カノン大戦α

〜戦場を駆ける奇跡〜


第二十五話

〜同じラインに存在するもの〜

 

 

 

「もしかして…祐一かっ!?」

「へ?…って住井!? マジか!?」

シャインシーズンへの連絡、そして補給と修理のために立ち寄ったリガミリティア月面基地

そこで俺は思ってもいなかった男に出会った

「ふふふ…聞いて驚け。今俺は…って気のせいみたいな顔をして立ち去るなっ!!」

ぐわしと住井に首元をつかまれる

「おう、で?」

俺は何事もなかったように振り返る

「…はぁ…折原といい、おまえといい…なんだって俺の知り合いには変なヤツが多いんだ…」

ため息をはく住井

「失礼なことを言うだけなら他に行くぞ」

「まあ聞けよ。俺は今サナリィ勤務でな。今日はここに出向中なんだ」

サナリィ…たしか有名なのはフォーミュラシリーズか…

「へえ、偉くなったもんだ」

「まあな…そうそう、今回部品とかがきちんと搬入されるけど…あんまり壊すなよ。
おまえ達が使ってる機体は高いんだからさ…」

「その代わりに良いデータ取れてるんだろ?」

「おう、おかげで新型はその内出来るぜ」

「あぅーっ…誰?」

「うぐぅ、祐一君。紹介してよっ」

「おっと、そうだな」

二人の声に振り返る

「俺の名前は住井 護、住井って呼んでくれれば良い。
祐一とは中学時代の…まあ腐れ友達か?」

「浩平とかと一緒にいろいろやったな…」

今思えば結構無茶もした気がする

 

あゆたちに住井の紹介と、中学の時の思い出話に話が咲いた

 

 

 

 

 

「美汐、どうだった?」

一人地上と連絡をとっていた美汐が戻ってきた

「はい…マクロスが地表から消えたのは間違いがないです。
行き先は不明…でも…生きていれば連絡が来ますよ…きっと・・・」

「だな…とりあえず今後のことはどうするって?」

「はい。こちらで生成した部品等の運送もかねて地上に一回降下しようと思います」

「わかった。すぐに準備しよう」

俺は答えて歩き出す

「よっしゃっ! 俺も自分の仕事をするかっ! 祐一、生きろよ」

「おうっ!」

 

 

 

 

 

 

「お? 人員も補充があるのか?」

「うんっ、そうみたいだよ」

んしょと名雪がダンボールの反対側を持つ

「おう、その辺は俺にまかせな」

「あ、どうも」

体格の良い男性が荷物を持ってくれた

茶髪の髪がゆれ、長めの前髪が彼の視線を隠す

その後も順調に搬入を自分たちも手伝って進める。
なんと言っても自分が使うものなのだ。
多少苦労してでも直に知っておいたほうが良いと判断したからだ

そして…出発

 

 

 

「どたごたして休憩もろくに取れなかったな…」

「うぐぅ、仕方がないよ…今の戦力は…」

「地上のシャインシーズン…そして宇宙のあたし達…カラバやリガミリティア…」

「質と言う面から見たら…敵の脅威は私達とシャイン・シーズンなんですかね…」

栞がコックピットから出て言う

グレイファントムはもうすぐ月と地球の間のアステロイド漂うラグジュポイントにさしかかる

「さて…敵が来るならこの辺か…」

このあたりはレーダーも利きにくいからな…

『各パイロットは警戒を…』

「っ!?」

美汐の艦内連絡が途中で雑音とともに途切れた

同じに襲い来る感覚…これは…

「敵は…使徒だっ!!」

俺は叫んでゼロに飛び乗る

 

 

 

 

「ほう…使徒…か。面白そうだな」

誰も居ない格納庫…男のつぶやきが漏れる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―月―

「ん? おい、人員の補充はこれだけっていうのは確かなのか?」

住井は手直な職員を捕まえて聞く

「ええ…そうですよ」

「っ! しまったっ!! 祐一っ!!」

書類をくしゃくしゃに丸めて走り出した住井の脳裏には『補充されるはずのない若い男性の人員』の姿があった

 

 

 

 

 

「…どこだ?…っ!?」

視界の中…星が…瞬いていた星が…黒くなった

「なっ!? キャニーっ! 生体センサーを前方に向けるんだっ!!」

「了解!…反応ありっ! パターン確認、前回の相手と酷似しています」

間違いないか…

「でも…攻撃して来ませんね〜…」

佐祐理さんの言うとおり、何も攻撃が・・ってっ!?

暗闇が広がった

「うぐぅ、モニタの輝度を下げてっ!!」

あゆの声の後に発光弾が光る

現れたのは…幕っ!?

いやっ、使徒そのものがでかいのか

「うぐぅ、ヴェスバーっ!!」

「オーバーハングキャノン、GOっ!!」

二人の攻撃がATフィールドを突き破りながら使徒に突き刺さり、穴があく

「ふぇ? あっ、再生してますっ」

穴がふさがったかと思うと、相手は広がってきた

「包み込むつもりか? 散開しろっ!」

先ほどまで俺たちがいた場所を使徒の体が覆う

「包まれていたら潰されていたな…」

「それだけならまだ良いですよ。多分、吸収されてしまいますよ」

キャニーのセリフにそれを想像しそうになる

「…祐一」

「舞、どうした?」

「…使徒はどこかにある赤い玉みたいなのが弱点みたい…」

「ああ、確かあの魚みたいなヤツのときにもそれを斬ったら一発で倒したんだったな」

うなずく舞

「だが大丈夫なのか? 切り裂いて向こう側に抜ける保証はないだろ?」

「…大丈夫。私には見えるから」

息吹が、使徒の力の中心が感じられるそうだ

「わかった。援護する」

「…(コクッ)」

俺は舞を信用することにした

「佐祐理さん、援護射撃のタイミング、任せました」

「あははーっ、わかりましたよ〜」

俺は言ってからキャニーに話しかける

「キャニー、状態は?」

「はい、グレイファントムは後退中…敵は再生を行っています」

「でもなんだってここにいたんだろう?」

「得られた情報からすると、目標は冬眠状態にいたようです 」

冬眠?なんでだ?

…活動する目的がないから?

…目的?

ってちょっとまて

「あの、その…キャニー?」

「…はい、多分…そうだと思います」

「やっぱか…」

キャニーの辛そうな表情にため息をつく

「…俺…か」

脳裏にあの魚使徒がよみがえる

執拗なぐらいに俺をヤツは狙っていたからな…

「つまり…なんらかの事情で眠っていたやつが俺の接近で目覚めた…か」

まあしょうがない

「内部エネルギー増大っ! 目標は活動状態に入ったようです」

「あゆさん、名雪さん、お願いしますっ!」

『了解っ!』

二人の攻撃が再び始まる

「皆さんも続けて各所に攻撃をお願いします」

「フォトンライフル圧縮モードっ!」

アイコンが圧縮モードに変わったのを確認していくつもの場所に分けて撃ちこんでいく

展開されたATフィールドを破って使徒に突き刺さる

他のみんなの攻撃も次々と始まり、使徒の展開するフィールドが明るい壁となる

そのときアラームが響き、美汐からの援護を知らせる

『メガ粒子砲一斉射撃っ!!』

一際大きなフィールドが展開される

そして…

「…学習して進化してるのかっ!?」

甲高い音が響いたかのような情景に俺は叫ぶ

使徒のフィールドが名雪とあゆの攻撃を防いだのだ

「はい、フィールド強度増加。どうしますか?」

「ちっ…北川っ!」

「おうっ!」

俺もライフルをしまって集中する

「アステロイド地帯じゃなかったらな…」

俺はため息をつく

この場所ではG・イレイスキャノンは使えない

使えば回りの隕石も重力場に引かれるからだ

あと数キロ場所が違えば別だろうが…

「はぁぁああっ! 計都瞬殺剣っっ!!!」

「行くぞっ! T−LINKブレードっ!!」

改良され、一回り太くなったソードをかまえて刃を出す

そのまま使徒に斬りつけ・・なにっ!?

ギィィィィィィンッッッッッ!!!!

接触したゼロを伝わって音が響く

「防いでるのかっ!?」

ゼロの刃と弐式の刃がフィールドに食い込んでいる

「押そう!」

「わかった」

北川に賛成してゼロを加速させる

「使徒のフィールドは開始時よりもかなり防御力を高めているようです」

徐々に、と言っても実際はかなりの速度で使徒がアステロイド地帯から離れていく

「北川、一回離れて一ヶ所に斬りつけるっ!」

「おうっ!」

いったん離れ、一気に同じ場所に斬りつける

今度はATフィールドを破り、使徒を切り裂く

「はぁぁ…せいっっ!!」

舞の気合の声とともにサーバインの白い残像が駆け抜ける

抜けた先には…割れた赤い玉があった

「っ!? 使徒本体が収縮を開始しましたっ!!」

「やばいっ! G・イレイスキャノン準備っ! 自爆するぞっ!!」

全員がすばやく使徒から離れる

「いっけーーーっっ!!」

放たれた重力波が爆発寸前の使徒を飲み込む

 

 

「危なかったな…」

『ふはは…おもしれえ、おもしれえよっ!』

「誰だっ!?」

突然コックピットに声が響いた

『ここだよ』

ピッと音がして画面が…こいつ…しかもこの場所はっ!

『そう、お前らの母艦の中さ…とは言ってもすぐに出るがね。来いっ! トゥール・ポワティエっ!!』

見覚えのある茶髪の男が叫ぶ

「っ! 次元の揺らぎを探知、何かが来ますっ!!」

キャニーの指し示す空間に何かが現れる

それはグレイファントムの側面に突っ込むとすぐに出てくる

「グレイファントムの損傷は軽微。死傷者はないようです」

そうか…

「一体何者だっ!」

「俺の名はクローヴィス、クローヴィス=フランク=ガリア=メロヴィング…まあクローヴィスで良いぜ」

男、クローヴィスが凍るような視線を向けて言う

「少しばかり見学させてもらったが…良いじゃねえか…思ったより骨がありそうだ。勝負っ!!」

「なっ!?」

俺が反応するまもなく、クローヴィスの機体が目の前に接近してきた

「祐一っ!!」

「舞っ!」

間一髪で舞が相手のサーベルを受け止める

「ほう? こいつの攻撃を受けとめるとは…」

「…くっ…」

舞が押されている、絶対的に

「舞っ!」

「遅いっ!」

佐祐理さんが援護のためにライフルを放つがクローヴィスはあっさりと避けたばかりか、撃ち返した

「きゃぁぁああっ!」

クローヴィスのライフルはシールドビットの防御を突き破り、佐祐理さんの機体の右腕が吹き飛ぶ

「っ! 佐祐理をっ!!」

「そんなものかっ!」

「舞っ!!」

舞がクローヴィスに斬りかかるが、振り払うかのような一撃に吹き飛ばされ、背後にあった隕石にその身を叩きつけられる

「かはっ…」

「舞ちゃんっ」

「うぐぅ、お返しだよっ」

名雪とあゆの攻撃が迫る…が

「避けるまでもないな…」

当る直前に攻撃は阻まれる

「それは…グラビティウォール…エアロゲイターかっ!」

「察しが良いな。その通りだ」

俺の振るうT−LINKブレードを、向かい合ったクローヴィスは真っ向から受け止める

互いの刃が組み合う

「くっ…」

「どうした、本気を出せ」

やばい…こいつ…問答無用に強いっ!

「くぁっ!?」

はじかれた俺は声をあげる

「落ちてろ」

「あぅーっ、駄目っ!!」

「真琴っ!!」

真琴が俺とクローヴィスとの間に割って入り、俺への攻撃をそらす

Zが吹き飛び、後方に飛んでいく…吹き飛んだZの頭部…

「貴様…よくも…真琴をぉぉおおおおっっっ!!!」

俺の心が純粋に殺意で満たされていく

ブオンと音を立てるようにブレードの太さが増す

「そうだ、そうしなければ他も死ぬぞ?」

「黙れっ!!」

感じるままに刃を振るう

一回、二回、無限とも思える応酬を繰り返す

まだだ…もっと、もっと力をっ!!

俺のT−LINKシステムとの共鳴が強まるのがわかる

「駄目っ! それ以上はっ!!」

キャニーが何か操作をしたのだろう。リンクが切れ、動きが止まる

「キャニー、どうしてっ!?」

「駄目なんです…今は、今の祐一さんじゃ…耐えられない」

「ふんっ…つまらん。殺す気も失せたな。次に会う時はもっと楽しませろよ」

クローヴィスは言うが速いか、機体ごと消え去った

「空間のゆらぎを確認。転移したようです」

「くそ…何てことだよ…」

俺は拳を握り締める

佐祐理さんは中破、舞も気絶してしまっている。損傷も軽くないだろう

そして…真琴は…

「あぅー…」

「真琴っ!」

真琴は無事だった、いや無事と言えるのか…

ともかく、Zは頭部が完全に大破した状態だったが真琴はちゃんと生きていた

栞と香里に挟まれる形でこちらに来る

「すまん。反応できなかった」

「しょうがないさ…」

謝る北川に言う

 

なんとか全員が帰還したそのとき…警報が響いた

「…ジオンです」

苦渋の表情の美汐

「どうする…」

戦力は半分に低下、しかも相手は戦艦五機…

「っ!? 艦長っ! グルンガスト弐式とスーパーガンダムが発進しますっ!!」

「なんですって!?」

「北川、香里っ!!」

俺は格納庫に駆ける

 

 

「二人とも、どう言うつもりだ!?」

俺はゼロのコックピットから叫び、二人を止めようとする

「良く聞け相沢。今の俺達がまともにぶつかったら勝ち目がない、さらに振り切るのも難しい、だな?」

…そう、さっきのクローヴィスの時のせいで出力が落ちているのだ

手数も少なくなり、戦えばグレイファントムが沈められるのは明らかだ

「それが何だって…まさか二人ともっ!?」

「お姉ちゃん、駄目っ!」

その発言の意図に気がついた俺と栞が叫ぶ

「安心して、死ぬ気はないわよ」

「でも…」

「もうすぐ射程に入りますっ! どうしますか!?」

キャニーの声が届いたのか、二人の顔がさらに真剣になる

「そう言うことだ。行け、行くんだ。ここで宇宙の希望を散らすきかっ!」

「行きなさい栞っ! 希望を…未来につむぎなさいっ!」

「お姉ちゃんっ!」

映像が乱れる

「…通信が途切れました」

「…美汐、行こう」

『…はい』

俺はともすれば崩れ落ちそうになる足を抱え、声を出した

 

 

 

 

 

 

「来たな…」

「そうね…」

二人のモニターには敵機を示す印が大量に映っている

「相沢達がつむいだ奇跡は絆の奇跡だそうだ。だったら
相沢に起こせた奇跡が俺に起こせないはずはないっ! 行くぞ香里っ!!」

「ええっ、起こしましょう。奇跡をっ!」

死地に赴く二人の顔には諦めがない

悲しみと願いを込めて二つの光が飛ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦いが始まりました」

漆黒の空に光が飛び交う

「うっ…ううっ…」

栞は俺の腕の中で泣き続けたままだ

こんなときには抱きかかえることしか出来ない自分が情けない

『大気圏突入コースに入ります』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉおおおおっっ!!」

弐式の剣がザクVを切り裂く

「そこっ!」

続いて香里の放ったロングライフルがバウに突き刺さり、偶然詰まっていた炸薬が回りをまきこんで爆発する

二人の必死な攻撃は戦力差をかいくぐり、互角以上の戦いをしていた

「きゃぁっ!」

「香里っ!」

攻撃を受けた香里をかばうようにして北川は弐式を操る

初めは油断していたためにあっという間に戦艦を落とされた敵もここにきて攻撃の強さをあげてきた

「やるしか…ないか…」

北川は覚悟を決めてかまえる…敵の戦艦は後一隻

弐式の腕が黒く染まる

「はぁぁぁああああっっ!! デストラクションアタックっ!!」

両腕を重力場で覆った弐式が戦艦に突撃する

装甲を紙のように破り、反対側に抜ける

そして…爆発

敵はそれを見て撤退をはじめた

弐式は力尽きたように動かない

「潤、潤ったらっ!」

「生きてるよ…」

今の弐式では明らかな負荷がかかるので、使えないはずの攻撃を使ったのだ

動かすのが精一杯である

「よかった…」

北川は弐式をガンダムのそばに持っていく

「そっちは?」

「駄目ね…動かない。ねえ? そっちに行っても良い?」

「ああ…」

両者のコックピットが開き、香里が弐式に入る

「綺麗ね…」

「そうだな…」

二人は星空を見つめる

「迎えに来てもらいましょうか…」

香里は月に連絡をとる

数時間後には迎えが来ることになった

そのとき、香里には見えなかったが、北川はその表情を一瞬険しくした

「香里、キス…していいか?」

「なっ、いきなり何を言うのよっ」

「駄目か?」

「…わかったわよ」

北川の真剣な表情から冗談で言っているのでは無いと悟った香里はヘルメットのバイザーを上げる

「…んっ…」

ちょっと深めの恋人のキス

「ねえ、なんで急に…?」

「これで…思い残すことは無い」

「え?」

北川は香里のバイザーを下げ、コックピットを開け、外に香里を突き飛ばす

ガンダムが弐式の正面にあることを見越した行動だ

「ちょっ、潤っ!?」

「お前まで死ぬことはないさ…犠牲は少ないほうが良い。生きてくれよ…そして俺のことは忘れるんだ」

北川は香里をまきこまないようにしてその場を離れる

香里がガンダムにたどり着いたのを確認すると表情を引き締めた

「グルンガスト弐式…俺に力を貸してくれよ。愛する女の一人ぐらい守れる力をさっ!!」

北川の視線が向く方向には…交戦のデータを収集するために来たのだろう、新たな敵影が映っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな…交戦地に新しい反応を確認しました…」

「北川…香里…」

「いやっ…お姉ちゃんっ! お姉ちゃんっ!!」

泣き叫ぶ栞を…ただ抱きしめて…一緒に泣くことしか出来ない

大気圏突入のゆれが始まった中…俺の目から落ちる涙は止まらなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

次回予告

悲しみにとらわれたままに地球に戻ってきた祐一達

そこにいるはずの浩平たちは戦いに出かけていた

帰ってきた浩平達との出逢い

次回カノン大戦α

〜残されし者達〜


後書き

「…殺しませんよ。それだけは言っておきます」

「次回は…また遅くなるかも…(苦笑)」

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