カノン大戦α

〜戦場を駆ける奇跡〜


第二十六話

〜残されし者達〜

 

 

 

「生きてたか…祐一?」

「ああ…生きてる…よ」

声にも力が入らない
北川は…香里は…まとまりの無い思考が頭を埋めていく

「…祐一っ!!」

パァンッッ

怒声と同時に頬に衝撃が走る

「…」

真っ白になった意識のままで浩平のほうを向く

「少しははりが戻ったか?」

他の皆も突然のことに驚いているのがわかる

場所はグレイファントムを着床させた滑走路

力無く降り立つ俺達を待っていたのは浩平達

「自分が全てを背負おうとするところが悪いところだな、祐一」

「少なくとも今ここで立ち止まるのが良い選択ではないですね」

「お母さん…」

沈痛な面持ちの秋子さんが歩み寄る

「出来ることを、やるべきことをやりましょう」

「…はい」

 

 

 

「新母艦?」

「そう言うことだ。宇宙と地上を交代ってことだな」

被害を抑えるために各地で生産されたパーツが宇宙のドックでくみたてられているそうだ

「結果として地上は任せることになる…やれるか?」

静かにうなずく

「そうか、じゃあ言ってくる。あきらめるなよ」

相変わらず俺よりも何かを悟った深いものを感じさせてくれる

そして俺達の訓練の日々が始まった

 

 

 

 

 

 

ズサァァッッ!!

両足が立てる音が辺りに響く…舞は!?

「くっ…上!?」

俺はすべる足に力をこめて後方へとその場から飛びのく

その場所に一筋の光が音もなく通る

「・・・良く避けた」

わずかな賞賛とともに剣を構えなおす舞に向かい、俺も無言で以前譲り受けた日本刀を構えなおす

荒地に吹く風が静かに高くなった体温をわずかに下げる

「行くぞ」

「…(コクッ)」

俺は意識を舞のみに向け、体重をのせた一撃を繰り出す
一番得意な利き腕方向からの切りつけ

踏みしめた足元から土ぼこりが舞う

金属がきしみ合う嫌な音の後、二人の位置は逆になっていた

「…まだ乗せ方が正直すぎ。すぐ流せる」

ビュッと振るわれた剣先から水が飛ぶ

目を合わせ、互いの汗を自分でふく

まだ太陽は昇ったばかり…

 

 

 

「…外しちゃった…まだまだ…」

自動標準がオフになったことを示すランプを視界に収め、名雪は一人でつぶやいた

場所は射程実験を行なう一角

目標は自機が使うライフルの最大射程とされる距離の二倍にある岩
自動標準があっても高くない確立を物にしようと言うのだ

岩の周囲には何度も当ったペイント弾の跡

乾いた度合いから徐々に近づいていることが名雪自身にもわかる

「狙った場所に…ワンショットワンヒット…自分に出来る最大のことを…」

いつもなら…『無理はしないでほどほどにね』

そう言ってくれる友も今はいない

握り締めて白くなった手をほぐすようにもみ、新たにスコープを覗く名雪

「…いけないいけない…生きてる…きっと生きてるんだもん…」

名雪はにじんだ瞳をぬぐい、震える体を抱きしめるように…
と、コックピットが静かに開く

「…あゆちゃん?」

「ダメだよ…自分を…そんな姿は誰も望まないと思うよ」

そっと倒れこむように名雪をその小さな体で包みこむあゆ

トクッ・・トクッ…抱きしめあう互いの鼓動が静かに伝わる

「うー…重いよ。もう良いよ、あゆちゃん」

ふっと力が抜けたことを感じ、体を離すあゆ

「うぐぅ、一緒にやろっ」

「そうだね」

暗かった表情は幾分か和らぎ、その瞳も無事な光を浮かべている

「どっちが先に当るか競争だねっ」

「うぐぅ、負けないもんっ」

 

 

 

 

「あぅーっ、まったっ」

「えぅー、だからってリセットは無しですよぉ」

二人の声がMS訓練用筐体から響く

「さすがに無理よっ」

「強くなるためにハンディたくさんって言ったのは真琴さんですよ?」

「…あぅーっ、そう言えば…」
さすがに初期ジムVSG−3ガンダムでは無理があったわねと真琴はため息をつく

「…しょうがないですね、じゃあ使いましょうか」

「そうね」

その意味するところを悟り、真琴も栞に続く

 

 

 

 

 

「…そうですか」

「…辛いですね」

「あははー、大丈夫ですよ。きっと…生きてます…佐祐理達が信じなくてどうするんですか」

秋子と美汐の間の空気を和らげようとするそんな言葉も自然と消えてしまう重み

月からの迎えによる現地捜索の結果、機体回収はできなかったという報告

ばらばらだった、ではなく二人の機体そのものが無かったと言うのだ

それが意味するところは…メガ粒子砲等による完全な破壊か、拿捕、そして生存

前者の意味するところは言うまでもなく、後者も…希望は少ないだろう…生存なら…連絡が無いわけは無いのだ

「それで、どうしましょう?」

「浩平さん達が順調にこなしたなら…反撃に出ます。まずは地球です」

そのとき、秋子へと連絡が入る

「はい…了承。こちらも向かわせますね」

「何か?」

「祐一さんたちが演習を行なうそうです」

 

 

 

 

 

 

「HC・カノン…か」

「はい、単機での決戦を可能にする、をコンセプトに単独での波状攻撃が可能な機動力と武装を装備したものです」

ふと思い、意識してシステムを起動してみる…やはり違う

「そうです。私との表層レベルでのリンクや周囲の意識探知レベルもかなり向上しているはずです」

…じゃあいけない妄想とかもばれるんだな…

「戦っていながらそんな余裕があるんですか?」

からかうようなキャニーの声にそれもそうかと思うってしっかり伝わってるし

 

 

「ルールは平常どおり撃破扱いになったらそこで終わりです…各自サーベルの確認をしてください」

訓練用に寸止めが効かない状況でもサーベルへのEN供給をカットする機構をつけてあるのだ

もっとも、俺と佐祐理さん、舞はその機体能力から全て実弾なのだが…

「では…相沢&沢渡&月宮組VS倉田&川澄&美坂&水瀬組での演習を開始します。カウント…3…2…」

コックピットに美汐の声が響く

そして始まりを告げる音が鳴った

「システム起動っ!!」

起動コードを念じ、舞と佐祐理さんの二人に向かう

今回は2対1、手加減している場合ではない

今ならシステムをこう言う形にしておいて良かったと思う
でなければ力におぼれ、もっと早く力が暴走していたかも知れないからだ

「I・ランス発射っ!」

「正面じゃ防いでと言ってるのと同じですっ!」

低空で浮かぶ舞の剣を舞いあがり上空から狙った攻撃は下方からの佐祐理さんのシールドビットにはじかれあらぬ方向に飛んでいく

オーラバリアを纏ったままで舞が至近距離に迫るって光がっ!?

「光をっ!」

右手に筒を掴むやいなや念動力による剣が生まれる

展開への時間を短縮する方法としてキーワードを決め、それに対する反応を高めた結果だ

掬い上げるような下からの舞の攻撃を逆に振り下ろす形で迎え撃つ

「っ! そっちかっ」

感じた意識のままに左方向に連射状態でライフルを放つ

それはバーニアを吹かして舞い上がってきた佐祐理さんのビームシールドと接触し拡散した

距離を取り、再び二人と対峙する

 

 

 

 

「…見えたっ!」

「甘いよっ」

回避運動をとったあゆの機体の右わきを名雪からのペイント弾が通りすぎていく

「こっちもっ」

お返しとばかりにあゆから撃ち出されたミサイル群が二人の間で破裂する

「煙幕っ!?…それならっ」

その場から後方に後退しながら上昇する名雪

煙幕から抜けた瞬間、勢いに風をまきこんで煙を吹き飛ばしながらペイントが迫る

「時間稼ぎだよね」

わかっていてもコーティングシールドでそれを防ぐ

その隙にあゆも煙幕を抜けて上空に現れる

接近戦の不得意な名雪、だがその射線はあゆが接近するのを防いでいる

「撃つよっ」

「うんっ、ヴェスバー発射っ」

「オーバーハングキャノン行くよっ」
あゆの射線を見切って同じ軌道に乗せる名雪

互いの一撃が間でぶつかり、爆音と発光で辺りを満たす

 

 

 

 

「…ったく…終わらないわねえ」

「ふぅ…そうですねえ・・」

互いの撃ったペイントを予測していたように回避していく二人

元から装備重量にかなり余裕のある栞のメタス改、
自重はかなりある代わりに機動力を強化してある真琴のZプラスC型

Zには頭部損傷を機に多機能を登載した頭部を新設した
今はその表示される情報を活かし切れていないといった所か

変形すればその加速に磨きのかかる二人はどちらも決定打を食らうことなく、加速していく
撃つのがわかっていて回避行動を取るということを繰り返していては互いに当るはずも無い

瞬間、辺りを光が満たす

「「っっ!?」」

驚くのもつかの間、発光が収まった後には…

「引き分け…ですかね」

「…あぅーっ、しょうがないか」

互いにライフルをつきつけた状態の二機があった

 

 

 

 

「防御力と回避能力が高いからって全部ありっていうのも無茶ですよね…」

「そりゃあな…フォトンランチャー、GOっ!!」

「……重い攻撃」

空中の舞に牽制で撃ってから地上の佐祐理さんに近づく

勢いに押されて舞が後方に行くのを確認する
バリアは大きな衝撃を吸収できないのが欠点だからだ

「I・ランス、行けぇっ!」

カノンの背後ポットから射出されたランスを佐祐理さんのシールドビット、それを構成する各ビットにピンポイントでぶつけ、
同時にT−LINKソードでシールド中央、ミノフスキーシールド自体に切りつける

「これくらいはっ…ふぇ〜〜っ!?」

スパークが辺りを照らし、佐祐理さんの機体を一気にオーバーヒートに持っていく

事前に想定した以上の過負荷がかかると機体そのものが行動不能になることがあるのが高い防御力の犠牲…

「祐一っ!」

「舞っ!」

舞い降りる舞と俺との意識が交差する

「…出すっ! 月下…両断っ!!」

あの月夜の校舎での一撃を彷彿とさせる上空からの一閃

「ぐはっ、マジだな。行けるかっ!?」

俺もT−LINKの出力を上げていく

舞の剣から放たれる力と俺の剣からの力

轟音を立ててほとんど相殺した残りの力が二人を吹き飛ばす

 

「まだ終わってない…」
舞は空中で体勢を立て直し、もう一撃を、と降りてくる

「ああ……え…何か来るっ!?」

遠くから迫ってくる感覚…っ!

「全機その場から離脱しろっ!!」

佐祐理さんの機体を抱えて一気に上昇する

無音で地上を通りすぎる虚無・・・これはっ!?

『…そのままなら苦しむことなく終われたのに…』

砲撃主と思われる機体から通信が…え…この顔は…!?
舞に佐祐理さんを託し、通信に集中する

『ターゲットは決まっている。他は無視するんだ』

『了解』

漏れたままの通信の間に念の為に照合させる

「資料より髪は短くなっていますが、声紋パターン酷似…恐らく本人です」
俺が指示を出す前に他のみんなにもそれが伝えられる

そして拡大される真紅の機体と青紫の機体…ヒュッケバインシリーズ
聞き覚えのある声は長い砲身を構えた青紫のほう…そう、今放たれた重力砲のトリガーを引いた主

「観鈴ちゃんっ、正気か!? 大気圏内、しかも地表すれすれで重力波砲なんてっ!」
えぐられた大地はまっさらだ
感じから方向と出力をしぼっているようだが下手に下に向かって撃てばとんでもないことになる

『ふん…その機体たちをそのまま活動を続けさせるよりはるかにましだ』

そして真紅のヒュッケバインからの通信が入る
聞き覚えはない

「お前…何をしたっ!」

俺にはわかる…彼女の状態が普通ではないことが

『…さあな。俺のせいでもない』

「…そうか」

残像と音を残して数秒後、俺は突撃し、赤いヒュッケバインと刃を交えていた

…!? 意識を閉じている!?

相手は表層の意識すら感じさせないようにしていた

今の言葉が嘘かどうかの確認を取ろうとしたが駄目か…

『リープスラッシャーっ!』

「くっ」

飛来した円盤状の物体を切り落とし、その場から飛び去る

もう一機、観鈴ちゃんは俺を攻撃しようと言う動きはない

あゆたちが包囲をかけているからだ

 

 

 

「あぅーっ、…知り合いが、しかも普通じゃないなんて攻撃するのも無理じゃないっ!」

観鈴のヒュッケバインから飛び出す有線兵器を切り払いながら真琴が叫ぶ
相手が往人の大切な人、しかも状況からして普通ではないこと

祐一からの連絡も合わさってそれはあゆたちの行動を制限している

「…撤退する気になる程度に戦うしかないでしょうか…っ」

放たれるフォトンライフルをMA状態の機動性を利用して回避する栞

あゆ達は観鈴機から一定の距離を取って円陣を組んでいる

「戦うって言っても、こっちはサーベル系とペイント弾しかないよ〜…あとは出力が大きいし…」

「…任せて」

佐祐理の機体を抱えてきた舞が自信を込めた声で言う

「…あゆと名雪はあの子を足止めして…後は…私がやる」

「うんっ、任せたよっ」

「そうだね。行こうっ!」

 

 

 

 

 

 

「なんのために俺達を襲うっ!?」

『自分の機体の危険性は承知するぐらいの良識はあるように見えるが?』

静かな相手の男の声

そう、まだ調査段階にある自分の力、そしてそれを利用する機動兵器
単機で与えられる影響を考えればコロニーレーザーや核にとは違う意味で史上最大の兵器達かもしれない

にしても…強いっ

機体能力には大きな差がないはずだが機体との熟練度が違う

それでもしのげるのはT−LINKによる相手の悪意と言うかこちらへの意識を感じることが出来るからだ
だがそれもかなり薄い…こちらの力を悟った上での対応のようだ

確実にコックピットを狙って繰り出される相手のサーベルと
同時に放たれるバルカンをシールドとプラズマブレードでなんとか耐えきる

「…数が無いか…行けっ!」

間合いを取り、演習に使ったせいで数が無くなったI・ランスをオールレンジに放出する

「一気にカタをつけるっ!」

言ってT−LINKソードの筒を脇に抱え加速し、狙うべき個所に集中する
一度放出されたランスはこめた意識のままに相手へと襲いかかった

ランスで狙うのは相手の関節やカメラ等の部分

その隙に至近距離に迫り、居合を意識して刃を生み出しながら振り抜く
それは相手のサーベルと嫌な音を立てて接触する

「だったら…光をっ!」

俺の意識と同調してソードの輝きが一瞬消え、サーベル部分を超えたところでその威力を復活させる
相手を失いバランスを崩した右腕を肩部分から切り落とすことに成功する

もっともこちらもランスとソード両方に要す力と意識のせいでだいぶ疲労するのだが…

『くっ…撤退時か…』

 

 

 

 

 

 

 

「近距離だけに使うものでもないんだよっ」

サーベルとランス、二つの刃を足元を狙って投げつけるあゆ
空中からの投擲に後退する観鈴へとさらに名雪が低空でサーベルを観鈴へと突き出す

「腕さえ壊せば武器を構えられないのはみんな一緒っ!」

その攻撃はすんでのところで回避され、無防備な側面を名雪は晒すことになる

『…ごめんなさい』

「…甘い」

『っ!』

名雪に気を取られていた観鈴は背後から強襲する舞の接近を許してしまっていた

「…外はともかく中身は人間…ふっっ!」

コックピット部分へと絞ったサーバインの拳が衝撃を効果的に内部へと伝える
対G、対ショックの機構も役に立たないレベルの衝撃が観鈴を襲う

『くぅぅぅっっ!!』

舌をかまないように歯を食いしばったのか声が漏れる

さらに追い討ちをかけようとした舞の前を別の方向からの攻撃が通りすぎる

「祐一さんの追撃を振り切ってきた!?」

『ここで落ちても意味が無い。撤退するぞ』

『了解』

栞の驚きの声が示す通りに真紅のヒュッケバインが接近してきていた
どう相手をするかあゆたちが一瞬迷ったその間に体勢を整えた観鈴ともう一機は撤退に移っていった

 

 

 

 

「追いかけないの?」

「…下手に追いかければ重力波砲を撃ってくるだろうしな…」

「じゃあ帰る?」

「…いえ、相手が離れるまでは帰らないほうが良いでしょうね…」

佐祐理さんの意見にうなずく

それにしても…観鈴ちゃんに何があったんだ?

答えを知っていそうな人は今どこにいるかすらわからない

 

 

混沌とした地上と宇宙…

俺達がこの中で出来ることは…何があるだろうか?

 

 

続く

次回予告

研究所へと頻繁にしかけられるティターンズの猛攻に徐々に消耗する祐一達

強大といえば強大過ぎる相手をさばいている時点でそれは奇跡とも言えた

そして展開されるティターンズの強化人間を中心とした部隊

圧倒的な火力と戦力の中、一つの真実が事実となる

「ボクは…ボクに使える力をっ!!」

次回カノン大戦α第二十七話

〜証明される一つの真実〜


後書き

「…すいませんっ!(平謝り)」

「大変お待たせしました(こればっかだ(汗))こうなった原因も落ちついてきたのでなんとか書けそうです」

「防衛戦が限りなく私は好きです(爆)」

TOPへ