カノン大戦α
〜戦場を駆ける奇跡〜
第二十一話
〜終焉か始まりか〜前編
南アタリア島に入ったその日は何をするでもなく、就寝した
翌日、マクロスに呼び出された…イングラムにだ…
「う〜ん…やっぱ苦手だよな」
人を見るときの態度や、なにより念動力に関して何か隠している気がする…
考えていても仕方がないか…
こんこんっ
「入れ」
「失礼します…」
気の無い敬語を使って入る
「早速本題に入る。祐一、ずいぶんとT−LINKの制御にはなれたようだな?」
「まあ必死ですから…つかれますけど」
探るような声に落ち着いて答える
「使えるようになることは良いことだ。気にするな。
祐一、ゼロにお前以外は乗っているか?」
は?…なんのことだ?
「え? 俺以外に人が乗っているかってことですか?」
「そうだ。以前お前と撃ち合ったときに声を聞いた気がしてな」
「そうですか? 艦からの通信でしょう」
俺はそう答えていた。以前の俺なら
『もしかしてキャニーのことか? AIでも誰か乗っていることになるんだろうか?』
のようなことを何気なく考えていただろう
だが、イングラムの前で無防備に考えるわけには行かない
俺とあゆたちは意識を共有したりできた。つまりはイングラムにその気になれば
考えを感じ取られるかもしれないと部屋に入る前に思ったからだ
部屋に入る前に自分の心に壁を作ったのだ…そう…あの悲しみを自分の中に封じこめたときのように…
「そうか…ならば良い。時間を取らせたな」
イングラムはそういって俺を開放した
「ヴィレッタの報告にあった人物…ただの勘違いか…」
イングラムは祐一からそれに関して
何も読み取れなかったためにホログラフAIだと判断した
「あっ、祐一君、みんなにお話があるんだって、行こう?」
「わかった」
部屋を出たところで迎えに来たあゆに出会い、ついていく
行きついた先はマクロスのブリッジだった
「宇宙へ?」
「そうだ、我々はマクロスを飛ばせようと考えている。だが恐らくは敵の妨害が
軌道上からの降下を含め、行われるだろう。そこで君達に一足先に宇宙へと出てもらい、
予定進行上の敵勢力の排除をお願いしたい」
マクロス艦長であり、SDFの現代表らしいグローバル艦長からそういわれた
「ロンド・ベル隊も離れるわけにはいかないのだ…」
地上と宇宙、2重に守るわけか…
「打ち上げはどこからですか?」
美汐が聞く
「近くにある施設を利用してもらう」
モニターに周辺の地図と施設のある島が映った
「ここだ。すまんがSDFの部隊は進宙式の関係で出撃ができん。
護衛をつけることが出来ないのだ…」
「うぐぅ、大丈夫っ♪ 何とかなるよっ♪」
のーてんきなあゆの声
「そうですっ、なんとかなりますよ♪」
それに続く栞
でも今は二人のそんな声が妙に頼もしかった
「打ち上げの準備の都合で今日明日はゆっくりしていてくれたまえ。
補給や修理も行わなくてはならないだろうからな…」
グローバル艦長はそう言って葉巻に火をつけようとした
「艦長っ、子供の前で吸うのはよくないですよ」
「…そうだな…」
オペレーターらしき女性の制止に艦長は残念そうに葉巻をしまった
「じゃあ俺達は失礼します」
みんなに目配せをしてそう言った
「そうですね〜、そうしましょうか〜」
「おうっ、往人さんに訓練をつけてもらおうかな…」
佐祐理さんと北川がほほ笑み、他のみんなもうなずいて動き出した
「すまんな、相沢少尉」
「良いですよ。そうだブライト艦長、往人さんたちはどうしてますか?」
「ああ、君達の宿泊場所は知らせてある。きっと尋ねてくるだろう」
「わかりました」
二人に頭を下げてブリッジを出る
「思ったよりずいぶんと広いな…」
「そうだな」
俺は北川のつぶやきに答えていた
あの後、俺達は用意された宿泊場所へと向かった
部屋は俺と北川、あゆと名雪と真琴の三人、栞と香里と舞、佐祐理さん四人の分割になった
「あははーっ、失礼します〜♪」
「あれ? なんで私達の部屋よりも広いんだろう?」
「きっとこうなることを考えて手配してくれたんでしょうね」
「あぅーっ、こっちもベッドがふかふか〜♪」
「うぐぅ、本当だよ〜っ♪」
見渡す名雪と答える香里、ベッドに飛びこむ真琴とあゆ…
なんつうか…
「にぎやかで良いですね」
静かにとなりに来た美汐が言う
「まあな…」
「あっ、祐一さん、誰か来ましたよ?」
「え?」
栞の声に俺がドアの方をむくとノックの音がした
「誰だ?」
「祐一か? 俺だ」
この声は往人さんか…
「今開けますよ」
俺はドアに近づいて開けて外を…なにぃっ!?
「…こんにちは」
俺の目の前にいたのは長髪の美少女だった
日に当たって輝く黒髪、深さをもった紅い瞳…
「…一目ぼれ?」
「違うわっ!!」
思わず叫んで裏拳を目の前の少女に…
どすっ!!
「ぐはぁっ!?」
俺の手が届く前に何かの衝撃がみぞおちに襲いかかった
よろめきながらその原因を確かめる
「こら〜っ、美凪にいきなりなにするんだっ!!」
下がった俺の視線の先に左右に髪を結んで広げた少女が映った
ずいぶんと小さいな…
「…みちる。いきなり暴力はだめですよ」
「…わかった」
そっと美凪と呼ばれた少女がみちるの頭を撫でながら諭すように言う
「…でも良いツッコミの速さでした…進呈」
美凪は懐から何かを取り出すと俺に手渡した
中身は…お米券?
しかも南アタリア島専用だ…どうしろと?
ふと往人さんを見ると必死に笑うのをこらえている顔だった
ぐはっ…はめられた…
俺は痛みも加わって苦い笑みを浮かべた
「あゆあゆのタックルと良い勝負だな」
「うぐぅ、あゆあゆじゃないもんっ! それにあれはタックルじゃないよっ!!」
あゆがぷんすかと頬を膨らませて反論する
「なら体当たりか?」
「うぐぅ、それじゃ一緒だよっ!!」
「おおっ! 進歩したな」
ぽんっとあゆの頭に手をやって撫でる
「うぐぅ…祐一君ボクのことばかにしてるよ〜…」
あゆは涙ぐんでしまった
「今のは祐一が悪いよ」
「そうね…」
「…祐一が謝る…」
「じゃあ君を女泣かせ君一号に任命しちゃおうっ!!」
「俺が悪かった…って…今妙な一言が…」
俺はその声がしたほうをむく
「…なにかな?」
にこにことたたずむ少女がいた
「おっ、佳乃も来たか…観鈴もいればみんなそろったんだがな…」
往人さんがこう言う以上知り合いなのだろう…ん?
「誰かいらっしゃらないんですか?」
佐祐理さんが聞く
「ああ…観鈴、神尾観鈴はこれなくなった。ちょっと検査でな」
「検査? 怪我でもしたんですか?」
検査と聞いて少し体を震わせながら聞く栞
「怪我じゃない…さっきの戦いでT−LINKを積んだ機体でがんばりすぎたせいで
影響が出ていないか一応の検査をするらしい…」
そう言う往人さんの顔はやはり落ち込んでいる。大切な人なのだろう
T−LINKを積んだ機体で?…じゃあその観鈴とか言う子も念動力の保持者なんだな・・・
「ねえ祐一? 立ち話もなんだし、入ってもらったら?」
「そうだったな…とりあえず中に・・・」
「その観鈴さんってどんな人なんですか?」
栞が興味津々といった表情で聞く
「往人くんの恋人だよ」
ぷぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!
佳乃のセリフにむせる往人さん
彼女達が呼び方は自由でといったのでこうすることにした
「けほっ、けほっ、佳乃、お前いきなり何つうことを…」
「昨日もすごいことしてたもんね」
気にせず先を続ける佳乃
「すごいこと?」
何?と言った感じであゆが聞く…あゆ…お前は…
いかん、自分で思い出して恥ずかしくなってきた…
「つかれてるかみやんを手込めにして…」
ごんっ!
「うにょ!?」
そんな俺の考えを吹き飛ばすようにみちるの声が響く
「違う!」
「…そうなんですか?」
「あたりまえだ」
「じゃあ、何で目を閉じて目を閉じていたりしたの?それもお互い」
「うぐっ…それはだな…」
佳乃の指摘に口篭もる往人さん
「それは…?」
「それは……」
「それは?」
俺も聞いてみた
「何で祐一まで聞くんだ?」
「いや、気になりますし…」
古今東西色恋沙汰は興味を引くものである
「あのなぁ…」
「…結局、神尾さんのお母さんに止められましたけど、私達が来なかった場合どうなってたんでしょう」
「そう言えばお姉ちゃんもいなかったしね」
「お姉ちゃん? 佳乃さんお姉さんが居るんですか?」
「うん、しおりん、お姉ちゃん今日はお仕事でこれないんだ」
「ご職業は?」
「お医者さん、軍のお医者なんだよ」
えっへんという風に胸をはる佳乃。自慢の姉なのだろう
「そうなんですか」
「とっても腕がいいんだよ」
「性格が荒っぽいがな」
苦渋の表情の往人さん
「そうかなぁ?優しいよお姉ちゃん」
「お前に大してはな…」
「何か嫌な思いででもあるんですか往人さん?」
表情の変わらない往人さんを見て言う
「まぁ…なっ、会えばわかる」
「はぁ…相変わらず苦労してるんですね」
「うるさいぞ」
俺が言うと往人さんは仏頂面をした
「そうだ、往人さん。明日俺に稽古をつけてもらえませんか?」
「ああ、どれくらい成長したか見てやろう」
突然の北川の頼みに答える往人さん
心なしか嫌な話題から外れて嬉しそうだ…
「れでぃ〜…ふぁいっ!」
「ふんっ」
「むむっ」
のりの良かった佳乃の合図とともに二人が気合を入れる
二人の間でゴムが揺れる
互いに相手に押し合っているのだ
気が抜ければ伸びたゴムが自分に当たる。そういう仕組みだ
「…やるな…祐一」
「苦労しましたから…」
ぐんぐんゴムが伸びる
そして
ばちっ
『うぉぉっ!?』
二人の声が響く
ゴムは途中でちぎれ、二人に飛んだのだ…
引き分けか…
「うぐぅ…」
思わず言ってしまうほど痛いのだ…これは…
「痛かったな…おっ、もうこんな時間か、みんな帰るぞ」
「…わかりました」
「そうだね」
「残念、もっと話したかったよ」
「さよならです〜」
「あははーっ、また会いましょう」
「さよならっ」
みんなの挨拶が木霊する
そして往人さん達は帰っていった
「綺麗だね…」
「ああ…」
名雪の声に答える
他のみんなも無言の返答を返す
往人さん達も自分の部屋に帰った夜…
俺の目に映るのは空にぽっかりと浮かぶ大きな月
「…あれ?」
「どうした栞?」
「いえ、さっき何かが空を横切った気がして…気のせいですかね?」
「気のせいでしょう。私は何も見なかったわよ」
「う〜ん鳥さんでしょうか…」
「あははーっ、そろそろ寝ませんか?」
「…眠い…」
目をこしこしこする舞
そうだな…寝るか…
そして夜はふけていく
「…マクロスは飛ぶための準備、グレイファントムとリーンホースJrは修理と補給中か…
久瀬に言っても…きっと『修理が終わってからだ。』というんだろうな…さて帰るか…」
男は自らの機体から飛ばした物体から届く映像を見るとつぶやいた
「それにしても…良いタイミングで敵襲が来たもんだ…偶然…なんだろうな…」
考えていてもしょうがないので帰還することにしたようだ
水中へと機体が沈んで行く
南の地は…静かだった…
中編に続く
後書き
ユウ「今回は1日ごとに分けようと思います。
それでは近いうちに二日目を…」