放っておけばどんなことになるか、悪い考えしか浮かばなかったが、
少数で艦隊を相手にした状態からはジュピトリアンの艦隊には結局追いつけずに追撃を断念する事になった

 

落胆と復帰の高揚を同時に胸に抱えながら俺たちは帰還した。
予定より遅れていたようだが、グラン・ガラン、グレイファントムともに無事に補給作業を終えられたらしい

「さー、カノンのお届けだよ〜♪」

「お、ナノハちゃんじゃないか」

格納庫にカノンと、そしてナノハちゃんを見つけて駆け寄る

「金属疲労とかがあったところは交換したし、パーツも補充したし、
そしてナノハも乗ったし、これで今までよりはしっかり整備できるよ」

にこっと微笑む顔はやっぱりちびっこい

「む〜、ちびっこいってひどいなぁ・・・」

「ぐはっ」

悪い癖はやはりこう言うタイミングで出てくるもののようである

なんとかごまかしながらカノンに近づいていく

 

 

 

 

 

カノン大戦α

〜戦場を駆ける奇跡〜


第三十五話

〜妖花襲来〜

 

「祐一、あの子は誰?」

「ん? ああ、マオ社から俺やあゆの機体のために出向してきてくれたんだよ」

名雪の声に振り向けば少々不機嫌そうである

「え・・・あんな小さいのに?」

「おいおい、そんなこと言ったら可哀想だぞ。いくら・・・」

名雪に背を向けたまま俺は答えかけて固まる

「いくら・・・なんなのかな〜?」

「いや、スパナは不味いと思うな、うん」

いつのまにかそばにいたナノハちゃんに乾いた笑みを向ける

「む〜、とりあえず調整した部分とかの報告書、しっかり読んでねっ」

言うだけ言って、ナノハちゃんは駆け出していった

「ふぅ・・・しかし厚いな」

「でもその分すごいよ。ボクのも前よりちゃんと動けるようになったしね」

あゆも機体のチェックに来たらしい

歩み寄りながら俺たちに言う

「そうか。まあ俺もそうだが無理しないでいられると良いな」

とはいえ・・・戦争に無理も無茶も無いのだろう・・・

「皆さんがそれぞれにがんばればその分無理は減るんですよ、きっと」

「別に普通に出てきたらいいだろうに・・・」

俺の肩に小さくなって乗っかったキャニーを向く

「やっぱり小さいほうが楽ですからね」

そんなもんか・・・

「ねえ祐一君。あの大きいのは何かな?」

あゆが指差す先には黒目の大きな物体たち

脇にはみさき先輩らがいた

「んじゃ、二人に聞いてみようぜ」

歩みより、澪と一緒にメカニックの話を聞いている二人に話し掛ける

 

「え、脱着式ブースター? こんなに大きいのに?」

名雪の驚きは無理も無い。
大きさだけならMSの膝から腰ぐらいまである

「うん。私たちみたいにこれだけの戦果で小隊、中隊規模の部隊は珍しいからって回してくれたみたいだね」

大きさを確かめるようにみさきがブースターのはじに触れる

『付けたらすごそうなの』

「君達は話に聞く元高校生か?」

ブースターの陰から一人の少年が現れた。
青い髪が拍子に揺れる

「うぐぅ、誰?」

「ああ。こうして直に会うのは初めてだったか、よろしく。
これはサナリィ・・・母さんの会社からのだからね、俺が役目をおったってわけさ」

印刷された書類を近くのメカニックから渡され、ぺらぺらとめくると合計三機の同型があることがわかる

自己紹介と挨拶の後、自機へと向かう彼はどこか不安そうだった

「・・・彼は・・・シーブックさんは音信が途絶えたフロンティアサイドの出身だそうですから・・・」

なるほど・・・

「しかし、このブースターどれにつけるんだ? 必要そうなのは舞と、名雪と・・・」

「あ、わたしのガンダムに一度つけてもらおうかな・・・何度も使えるみたいだし・・・」

名雪が歩き出すのを見、俺も移動する事にする

少し静かなところで渡された仕様書を少しでも読むべきなのだろう

「とはいえ・・・これだけあると・・・ぐはぁっ!?」

「ゆーいちだー」

背中にのしかかる感触と声、こんなことをするのはみちるしかいない。
若干衝撃が大きいような気もしたが勢いをつけたに違い無い

「こらみちるっってうどわっ!?」

予想に反し、背中にのしかかっていたのは遠野さんのほうであった。
どうりで想像よりおも・・・いやいや、それはともく

「・・・驚き?」

「そりゃ驚いたというか、いいのか? 往人さんが嘆くと思うが・・・」

もしかしたらそうじゃないのだろうか?

「・・・不倫?(ぽっ」

「照れるなっ、というか何も起きてないじゃないかっ!」

つ、疲れる・・・

「あ、なんか分厚いのがあるー」

みちるが俺が落とした仕様書を拾い上げてパラパラと中を見た・・・が

「よくわかんない」

「・・・よしよし。残念だったで賞」

・・・これでいいのならいいのだろう

二人を見ながらみちるの手から冊子を取り返す

「俺はこれを読まないといけないから邪魔しないでくれ」

「お、がんばれー」

「・・・はい」

二人の立ち去った後、格納庫の隅に適当に座り込んでページを開くが専門用語が多くてイマイチだった

「こんなんで大丈夫かな、俺・・・」

「というか、何で私に言わないんですか? ゼロに乗ったときみたいに頭に入れてくれ!って」

「はっ・・・」

 

俺が意気消沈して中身を頭に叩き込んだのはそれから間もない事だった

 

 

 

〜ブリッジ〜

「何事も無ければいいのですが・・・」

フロンティアサイドへの移動中、まだ何も発見されずに時が過ぎるだけであった

「静かよね〜あうっ!?」

「真琴?」

ブリッジにきていた真琴が叫んだのを聞き、美汐が慌てて振り向く

「なんなのこのざらっとした感覚・・・美汐・・・来るっ!」

「これは・・・艦長っ! 前方に敵影確認、クロスボーン・バンガードですっ!!」

メイプルの報告後の操作で美汐の前にそれが表示される

「進行方向は現状のデータからはフロンティアサイド方面になります。進路予測データ、出ます」

「今のままとなると・・・Wですね・・・総員出撃準備っ!」

今までの静かな艦内から一転、警報が鳴り響く

「あぅー・・・違う・・・あの部隊からじゃない・・・どこ?」

真琴のつぶやきはブリッジの喧騒に掻き消える

 

〜格納庫〜

 

「やっと全部覚えたばかりだって言うのに・・・相沢祐一、いつでも出れるぞっ!
・・・結局料理やらはやってる暇が無かったな」

コックピット内部で項目の確認をしていた俺は計器をチェックしつつそんなことを言う

『全機へ通達。クロスボーン・バンガードの部隊が恐らくコロニー制圧のために進撃中です。
本隊はこれより先行部隊を筆頭にそれを防いでもらいます』

美汐の号令が俺の耳に届いた

「現在格納庫にいるパイロットは名雪さんとシーブックさんの二名のようです」

「まあ、突然だったしな・・・。美汐、こっちの先行部隊はこの三機でいいんだな?」

『はい、ブースターの装着は完了したと報告は受けています。頼みました』

少しでも距離を稼ぐために速度を上げたのかグレイファントが揺れる

「よし、名雪、シーブック、行くぞっ!」

『わかったよ』

『ああ、必ず・・・止める』

グラン・ガランからも同様に数機の光が伸びるのを確認しながら
三機は同時にカタパルトから虚空へと踊り出た

『おにーさん、30秒。それが今のナノハが無事だと言える時間だよ』

「ま、使わないに越した事は無いってことだろ?」

そーいうことだね、とナノハちゃんからの通信は切れる

 

 

 

「グラン・ガランからはV2ガンダムとサイバスター、それと・・・見ればわかると思いますけど
GP−03デンドロビウム・・・これまた大きいのが来ましたね」

「あの大きさだと、常に曳航されてるのか?」

『いや、なんとか入ってるらしい・・・コロニーが見えたぞ』

俺のつぶやきに答えたシーブックの言葉に視線を向けると、
問題のコロニーらしきものが見えてきた

とはいえ、拡大されたCGではあるが・・・

『ねえ祐一、一体目的はなんだろうね?』

「ろくでもないことにきまってるさ」

「敵機、索敵範囲内に確認。照合します」

名雪に答えた直後、キャニーの報告が届く

「・・・槍?」

『西洋の騎士みたいだよ・・・』

名雪の言う通り、データからは左腕のビームシールドと右腕にランサーを構えたまさに騎士だ

「交戦データによれば多くはベルガ・ギロス、中に一機だけ不明機が混じっています」

『あの機体・・・セシリーが乗っている・・・!?』

言葉からしてその不明機の姿を見ていたらしいシーブックが叫ぶ

「彼女かな?」

「さあ・・・来ますっ!」

虚空から届くマシンガンが回避したカノンの右脇を過ぎ、既に展開されていたウッソのシールドに当たって弾かれていく

『この程度ならビームシールドでっ!』

ウッソからの声を聞きつつ、俺は右手にフォトンランチャーを構える

「射程の長いこれならシールドごとっ!・・・当たれっ」

まだ有効射程外ではあるがそれは双方同じである

いくつもの敵機を示すサイトに適当に狙いをつけて撃ち込む
名雪もカノンに従うように備え付けたブースターをふかしながらビームライフルを牽制に放っていく

何発かは彼方の相手のビームシールドに弾かれて光を放った。
それも目には星の光ほどにしか光らない

「ランチャーでもこの距離じゃこんなものか・・・キャニー、敵部隊はアレだけか!?」

「いえ、既にフロンティアW近辺に複数の反応を確認っ!」

周囲の宙域マップが表示され、正面の部隊とは別に別働隊があるのがわかる

『俺達の故郷を制圧するつもりかっ!?』

『祐一、ここは任せてそっちに行ってよ』

名雪がオーバーハングキャノンで牽制しつつ俺に言った

「・・・よし、わかった。シーブック、行くぞっ!」

俺はカノンを右方向へと転換させ、F91とともに別働隊に向かう

「制圧部隊と思われる部隊がコロニーに接触を確認」

「くそ、コロニー内部で戦うのか・・・?」

中に住む人たちを巻き込む戦いになるのは避けたい・・・
しかし、敵がそんなことを考えて戦ってくれる保証は無い

「これは・・・部隊がこちらに向かってきますっ!」

(? まずは迎え撃つつもりか?)

俺はそう考える以外なかった

「よくわからんが都合が良い。叩くっ!」

機動戦のために装備をランチャーからブレードへと持ち替える

「俺がかき回す。後は宜しくっ」

言って、カノンの瞳がピンクに近い色を放ち、ブースターの光が増す

「敵機接近、一機だけ機種が違うものがあります。恐らくは指揮官機かと・・・」

「よし、高速機動モードっ! 一気にやってやるっ・・・ぐはっ」

何時もの感覚を考えていた瞬間、体だけが前に持っていかれたような感覚に襲われる

「加速効率以前の1.2倍っ!!」

キャニーの叫びを聞きながら、カノンは敵の小隊を何もせずに突っ切ってしまう

「くぅっ、たかが2割でこうも違うのかっ」

悪態をつきながらモードを解除し、慌てて振り向かせる。

(頭では効率があがっていたことはわかっていたつもりだったんだがな・・・)

瞬間、目の前に敵MSの一機が現れる

光る目・・・既に右腕から突き出されようとしているランサー

(刺さるっ! それは御免だっ!)

「うぉぉおおおおおっっ!!!」

叫び、感情のままにフィールドを前面に強く展開する

「機体装甲表面損傷、敵機はとっさに武器を手放し衝撃に備えた模様」

「ち、こっちの能力を知っている・・・?」

荒くなった息を整える気も無く、再びモニターを睨む

「とにかくやるしかないっ」

一斉に襲い掛かってくるマシンガンを敵意を感じるままに避けていく

(右・・・いや、下かっ!)

「見えた。そこっ!」

一番近いベルガ・ギロスにブレードをやや下気味に右薙ぎで振るう

胴を切り裂くかと思えた攻撃は急降下した敵に回避される

「速いっ!? ちっ」

動揺の隙を突いた攻撃にフィールドが揺れる

「小型化し、運動性を高めた機体だと推測されます」

キャニーの報告を耳に聞きながら揺れる視界の中、
頼りにならない視界の変わりに自分の力を信じる

「出ろ、I・ランス!」

念じ、カノンのバックパックからI・ランスが飛び出ていくのが感覚でわかる

「F91からの援護砲撃、来ますっ」

モニタに写ったF91の腰にある二門の銃口が
I・ランスでひるんだMS達に火を噴く

『ビームシールドが・・・うわぁっ!』

報告でもしようとしていて周波数を間違えたのか、叫びが響く。
思わずビームシールドを構えた敵機のその一機がそのまま光になっていった

「貫いたか・・・」

間際に周囲に伝わった叫びに俺もそう言葉にせずにはいられなかった

『無事かっ?』

「油断した。助かったぜ」

加速し、F91の隣に行くものの、まだ敵は一機しか減っていないという現実が目の前にあった

動きの止まったのを好機と取ったか、敵の攻撃が再開する

「正面マシンガン来ますっ」

「実弾なんかはっ」

右にひねって回避させるが、フィールドをマシンガンが揺らす

が、敵は撃つためにランサーを突き出している

「もらったぁっ!」

振り上げた右腕のブレードがビームシールドを構える左腕を切り裂く

とっさの敵の回避がそれだけにとどめたのだ

その動きでこちらに槍を向けた相手へと
右にひねり、振り下ろしの一撃を加えようと意識したときだった

(くっ!?)

言いようも無い敵意に俺は不自然な姿勢のままカノンをその場から後退させる

「槍が飛んだっ!?」

カノンがいた場所を体勢を変えた相手から射出されたランサーが通り過ぎる

どうやら一撃で終わりらしく、残りの部分を投げ捨てた敵が腰に手をやるのがわかる

「させるかぁっ」

武器を持っていない左手で手早く腰の柄を持ち、カノンを突っ込ませる

「せいっ!」

抜きざま、上げかけた敵の腕ごとT−LINKソードでそれを切り裂く

切り裂かれた腕の中で敵のビームサーベルがかすかに光を放ち、沈黙するのが見えた

「速かろうが反射で勝てなければ意味が無いっ」

両腕を失い、戦闘不能になった敵機に構わずにカノンを上昇させ、巻き添えを覚悟の敵のマシンガンを避ける。
周囲から躊躇の無い敵意が来たためだ

「戦えない味方はただの障害物だとでも言うのか・・・」

俺は口にしながら残りの敵を睨みつける

 

 

〜名雪サイド〜

「ウッソ君。連続で行くよっ」

『はいっ』

名雪のオーバーハングキャノン、ウッソのロングレンジキャノンがそれぞれを照らす

容易に回避されたそれらも、敵の動きをひきつけるには十分だった

サイバスターが後ろから一気に二機を追い抜き、敵陣へと切り込んでいく

「実弾も防がれちゃうし、面倒だよ・・・」

名雪はぼやきながらも動きを止めるためにわざと甘く放つビームライフルの手を休めない

『コウ、撃てっ!』

『わかったっ!』

「え・・・あれ全部・・・?」

名雪のつぶやきに答えるかのようにデンドロビウムからは
無数のマイクロミサイルが敵意となって敵MSの集団へと迫る

サイバスターがその中を縫うように飛び交うのが名雪からも見えた。
宇宙空間に推進による白煙が産まれていくために視界が制限されていく

「・・・今かな」

名雪はつぶやくとスロットルをそっと、だが深く押し込む。
それに答えるようにブースターは白い輝きを産み始める

「きついけどその分やれるよっ!」

追加ブースターによる短時間での加速はすさまじく、ミサイルの爆炎の冷めやらぬ敵陣へと迫る。
上下左右、絶え間ないGの中、名雪はわざとビームシールドを構えさせるためにそれぞれにライフルを撃ち込んでいった

「くぅぅぅっ、でもがんばらないとっ」

名雪は最後尾に位置していた一機に左脇を抜ける直前にサーベルをぶつかるようにして振るい、
シートで吸収しきれない衝撃に耐えながら半ば強制的に方向修正と速度の減少を行う

ブレーキ代わりにされた一機はその衝撃に機体をゆがませて沈黙した。
無数のミサイルと、名雪の射撃とに敵機のほとんどはシールド構えたままで姿勢制御に戸惑っているようだ

「はぁ、はぁっ!」

『おいおい、それはサイバスターの仕事だぜ?』

「ごめんなさい。じっとしていられなくて・・・」

心配のこもったサイバスターからの通信に答える名雪。
視界には左腕の関節機構が故障したことを示す警報が見えた

(わたしには舞先輩のような覚悟も無ければあゆちゃんや真琴のような力は無いから・・・だからっ!)

「自分と、自分の大切な人たちの未来のために戦うよっ! いっけーーーーーーっっ!!」

振り向けていない数機に向けて背後からオーバーハングキャノンが放たれる

それは対応しきれないベルガ・ギロスの三機を塵と化した

メガ粒子の槍は勢いを残したままでそれは敵をけん制する物になる

「う・・・はぁ」

名雪は機体を迂回させながら、敵が消滅する瞬間に叫んでいたかのように感じた錯覚を振り払う

(あの人たちだって家族がいたんだろうな・・・)

「でも・・・戦争なんだよね・・・」

オーバーハングキャノンの冷却を待ちながら、名雪は自問自答する

「ブースターの分小回りが聞かないから・・・とにかく狙う暇は与えないよっ」

再び名雪の機体を白い白光が包み、その場から姿を消す

そしてプロペラントタンクの消耗を代償にした輝きが
確実に敵機へと死を運ぶ

 

 

 

〜祐一サイド〜

「I・ランス残量0、残弾に注意してください」

「わかってるっ! しかし、速いぞっ」

敵が、だけではないカノンの反応速度、追従の度合いが良く、いや良くなりすぎている

『行ったぞっ!』

「っ!? せいっ!」

迫る敵機の右腕を切り飛ばすものの、振り抜いてしまう

今の攻撃も本当なら行動不能を目指して振るったもののはずなのだ

その場で転換せず、一度思い切り吹かしてから振り返る

『機体を活かしきれずに戦場に出るのがそちらのはやりか?』

あざけるようなこの小隊の隊長からと思わしき通信

(・・・なめるなっと言いたいところだが・・・今のままでは・・・)

「話す余裕があるなら占領はしなくていいのか?」

シーブックの援護を受けながら体勢を立て直し、疑問も同時にぶつける

『死に行くものの名ぐらいは聞いてやるのが貴族としての礼儀だろうからな』

「ふーん。礼儀ねえ・・・」

(・・・なんだ・・・?)

俺はその相手と相対しながらも言いようもない感覚が戦場を包むのを感じていた

敵意・・・いや・・・これはそんな次元じゃ・・・無い?

「キャニー、戦況は?」

「現在友軍に損害軽微。敵小隊の三割を撃破。両者の戦闘個所は近づいていますね・・・」

モニターの端には名雪達の戦いと思わしき閃光も走る

「そうか・・・シーブック、あの不明機は知り合いか?」

『わからない。接触できていないんだ。けどこの感じは間違いないはずだ』

シーブックからも焦りの返事が返ってくる

そのパイロットもニュータイプだからわかりあえるってわけか?と思いつつ思考する

「・・・可能ですが、今の状況で使いこなせるかは不明ですよ?」

「やってやる・・・。ここは支える。シーブック、確かめてこいっ」

俺は叫びつつ迫るベルガ・ギロスに牽制のバルカンを放つがシールドに弾かれる

「良いのですか?」

不明機に体当たりでもしそうな勢いで飛んでいくF91を見送りながらも、
キャニーの問いに頷き意識を集中させようと思い立ったとき、敵と俺との間にメガ粒子が伸びる

『あ、そっちに行っちゃったよ。祐一、大丈夫?』

白い輝きとなって名雪が合流する

どうやら双方の戦闘区域が重なったようだ。
ならば無理をすることも無いか・・・

「ああ、名雪はこっちの援護をたの・・・くぅ!?」

突然敵機が全てビームシールドを構えたかと思うと、戦場を無数のビームらしき光が照らし出した。
俺の感じた意識に反応するようにカノンをフィールドが包む

「サイバスター、V2ガンダム被弾、デンドロビウムおよび本機は防御に成功。
なお水瀬機はこちらの直線上にいたので無事でした。F91は例の不明機とともに回避に成功のようです・・・祐一さん?」

キャニーが報告をしてくれているようだが俺はそれに答える余裕が無かった

攻撃と同時にはっきりとする何者かの意思

「く・・・あっちか!?」

右斜め後方を振り返り、画像をズームさせる

・・・赤い・・・花?

『ザビーネ、ドレル。思った以上の相手のようだな?』

『はっ、わざわざお越しにならずとも・・・』

「どうやら親玉みたいですね・・・」

キャニーが傍受したらしい(というかわざわざ聞こえるようにするとは思えないからだ)
通信に顔をしかめる

「でかいな・・・何より・・・」

禍禍しい・・・姿もそうだが発する気配そのものが圧力のように思える

『さて・・・初めて出会うが諸君らの力はこちらの予想を越えているようで何よりだ』

・・・どういうつもりだ?

『へんっ、わかってるならとっとと尻尾巻いて帰りな』

マサキの意気込む声の通り、相手がこの状況でわざわざこんなセリフを言う必要性は無い

「シーブック、どう思う?」

『俺には奴が禍禍しい悪意その物にしか思えない・・・』

ふと気がつけば例の不明機がF91にかばわれるような位置にいる。
どうやら説得なりは成功したようだ

『タダで帰るわけにも行かない立場なのでね・・・失礼させてもらおう。
このラフレシアとカロッゾを嘗めてかかることのないようにお願いしたいものだな』

瞬間、赤い花から緑の枝・・・いや、触手が伸びる

「先端に高エネルギー反応確認。来ますっ!」

「避けるか防げよっ!」

視界の隅に表示されるその本数実に100本以上

それら全てが一斉にビーム砲を放ったのだ

あるいは回避し、あるいは防ぐものの、被弾は免れない

『こいつでっ・・・どうだ!』

『このラフレシアより巨大なMSが連邦に存在したというのか』

砲撃の合間を縫ってコウ少尉のデンドロビウムが長いその主砲で砲撃を返す。
まばゆいメガ粒子がラフレシアに伸びるものの何かに防がれるようにして減衰するのがわかる

「ラフレシア周囲にI・フィールドを確認。半減以下になっていますっ!」

『所詮は連邦の物というわけか・・・ならばこれはどうするかな?』

声の後に触手がラフレシアの後方に位置する残骸らを砕く。
いや・・・砕いた・・・わけではないような・・・

「何が・・・アレは!?」

考える時間を与えられずに白いコンテナ。何の変哲も無いそれがはじける

『それが切り札か』

『なんとっ』

どこからか通信が割り込み、現れたそれ、以前見た覚えのある車輪のようなもの。
だが明らかに形状は洗練された別物と言っていいだろう、が数瞬ずれて爆発する

犯人は一機のMS,片手にトライデントらしきものを構えたガンダムタイプだった

『以前地上で使われたものの改良型・・・貴様らが提供主というわけだ』

『ふふ・・・すばらしいだろう? 血みどろの戦いなど無駄でしかない』

嘲笑する姿が浮かぶ声で相手、カロッゾは笑った・・・冷たく

そしてしばらくはあたりを動いていたそれらが俺たちに狙いを定めたのか、激しく回転を始めた

『貴様らは正義か?』

「・・・悪になるつもりは無い」

ガンダムに答え、その場からカノンを急発進させる

近距離の相手に向かうようになっているのか、唯一動かなかったサイバスターへと多くが迫る

『この程度じゃ捕まえられないぜっ! ここは任せろっ』

余裕で回避を続けるサイバスターへとV2,そして例のガンダムが近づき敵のターゲットを自分達へと向けた

「と、いうことはあいつはこっちで担当ってことだな」

『祐一、わたしが行くよ』

「お、おいっ!」

名雪の言葉に俺はあせって声をかけるが間に合わず名雪の機体は白く輝いた

「くそっ。追いかけるっ!」

 

 

 

 

(このブースターの速度なら時間稼ぎぐらいはできるよっ)

「はっ、あっ! うーっ」

無謀にもラフレシアの射程に入った名雪はI・フィールドの範囲内、至近距離での砲撃を試みる

「当たった!・・・けどっ」

隙のできるオーバーハングキャノンは使用できず、自然と威力の乏しい攻撃となり、
ラフレシアの駆動に効果的な打撃を与えているとは言いがたかった

「うー、だめってことだね・・・じゃあ戻らないと・・・あれ?」

名雪が震える声を上げるのも無理は無かった

コックピットを推進剤の枯渇を示すアラームが占領し始めたからだ

「え? え!? あ・・・追加ブースター!」

そう、予想以上に追加ブースターによる消耗は激しく、稼働限界はすぐそばに迫っていた

焦り、気の緩み、そしてその死角から名雪のVガンダムを数本が捕らえる

「掴まっちゃった・・・」

まずは胴が、そしてライフルを構えた両腕部分が巻き取られ、封じられる

「動いてよ・・・祐一ぃっ」

全身の動きを封じられるという生理的な嫌悪からか名雪が叫ぶ

しかし、声が届く前に機体を異音が包み始める

「・・・斬られてる?」

名雪の耳には装甲を伝わる機械的な音が響いていた

まるで木材が切り分けられるかのような音が・・・

 

 

 

「どけぇっ!」

背後からの援護攻撃(恐らくはシーブックらだろう)を受けながら
俺は両手にそれぞれT-LINKソードを発生させながら触手の群れに突っ込む

名雪の機体が緑色の触手たちに絡まれたのを見て無我夢中で救出に向かった

「左6、右・・・ええいっ、送ります!」

360度全方向からのオールレンジ攻撃を送られた情報を元に装甲を削られながらもなんとか防ぎきる

「水瀬機・・・沈黙っ!!」

「名雪っっ!!」

俺の視界には原型を削られてCGのデータに一致しなくなったためか黒い物体としか表示されない物。
髪が逆立つような感情の流れ。とっくにシステムは起動済みだ

『無謀と勇気は違うものだと教わらなかったのかね?』

「俺だって覚悟も無しに戦いなんてするものかよっ!」

あざ笑う声にキッと睨みつけるようにして触手たちを回避していく。
何を思ったか、俺だけにその通信は送られていた

『覚悟・・・か。それは敵全てをその力で殺戮する事かね?』

「念を合わせて我が敵を滅ぼす刃と成す・・・切り裂けぇぇっ!!」

俺はそれに答える代わりに叫び、2本の柄を合わせて持つようにして伸ばしたソードを下から救い上げるようにまとめて触手たちを切り裂く

「キャニーっ!」

敵の攻撃がやんだ合間に叫び、俺は警戒を続ける。
周囲では反応を見る限り切り裂かれた触手達が小爆発を起こしているようだ

それと同時に互いを互いの刃状の部分で削りあっている。
名雪の機体を破壊したのはあの機能なのだと悟った

「わかってます。30秒経過。・・・ぎりぎり間に合ったようですよ」

キャニーの示してくれた通りにそれを回収し、動揺の隙を突いて一度離れることにした

「それにしても触手たちのあの動き・・・全部一人で操作してるのか?」

「今のままでははっきりしませんが・・・どうぞ」

撤退際に思わずつぶやいた言葉に返事が返った

「ぐはっ! なんだあれは・・・」

ズームされた映像、クリアな装甲の一部分に人間らしきものが見える

頭部からは無数のパイプらしきものが伸びている

「なんらかの形で本人の意識が操縦に反映されてるでしょうね」

『祐一?』

小さく名雪が目を覚ましたのか、通信を送ってくる

「怪我は無いな? 皆、すまないが一度後ろに下がる」

巨大なデンドロビウムの脇を通り過ぎながら通信を送る

『ああ、装甲が厚い上に・・・ビームが通じないならこれでどうだっ!』

俺はその声に名雪の無事だった機体(コックピット部分だけではあるが)
を抱えながら振り返る

急加速したデンドロビウムにラフレシアから無数のビームと、それをふさぐようにして触手が迫る

「さすがに一機で拠点攻防が可能といわれるだけありますね」

「なんであの大きさであの回避能力なんだよ・・・怖いぞ」

デンドロビウムと少尉はそれらの全てを全身のアポジモーターやメインスラスターを駆使し、
完全に回避しきった上にその主砲をラフレシアの巨体に突き刺す芸当までやってのけたのだ

双方の刺さった部分や節々がスパークを上げるのが見える

『この距離なら・・・吹き飛べぇぇっっ!!!!』

「零距離でのメガビーム砲・・・これなら・・・」

勢いそのままに吹き飛んでいくラフレシア・・・だが

「まだだ。悪意は消えてない・・・」

『こんなことで枯れるわけにはいかんのだよ』

『まだ動くかっ!』

カロッゾの声にシーブックが攻撃を加えるが健在だったI・フィールドに弾かれる

「アステロイドから無数のバグの出現を確認っ! 時限式か、合図があるまで機能を停止させていたものと思われます」

「逃げるための時間稼ぎか・・・」

相手はこれが破壊されても痛くも無いだろうが、俺たちとしては無視するわけには絶対にいかない

そうこうしてる間にもあっという間にラフレシアが残存の兵力とともに撤退していってしまった

俺たちは例のガンダムとともにバグの掃討を行う事にした

対人能力は元よりまとめて食らえばMSもやばそうな威力らしいが、
幸いにもコックピットに押し込むことで名雪を危険な目にあわせることも無く掃討に成功する

 

 

『というわけでなんとか防いだが名雪が大破。他は大きな損害は無さそうだ。
ぐはっ、名雪、動くな動くなっ!』

『うー、しょうがないよぉ・・・』

『ともあれさっさと帰るな』

「以上が先発隊より入電。大破1、他小破ながらもフロンティアW防衛に成功。
なお大破があるものの死者は出ていないとのことです」

「そうですか・・・今回は出番がありませんでしたね。
メイプルさん、了解の旨を返信しておいてください」

「それだけでよろしいですか?」

報告の最中美汐の頬がぴくっと動いたのをメイプルだけは見逃さなかった

もっとも正面から彼女を見ていたのが彼女だけだったのであるが・・・

「そうですね・・・追加で。帰ってきたらあぅあぅです、と」

「・・・え? あ、わかりました」

理解して笑うメイプルとは対照的に祐一がその返信を聞いて顔をしかめた事を知るのは本人と名雪ぐらいである

「あぅあぅ・・・なんだろ、でもすっごくやな予感がする」

他にも一人、自分がその言葉を言うときを考えて身震いする少女がいたりもしたのではあるが・・・

 

 

 

 

 

 

続く

 

次回予告

シーラの考えに従う形でOZのルナツーを目指し移動する祐一達

そんな中、詳細不明の機動兵器がサイド7を攻撃したという情報が入る

「コロニーが一撃で・・・?」

その垣間見える威力、そして異常性

「だめなんだよぅ・・・エゴがあるような戦い方じゃ・・・」

「カトルだったな・・・そうだ・・・人間なんてエゴがあって当然だろっ!」

ぶつかる叫びと光

舞う涙は少年のものか・・・それとも

 

次回カノン大戦α〜戦場を駆ける奇跡〜

−硝子の少年−

 


 

あとがき

 

はい。結局一ヶ月開きました(汗

これもそれもトップで特別更新したような状況があるわけですが・・・

それもなんとか・・・なりました

感想その他はメールなりBBS,もしくはカノンSSLINKの感想すれにて。

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