「綺麗だな…」

「この広い宇宙でも重なり合った奇跡の元に今がある地球…
そんな中で今の命があるって考えると、不思議じゃありませんか?」

小さいままのキャニーがモニターを次々と動かしてくれながら言う

うめくようなGから開放され、グレイファントムへと静かに着艦し、
俺は地球が水の惑星と言われるのにふさわしい光景を見ていた

少し前に切り離したブースターが大気との摩擦で
真っ赤に燃え上がりながら塵となっていく

もう少しすれば艦内に移動できるだろう

それまでの間、俺はずっと星と、海とを眺めていた…

 

 

 

 

カノン大戦α

〜戦場を駆ける奇跡〜


第三十話

〜閃光の走る中で〜

 

 

 

「大丈夫なのか?」

「はい。宇宙に出たせいなんでしょうか、じっとしていられなくて…」

心配する俺にしっかりとした視線を返す栞

「わかった。無理はするなよ?」

「はいっ♪」

俺は子供扱いしないでくださいと栞がすねるのを
わかっていながらもぽんとその頭に手をやり、撫でる

『おまえは強いんだな』と考えながら…

 

 

 

「どうだ? 何か異常は…あったら警報鳴ってるか…」

自分で言っておいて静かなブリッジに答えを見つける

最初は知らない間柄だったブリッジメンバーや艦のスタッフ達とも顔見知りな今、
通常は他に任せて美汐は静かに何かを読んだりしていることが多い

前で戦っていればいい俺と比べても、
艦長としての責務、待っている緊張感…想像もできない

「あ、相沢少尉」

食事の配給に回っているらしいスタッフの中年女性から食事を受け取る
なんとなく食堂のおばさんな感じだ…新しい人のようだ

「必要なとき以外は歳相応に扱ってもらっていいですよ。
まだまだ、学びたいことはいっぱいありますので」

戦いに身を投じてからの時間はあっという間だ

気がつけば平和だとばかり思っていた時間は過去になっている

冬の寒さに体を震わせ、毎日を笑顔で生きてきた時間は遠くにある

「好きじゃないんですか?」

「え? あ、いや、考え事をしていたので」

心配してくれたのだろう、先ほどの女性スタッフに答え、慌てて残りを口にする

「・・・げほっ…ども」

(…笑われてしまった)

にこやかに渡される水を飲み、恥ずかしさにうつむく

恥ずかしさを隠すようにブリッジを出、他に行こうとする

(どこに行こうか…)

名雪を起こして星を眺めるのも良いし、
普通に休むのも良いだろう…

そんなことを考えながら、歩く俺の耳にカートの音が届く

振り返れば先ほどのスタッフの人だった

「大変ですよね?」

これだけの艦内だ、重力が弱くなっているとはいえ
重労働には違いないと思う

「仕事ですから」

笑顔で言いきる女性の姿にふと秋子さんの顔が重なる

ふっとそんな顔が少し沈むのを見た

「・・・?」

「私、この艦に自分から上司に頼んだんです。
そしたら呼ばれました…水瀬少将に。
緊張する私をにこやかに見つめながら、快く了承してくださいました」

(秋子さんなら…でも)

「何でだろうって思いますよね?
私には息子達がいました。もう・・戦死してしまいましたけど」

じっとしていても仕方が無いので一緒に移動しながら話は続く

「戦争ですから、人が死にます。わかっていたつもりでしたが、
その失われる人間が家族になったとたん、怖くなりました。
でも、私も息子達も軍人です。覚悟はしていた…約束したんです。
『最後まで戦いを見届けよう』って…だからなんです。ここに来たのは」

きゅっと音を立て、カートに食事を補充するらしい場所に入る

「人間こう言うときはなんでもない縁起も担ぎたくなるものです。
だから私は、戦死者の出ていない少尉のいる部隊を選んだんですよ」

「最後まで…戦いを見るために?」

思わず立ち止まり、声をかける

「…ええ。勝手ですけど、がんばってくださいね。
これぐらいしかできませんけど…」

俺が見送る先で、女性は他の場所へと去っていった

 

 

 

「…人それぞれ…か」

彼女の言うように勝手な理由だが、それでも理由は理由なのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして宇宙戦用の調整をしているところにその報告は来た

 

 

 

 

 

 

『母艦受領を終えたシャインシーズンから交戦報告が来ました。
同時に、ジオンが復旧させたマスドライバーへの協力攻撃の
要請が来ています。距離がありますが…』

それでも、月軌道の近くに出れた都合からいけない距離じゃない

「美汐、俺と舞とかは先行して参加する。許可を頼む」

『はい。推進剤には注意してくださいね』

美汐にうなずき、格納庫のメンバーに声をかける

 

 

 

結局、メンバーは俺と舞、そして作戦の都合から名雪の三名になった

艦の具合や距離、恐らくはグレイファントムは到着前には何らかの決着がついているとは思うが…

 

 

 

「しっかり捕まえててよ?」

「ああ、途中で寝るなよ、名雪っ!」

近いといってもさすがに宇宙、時間はかかる

シャインシーズンが戦力を展開するという宙域へと軌道を整えてカタパルトから発進する

 

 

 

 

 

「陽動?」

月がかなり大きくなってきた辺りでキャニーが言ってきた

「その可能性が高いと思います。以前私達がマスドライバーを襲撃したときは
リガミリティア艦隊を含めた大艦隊だったからこそ正面から破壊を目指せたんです。
対してシャインシーズンは一艦、どう考えても正面からでは無理です」

マスドライバーに以前展開していた戦力、前回の戦闘で破壊された分を引いて、
そして増産分を考えてもまだまだ数があるようだ

「さらに彼らのネームバリューと戦力を考えれば、別働隊がいるのではないでしょうか」

『じゃあわたし達はその援護に回ればいいのかな?』

名雪は揺れがあるせいか、寝れないようだ

…寝られても困るが…

『見えた…』

 

 

モニターに戦闘を示す光線達がうつる

「名雪、後ろから頼むぞ」

『うんっ、わたしに任せてよっ!』

力強く答えた名雪のV´ガンダムを手放し、軽くなった分を加速にまわす

「索敵範囲接触します。データ収集開始…」

光が一つ輝くたびに人の意識らしきものも伝わってくる

『祐一、先に行くから…』

「ああ、無理はするなよ」

俺はシャインシーズン側の旗艦を探すために少々寄り道をすることになる

「採取したデータの中に不明機があります。これではないでしょうか」

データの無い相手はCGでは無骨な塊として表示されるが、その大きさはまさに戦艦だ

「だろうな。回線は前と同じだと思う。つないでくれ」

近づきすぎて攻撃されないように相手に通信を送ってもらう

『そちらの所属は…。相沢少尉?』

さすがに予想していなかったのだろう、
里村さんの驚いた新鮮な表情がモニターに映った

「プロミスリレーション所属相沢祐一少尉以下二名、先行して援護に回ります」

『…はい。感謝します。こちらの識別データを送信しますね』

艦であろう物体の周囲を警戒し、近づいてきた光源に牽制のライフルを撃っていく

「受信完了。行きましょう」

キャニーの報告にうなずき、浩平たちが戦っているはずの宙域へと駆ける

あとは…戦うだけだ

 

 

 

「さっき一緒に作戦内容もだいたいもらいましたよ。
工作員が仕事を終えるまで敵の目をひきつけるみたいですね」

邪魔にならない位置に小さ目のウィンドウが出、キャニーが読み上げてくれる

「とにかく手当たり次第に叩けって事だな?」

「身も蓋も無いですが、そうです」

俺達が動いている場所は浩平達とジオンとの中間辺り

無論少し離れてはいるが、こちらに来る分の負担がなくなるはずだ

「I・ランス射出っ! 行けっ!!」

いつか見たサイコミュ兵器、ファンネルとかビットとか言われるものの
動きをなんとなくイメージしながら射出する

俺は多くいるザク改へと狙いを定め、ランスを操作する

名雪の援護を生かすためにも敵の目を自分にひきつけておく必要がある

ランスが直撃はしなくても大方当たったことを確認し、
次の目標へと向かう

 

 

「現状ではジオン側も動きを警戒して戦力の投入をしぶっているようですね…」

「まあ、さすがに戦艦一隻で叩きに来たなんて無理があるからな…
それでも結構な数が迎撃に出ているみたいだが…」

ブレーキの意味もかねて接触したザク改のバックパックのみを切り裂き、施設のほうへ蹴り出す

「どこに誰がいるんだか、さっぱりだな」

月の照り返しでモニターの半分はその白さが目立つ

瞬間、その白さが別の白さで染まる

「く…状況は!?」

光に対して背を向けていたためになんとかフラッシュを見た程度ですんでいるが、
それでもなかなか辛い状況だ

「シャインシーズンの作戦発動を確認しました。タイミングは前線に任せられていたので
光度を落とせませんでした。少し後退しましょう、危険です」

キャニーにオートパイロットを任せ、後退することにした

「新しく12個の反応を確認、作戦内容によると隕石ミサイルですね。
対コスト、効果ともに有効な兵器です」

説明の間にようやく視界が戻ってきた

 

その隕石はただの質量兵器ではなかった

「エネルギー反応だけが消えてますね。恐らく生命維持装置も停止でしょう。
これで緊急に敵はパイロット回収のための余分な戦力を払わなければならない。
イコール敵戦力が一時的に減る、うまいですね」

「よし、敵増援もすぐ来るだろう。そっちを叩くぞ」

『祐一、無事?』

心配した名雪が機体を寄せてくる

「ああ、前に出るから一緒に来てくれ」

『うんっ!』

 

 

 

 

(…数が多い…)

やたらと無駄にミサイルを放つズサの死角へと周り、
コンテナ部分を切り裂く

「…行ける?」

「とっておかないと辛いと思うなー」

最近周囲の人間から影響を受けたのか、
砕けた口調でまいが出てくるなり言う

「…わかった…」

もう何機落としたかも数えていない

より効果的な攻撃を、と可能な限り敵バックパックか
両腕を切り落とすことで戦力を低下させる戦いをしていた

周囲に転々と浮かぶパイロットは生存する敵機のために
相手側の迎撃がまばらになったのを感じた舞は移動する

「…あっちに強い意思を感じるよ、舞」

戦いの鉄則として強敵は早めに、と舞は考え、サーバインを操作する

「…大き目…」

ジオンのものではないようだが、その殺気は疑いようもない

「…せいっ!」

振り下ろす形でオーラビームソードで斬りかかる…が

(防いだ!?)

がっちりと交差させた二本の剣で相手はそれを受け止めていた

「ダメっ! はじかれるっ!」

慌てたまいの声がコックピットに響く中、
サーバインが弾き飛ばされる

「…質量がない…ならっ」

疲労した体を奮い立たせ、白い残像を残し加速する

正面からの相手の攻撃をかわし、
一気に敵の背後へと回ろうという作戦だ

「読まれてる!? ううん、違う。相手もわかってるんだ」

双剣の範囲を利用し、相手が背後を取らせまいと動くのを見てまいが叫ぶ

「…」

対して舞は無言、相手に集中しているのだ

舞はまいであり、まいは舞である

タイムラグ無しで交換される思考と情報

お返しとばかりに繰り出される相手の攻撃、
二連のそれを、一撃は避け、もう片方はかみ合ったままで勢いを殺す舞

それでもパワーのある相手の一撃に自然と間合いが離れる

 

 

なおも続く攻防の結果、二機は戦闘宙域の外にでかかっていた

「長引かせられない…」

すでに疲労を感じていた舞は、ソードをライフルとして撃ちこみ、
相手が回避する間にオーラソードへと持ち替えた右の斬りを放つ

「早さじゃ勝ち・・・でも」

(強い…自分の攻撃方法をしっかり理解している…)

不利だと悟れば引くその判断の早さに舞は戦闘中ながら感心していた

その後も何度か斬りあうものの、互いに決定打を撃てずに時間が過ぎる

周囲にいるジオンの敵機も、隙を見て攻撃を試みるのだが、
そのたびにどちらかの斬撃の空振り先に出るという
不運を受け、撃破されている

 

「…来る。まい…」

ついに戦闘宙域から出た辺りで、舞がつぶやく

「いいよっ!」

相手の動きが止まり、エネルギー反応が大きくなったのを見、
舞も自分の中へとまいを沈め、サーバインにはオーラソードを構えさせる

「月光がすべてを断つ…川澄流表技…一閃っ!!」

月の光を浴び、白さを際立たせるサーバインが右差しの抜刀の態勢から剣を振りぬく
初速に右腕の勢いで二段加速を行う右から左への横薙ぎである

それは相手の右手に持たれた蒼い光を纏う剣をはじき、
同時に舞の勢いも減少する

舞の剣と、はじかれた相手の剣から光が飛び散り、辺りに拡散する

「っ!? 連撃だよっ!」

止まることなく、続いて左に構えられた剣の光が迫るのを舞の意識は捕らえていた

「追の斬…旋風っ!」

左にゆれた機体を逆に右へと回転させ、勢いを乗せて右に振りぬく

本来なら、左右に切り裂き、分断する連斬なのだろう

オーラ力を纏い、輝く剣が、もう一本の蒼剣とかみ合い、停止する

一撃目を振りぬけなかった分、相手の質量と勢いに負けたのだと舞は悟った

いったん間合いを取るために後退する舞

「次は…?」

『舞っ、そいつは敵じゃないっ!』

 

 

 

 

「川澄機交戦状態です…相手は…は?…シャインシーズン所属機体、
七瀬留美操縦のニーベルンヴァゼイド…友軍機ですよ…」

さすがにキャニーも予想しなかった状況らしい

「舞のことだから知らないやつは全部敵…とか考えたかな…
ともあれ、止めに行くか。一応T−LINKソードは準備しておいてくれ」

『説得…かな?』

「ああ、名雪は近づく奴らを頼む」

『了解、だよ』

周囲を巻き込みながらなのか、所々にジオンの機体が浮いていた

舞の機体がオーラをまとい、連撃を繰り出し、間合いを取るためか
後退したのを見、カノンを二機の間に割って入らせる

「舞っ、そいつは敵じゃないっ!」

『でも攻撃してきた…敵?』

疲労と今の戦闘の緊張が解けたためか、額に汗をにじませながら舞が答える

「こっちにデータがある。浩平と同じ部隊だよ。蒼いツインテールの子、覚えてるだろ?」

『…(コクッ)』

舞の相手、七瀬もこちらの機体がヒュッケシリーズだと見た目で
わかるはずだ、現に戸惑っているのか攻撃してこない

時々近寄る敵機も名雪に狙撃されていく

「友軍機接近、折原浩平機です」

「そっちはまかせた」

そっけなく言い放ち、舞に向き直る

「大体、発信信号は味方のだろうが…」

『…忘れてた…』

沈黙が二人の間に下りる

『でも、いい相手だった』

どこか動揺した様子の舞がそんなことを言って七瀬のほうを向いていた

背後ではキャニーが浩平相手に何やら通信をしている

 

「とりあえず、戻らないとまずいよな?」

『だな…そうだ、祐一、神楽っていうやつが探してたぞ。
一緒に戦ってるからすぐに会えるはずだ。戻ろう』

通信に答える浩平はどこか疲れていたような…気のせいか?

神楽…誰だろう…

五機で交戦の続く宙域へと急いで戻る

 

 

 

浩平の機体が差す先に、一機のMSではない、PTらしき機体が見えた

その周囲の敵へと五機で一斉射撃を行い、一時的に空白の場所にする

それに気がついた相手がこちらへと近寄る

『やっと会えた。これを』

声とともに映った映像には少年が出た
浩平から通信を受けたのだろう、すぐに用件を伝えてくる

神楽と浩平が呼ぶ少年の操る機体が大きめのライフルをこちらに渡す

『本当はゼロ用に作られたので使えるかはわかりませんけど』

声に混じる微かな不安、どうやら思い入れが何かあるらしい

「使えるか?」

受け取り、キャニーに聞いてみる

「…対象ユニットよりデータを検索中…照合完了です。
兄弟機としてカノンが設計されてたおかげですね。支障はありません。
すぐにチャージできますっ!」

カノンの武装を示すモニター部分に表示が追加される

ゼロバスターライフル…乱射は不可能か…

『祐一、見せてみろよそいつの力』

浩平の言葉を耳に聞きながらカノンに構えさせる

狙うは…マスドライバーからは遠い宙域の敵陣

「T-LINK補正開始…エネルギー充填されます」

ざっと流れこんできたイメージによると、強力だがそれゆえに
射線の調整が難しい部分に念動の補正をかけていく物であり、
他の機体が使えば余分な負担がかかる状態らしい

漏斗に流れこむ水のように、念動力が注がれるのがわかる

「射線上に味方の機体がないことを確認、行けます」

「よしっ!」

トリガーを引きこみ、衝撃にカノンが後退する

グラビコンシステムとブースターによる相殺もわずかに追いつかない

間近にある月の光にも負けない光の本流が太く伸びる

光の中へと人も、その意識も溶けていくのがわかる

一回のトリガーが、相手の存在していたという理由すら飲みこむのだ

『まぶしい…ね』

名雪が静かにつぶやくのを聞きながら思う

(それでも止まれない…)

と…

 

『祐一、もう少し時間を稼いでくれ』

「りょーかい。名雪、浩平達の母艦のほうにいって護衛を頼めるか?」

数も少ないために心配は少ないが、それでも万が一がある

美汐達がこの宙域に来るにはまだ時間もかかる
あっちはいざというときに温存しながら動いてるからな…

「舞、行けるか?」

『十分休めた』

剣士としての技能か、この間に息を整えたようだ

撤退の合図を決め、一度分散することにした

 

 

 

そうそう休む間もない戦いが、宇宙でのカンを早めに戻してくれる

敵から見れば後ろにも目があるように反応しているに違いない

CGとして全周囲になっていようと、見なければ反応できないのは道理だ

だが、敵の意識を感じ、そして直接マニュアルを
読むように周囲のイメージを感じて動く俺と、
敵意とも殺気とも言える感情の流れを読む舞

俺は念動力として、舞は鍛錬の成果として…

所詮は人が動かす以上、そこに人の意思が働くのだ

 

 

「相手もやっと本腰をあげてきたようですよ」

言われなくても、目に見えて増えた敵機を見れば否応無しにわかる

それでも施設周囲はまだまだ多い

近づく事もできないからな・・・

『・・・ライフル尽きた・・・』

かすかに光しか生まないオーラソードライフルをしまい、
一刀を構えなおす舞

敵もしたたかに施設周辺と、俺達と施設との間に展開している

それはつまり俺達は広範囲の破壊攻撃、言うなればイレイスキャノン他、
下手に使えば月に被害が及ぶ武器は使えないということ

実に良くできた作戦だ…

「だがっ! …T−LINKシステムフルコンタクト、システム…起動っ!!」

約束の二文字とともに脳裏に過去の情景が流れるように浮かんでは消える

ぐんっと周囲に体から何かが拡散していく感覚

それはつまり『わかって使い始めた証拠』、俺はそう感じている

 

一方、舞も間近に感じる祐一の発動に疲労したはず体から
勝手に出てきそうになる存在に気がつく

「そう…この力は…」

迫るビームライフルの一条を余裕で避け、
その間も瞳は瞑想に入った聖職者のごとく澄んでいく…

「「あの人がいたから今もある力」」

ダブった声がコックピットに満ちた直後、サーバインの纏うプレッシャーが一回り大きくなる

「私の剣は友のため・・・そして・・・」

つぶやいた舞の髪がほどけ、広がりそうになるのを何者かの手がつまみ、結びなおす

「あの日、出会い、恋したあの人のため…」

連続して迫るミサイルを、すべて目視で避けつづける舞

舞のオーラ力そのものは連続した戦闘のため、消耗が激しかった
つまるところ、舞は二種の力を持っていたのだ

一つはオーラ力…もう一つは…

「願い。それが力そのもの…」

舞の髪をその小さな手で結びなおしながらまいが意思のこもった瞳をしてつぶやく

 

動きの遅くなった二機を徐々に敵一部隊の包囲が迫っていく

 

 

「輝きし極光よっ、集い剣となれっ!!」

「想いが紡ぎし希望よっ!!」

画像の中で、紅く光るカノンの瞳が光を増し、T−LINKソードが
太く、長く伸びていき、サーバインが振るう剣に不可視の力が宿るのがわかった

「長くはもたない。さっさと片付けて時間を稼ぐぞ?」

『…わかってる』

拡大された力がセンサーとなって周囲の意識の動きを汲み取ってくれる

…これなら

光を発するままの剣を携え、ザクVを含む部隊へと挑む

「感じて…ますか?」

「たぶん、な」

キャニーがロックオンの警報を訴える前に
回避行動をとる俺につぶやき、それに答える

オートパイロットの兵器でもない限り、
こちらに操者の意識が向き、そして行動が始まる

そうしないのは、とっさの行動か、それが当たり前のことになった相手ぐらいだろう

相手のやることがわかれば対応はいくらでも出てくる

舞に訓練中教わった言葉どおりに、背後へと抜けざまに
何機かのザク改のバックパックを切り落とす

 

「…遅い…」

白刃となり、敵機と交差するサーバイン

まずは本体が一刀、そして残像のはずの分身が
実際の刃となって敵機の両手足を分断する

力を否定したあのころのように、つきそう力が斬りかかっているのだ

今はもうあのころの木の棒ではない

守る相手のために、想いの詰まった刃を振るう存在となっていた

無謀にも突撃してくるザクVを蹴り飛ばし、
その勢いで別の機体へと迫り、味方が近いために撃てなかったマシンガンごと
そのザク改の右腕を切り落とす

 

「システム使用限界まで制限100秒ですっ!」

キャニーの報告にどこまで攻めるか悩みはじめた時だった

「っ!? キャニーっ!」

拡大された映像達を確認する視界のすみに見なれない光景が入る

「確認していますっ! これは…月面マスドライバーの動力炉がある
辺りが爆発しました。ですが砲弾の隕石自体は発射に入っていたようで…え…?」

キャニーの驚いた声を聞きながら、拡大された映像の中で
ぎりぎり爆発ではないなにかで吹き飛ぶレール部分が映る

CGの使用不可能な状況下でも外界の様子がわかるように、と
装備されているいくつもの望遠カメラの捕らえた映像だった

キャニーが小さい姿のままでめまぐるしくコックピットを動き回り、突然止まる

「ここですね、周波数は…えっと…」

切り替わった映像には一機の戦闘機・・・って

「こんな戦闘区域で!?」

俺が驚くのを尻目にキャニーは相手に通信を送り始めたようだ

 

「住井さん、砲身の部分に爆弾は仕掛けましたか?」

問い掛ける相手はあの住井だった

(なんでこんな場所で、あんなのに乗ってるんだ?)

俺の頭は疑問でいっぱいである

それでも敵の混乱を悟り撤退のために後退していた

浩平たちも同じく母艦の方向へと動き出す

『ん、誰だ?・・・て紹介は後でいいか。ああ、仕掛けたぜ。
もっとも滑走路の部分を破壊するだけであそこまでは壊れないはずだ』

自分の仕事に自信のある者だけがする疑問の表情になる住井

「なるほど、これで大体わかりました。おそらくすでに加速 していた
隕石が滑走路が潰されてしまったことにより行き場を失い暴発したのでしょう」

言いきったキャニーは先ほどとは違い、すっきりした表情だった

離陸のために加速する飛行機が落ちたかのような結果を目の前に
今回の作戦が成功したことはわかった

 


『とにかく作戦は終了です。このまま敵勢力圏外まで撤退します』

そんな里村さんからの伝達が俺だけでなく舞や浩平達にも同じく送信されたようだ

「了解」

短く答え、疲労した体を休めながら息を整える

「…というわけにもいかないのか…」

警報が鳴り、当然のように追いすがる敵の追っ手達

だが、俺がなにかを言い出す前に浩平達の
新母艦から光が伸び、追っ手の半数近くを光に溶かした

…命中精度は良し、と

追っ手が慌てて逃げるのを確認しながらそんなことを思った

 

 

 

 

「あ、グレイファントムから暗号通信による入電です。解除コード確認、開封します。
…当艦は補給のため、通称ラビアンローズに入港、座標は…」

 

浩平や里村さんへとそれを伝え、俺達はその戦場を後にした

 

 

 

 

次回予告

 

合流した祐一達を待っていたのは動かしようのない現実と
直面することになる問題の数々だった

 

「あいつに…あいつの手を汚させるわけにはいかなかったですから…」

「…言わないんですか?」

「いつか…言いますよ、必要になったときに」

秋子の前に現れ、去る一人の…金髪の少年の背中は何を語るのか

 

「だから甘いのよ…栞」

少女は一人、目標に狙いを定めながら狭いコックピットを声で満たす

「さあ、このチャンスを活かすのよっ!」

 

 

 

「辛くないって言ったら…嘘になるわ。
駆けよって、抱きしめて、ただいまって泣きたいもの」

少年に抱き寄せられた揺れで少女の涙は星屑の海の輝きと消えていく…

 

 

次回カノン大戦α第三十一話

〜姉妹の輪舞(ロンド)〜



後書き

「試算していて次回作やらだと、αだけで何メガいくのか怖くなってきて、
途中で計算止めているユウです(爆)」

「祐一と舞ですが、武道の達人の域に、
強制的に力のステージを上げている状態です」

「そのため稼働時間は短めですねー」

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