カノン大戦α
〜戦場を駆ける奇跡〜
第二十三話
〜未知なる空間〜前編
「くっ!?」
「下だってあるんだぜっ!!」
北川の叫びに続き、ペイントがゼロを染める
「相沢機、撃破条件到達」
キャニーの冷静な報告が響く
「また負けたか…」
俺はぼやく
ゼロを帰還させるべく操作する
地球から飛び立ってからすぐに俺達はリガミリティアと連絡を取った
宇宙での拠点を確保するためだ
『あんたらがウッソが世話になったって言うプロミスリレーションか?
現在こちらは月工場で修理と補給を行っている。そちらの補給もかねてこちらに来ると良い』
いかにもといった感じのゴメス艦長の言葉を受けて俺達は月に向かうことになった
航行途中を宇宙に慣れている北川を中心にした演習期間にしたのだ
一日で栞と真琴はすぐに慣れ、名雪達のほうを担当している
舞も手早く慣れ始めた
「相沢、まだ下方向に油断があるぞ」
機体を接触させて言ってくる北川
「ああ、わかってはいるんだが…どうにもな…」
まだ地上戦の癖が抜けていないのだ
「今のままでは敵の良い的ですよ」
笑顔で恐ろしいことを言うキャニー
「…努力する…」
俺は静かに答える
そして月が大きくなってきた時、グレイファントムに爆音が響いた
「なっ、なんだっ!?」
『敵襲です。各パイロットの皆さんは迎撃に移ってください』
「やるしかないのか…」
胸中に不安を抱えたままでゼロを動かす
「まだ宇宙戦に慣れていない相沢少尉達は艦周囲からの射撃をお願いします」
美汐の連絡に頷く
「四人とも、頼んだぞ」
「任せろっ」
「栞っ、行くわよっ」
「はいっ!」
「初めての宇宙戦…」
おのおのの反応を受け、戦いは始まった
「敵ジオンMS…20数機です。ドーベン・ウルフ、ドライセン、バウ…ザクVおよびズサを確認っ!!」
「なっ!? なんたってこんなところに!?」
その多さに驚く
「他数隻の艦隊も確認っ!! 状況から見て航行中に出くわしたものと推察しますっ」
キャニーと遣り合っている間にも敵からのメガ粒子砲が飛んでくる
「くっ!?」
なんとか攻撃を回避してライフルの照準を合わせようとする
「この浮遊感…ライフル拡散モードっ! 命中率を補うっ!」
「了解っ!」
地上戦の時ように、重力が無いためにうまく照準が合わない
最初から苦戦の予感である
「四人でダイヤモンド陣形を組むぞ。川澄さんはしんがりを頼む」
「真琴は右っ」
「じゃあ私は左ですね」
「…了解…来るっ!」
四人は敵の攻撃を確認すると陣形を崩さずに回避する
「遠距離攻撃を得意にするバウとズサを先に狙おう。栞ちゃん達、援護よろしく…行くぜっ!!」
突進してきたドライセンのビームトマホークをかわし、奥にいるズサに向かう北川
ズサの肩から発せられたミサイルが栞のビームガンに撃ち抜かれる
爆風に巻き込まれるズサ
「隙ありっ!」
弐式の拳がズサの頭部を破壊する
弐式に向かい、無数のミサイルが放たれる
「おっとっ」
北川は後方に加速し、間合いを取る
誘導で弐式に追いすがるミサイル
「撃つわよっ!!」
「了解っ」
真琴の声に機体を降下させる北川
後方からの真琴のショット・ナパームがミサイルを爆発させた
爆発のその間に三機は弐式に追いつく
「はっ!」
サーバインのビームソードがズサを縦に切り裂く
爆発を背に、バウへと迫る四機
「…当てて見せるから…」
名雪はグレイファントムに機体の足を固定し、狙撃体勢に入っていた
香里のスーパーガンダムがその防衛にあたる
名雪のスティックを握る手に汗がにじむ
照準の中でズサの放ったミサイルの爆発に巻き込まれるザクVの姿を確認する
「そこっ!」
名雪の機体から放たれたメガビームライフルがよろめいたザクVを撃破する
「さすが名雪ね」
香里が淡々という
「…っ!? 大きいのが来るよっ!!」
遠距離からでもそうとわかるほどの射撃がグレイファントムに迫る
艦隊とMSによるメガ粒子砲の一斉射撃である
「祐一さんっ! 背中押しててくださいねっ。あゆさん、いつものとおりにお願いしますっ!」
「了解っ! こっちのシールドも合わせるっ!」
「うぐぅ、任せてよっ」
前面で艦にあたる砲撃を防ぐためにシールドを張る佐祐理と支える祐一
「アブソリュートシールド展開っ!!」
展開範囲を佐祐理さんのシールドにあわせて広げ、強化する
漆黒の宇宙に光の膜が現れる
それはメガ粒子砲と接触し、まぶしい光を放つ
光が収まらぬうちに・・
『くそっ!? 相沢っ! 援護頼むっ!!』
「北川っ!? くっ!!」
ゼロを一気に加速させ、北川達の元に向かう
「ズサは終わったか…っ!?」
北川の視界に何かが映る
「なっ!? 対艦ミサイル!? やばいっ! 迎撃するぞっ!!」
ドーベン・ウルフ達からタイミング良く放たれた物体たちを見て北川が叫ぶ
―グレイファントムといえど、直撃を食らえば落ちる―
四人の考えは一つだった
「栞っ! 変形してっ!」
「わかってますっ!!」
真琴の声に答えてメタスをMA状態にする
Zにメタスをつかませ、狙いを定める
「…三基までは行けますね」
「三基入れば上等っ! 撃ってくれっ!」
メタスから光があふれる
それは三基の対艦ミサイルを誘爆させる
「やったっ!?」
叫ぶ北川、だが
動きの止まった四機に何かが迫る
放たれる無数の光
メガ粒子の猛攻を何とかかわす四人、だが
「あぅーっ!?」
「なっ、なんですかーっ!?」
「うぉぉっ!?」
四人が何かの攻撃を受ける
それはドーベン・ウルフの放ったインコムからの攻撃であった
とっさに回避運動をしたものの、かなりのダメージを受ける
「くそっ!? 相沢っ! 援護頼むっ!!」
続いて撃たれたメガ・ランチャーをグラビティーウォールで軽減し、さばく北川
「前方に対艦ミサイル確認」
「補正頼む。こちらの加速を殺さずに撃破するぞ」
「了解…3,2,1…今ですっ!」
キャニーの言葉に従い放ったライフルがミサイルを破壊する
モニターの中に北川達がいるであろう宙域が映る
「っ!?」
背にはしった悪寒に恐怖して回避する
今までいた場所にビームが殺到する
「なんだっ!? 何も見えなかったぞ!?」
「恐らくはドーベン・ウルフに搭載された準サイコミュ兵器、インコムですっ!」
必死の回避にも機体が少しづつ傷つく
「このままじゃ…後ろっ!?」
背後に迫った物体にブレードを振るう
その物体は攻撃を受けた途端に爆発した
「そんなっ! 爆薬搭載のバウナッターっ!?」
激しく揺れるコックピットの中、キャニーの言葉を耳に聞き、爆発に流されるゼロを何とか制御しようと必死になる
揺れが急に止まった
「…止まった!? なっ!?」
ゼロが止まった理由…それは意識的な死角である真下から迫った
一機のバウが背後に回り、ゼロを羽交い絞めにしたからだ
「生体反応無しっ! 無人機ですっ!!」
バウのモノアイが不気味に光った気がした
動きの止まったゼロに集中されるであろうインコムの攻撃
「…落ちる?…」
死を覚悟した瞬間、時が引き伸ばされる
落ちる? ここで?
皆を…残して?…死ぬ?
…嫌だ…絶対に嫌だっ
『わたし、もう笑えないよ…』
生きることに絶望し、心を閉ざした名雪
『私、笑っていられましたか?』
生きることを望んでも、生きることができないといわれた栞
『あの子・・・なんのために生まれてきたの?』
妹を愛するがゆえに避けることで悲しみから遠ざかろうとした香里
『ずっと私の思い出が・・佐祐理や祐一とともにありますように・・・』
自らの力を否定し、傷ついた舞
『いいじゃないですか、それで皆が幸せになるのなら・・・』
親友の、自分の大切な相手のためにすべてをささげる佐祐理さん
『したい、けっこん・・そうしたらずっといっしょにいられる・・・』
その儚い命をもって会いに来た真琴
『あなたはこれからもっと辛い目に・・』
同じ経験をしたがために再び悲しみに心を閉ざすことを恐怖した美汐
『…もっと、祐一君といっしょにいたいよぅ・・』
その優しさと、想いを胸に泣いたあゆ
皆、みんな生きている・・
「俺が…こんなところでっ!!!」
俺の中で何かがはじける
『システムカンゼンキドウ』
事務的な声がコックピットに響く
「これは!? ウラヌスシステム!? いけないっ!」
キャニーの声も耳に届かない
「うぁぁぁぁぁあああっっっ!!!」
感情の赴くままに力を放つ
ゼロを押さえていたバウを念動力で吹き飛ばす
そのままの勢いでインコムの射線から離れた
「消えて…しまえーーーっっ!!!」
あふれる力をソードに注ぎ込む
ゼロの構えたT−LINKソードの長さは軽くゼロの十倍はあった
抵抗させる間もなく、ドーベン・ウルフ達を切り裂く
放出された念動力はインコム自体も破壊する
爆発の中、そのエネルギーによってあらゆる電磁波を遮断したアブソリュートシールドを展開したゼロが艦隊に迫る
「だめですっ! 機体耐久度限界を突破っ!! 本機を破棄しますっ!」
キャニーの叫びが響き、T−LINK装置を含むコックピット部分がゼロから射出される
「祐一っ!」
「祐一さんっ!」
近くにいた真琴と栞に回収される祐一
気を失った祐一の顔色は悪い
一方、敵艦隊は損害を考慮し、撤退に移った
『索敵を行いつつ、帰還してください。最大加速で月に向かいます』
美汐の号令が響く
その日のうちに月にたどり着いた名雪達は祐一をマオ社に託し、月工場に向かった
「マスドライバーによる射撃っ!?」
美汐の悲鳴が響く
「そうだ、ジオンのギレンはマクロスを渡さない限り、直接の攻撃も辞さないと言って来た。
マクロスのほうでも現在エヴァンゲリオン三機による作戦を予定しているそうだが、
確実性を増すためにわれわれも射線上に戦力を展開。発射される隕石を遠距離攻撃で撃破する」
ゴメス艦長の声が響く
「では、佐祐理達にも作戦に参加するわけですね?」
「そうだ、おまえ達は既に軍の中でも目立つ。存在し、生存するだけで士気があがる。
戦力面でも重要な立場にいるのは確かだ。…やってくれるか?」
「うぐぅ、やらなきゃ…観鈴ちゃんたちを守らなくちゃっ!」
あゆの言葉に全員が頷く
「機体の修理が終わり次第作戦を実行に移す。準備してくれ」
「祐一…」
名雪がもらした声にこめられた感情はその場にいる全員の共通の想いだった
収容された祐一は昏睡状態だという
「…私、がんばるからっ!」
気合を入れて自分の機体に向かう名雪達
「祐一さん…」
ベッドで眠る祐一のそばにキャニーの姿が現れる
「…あなたは…」
祐一を見るキャニーの表情はさびしい・・・
「ううっ…」
うめく祐一の手をそっと握る
時は…過ぎる…
祐一の治療の担当者は祐一の心音が落ち着いたのを見てモニターを見る
そこには祐一以外、誰も映っていない・・・
「はぁ、はぁ、はぁ…ここは…どこだ?」
ひざまで何かにつかったまま、当ても無く暗闇をさまよう
「名雪達を守らなくっちゃ…」
声にした途端、視界に光が入ってきた
「あっ、あれは!?」
光の中にいる彼女達の姿に思わず駆け寄る
全員倒れていたからだ
「おいっ、しっかり・・っ!?」
声を止めて手を引っ込める
「なっ、なんでっ!?」
両腕が…血のように真っ赤だ
『そんな手で彼女達を抱けるの?』
「誰だっ!?」
光が消え、目の前には少年が現れた
「おまえは?…俺?」
見覚えのある姿につぶやく
『そう…君自身だよ』
背後から響いた声に振り返ると今の少年より少し成長した少年が現れる
「だから、なんでっ!?」
幽霊のごとく光る彼らにおののく俺
『おまえが絶対に逃れられない存在…』
足元から現れた、今の俺と変わらない俺自身が言う
「逃れられない?」
呆然とつぶやく
『そう』
三人の声が重なる
『必死に叫ぶ少女の想いを裏切り一人きりにした僕…』
ぽうっと少年の周囲に浮かんでは消える見覚えのある舞の思い出
『人のぬくもりを覚えた彼女を裏切り、傷ついた彼女を記憶の彼方に放り去り、
自分を心配する彼女の想いを裏切った僕…』
二人目の少年の周囲に浮かぶ真琴、あゆ、名雪の思い出
『残り少ない彼女の命を自分のためだけに使わせ、隠された傷を広げ、
二度と味わいたくない悲しみを再び味あわせた俺…』
栞、佐祐理さん、美汐の思い出…
「おまえ達は…そうか、そう…」
俺は悟る
こいつらは…
「俺がまだ受け入れていない彼女達への罪悪感…」
言い聞かせるようにつぶやいた言葉に能面のような三人が頷く
奇跡以来、自分でも気が付かなかった存在たち
「しょうがないだろ…人は悲しみをすべて抱えていたら発狂してしまう…」
『まだ…言い訳するの?』
『彼女達の想いを今も受けながら?』
『まだ…逃げるのか?』
「だからって…俺は…」
足から徐々に闇に沈んでいく
「っ! 祐一さん、生きてっ!!」
祐一の状態を感じ取ったキャニーの体が淡く発光する
そして…キャニーは祐一と共鳴した
『祐一…私、がんばるよ』
『祐一さん、生きて・・帰りますから・・・」
「名雪っ、栞!?」
『…祐一のためにも勝つ』
『あぅーっ…祐一ぃ…真琴、怖いよぉ…』
「舞…真琴っ」
理由は知らない…けど、彼女達の声が・・思っていることが届く
『祐一君…ほらっ』
「あゆ!?…えっ!?」
暗闇に光が差し、その中にあゆを見た気がした
だがその姿はすぐにキャニーに変わる
キャニーの背には羽根が生え、まばゆく光っている
「祐一さん、この手をっ!!」
キャニーに無言で首を横に振る
「祐一さんっ!?」
俺は視線を黙ったままの三人に向ける
「来いよ…俺は…もう逃げない…」
かすかに三人が微笑んだ気がした
あゆに共鳴したときのように世界が白く染まる
「はっ!?」
目覚めた場所は医務室のようだ
「気が付きましたか?」
キャニーの声に隣を向く
「え!? なんでキャニーがここに…」
つぶやく俺の唇に指を当て
「話は後です。行きましょう。このままでは皆さんが不利です」
「名雪達がっ!?」
その言葉に意識が覚醒する
体は無事に動いた
「ここを出て右、左、右です。先に行っていますよ」
ふっとキャニーの姿が消える
俺も立ち上がって部屋を出る
ここは…格納庫?
あれは…ゼロか!? だけど全体的にスマートだな・・・
「祐一さんっ!」
キャニーの声に頷いてコックピットに入る
「マオ社長からメッセージが届いています。名雪さん達に追いつきながら聞きましょう」
再生される映像に目をやりながら機体を発進させる
『無事に目覚めたようだな。わが社の機体による戦果は届いている。
この機体は君の戦闘結果を元に改良、装備を一新した言うなればゼロの兄弟機だ。
大破した元のゼロの変わりに自由に使ってくれ。せめてものお礼だ。
コックピット部分にはゼロ自身を使っているからゼロそのものだといってもあまり変わらない。
新しくグラビコンシステムを搭載。そのために各種無用だと判断した装備は解除した。
装備についてはマニュアルを参照してくれ。このメッセージが再生された時点でここから
出られるように各ゲートは調整してある。…最後に…生きろ。…メッセージを終わる』
「…了解…キャニーっ! 推進は?」
「ゼロと同じくミノフスキードライブユニットを搭載。ですが
調整が完了したためにセラフィックダイブへの応用は利きません」
漏れなくなったって事か
「よしっ! 出力最大っ! 一気に皆のところへ行くぞっ!!」
「了解。ヒュッケバインゼロ。高速起動モードに変更。ドライブユニット出力最大へっ」
「くっ…」
思った以上のGに歯を食いしばりながら耐える
新しいゼロはぐんぐんその速度を上げる
月から…一筋の光が走った
後編へ続く
あとがき
ユウ「間があいてる…(汗)…くぁっ…(汗)」
ユウ「いろいろがんばります(ぉぃ」