣性を殺そうともせずに床までを勢いのまま回っていた

 

まるで消えることが分かっている硝子の魔法のように・・・

 

 

続く

 

次回予告

アラームの中伝えられるジオンの作戦

阻止できなければ地上が打撃を受ける

しかも下手に手を出せばどこにいくかもわからない

そんな作戦・・・コロニー落し

死力を振り絞る仲間達

そして脈動する力

「マスターは・・・やらせません」

「ほう・・・こんなところで出会えるとは彼らが【雫の聖杯】ということですか」

つぶやかれる言葉は誰に届くのか・・・

次回カノン大戦α〜戦場を駆ける奇跡〜

−超越と万能−


あとがき

…終わるんだろうか、コレ

と自分でちょっと思う状況ですが社会人になってもあきらめません(涙

感想その他はメールなりBBSで。

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