「月…か」

「…懐かしい」

「あぅーっ、嫌な思い出よぅ」

三人の機体を月が静かに照らす

星はあまり見えない

戦争による多くの粉塵が星の小さな光はさえぎっているからだ

 

カノン大戦α

〜戦場を駆ける奇跡〜


第二十七話

〜少女の決意、そして…〜

 

 

 

研究所に戻ってからの日々は何気に忙しい

 

来てすぐの敵襲…それが始まりだった

「キャニー…頼みがある」

「はい?」

細めた視界にぼやけたキャニーの姿が入る

戦闘状態では邪魔になら無いように彼女には時折半透明化してもらっている

「俺を…いつでも止められるようにしてくれ」

「怖いんですね、自分が逆上するのが」

無言でうなずく

今は良い

でも…いざ戦闘になったら…相手に意味の無い怒りを覚え、暴走してしまいそうだった

すがりたかった…なぜか、彼女、キャニーにならすがっても支えきってくれると思っていた

「…マスターに逆らえるスレイヴがいると思ってるんですか?」

帰ってきたのはある種、からかいを含んだ口調

そして…冷たさをこめた瞳

俺は圧倒され、彼女を見るしかない

「あなたがそんな弱気では確かに負けますよ。自分の力に」

接触予定まで後数分

既に相手…ティターンズの悪意とでも言うべき気が俺には感じられている

「でも…弱さを知り、恥じれる者だけがなれるんです。祐一さん…」

ふっと彼女の視線が緩む

「何にだ?」

「英雄ですよ。でも普通の英雄じゃありません」

キャニーは微笑み、戸惑うままの俺の額をその細い指でつついて続けた

その瞳に、例えようも無い深さを持ちながら…
彼女が触れた個所は…暖かかった

「自分が大切にする人達を助けられる…『英雄』…です」

「俺にも…なれるだろうか…?」

「自分を信じましょう。二人の悲しみがあなたを責めているのはわかります。
でも、今それで立ち止まって、何が出来ますか? 残った彼女達も失うつもりですか?」

子供を諭す母親のような威厳を持ったキャニーの言葉が静かに浸透してくる

そして彼女がそっと俺の額にその顔を近づけたとき、ふと俺の脳裏に浮かんだ言葉

『忘れられなくても良い、けどそれにとらわれるのはいけない』

あれは…いつ、誰に言われた言葉だっただろうか…?

ちゅっ

「勝利の女神のキスです…なーんて言ってみました♪」

触れた自分の唇に指を当てながら穏やかにキャニーが微笑んだ

「ぷっ…サンキュー、やってやるっ!」

 

そんな決心から始まった生活…

 

 

 

 

 

「祐一、聞こえる?」

「…? ああ、聞こえるぞ」

慌てて返事をする

少し上の空だったようだ

今は夜の見回り中、どんな工作を仕掛けてくるかわからないしな

視界の都合上三人はかなりの低空で飛んでいる

高く飛べば発見も早いが相手にとってもそれは同じである

「今日は大丈夫そうだな…」

「そうね、変な意識も感じないし」

モニターの中で真琴がうなずいている

「…止まって」

「どうした?」

「…何かの基地か?」

サーバインから送られてきた情報…それは少し離れた場所に施設ができていること証明していた

「データ取得中…間違いありませんね。ミサイル施設のようです。狙いは恐らく…」

小さ目のキャニーがコックピット内でぱたぱたと動き回る

どうもそのままだと邪魔と言うか、狭く感じるので見た目のサイズを小さくしてもらったのだ

「出ました。結果として対電子施設用弾頭の可能性が高いです」

「電子? じゃあ真琴達が直撃しちゃったら動けなくなるの?」

ばれる可能性の少ない指向性のライトを利用して中継地に情報を送りながら真琴が聞く

三機は地上に降り立ち、直接機体同士で音声をやり取りしている状態だ

「…サーバインはどう?」

「結論から言えばMSはかなり危険でしょう。祐一さんや舞さん、ありていに言えば
EOTかそれに類するものであれば影響も少ないでしょうけど…舞さんの機体も改修によって
視界はほとんどMS等のものと同じ仕様のはずです。恐らく、見えないでしょうね 」

それもいわゆるチャフ、つまりそれらが散布方式であった場合に限るとのことだ

…どうする?

無言が質問となる

「…いったん引く」

「だな」

舞の意見に賛成し、情報を集めながら撤退に移る

 

 

 

 

 

 

集めたデータの整理が終わるまで何ができるわけでもなく、
キャニーや基地の施設に任せ、しばらく仮眠を取ることになった

 

 

「祐一さん…寝れないんですか?」

「栞…そういうお前も寝てないんじゃないのか?」

廊下の窓からの蒼白い月の光が二人を照らす

元から白い栞の肌は…今は悲しみに全身を襲われている彼女は…ぞっとするぐらい青かった

まるで死人が目の前にいるように…

「栞っ」

「きゃっ」

いても立ってもいられず、俺は栞を正面から抱きしめた

互いに無言のまま、時間が過ぎていく

あるのはただ、伝わる互いの温もりと鼓動…そして…

「祐一さん…私…まだ弱いですね…」

うつむくように栞が俺の胸に顔を沈める

「弱いのは俺の方だよ。栞」

感じられる温もりだけは…嘘じゃない

自分が支えにできる確かなもの

「浩平や…往人さん…みんな大切な人を守ってる…
北川は俺なんかが考えてる以上に大人だった…」

彼らなら俺みたいに立ち止まって泣きつづけないで歩き出したんじゃないか、そう思える

「忘れちゃったんですか?」

ぎゅっと、抱きしめる腕に力をこめて栞が胸元で言う

「祐一さんは何個の奇跡を起こしたんですか?
あゆさんだって、真琴さんだって…私だってそういう意味では消えかけました」

でも、あなたはそんな皆を引きとめた…あなたのそばに

栞はそうつぶやいて顔を上げた

「だから、自分を貶めないでください。それは…他の皆も考えてるはずです」

…結局、俺は助けた、支えたはずの彼女達に逆に支えられている…

「それで良いじゃないですか」

「ぐは…」

またか…とうなだれた俺の頭を栞が抱き寄せる

「祐一さん、一緒に生きてください。戦ってください。私達を大切に思ってくれるのなら」

「…ああ」

弱いなら…それを克服する努力をすればいい…そういうことだよな…キャニー

「さ、寝ないと行けませんよ。…一緒に寝ましょうか?」

「栞がそうしたいのならな」

からかいを含んだ返事に、栞はうなずいた

特別なことはしなくても、ただ誰かとその温もりが共有できることが、安心できることだった

まるで幼い頃に戻ったように、俺と栞は抱き合ったままで眠りについた

 

 

 

 

空が少し白じんで来た頃、連絡を受けた俺と栞は他の皆と同じ、
作戦会議用にもうけられた部屋に集まっていた

 

 

 

「相手が相手なだけに正式な命令と言うわけではなく、歴史に残らない戦いになってしまいます。
それだけは覚えておいてください。では具体的な内容に入ります」

そして大き目のスクリーンにミサイルらしき影が映る

「弾頭のほとんどが予測どおりこちらの施設を無効化するためのものでした。
撃破しても散布された物質達で通信その他は撤去まで不可能になります。
幸いなのはMSの駆動廻りを制限するタイプではなかったことでしょうか 」

続いて移ったのは相手施設の姿

「施設自体は簡単なものです。資源を運んですぐに台座だけが作られたようなものです。
さて、恐らくティターンズ側は物量でしかけてきます。しかも一度にではなく、分けて、です。
分けてと言ってもかなりの部隊になると思います 」

ここに来て一番の弱点を狙われるらしい…

「それに対してこちらが取れる手は少ないです。とにかく質で圧倒すること。
それも限界があります…祐一さん、状況によっては使用を了承します」

「っ!?…秋子さんがそこまで言うってことは…」

カノンのイレイスキャノンを使っていくしかないということ…

「ええ、情報によれば強化人間を使った兵器が向かっているとの話もあります。
相手の士気も高くなるはずです…やるしかありませんが」

「私達がここを離れていくのは少し危険ではないですか?」

「大丈夫です。直衛は他の方々がやってくれますから…祐一さんたちはとにかく相手を削ってください」

美汐の疑問に答える秋子さん

護衛ができるのは…フロウセイバーぐらいか…

俺は浩平達と一緒に戦っていたと言う人達を思い出す

ここにいないということは今彼らが周囲を警戒してくれているのだろう

 

 

「うぐぅ…なんだろこの機体…?」

格納庫に向かったあゆは隅のほうに置かれた何かに気がついた

「ああ、それは相沢少尉にテストしてほしいとかで送られてきた奴だよ。
こんなに忙しくなければゆっくり調整できたんだろうけどね 」

メカニックの一人が不思議そうに見上げるあゆに答える

「祐一君に?…じゃあきっとまた『とくしゅなそうち』、が積んでるんだね」

敵の狙いであろう波状攻撃による疲労にそなえ、祐一達も戦力を分散していた

今までの戦いから退けるだけなら減った戦力でも可能だと判断したからだ

祐一達が出撃したあとにあゆが残っている理由はそれだった

「…あゆ、意味わかって使ってる?」

「う…舞さん祐一君みたいなツッコミだよ…」

背中にかかった声に落ちこんだ様子のあゆ

「でも、私や真琴さんでも動かせたりしないんですかね?」

どこから買ってきたのか、アイスを食べながら栞がその機体の下に行く

「できるかもしれないよ。別にT−LINK装置ってわけじゃないみたいだし」

そう言ってメカニックは自分の作業に戻っていった

「ふーん…今度乗せてもらおうかな…あ、祐一君達大丈夫かな?」

「見に行って来たらどうですか? 舞さんはどうします?」

「…行く」

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

私は二人が去るのを静かに見つめ、息をはく

「さて…」

先ほど話題に上がった機体を眺めてみる

「付属として何か変形しそうなもの…ですか」

コックピット部分へと昇降用のワイヤーを操作して昇る

「よっと…どうなってるんでしょうねえ…」

…やっぱり…

震え出す自分をどこか冷静に感じる

『怖い』

コックピットに入った私が感じた感情はこれが一番大きかった
そのせいで今日まで…まともにコックピットに入ることも出来なかった

「でも…逃げるわけにはいかないんです…ね、お姉ちゃん」

私は忘れるためか、少し昔のことを思い出す

 

 

 

 

あれは…結局参戦が決まった後、少し経ってからだったと思う…

「お姉ちゃん?」

一緒に寝ていたお姉ちゃんが急に私を抱き寄せたのだ

「ごめんね栞。あなたまで危ない目に会わせてしまうかもしれない」

「だからって置いてかれたら悲しいですよ」

そっと、お姉ちゃんの頭を撫でる
その拍子に落ちてくる雫は気にしない。自分を大切に思ってくれている証拠なのだから

しばらくの間撫でていた。自分が昔そうしてあやしてもらったように…

「強いのね、栞」

「強くなんかないです。ただ祐一さんとお姉ちゃんと、友達たちと一緒にいたいだけです」

あの日以来、また見ることの出来た姉の笑顔

私はそれを守るためならどんな辛い出来事も乗り越えれそうだった

「栞、一つ…約束して欲しいの」

「何?」

それはこの後、私の覚悟の原因となる約束

「もし私がいなくなったら、忘れなさい。私を、私がいたということを」

それはすなわち、私には元から姉がいないと思えと言うことだ

「無理ですよお姉ちゃん。お姉ちゃんだって無理だったんですよ?」

私と言う存在を忘れ、傷つかまいとして、でも無理だったお姉ちゃん

「…そうね。何いってるんだろ、私」

「だから、方法は簡単です」

私の言葉にお姉ちゃんが顔を上げる

「いなくなっても、帰ってくるって信じるんです。確証が掴めるまで。
そして確証が掴めてから…自分は大切な人を失ったっていう事実を認めるんです」

そう…二人はそう約束した…

 

まだ確証があるわけじゃない

ただ行方不明だだけだ…

なのに…信じることも悲しみを飲みこむこともせず不安定に揺れる私…

約束したのに…

「なのに、なにやってるんですか私はっ!」

狭いコックピットに自分の叫びが響く

少し荒くなった息が聞こえ…?

「…あ?」

機体が稼動していた

「…どうして…?」

メカニックとして自分に叩きこんだ知識の全てを活用して可能性を当る

「…つまりは…精神?」

搭乗者の興奮や意思で戦闘状態かを判断する機構がどこかにあるということ…かな?

緊急用に、なんだろうけど…

「えーと…マニュアルマニュアル…あ、ありました♪」

予想通り、この機体は精神を媒介とし、機体の緊急駆動や反応を制御できるらしい

 

 

 

 

 

「真琴、そっちはどうだ?」

「今のところ大きい動きは見えないわよ」

「佐祐理のほうにも別段異変はないですねえ」

相手はまだこちらが動き出しているとは気がついていないらしい

だがすぐに相手にも察知されるはずだ

足元に注意しながら、徐々に丘を利用して進む

「敵ソナーの反応を確認。恐らく察知されました」

飛んでおけば良かったか…いや、あまり変わらないか…

「見つかったか。二人とも、無理はするなよっ!」

見つかった以上隠す必要は無い

「あぅーっ、したくなくても無理なことになるでしょうけどっ」

「やれることはやりましょうっ」

二人も戦闘体勢に入るのがわかった

「キャニー、T-LINK兵器は影響を受けないんだな?」

「はい、一部には既知の技術を使っていますから通信等は使用不可ですけど・・・」

そう言うキャニー自身はどうなのだろうか・・・すぐにわかるか

「よし、相手側で弾頭を破壊して被害を押さえるぞっ!」

カノンを加速させ、高高度から一気にミサイル施設に迫るべく上昇する

 

「目標確認、発射体勢にあるようです」

まだ邪魔が入っていないモニターに施設が望遠映像で写る

「祐一っ! 動いてきたわよ、相手がっ!」

真琴の声に望遠を解除すると確かに相手も動き出したようだ

「あははーっ、佐祐理に防御は任せてしっかりがんばっちゃってください」

「フォトンライフル圧縮モードに変更。狙い打つっ!」

相手が状況を把握できていない今なら・・・

「全弾頭へのロックオンシミュレーション完了。出しますっ」

画面に隠れていたものを含めた弾頭の影が写る

一個一個を考えていたらきりがない

(頭に描け、この空間を、目標をっ)

「手伝いますよ、祐一さん」

キャニーの細い腕が俺の腕に重なる。すぐ後に感じる宇宙に上がり、初めて知った感覚

(恐れるな…力は、手段でしかないっ! 結果は自分の意思と行動だけが決めるっ!!)

「T−LINKフルコンタクト…システム『L・ウラヌス』…起動っ!!」

そう、『システム』、これがウラヌスシステムと確実に共通性があることを
一回でもウラヌスシステムを起動させた俺にはわかる

自分の意識を周囲に拡散させるような集中の後、世界が黒い空間に白い線が走るだけのものになる

カノンが、まるで俺自体になったかのような感触

今なら…やれるっ!!

両手にライフルを構えたカノンからその白さを相手に見せる間もなく、幾条もの光が伸びる

意思を持った動きのように吸いこまれていくライフルの弾が直撃するのを確認する

施設上を通り過ぎた拍子に生まれる強風が破片や爆風をかき混ぜて舞わせていた

「相手からの攻撃が開始されました」

「そんな狙いが甘い攻撃なんかにはっ!」

本気で回避する手間もなく、空を舞うカノンに当る軌跡のものはほとんどない

相手のセンサーも、濃密に散布されることになったために役に立っていないようだ

恐らくは作戦を立てた以上、多少の対策はしているはずなのでその内復帰するだろう

こっちも機動には問題ないが、MSと同じCGによるモニターの画像は激しく乱れている

「キャニー、行けるな?」

「はいっ、シールド強度問題なし、展開時間も支障ありませんっ!」

疲労を抑えるためにシステムを解除し、通常モードに戻る

「事前に入手したデータから仮想画像作製を頼む…他はなんとかする」

乱れていたモニターに写される映像たち

その間にも周囲にはビームライフルやマシンガンやらが飛び交ってるに違いない

「とにかく引っかきまわすっ」

感じる混乱や悪意を頼りに構えさせたプラズマブレードを光らせる

 

 

 

「あははーっ、策士策に溺れる、ですねー」

元々現地指揮官機として活動できるようにしている機体であるのに加え、
情報を踏まえた佐祐理の機体はECM対策他が充実している

モニターの画像も時折ぶれる程度であった

「真琴さーん、大丈夫ですか?・・・あ」

自分からは通信できても真琴の機体では傍受できない状態であると気がついたのはすぐだった

仕方が無いので見えていないであろう真琴の援護に回る佐祐理

 

 

「あぅーっ・・・ざーざー言ってる・・・」

祐一が弾頭を破壊した直後から通信装置たちは嫌な音を立て始めていた

「うー・・・切る」

働いているもの以外を全て切り、雑音の消えたコックピットで真琴は目を閉じる

「・・・来るっ!」

相手からの殺気、それらはどんな装置、状態になっても邪魔されることの無い相手の情報であった

 

「そんな剥き出しの感情は嫌われるわよっ!」

場所はわかっても状態は分からないから…これっ!

ショットガンを放ちながら、なんとなく『メインカメラをやられただけだっ』、そんなアムロ大尉の言葉を思い出す

あれは昔ライバルと戦っていたときの話だったはずよね・・・

「ん、佐祐理?」

すぐ後ろに自分を援護する体勢に彼女がいるのを感じる

「いいかげんあきらめればいいのに・・・あぅー・・・」

痛いなあ・・・相手の情報がわからないって

ガクンッ

「あぅっ!?」

 

機体を衝撃が襲ったのは真琴がそう思った直後だった

 

 

 

 

 

真琴の機体もモニターが映っていないはずだが、ショットナパームの範囲性を利用して命中率をカバーしているようだ

佐祐理さんはその援護に回っている…って

「…? 数が少ないっ!?」

撃破しながら感じる悪意や他の感情の数…それが思っていた量より遥かに少ない

これは…

「キャニー!?」

「こちらでも確認していますっ! …これはっ!?」

一部復帰した機能でキャニーが回してくれた望遠映像には…別働の部隊が写っていた

「元から誘導だったってことか…」

ぎりぎりまで俺たちを引きつけ、そして発射。
あわよくばミサイルが無力化されても目的は果たせる時間を、と

『祐一さん』

雑音交じりで聞こえてくる通信

「っ! 佐祐理さん?」

『話は聞こえました。真琴さんを連れてあっちを叩いてください。佐祐理は大丈夫ですから』

通信越しにも佐祐理さんの戦闘音が聞こえてくる

『あははーっ、大丈夫ですよー。無理はしませんから』

迷っていても…時間は過ぎるだけ
拳を固く握り、息を吸う

「キャニーっ、あゆ達に援護要請出しておいてくれっ!」

叫んで俺はカノンを真琴のほうに向かわせる

少々荒っぽいが話してる時間はない

そのまま真琴の機体をさらうような形で抱きかかえていく

 

『あぅーっ…祐一?』

「別働隊がいたっ! 俺たちはそっちを叩くぞっ!」

接触回線で用件だけを伝える

『じゃあ離して。変形するから』

その返事に真琴を空中で投げ下ろすように手放す

わずかに下降した後、すぐに変形した機体が同じ方向に加速していく

 

 

 

 

 

 

 

「あはは…さすがに苦しいですけど…ね」

祐一達が飛び去ったのを確認し、佐祐理は周囲を見渡す
ほとんどクリアになった映像からはこちらを向く相手が写った

「佐祐理、ガンダムMk=V…行きますっ!」

それも機能の一つか、気合いを込めた声とともにガンダムの瞳が輝く

今だ多くは混乱したままの敵機の内こちらに気がついた相手の頭部を
まるで大きな大剣のように展開したシールドで切り裂いていく

撃破し、相手に場所を知られるよりかはこちらのほうが有効だからである

 

「舞、あなたの大切な人達と、舞は佐祐理が守りますからねっ!」

(相手がいつ復帰するか…わからないのが…辛い…)

 

 

 

〜格納庫〜

「うぐぅっ、出られないってどういうことなのっ!?」

「あゆちゃん、落ちついてよ。メカニックの人を責めても意味がないよ?」

「うぐぅ、でもでもっ」

肩を掴んで落ちつかせようとする名雪に叫ぶあゆ

あゆの機体が整備のために起動できない状態であると知った直後のことである

「…あゆさん、方法はありますよ」

「え?…栞ちゃん?」

声に上空を向けば調整を待っていた不明な機体だった

「ある機体を使えるようにするのがメカニックです。時間が少なくて詳細なスペックがわからないので
どこまでの力があるかはわかりませんけど・・・動きますよ。武器もちゃんと有ります」

機体から降り、ぺちっとその足を叩いて笑う栞
そのままへろっと倒れこみそうな疲労度である

「栞ちゃん・・・ボクでも大丈夫かな?」

「あゆさんが信用しなかったら機体もすねちゃいますよ」

不安そうなあゆの前に立って微笑む栞

「・・・うん♪」

「・・・あれ? 川澄先輩が・・・」

名雪の声に二人が周囲を見渡すと既に舞は格納庫にいなかった

「うぐぅ、いそがなくっちゃっ」

「栞ちゃんは無理しないでね・・・」

「・・・はい。すいません。さすがにこの時間で使える調整をするのは骨でした・・・」

「栞ちゃん、ありがとうっ」

「・・・はいっ」

ぽんぽんと自分の頭を叩くあゆに苦笑しながら答える栞

「私も・・・じゃあ栞ちゃん、後はお願いね」

 

 

 

 

 

「・・・」

(佐祐理・・・今行くっ!)

急加速のGに声が漏れるそうになるがそれを気合いで押さえこむ舞

祐一と簡単なやり取りの後、単独で向かっているのだ

風を考えずに加速する機体が辺りに土煙を上げる

それを見たティターンズ側のMSが舞を確認し、
偵察用のハイザックと思わしき機体のモノアイが光る

「・・・邪魔っ!!!」

瞬間、ぐっとさらに加速したサーバインが残像を残して駆け抜ける

時が止まったかのような一瞬の後、静かにハイザックが二つに分かれ、崩れ落ちる

発見の報告をする暇も無かったのか、舞は抵抗に会うこともなく前を見据えたままで進む

「・・・見えたっ! 『まい』出てっ!」

「・・・うんっ♪」

舞の体から浮き出るように半透明な十数年前の舞が現れる
一度は拒否した存在、でもそれは自分自身・・・

(今は・・・拒まない・・・それは大切なことだと祐一は教えてくれた)

『え・・・舞なのっ!?』

「佐祐理、伏せて」

通信が近距離なら復帰したことを証明する通信が入る

カノンとサーバインが巻き起こす風が周囲の物質たちを徐々に押し流しているのだ

「舞」

「・・・わかってる」

耳鳴りでもしているかのような集中、そして解放…力の

「川澄流表技…三日月っ!」

せっかくだから名付けてみた、とは彼女自身の弁である

水平に薙ぎられた剣に宿ったオーラ力が意思のままに圧縮され、鋭利な攻撃となって飛んでいく

施設自体をも切り裂きながら何体かのMSを切り裂いていく

「…一気に佐祐理の場所まで行く…」

機械的な視界は今だ回復しないものの、それは舞にとっては支障のないことだった

見えない相手を相手にすることは、人生で一番ウェイトがあった時間なのだから・・・

乱入してきたサーバインに向かって放たれるいくつもの攻撃を残像を残して回避しつづける

「佐祐理、無理はしないって約束」

一体ずつ、確実に戦闘不能に追いこみながら話す舞

『・・・うん。ごめんね舞・・・』

「・・・親友だからこそ・・・守って欲しいこともある。せいっ!!」

加速して近寄ってきたアッシマーを両断すると舞はサーバインにガンダムを掴ませる

『ふぇ・・・?』

「祐一たちの方に行く・・・こっちは片付いてるから・・・」

事実、戦力の低下したこの場所の陽動部隊は撤退を開始していた

 

 

 

 

 

「ったく。毎回同じようなMSばっかりだな・・・」

望遠映像で相手の構成を確かめつつぼやく

「連邦が有利なのは量産型MSの性能がコストに対して良い点ですからね・・・。
もっとも、その分進化も遅いんですが・・・ティターンズに関しては別の言い方もありますが」

言いながら、画面上に相手のデータを次々と表示させていくキャニー

「真琴、離れるなよ」

「うん、祐一こそ、ミスしないようにね」

俺達の弱点、それは補給と足場

一皮、つまりは機体と周囲の影響力さえ無くなっていまえば
俺達がただの少年少女でしかないことは俺達自身だって良く知っている

何より…家族である秋子さんを死なせるわけには行かない

真琴だって…名雪たちだって同じ気持ちのはずだ

「注意してください。この辺りはジャミングの影響がありませんっ」

「ちっ!?」

キャニーが言うが早いか、俺達に気がついた
相手のしんがりを勤めるMSからのと思わしき攻撃がカノンに迫る

「なんとか避けきったか…? くっ」

すぐさまわずかずつタイミングをずらされた射撃が襲う
どれから撃たれたかを確認する暇もない

この距離でこの精度なんて…新型か!?

遠距離のままでは不利だと考え、避けきれない分をシールドで弾きながら間合いを詰める

まるで獲物を狙う昆虫の口から伸びる舌のようなライフルのMAが見えた

「射撃だけなら間合いをっ!」

中距離から近距離になった射撃をひねるように操作し回避を、
そして至近距離に…っ!?

瞬間、相手から獣の爪のようにクローが伸び出る

「っ!! 光よっ!」

すんでのところで直撃は避け、ソードを一閃する

腕部の装甲が少しもって行かれただけですんだようだ

落下する相手を確認し、真琴を見る

 

 

 

「あぅーっ…秋子さんは…お母さんはやらせないんだからっ!!」

味方が撃破されたことに気がついた相手に次々とビームカノンを撃ちこんでいく真琴

「次っ…あぅ? 名雪〜〜♪」

狙おうとした相手が撃破された理由を知り、叫ぶ真琴

『真琴、無事だったんだね!?』

 

 

 

「うー…いっぱい…ならっ! オーバーハングキャノン…ワインダーっ!」

発射したままのキャノンを維持したままガンダムを動かす。
とは言っても、効果範囲がわずかに動くだけではあるが、
回避できたと思った相手がその罠に落ちていく

その分有効射程が落ちる応用である

実質、直線で10だった粒子を分散させると言うのとイコールなため、威力も減少する

それでも直撃を受けたハイザック数機が膝をつき、沈黙する

「あゆちゃんっ、大丈夫?」

「ボクはなんとか…これ…少し疲れそうだよ…」

 

 

「あゆ? その機体はあゆなのか?」

『うぐぅ、そうだよっ。栞ちゃんが調整をしてくれたんだよ』

矢の見当たらない弓を構えたあゆの機体

MSではない、PTと言ったほうがしっくり来る

そんな機体がその弓に見える武器らしきものを構える

 

 

 

 

「うぐぅ、光よ…我が意のもとに裁きの一閃となれっ! エンジェル・アローっ!!!」

自分の機体が精神、T−LINKとは違った装置のようだがそれを糧に武装とする機体だと
気がついたあゆはイメージの鮮明化のためにこの手段をとった

地面に足をふんばり、構えられた弓に光が産まれ、そのままそれは撃ち放たれた矢となる

マラサイの脚部を撃ちぬき、しばらくとどまった後、光は自然に消えていく

「うぐぅ、これならっ!」

確かな手応えと、自分の戦い方を掴んだあゆが希望に瞳を光らせる

 

 

 

〜格納庫〜

「ありがとうございます。だいぶ楽になりました」

看病をしてくれたメカニックの一人にお礼を言って立ちあがる

「あゆさん…がんばってくださいね」

あの機体名は未設定。ただ、気になるのは…

…初期開発進行責任者兼テスター『イングラム・プリスケン』…この一文だった

「調べた限りじゃ危ないものはなかったですけど…えぅ〜…」

もしそんなのがあるなら自分にわかるような仕掛けであるはずがないと思いつき、困り果ててしまう

ともあれあゆさんが帰ってきたらもう一回調査を…くぅっ!?

「…誰…?」

前のアムロさんとの共鳴とは違う、もっと悲しみに満ちた感情…これは…

 

 

 

 

「っ! 高エネルギー反応確認っ! 研究所データベースと照合、高確率でサイコガンダムMk=U、
サイコミュ兵器搭載の重MAですっ! …初弾、来ますっ!!」

「メガ粒子砲っ!? キャニー、Uってことは…」

初弾を、弾というより光の槍だが、を回避し、疑問をぶつける

確か浩平たちが以前遭遇した同じサイコの名前を持つガンダムも・・・パイロットは・・・

「はい、恐らくは強化、っ! 第二射、来ますっ!」

「そんなばればれなパターンじゃ…何!?」

言葉を漏らす余裕もなく、カノンに回避したはずのメガ粒子砲が直撃する

『祐一君っ!』

「なんとか…生きたか…」

あゆの叫びに答えるように言葉を搾り出す

「とっさにシールドを展開しましたが出力50%に低下。
同時にグラビコンシステムにもわずかですが異常が見られます。
念の為にイレイスキャノンは使用しないほうが賢明でしょう」

次々と報告される被害内容

だが…今のは?

『あぅーっ、何かに攻撃が反射して…あぅっ!?』

話の途中で真琴が妙な方向にショット・ナパームを放つ

「おい真…!?」

そのままどこかに消え去るかと思っていた弾が空中で爆発する

すなわち、何かが空中にいるということ

「敵MAに反応、射撃、来ますっ!」

今度は拡散か!?

避けきれず、全周囲に展開したアブソリュートシールドが反射の色で染まる

…反射?…そうかっ

「キャニーっ、さっきまでの被弾個所と攻撃角度を出してくれっ!」

「了解。右に展開します。邪魔にならないよう、小さめですが」

「十分だ…く、やっぱり」

どう見ても何かに攻撃が反射している

「周囲の探査終了っ! 小さなビットのようなものが無数に展開されていますっ!!」

全周囲モニターの各所にそれらリフレクターを示す光点が淡く光る

さっきまでの影響で探査できなかったのか…く…

見れば他の皆も無数に放たれる拡散メガ粒子砲に装甲を削られていく

「敵メインメガ粒子砲、来ますっ!!」

目標は…あゆ!?

「あゆっ、後ろだっ!」

『うぐぅっ!?』

避けようにも反射された攻撃があゆを足止めする

「シールド全開…はぁぁぁっっっ!!!」

あゆの援護に入り、展開方向を前面のみにし、メガ粒子砲を受け止める

激しく輝くシールドの光がコックピットを白く染め上げる

「反射により背部バックパック被弾、出力低下します。危険です」

あせった様子のキャニーの声

オーバーヒート寸前まで上がった出力に、被弾も合わさったために満足に動けなくなる

『あぅーっ、そっちを狙ってる感じで廻りのも動いてるわよ祐一っ!』

立て続けに放たれる攻撃がいくつものリフレクターを破壊するが数が多すぎる

ガードしようにも隙間を狙われ、どうにもならない

『空を落とす奴は…落ちろっ!』

向けられた悪意が直接言葉を伴って押し寄せる
カノンはわずかにその体を捩じらせるぐらいしか動いてくれない…く…

「やらせない…やらせないよっ」

あゆの叫びが、周囲に拡散する意識が、俺には感じられた

真琴もそうだったと思う

「…信じられません」

『…リフレクターの動きが…』

『はぇ〜〜…』

『ど、どういうことなのっ!?』

しばし、戦闘中だと言うのに全員の動きが止まる

あゆが叫んだ瞬間、リフレクター達がその場で停止し、攻撃はあらぬ方向に反射したのだ

「祐一君、後はがんばってね。多分、この後は戦えないから…」

「あゆ?」

俺の声に答えずにあゆはこの隙を逃さぬようにか、視線をサイコガンダムに向ける

「光よ、天上に輝く光球となり、舞い降りて我が前に群がりし敵を討てっ! サンシャイン…アローーっ!!」

空を向いたあゆの機体から一本の太い光が伸びたかと思うと、無数の小さな矢となって地上に光が降り注いだ

「っ!…?」

『あぅっ! あれ…当ってない…?』

『…識別してる…敵と味方を…』

そして辺りに巻き起こる大量の小爆発
雨のような攻撃が周囲のリフレクターたちを破壊したのだろう

瞬間、頭に絶叫とも取れる痛みが走る

「つっ…これは相手のか…?」

「サイコミュ兵器は脳波操作ですからね、そうだと思います」

『あ、祐一。敵さんが撤退するよ?…あゆちゃんっ!?』

「あゆっ」

あゆの機体が倒れこむようにして動きを止める

「彼女が敵パイロットの操作を妨害していたんですね…脳波制御のサイコミュ兵器と渡り合うなんて…」

…ってそれはつまり…

「はい、先ほどの彼女は敵とのつばぜり合いと、
恐らくは自分の武器との双方に意識をむけていたはずです」

俺の強い視線に困った顔をしながらキャニーが推測を伝えてくる

カノンにあゆの機体を上を向かせるように操作し、俺はコックピットを出る

 

 

 

「あゆ……ふぅ…」

強制解放したコックピットの中ではあゆが小さな寝息を立てて眠っていた

気絶に近いのであろうが

「祐一さんのために戦ったって感じですね」

いつのまにかキャニーがすぐそばでたたずんでいた

「キャニー、あゆの力は…」

「奇跡はただ起きるものじゃない。何かしらの理由もあった、そういうことです…」

それ以上は今は話すべきではないというようにキャニーが姿を消す

俺が求める答え…それは
俺が…戦いきった先に見えてくるものだとなぜか思った

それには戦いつづけるしかない

そしてそれは…

どこかの誰かの戦いつづける理由と同じだったと気がつくのは随分先である

 

 

 

続く

 

 

次回予告

ティターンズの猛攻をかろうじて退けた祐一たち

「…この出撃自体が狙いっ!?」

新たなる敵の襲撃に出撃した祐一たちが傍受した通信とは・・・

 

バスッ

「…自分が手を下す覚悟を持たずに自分の子供達を戦場に送り出す愚か者じゃありません…私は…」

硝煙の匂いの中、秋子が静かにつぶやく

 

「正義は…一つじゃない…」

いくつもの正義が交錯する中、少年と少女は駆ける…戦場を…

 

次回カノン大戦α

〜大人の決意、子供の決意〜


後書き

「3ヶ月近く…ですね」

「私生活を言い訳にするのは簡単ですが、そうはしません」

「お待たせした方々、申し訳ありませんでした」

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