(艦長が女性だと艦もそれっぽくなるのか?)

到着したときの衝撃を思い出しながらふと考える

さすがに宇宙に花が咲いているとは思わなかった・・・

「ところで住井、お前あんな所で何してたんだ?」
「爆破の手伝いだ」

前を歩く二人、浩平と住井護、
住井のほうはあのころと変わらない印象を受ける

「・・・・・・・・・」
「わかった、ちゃんと話そう」

浩平の無言の圧力に耐え切れずに住井が音を上げる

「今回のことは秋子さんに頼まれたんだよ」
「・・・まあそうじゃないかと思っていたが」

どんなことでもあの人が原因なら、と納得してしまうのもおかしなものだが、
本当にそうなのだから世の中はわからない

「あの人は宇宙の始末屋という人達に内部からの爆破を依頼したんだ。
それでおれがその橋渡し兼案内人とになったんだ」
「案内人?」

浩平は住井が何を案内するのかわからずに訊き返す

「時間をかけられる作業じゃなかっただろ。だから必要最低限の時間で
なおかつ確実に破壊するための爆破ポイントを俺が割りだしたんだ」
「そしてそのポイントを案内していたってわけだな」

黙っているのも飽きたので声をかける

「細かな指示を出してる余裕は無かったからな。だから俺が同行する
ことになったんだ」
「そうかそれはわかったが・・・」

確かにそれは正しい。で、それはともかく・・・

「どーして俺達がお前の荷物を運ばないといけないんだ!?」

叫ぶ俺の声が荷物を揺らす
私物にしてはさすが、という量がある

「俺一人だと大変だし、それに長森さん達にそんなこと手伝わせるわけ
には行かないだろう」
『大変でもお前一人でやれ』

住井の言葉に二人の言葉がはもる
うむ、さすが浩平・・・

「友達ってのは困ってるときに助け合うものだろう」

白々しく住井がそれに返してきた
ならば友を思って一人でやるのも、とは言わないでおく

「・・・まあいい、それはいいとして」

浩平は一旦言葉を切る。

「なんか荷物多くないか?」

三人で分けてるため一人当たりの量はそれほどでもないが一つに
まとめると結構な量である

「メカニックは色々と必要なものがあるんだよ」
「せめて宇宙港にまで運んどいてくれたら楽だったのにな」

浩平が疲れたように愚痴をこぼす。
かく言う俺も少し腕がしびれてきた

「仕方ないだろ、マスドライバーの構造解析でそんなことしてる暇無かったんだからな」

引け目を感じているのか、住井の分は少し多目のようである

「そんなこと言っててもしょうが無いぞ。それよりさっさと運ぶぞ。
あまりあいつらを待たせると何言われるかわからんからな」

「同感だ」

抱えなおし、浩平とともに速度を上げる

「仲がいいことで」

背後にかかった声にはどこかあきれも混じっていた気がする

 

 

 

カノン大戦α

〜戦場を駆ける奇跡〜


第三十一話

〜姉妹の輪舞(ロンド)〜前編

 

 

「お、結構本格的だな」

名雪たちが体を休めている場所は
ラビアンローズ内部にあるカフェだった

思った以上にレイアウトやメニューがしっかりしている

・・・金大丈夫か・・・?

絶対にたかられるな、と覚悟して皆の元に向かう

「あ、祐一君。お帰り」

あゆの声に他も振り向く

「あははー、祐一さんもどうですかー?」

「・・・一緒に飲む」

舞と向かい合わせで優雅にお茶を飲んでいる佐祐理さんが手招きをする

「あぅーっ、一緒に真琴と肉まんよっ」

「真琴、わがまま言っても困らせるだけですよ?」

かかった声に困り、視線をめぐらすと栞は
メニューをにらむように見つめつづけていた

隣の名雪が興味深そうに一緒に眺めている

「・・・あ、とりあえずアイスコーヒー」

注文をして適当に座る・・・が

「なんだこれ・・・」

メニューの多くはデザートの類で埋まっていた

・・・うぐぅ

男にはつらい状況である

すばやくコーヒーと伝票がやってきた

「・・・なにぃっ!?」

伝票にはつらつらとすでに注文が書かれていた

「あ、祐一。ここお願いね♪」

今回ばかりは名雪の笑顔が少し怖い

あっさりと言い放ち、名雪はさらに手を上げる

「あ、ウェイトレスさーん。注文お願いします」

栞がメニューをしまう辺り決まったようだ

 

 

「・・・で?」

「でって言われても困ります。おいしそうじゃないですか」

栞はわくわくとそれを見つめる

「そりゃまずかったら売ってないだろう」

俺が冷たい視線を向ける先に鎮座する物、
栞の頼んだ一品である

「ともかく・・・食べないんですか?」

美汐の声に栞はうなずき、スプーンを手に取った

「あぅー、真琴も手伝うっ」

大きいゆえにか、栞も真琴に文句は言っていない

そして・・・プロミスリレーションとそれとの戦いは始まった・・・

 

しばらくし、カフェの入り口から見覚えのある男女が入ってくる

「おお浩平、丁度良い所に来た。今日はお前が女神に見えるぞ」

「女神ねえ。それって泉に落ちた斧を、お前が落としたのはこの金の斧か、
それとも銀の斧か、って言う奴か?」

「んなことはどうでもいい。こっち来て手伝え」

今はいつものボケをしているつもりはないし、できない

・・・さすがに浩平も凍ったか

立ち止まり、いや、何かに止められたように歩みを止めた浩平を見る

「いかん、あまりのプレッシャーに思わず息まで止めていたぞ」

「うむ、そうだろう」

ようやく発せられた声にうなずいてやる

「なになに、どうしたの?」

「みゅー、おっきなお花」

「これは・・・大きいですね」

浩平の後ろから顔を出した面々が浩平が見たのと同じ物を見てそれぞれの
感想を述べる
里村さんに関しては大きさだけの驚きなのだろう

「ラフレシアか?」
「バラですっ!!」

浩平のせりふに本気で栞が突っ込みを入れる


スプーンを振りかざすさまがちょっぴし可愛いぞ

「そんなこと言わないでくださいよ。食べる気が無くなっちゃうじゃないですか」

「こら栞、自分で注文しといてそんなこと言うんじゃない」

二人の間にあるそれ、ラビアンローズの様相をした巨大なパフェを指差す

「いやまあしかしこの大きさだとやっぱり真っ先にラフレシアを思い浮かべると
思うぞ。たしかによく見ればバラに見えんこともないが」

「バラなんですってば! 何度もラフレシアなんて言葉を言わないでください!」

内心全面的に浩平の意見に同意しつつ、栞の怒るさまを見る

「これはラビアンローズ名物のラビアンローズ・パフェだな。 このラビアンローズ
自体をモデルにしてるって話だがまさか ここまで特大なサイズがあったとはな」

「さすが住井、よく知ってるな。栞が頼んだんだが俺達だけじゃ食いきれん」

まさにお手上げだ

「相沢君と栞ちゃんだけ? 他は?」

「一応真琴も手伝ってはいたんだが・・・」

俺がゆっくり指差す先で真琴が撃沈している

「ぁぅ〜」

「調子に乗って勢いよく食べてたらいきなりこのざまだ。他は自分達の分を
たのんでしまってるから手伝えん。俺はビッグサイズという響きに思うところが
あってな。用心のため注文してなかったんだが」

コーヒーだけにしておいてよかったとつくづく思う

「しょうがない、俺も手伝ってやるか」

状況を察してか、浩平が席についてくれる

「私も手伝うよ」

「おお、やっぱり女神様はいたな。浩平がそう見えたのはやはり錯覚だったか」

「おおげさだよ〜」

俺の誉め言葉にパタパタと左手を振る川名さんのスプーンを持った右手がかすむ

「・・・?・・・うお」

一瞬後、パフェの一角が消え去っていた

・・・こ、これがあの伝説の・・・

さしたる時間を使わず半分以上が川名さんの胃袋に消滅していったのだった

 

 

「んーーーー」

パフェの地獄から開放された喜びを全身で味わうべく伸びをする

「ずいぶん親父臭いぞ」

背中にかけられた声、誰なのか振り返るまでもない

「よっ」

「おうっ」

お互い歳の割に激動の人生である

離れてみればまさにバラの様相であるドッグ艦『ラビアンローズ』

月に敵部隊がまだ展開している以上、ゆっくりするにはここぐらいしかない

(・・・早めに宇宙での補給を確保しないとな・・・)

「そういう考えができるってことは大分回復したか?」

からかう声にも心配が混じっているのがわかった

親友・・・か

「おかげさまで。そっちも大変そうだな?」

新母艦の受領という事はそれなりに活躍、
言い換えれば前線にいるということ

「ああ、ロンド・ベルは行方不明だろ? あまらしておくよりは
少しでも戦力を、って臨時ながらオレ達が受領に向かったのさ」

今は二部隊双方の母艦は入念な修理とチェックを受けている

「あら、二人してどうしたの?」

由起子さん、浩平の居候先だとか聞いているが・・・

「いえ、少し男の話を・・・」

苦笑する浩平は多少なりとも礼儀が見えた

「そう。あ、さっき言ったように話があるからいらっしゃい」

言って、みんながしゃべっているはずの場所へと三人で向かう

 

 

 

「みゅー♪」

「イタイッ、イタイって・・・」

食事後のカフェにいつもとはパターンの違う
やりとりが行われていた

「ふぅ・・・」

身代わりとも言える状況に相手、真琴に悪いとは思いつつも
繭の行動の矛先が変わったことに安心する留美

繭は繭で新しいおもちゃを与えられた子供のようにはしゃいでいる

「ほーら、お姉さんをいじめちゃダメでしょ、繭」

子供をあやすように瑞佳がそんな繭を真琴から引き剥がす

「うぐぅ、大丈夫?」

「はー、はー…な、なんとか…」

涙をにじませながら乱れた髪を手入れする真琴の髪に
脇から手が伸びる

「わたしがやってあげるよ」

名雪が慣れた手つきでいったん髪をほどき、結びなおす

 

「皆そろってるわね」

「あ、ご苦労様です」

その場にいた全員が由起子に対し敬礼をする

もっともあゆや真琴辺りはまだおぼつかない動きだが・・・

 

 

「模擬戦、ですか?」

由起子さんが切り出した言葉に長森さんが疑問の声を出す。

「そうよ、ジオンも今回の戦いでの被害は相当なものでしょうからね。
しばらく行動を起こすことは無いだろうしせっかく数が揃ってるんだから
なまらないように、ね。準備はもう手配してあるわ」

そう言って由起子さんは笑う
笑顔だが何か強さを感じる笑みだ

「今回の訓練では模擬戦用の装備を使うわ」

「それは機体の安全のためですか?」

「それも理由の一つだけど本命ではないわ」

ウィンクひとつを質問してきた佐祐理さんに向け、口を開く

「だいたい今のあなた達なら実戦用の装備を
使ってもそう問題はないでしょ」

「じゃあ何で・・・?」

皆が不思議に思うのを面白そうに
見ながら由起子さんが続ける

「それはね、基礎能力の上昇よ」
「きそのうりょく?」

あゆが相変わらずのひらがなモードで聞き返す

「たとえどんな行動を取るにしても要となるのはパイロットの
基本的な能力よ。祐一君や留美ちゃんみたいな特殊な武器を
使ったりそれを避けたりするのにも特殊な訓練は必要だろうけど
それにはまず基礎能力を鍛えるのが先決よ。
そして最も単純な武器を使う戦闘はそれぞれの基礎能力は高めるわ」

その言葉に皆が納得したように頷く。歴戦の戦士の言うことなので
説得力がある。今目の前に彼女がいることがその正しさの証拠でもあるのだから・・・

「あ、前半戦と後半戦に別れるからそれぞれ二チームに分かれて
どっちがどっちに出るか決めといてね。他の人の戦いを見て
学ぶ事ってのはたくさんあるからね」

ふむ、ではどうするか・・・

 

 

「舞?」

舞は話し合いが始まった辺りから浩平達のほう、
いや、一人を見つめている様子だった

「・・・良い?」

「ああ。良いんじゃないのか?」

皆まで言わずとも七瀬との再戦希望だろう

「真琴さん、私と一緒に組みませんか?」

「あぅ? ・・・出れるのね。わかった」

栞の目を一瞬見、真琴がうなずいた

どうやら栞も大丈夫そうだ

「俺は浩平とやってみたいが、名雪たちはどうする?」

「うーん・・・あ、あれは誰かな?」

名雪に言われそちらを向くと一人の青年が歩いてきていた

こちらに気がつくと丁寧な会釈をして話し掛けてきた

「祐一さん・・・いえ、元ゼロのパイロットですね?」

「この声、神楽、だっけか」

「はい」

にっこりといい笑みを浮かべる神楽

「今までどちらに?」

「少し・・・身の回りの整理を」

不思議そうに見る佐祐理さんに神楽は目を伏せた

「そうですか。わかりました」

佐祐理さんも深くは問わないことにしたようだ

「おお、そう言えば神楽はどっちで戦う?」

「は?」

神楽に模擬戦のことを説明する

 

結果、前半は舞、真琴と栞、そして神楽となった

 

 

「今回は二人は暇…でもないのね…」

「「はい?」」

由起子の視線に同時に返事を返す茜と美汐

それぞれが持った湯飲みから香りと湯気が立ち上る

「あなたも一緒に解説でもしない?」

由起子が誰もいない方向へと声をかけると、
一瞬後、キャニーがその姿を現す

「気がついていたんですね」

「ま、実戦で鍛えたカンってやつね」

自慢げに言い、茜たちが部屋に敷いたシートに座る由起子

「あの、機体から遠くにはいられないのではなかったですか?」

「マスターが強くなってきたおかげです。
祐一さんが力を使えば使うほど私は…おっと、しゃべりすぎましたね」

戸惑った様子の美汐に優しく微笑みキャニーも座る

「…なるほど。システムに住んでる状態なのですね?」

「来るときが来たら、話します」

「そう。じゃあ、移動しましょう」

模擬戦の場所は少し離れた宙域で行うのだ

そのために各自は直接、由起子達はシャトルに乗り移動するのだ

 

 

 

「…」

「…」

出発前、無言で留美と舞は機体の下で見詰め合う

「みゅー」

「わ、駄目ですよ、繭ちゃん。邪魔しちゃ」

小さく聞こえた声に留美がそちらを向くと
こちらを覗き込む繭と顔を紅くした神楽がいた

「何想像してんのよっ!」

その理由を察し、自分も赤くなる留美

「?」

慌てて神楽が繭をつれて駆けるのを舞は不思議そうに見ていた

「はぁ…いきましょ」

「…(コク)」

二人以外も各自のりこみ発進させて行く

 

 

 


「誰が誰の相手をするのかは決まったみたいですね」

茜がいすに座りながら正面のモニターを見る。
それには今しがたデッキから出て行った者達の機体がそれぞれ
相対しているのが映っている。

「そうですね。どちらも怪我が無いといいですが」

美汐はそれだけ言うと、由起子の分のお茶を入れる作業を再開する。
茜と美汐、それにキャニーは由起子に誘われて浩平達の戦闘を解説、
もとい検証するため集まっていた。
三人分の湯飲みから、辺りに抹茶の匂いが立ちこめる。

「そのへんは大丈夫でしょう。それよりもあの子たちがどんな戦いを
みせてくれるのかが気になるわね」

そう言って由起子は自分の前に差し出されながら湯飲みを手に取り
面白そうにしていた。

「確か二人は前にも戦ったのよね?」

「はい、戦闘中の誤解からの非公式なものですが…」

音を立てず、こくっと丁寧に抹茶を飲み答える茜

「どうです? 甘いものが好きというので抹茶にしてみたのですが」

「はい、おいしいですよ」

笑顔の茜に美汐も安心した顔になる

…が

「妙に甘いわよ?…これ」

美汐から受け取った湯のみを疑問の表情で見つめる由起子

「成分分析…糖度が通常の十倍ですね…」

「そうですか?」

自分の用意したものに疑問を抱かない美汐

「ほのかな苦味がいいとおもいます…」

鼻をよせ、香りを楽しむ茜

自分の疑問にあっさり答える二人に頭痛がしてきた気のする由起子

「まあ…好みは人それぞれですから…」

つぶやくキャニーもどこか顔が引きつっている

「お茶請けにどうぞ…」

「いただきます…おいしいですね」

見た目は羊羹、だが中身は普通の羊羹とは別物であると
認識の形は違えどその場の全員はそう認識していた

 

 

 

「実際に正面から戦うのは初めてだなあ…」

指定された宙域に機体を流しながら一人ゼファーに声を響かせる神楽

「手加減はしないもんっ」

演習である、つまりは何かあった場合の呼びかけのために
通信は相互で開いておくのだ

「っ!?」

カンを頼りに回避させたゼファーのわきをペイントが数発流れていく

「みゅ…えーと…油断大敵…だっけ?」

「やられた…今のは危なかった…」

本気で驚いている神楽の声に
誉められた子供のように繭は微笑む

戦闘開始の合図など実際には無いのだという攻撃である

「よし、今度はこっちから行くぞっ!」

意識をしっかりと戦闘状態に移行し、神楽が叫ぶ

 

 

 

 

 

「繭もやるわね。ちゃんとしゃべるようになったみたいだし…」

「浩平から変な言葉教わってないか心配です」

困った顔の茜を見、どこかで同じような感じを味わったような気分の美汐だった

「よーしっと…」

「? キャニー…だったかしら、それは?」

どこから持ってきたのか、いくつかの機械を操作するキャニー

格闘ゲームのように神楽VS繭、と各自の顔まで
再現された画面にはその他にも数字が踊っている

「はい、せっかくですから機体の装甲値や
パイロット達の能力を数値化してみました。
着弾個所や弾数でダメージを算出しています。
連邦採用基準を100として各種能力もだしてますよ。
無論、戦闘結果に応じて修正が入ります」

ほーと三人が見る中、戦いは続く

 

 

 

 

舞と七瀬、あの戦いの再戦ともいえる戦いは静かだった

いきなり斬りあうことはせず、一度向かい合う

「…」

「…」

無言で双方のサーベルをかみ合わせ、
互いの間合いの外へといったん離れていく

 

 

 

〜ブリーフィングルーム〜

「あ、あの子達っ!」

ガタンと音を立てて由起子が椅子を立つ

「…真剣?」

「…ですね」

「やっぱりこうなりましたね…」

慌てる由起子に対し冷静な他であった

模擬戦用のサーベルを使用するはずの戦いは
本来のままの装備だった

『だいじょーぶ。二人とも考えて戦うって』

言ったまいの姿が掻き消える

「「「え?」」」

 

 

 

「練習って言ったのに、舞のうそつきーーっ!」

「…借りるから」

まいの叫びも半分は楽しがっているようだ

静かにオーラソードを構える舞に対し、
留美も剣を一刀に戻して構えに入っている

「はっ!」

一息の気合とともに白いサーバインが淡く輝く

「この前は一刀対二刀…今度は…」

舞とまい、2対の瞳が相手、留美を捕らえる

駆け出し、剣に込められたオーラ力が開放される

纏う光は剣を倍近くまでに伸ばし、
留美の構える大剣へと繰り出す

「はっ! ふっ! せいっっ!」

間を置かずして正面からの刃の振り合いが周囲へと光を散らす

はじき、はじけ、空間をフルに使った斬撃が続く

「くっ!?」

まともにはじかれ、間合いを取ることになった

1G下で言えば天井を蹴るかのように
回転し、留美に舞が迫る

再び宇宙に光が舞う

「このぐらい…」

つぶやき、舞はオーラソードを戻した

留美も同じように模擬戦用のサーベルへと装備を戻している

舞は長めの一刀、留美は通常よりわずかに短い二刀である

「え?」

「…言った。模擬戦だって…」

互いのテンションを一時的に上げる応酬だとまいが
気がついたのは斬り合いが再開されて少し立ってからだった

 

今ならゲームセンターも上手く遊べるだろうか…

スティックを操作しながらそんなことを舞は頭の隅で考えていた

自分の剣技を実行できるこの機体に喜びすら感じる部分が合った

武道として剣を修めたためだと感じながら剣を振るう

 

 

「…軽い…」

(…気のせい…?)

座標計が止まることなく数値を変えていく

数値に頼らず、感覚で位置をつかむ

自分と相手、そして周りの存在

それがわかれば十分であった

どこか模擬戦用装備の違和感を感じながら、舞は斬り合う

「…やっぱり」

空回りしている部分があると気がつく舞

間合いを取り、二三度サーベルを振るい、考える

『やっぱり…やろうか?』

「…(コクッ) 技は無しで」

突然の通信にうなずく舞

『そうよねー、じゃ、行きましょ』

通信がきれると同時に二者は模擬戦用装備を投げ捨てた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動きが・・・読みにくいっ!」

神楽は相対する繭の予想外の動きに翻弄されかかっていた

死角から放たれたペイントをかろうじて避ける

「私だって子供じゃないもんっ」

(そういうところがまだまだ子供なんだけどなあ・・・)

半ばむきになって放たれた単調なタイミングのペイントを余裕で避ける神楽

基礎的な動きを繭に教えるかのように撃ち返す神楽の脳裏に
過去の記憶がよぎる

 

「届けなくちゃ・・・届けなくちゃ・・・」

うわごとのように息と、声が響く

祖父とも、父とも呼べれそうな
人を置いて、彼らから脱走してきてはや数日

途切れそうになる意識を何とかつなげているのは
博士との約束と、思い出だった

動いた服から小さな映写機が落ちる

カチ・・・

『神楽・・・これが見れるということはもうおまえは一人なのだろう・・・』

「・・・あ・・・」

懐かしい・・・数日でそう思えてしまう声・・・

『おまえには今まで何も優しいことはしてやれなかった気さえする。
戦士として、兵器としてのおまえを育ててきた私はおまえにとって
憎しみの対象であったかもしれない。言い訳はしない。
だが、おまえは今、自由だ。ああは言ったが、望むなら静かに
どこかで果てるのもいいだろう。ひとつだけ・・・意味のない死に方はするな』

カツンと、静かな音を立てて映像が消える

脱走のさいにつけたプロペラントタンクの残量も多くはない

だが・・・

「行けるな、ゼファー」

そっと、かの地へと希望を届けるために光が伸びる

先ほどまでの弱った顔はそこにはなかった

あったのは一人の戦士としての顔

 

そして奇跡をつむぐ光の中へとまたひとつ・・・可能性が混じった瞬間だった

 

(最初は慌てたけど・・・これはただ動き回るだけ・・・)

繭の動きを冷静に神楽が分析に、欠点と長所を見抜いていく

一手一手、まるで教え子に対する教官のように
神楽は繭を攻撃していく

連射、単射、接近戦・・・

 

「みゅー!?」

逃げ回っていた機体の背にバルーンサイズのアステロイドの
ひとつが迫ったのを見、繭があせった声をあげる

「しっかり周りを見ないからいつのまにかそうなっちゃうんだよっ」

忠告を叫び、とどめの三連射を行う

左右、そして正面。まず避けようのないタイミングと状況

「っ!? えいっ!」

「えっ!?」

繭は直撃を悟り、曲芸をするピエロのように急速な加速で機体を
上下反転させ、アステロイドをつかませて支点にし、回転を行った

だが支点とした腕にペイントがあたってしまう

「今のを避けた? はっ!?」

「そこっ!」

一回転した繭が神楽のゼファーに迫り、ゼロ距離のペイント弾を連射する

「わっとと・・・?」

直撃したために破壊を示すメッセージが出るかと思ったが、何もおきなかった

替わりに・・・

「あ・・・」

『繭、今のは実戦なら不可能な行動よ。無効ね』

「みゅ・・・うん。今回は負けにする・・・」

正直にうなずく繭、かんしゃくを起こしていた昔とは違うのだ

「・・・ふぅ」

「今度は負けたけど次は負けないみゅ」

悔しそうな、でも楽しそうな繭の表情に神楽も微笑み返す

 

 

 

 

 

「・・・? 神楽君・・・だったかしら、彼は・・・?」

通信を終えた由起子が背後に振り向いて言う

実戦をくぐりぬけた由起子の目は神楽が
一般水準を超えた軍事的な訓練を受けていることを見抜いていた

「私でも連邦、ジオン双方に未所属、ぐらいしかわかりません」

「でも・・・貴重な戦力です・・・それに、もう仲間です」

表情の硬い由起子とキャニーとは対照的に
茜の表情は柔らかく、美汐も同様だった

「戦ってるように見えてほとんど椎名さんのみの基礎訓練をやってるようなものですね。
動きを見ていけばよくわかります・・・」

繭の回避の癖、射撃と格闘の頻度、
それらすべてを見越した神楽の行動と攻撃

消費した推進剤の量を見ても明らかだ

「プロね。連邦でも十指にいれたいぐらいの練度よ。
もっとも若い分活かしきれてないようだけど」

 

 

 

 

「あぁぁぁーーーっ!!!」

「はぁぁーーーっっ」

フルパワー、遠慮無しのぶつかり合いが続く

他に敵がいない一対一の状況は二人にとって願っても無いことであった

余計な流れ弾を考え、わざと他とは反対側で戦闘個所を移動させたのだ

舞が弟子入りしたのは剣術、である。
剣だけに限らず棒、徒手、飛び道具などを扱うこともある。
その中でも剣が一番得意であると言うだけなのだ。
そういう意味では舞の剣の技術は留美のそれとは明らかにレベルが違うのだが、
剣術ではなく剣道とはいえ、こと対人戦の経験で言えば下地の分留美も負けていなかった

三桁を超えたあたりから数えるのも面倒くさくなる回数が火花を散らす

基本的に撃つことをしない二人にとって切りあうことが一番の訓練であった

「ねえ、やっぱりメカニックの人たちから間接部分とか
早く磨耗させすぎとか言われてない?」

「・・・いつも言われる。だから中身以外は結構材質違う・・・」

オーラバトラーに重要なのはオーラコンバーターとその関連装置なわけなので
大きな支障は生じていないようだ

周りのアステロイド達は攻防の影響で多くが砕かれ、
細かい小石と成り果てている

「そう、よかった。自分だけじゃないかって心配してたのよね。
あー・・・かなり疲れた・・・そろそろやめとく?」

「・・・(コクッ)。無理は訓練にならない」

 

 

 

 

そして前半戦として分けられた戦闘が全て終わる

「真琴さん、すいません。私が先走ったばっかりに・・・」

「あ、うん。真琴も落ち着いてるってわけじゃなかったもの、別にいいわよ」

オートで由起子たちの待つシャトルの宙域に移動しながら固まって移動していた

舞達と違い近めの場所だったためにすぐに到着し、シャトルへと各自が移動する

 

 

「やっぱり機体の性能もあるんじゃないかな?」

『あまり前線に出れるような機体じゃないの』

後部から由起子たちのいる前部への移動の最中、
手をつないだ(このほうが動きやすいのだろう)みさきと澪が続いて言う

「えぅ・・・でも、乗り換えようにも機体が無いです・・・」

「栞、そこをなんとかするのがNTとしての腕の見せどころよ」

「あ・・・」

栞があげたつぶやきに話していた三人が言葉を止める

「あ、いえ・・・なんだかお姉ちゃんみたいだなって思ったら・・・えぐっ・・・」

自分の胸に泣き崩れてくる栞を真琴はいつも自分がされているのとは
逆の立場に戸惑いながらもしっかりと抱きとめた

「信じてるんでしょ?」

「ひくっ・・・はい」

すぐに泣き止み、栞は三人に笑顔を向ける

「大丈夫です・・・宇宙に来てわかりました。お姉ちゃんは・・・生きてます」

ぽんと自分の胸元をたたき、栞は断言した

「わかる・・・のかな?」

戸惑った声のみさきが疑問を発する

「はい。『栞っ!』って今しかられた気がします。
ニュータイプでも超能力でもない、家族という・・・お姉ちゃんという
たった一人の姉妹・・・自分を犠牲にすることをいとわない絆を今も感じます」

 

 

 

「はー・・・」

「・・・腰、痛いの?」

並んでシャトルへと向かう途中、舞は留美の動きを見て言う

「え? ああ・・・うん。昔少しね、無理して怪我したの」

自嘲気味に笑う留美の顔にかげりが混じる

「・・・クッション」

「・・・は?」

きょとんとモニタの向こうを見返す留美

「・・・少しでも・・・だから、クッション」

「・・・? ああっ、下にクッションを用意したらどうかってことね。
そうね、そうしてみる。・・・まだ何かあるの?」

「・・・あるから・・・うさぎなら」

「・・・くれるの?」

舞はごそごそとコックピットの中で動き始めた

「・・・予備があるから」

取り出されたのは新品のクッション

「あ、ありがと」

少し驚きながらも後でそれを受け取る約束をし、
二人もシャトルへと着艦する

 

 

 

「みゅ〜♪」

「はは、繭ちゃんは軽いんだね」

暇を持て余しているらしい繭が、神楽におんぶをさせているのだ

先に二人はシャトルに帰ってきていた

「・・・椎名さん、はしゃいでますね」

「・・・あの子の時間は止まっていたときがありましたから・・・」

美汐のやさしい瞳につられるように茜も答えてそちらを見る

「・・・ねえ、キャニー」

「・・・まあ、言わないのもためになるかと」

とても言えないのだ、二人も

神楽と繭が遊ぶ様子が親子に見えるなどとは・・・

 

 


「さて、これで終わったわね。次は後半、浩平や祐一君達の出番ね」

「はい、他の方も気になりますがやはりこの二人が一番惹かれますね。
ところで茜さん、なにをやってるんです?」

「紅茶の用意ですよ」

つい先ほどまで和風にこの場所は染められていたのだが幻覚なのだろうか?

ふと由起子にそう思わせるほど変貌が早かったのだ

「ダージリンのファーストフラッシュです。あとワッフルも有りますから どうぞ」

よどみない動きで各自の前にカップを置き、注がれるさまを
その場の全員が見ていた

ちなみに神楽はなぜか慌てる繭に連れ出され、舞と留美はクッション談義のためにここにはおらず
真琴たちは廊下部分で立ち止まる、という状況である

「これなら大丈夫そうね」

お茶自体に直接何かが含まれてでもいない限り今の状況からは
前回のような事態はなさそうだと由起子は判断した

「普通ね」
「はい、成分はごく普通の紅茶です。まあ特に途中に何かを入れる様子は
有りませんでしたからね、当然でしょう」

安心した様子のキャニーの姿もそれを証明したといってもよかった

そう、紅茶は・・・

「このワッフル、おいしいですね」
「はい、お気に入りです」

由起子の視線の先で二人がおいしそうにみつめるワッフル・・・

「由起子さん、駄目です!!」

キャニーが手を伸ばした由起子に対し、制止の言葉をかけたが時はすでに遅かった

「う・・・・・・甘いわよこれ」

甘さと同時に後悔が由起子の中を駆け巡っていた


「成分分析の結果、蜂蜜と練乳が異様に使われていることがわかりました」

「早く言ってよ。紅茶が普通だから油断してたわ」

「私も同じです。そちらのほうですっかりだまされていました」

緊張感たっぷりの二人とは裏腹に茜と美汐は二人とも二つ目に取り掛かるところだった

「ごめん、ちょっと頭痛くなってきたわ」
「戦闘の方を見るましょう。すこしはましになると思います」

 

 

 

 

「へー、家に猫さんがいっぱいなんですか?」

「うん、浩平は邪魔くさいっていつも言うんだけどね」

戦闘個所への移動前の会話は猫談義で盛り上がっている

「うぐぅ、どきどきするよう・・・」

「大丈夫。お姉さんはやさしくしてあげるから」

にこっと詩子がモニタの向こうであゆに微笑みかける

「・・・ボク、同い年・・・」

じわっとあゆの瞳が潤む

祐一のような男性ならともかく同性に下に見られるとはショックだったらしい

「あっちゃー・・・」

詩子も事情を察したらしく、顔に手を当てている

「うぐぅ、いいもんっ。この決着は模擬戦でつけるよっ!!!」

「あれ? よくわからないけど元気いっぱいだね」

「あ、ほんとだ。あゆちゃん、がんばろうね♪」

話に夢中で状況を知らない二人は無邪気にそういい笑う

「うぐぅっ、任せてよ・・・ダイアナっ、行くよっ!」

「あー、もう。こうなった以上は仕方ないか。始めましょうかね」

はじかれるように反対側に飛ぶあゆと詩子、
瑞佳と名雪もそれに続いて加速をかける

 

「うぐぅ、『せんてひっしょう』だよっ!」

両手に持たせた専用ライフルからペイントが打ち出される

「「わわっ!?」

「悪いけど、やらせてもらうよっ!」

慌てる二人に名雪がここぞとばかりにペイントを乱射する

ほとんどは周囲のアステロイドにはじけ、いくつかが二機へと迫る

「っとと・・もう、危ないんだよっ」

口調の割に余裕の回避でペイントを避ける二機

「んっふっふ、詩子さんを怒らせると怖いよ〜?」

にこにこと笑顔のままでプレッシャーのみが変化するのを
対する名雪とあゆははっきりと感じていた

周囲に存在するアステロイドへとシルエットガンダムが消える

「うー・・・どこだろ、ともあれ、行くよっ」

今は見える瑞佳へと攻撃を集中することにしたらしい名雪が
アステロイドの合間を縫ってペイントを撃ちこむ

「ここじゃあたらないよっ」

元が狭い場所である、少し動くだけでペイントがむなしくアステロイドを染めていく

「うぐぅ・・・どこ・・・?・・・」

自分には名雪のように針の穴を通すような射撃はできないと知っているあゆは
どこかに行った詩子を探していた

すぐにわからないように識別信号は誰も出していない

「うぐぅ・・・あ・・・」

ふとあゆは以前舞に言われたことを思い出す

『敵を探すときはどこから来たら自分が一番嫌かを考える』

「だとすると・・・後ろっ!」

振り向きざまに抜き放ったサーベルが詩子の突き出すそれとかみ合い、
模擬戦用ながらわずかなスパークをうみ、ダイアナとガンダムを照らす

「やるじゃない。年下扱いしてごめんね」

「うぐぅ、そんな笑顔で言われても説得力無いよっ」

半ばむきになってあゆがブースターをふかす

「名雪さんっ、ここじゃ不利だよ。移動しようっ?」

「うん、わかったよ」

名雪もアステロイドを直接蹴らせ、初速を稼いで戦域を移動する

 

 

「さて始めるか、祐一」

「おう、いつでも来いっ!」

俺はいつものようにスロットルを押し込み、ペイントを撃ちつつ回避運動をって!?

「うっどわぁぁ〜!!」

目のまわる感覚に声が出てしまう
く・・・世界が回る・・・

「何やってんだ、お前?」

だが俺に答える余裕は無かった。暴走を止めようと逆噴射すれば
またそちらへと暴走する、情けないにもほどがある状況だ

「お前、まだその機体使いこなせてないだろ」

「実はそうみたいだ」

なんとか静止はしたものの、上下は逆である

「ったく、まさかキャニーがいないとこうまで大変とはな」

普段何気ない行動の節々にキャニーのサポートがあったことを
いやみなぐらいに感じることとなったのだ

『大変そうですね、祐一さん』

通信でキャニーが呼びかけてくる。ちなみになぜか手には
ティーカップが握られている
・・・紅茶、里村さんか・・・

「キャニーか、手助けは無用だぞ・・・よっと」

なんとか上下を合わせたものの、どうにもうまくいかない

「だぁ〜っ、もう見てられん。祐一、いいかそういう場合はだな・・・」

敵意を霧散させて近づいてくる浩平に不本意ながらもレクチャーを受けることとなった

 

 

「ふふっ、あの子もしっかりと先輩やってるわね」

「本当ですね。まさか浩平が人にものを教えるなんて」

由起子と茜の感心した声も耳に入っているのかいないのか、
キャニーは自分がいないことでブースターの制御ひとつにも苦労している
祐一を気が付かないうちに心配そうな表情で見ていた

「そんなに心配?」

「ええ、まあ」

指摘されて自分がそういう表情をしていると始めて気が付いたのだろう
戸惑った声をあげるキャニー

「今のあなたの顔、あの子達とは別物な感じね」

「別物?」

「ええ、まるで可愛がってた小さい弟を一人で
出かけさせるときみたいな顔してたわよ」

「そんな顔、してました?」

驚きと意外を顔に出して祐一たちと由起子ことを
聞きながらキャニーは見比べる

「あ、ほら。祐一君ようやくコツを掴み始めたみたいね。
動きが少し安定してきたわ」

指摘どおり、ふらつきの減ったカノンがようやく正面からリガズィカスタムと対峙する

「あ、浩平ったら祐一君が慣れてきたのに気付いてからかい出したわね。
あの子の悪い癖ね」

 

 

 

 

 

「猫さん触れないんじゃ猫さんもかわいそうだね」

ほとんどアステロイドの無い開けた場所での打ち合いは
徐々に場所を移動しているものになった

「うー・・・そうかなあ?」

「うぐぅ、なんで話ながら撃ち合いできるの?」

「さあ? まだあゆちゃんにはわからないことなんじゃない?」

ぴくっとあゆの頬が詩子の言葉に反応する

「うぐぅ、お子様じゃないもんっ」

「可愛いって言おうとしたのに・・・変な風に伝わっちゃったかな・・・?」

苦笑いする詩子の手がスロットルを軽やかにすべる

 

「わたしが・・・どんなに猫さんが好きなのに悲しいか、
触れない理由が無い人にはわからないよっ!」

「わっ、そんなこと私に言われても困るよっ」

こちらも妙な具合に話がこじれたらしく、名雪が瑞佳を狙い撃ちしていく

 

 

 

 

 

「はぁ・・・」

「心中お察しします」

額に手をやる由起子に苦笑いする茜と美汐

どちらも祐一たちの戦いに目を離した隙にまさかこんな争いが産まれるとは予想していなかったのだ

「あ、でもダイアナの装置はT-LINKほどじゃないにせよ意識を使う物ですから、
ある程度敵意とかに敏感みたいですよ」

あゆの回避運動を見ていたキャニーがつぶやく

名雪はよくある見るを含めた慣れの回避だがあゆの回避運動には完全な予測
から来る回避運動が混じっていることをキャニーが示す

「あ、このままだと・・・」

「ぶつかりますね」

美汐が驚き茜がつぶやいた理由、それは・・・

 

 

 

 

「わっ!?」

自分の進行ルートに見覚えのある存在、広瀬の機体を認め、
慌てて回避コースを取る詩子

「そこだよっ」

「うぐぅっ!」

気が付き回避をする瑞佳よりも体勢を崩した詩子を、と
二人分の射線が集中する

間にいる広瀬を巻き込みながらペイントが飛び交う

「これでっ! あ・・・」

「あゆちゃん!? あ・・・」

あゆの身に何が起きたかを聞く前に自分にも同じことがおきたことを名雪が悟る

「弾切れ、なんだ」

「みたい・・・」

射撃のタイミングを逃し、無防備な姿をさらした
二人の機体がペイントで染まり、負けがその瞬間確定した

 

 

 

「前半に撃ちすぎてますね」

「まあ・・・冷静じゃなかったみたいですし」

自分達は模擬戦に参加できない分こういった部分で学ばなければならない

各自の癖や得意なことを十分見抜く必要があるのだ

その目的は大体達せられたといっていいのだろう

 

「ようやくまともに動かせるようになったぞ」

はぁ・・・なんか戦う前から疲れたぞ・・・

『おめでとうございます。でもかなりお疲れのようですね』

キャニーのねぎらいの言葉が逆に耳に痛い

「うむ、そうだろう。過酷な訓練だったからな。祐一といえど疲れる
のは当然だろう」

余裕をかまして笑う浩平をとりあえず睨んでおく・・・

「なにが過酷な訓練だ。人を散々おちょくりよってからに」

人がこうか、と思えば嘘の助言を混ぜたり本当の助言だったり、
レクチャーなんだからいたづらなんだかわからない時間だったのだ

疲れないほうがどうかしてる

「んなこと言われても俺はお前のすること見てるだけで暇だし・・・
それに目の前にからかいがいのありそうな奴がいるんだ。
からかわないわけにはいかないだろう」

「その辺の発想をおこっとるんじゃぁっ!」

半ば八つ当たり気味の怒りが声になる

確かに制御がうまくできない俺ができることと言えば
とにかく体に覚えさせることだけであり、
浩平はとにかく暇なのだ

口で言おうと実際に行うのは当人なのだから・・・

F1の加速に普通車の小回りのよさを確実に物にせねばならないのだ

浩平ができることと言えば助言のみ、もっとも助言になってない時間も多かったのだが・・・

「お前、相変わらず変わらんな」

普通に最後に会ったのは引っ越す前、選別だと渡されたお守りの中身は出産用だった

無論、即効で握りつぶしたが・・・

「ふ、まあな。でもお前もそうだよ、こんなことに巻き込まれてるってのに
変わっちゃいない」

「そうだな。名雪達にも七年ぶりに会った時にも同じこと言われたよ」

「人間、根本的なとこは変わらないもんなんだな。
さて、そろそろ始めるか。もう大丈夫だろ?」

「ああ、待たせたな。行くぜっ!!」

万全とは言わないがかなり今までの感覚がカノンと俺をつないでいるのがわかる

「ん? あれは瑞佳達か?」

浩平のつぶやきを罠かとも警戒しつつ、レーダーの反応どおりに向けば
先に終えたのか、あゆのダイアナを含めた組が戻ってくるところだった

あゆは確実に俺のほうに近づいている

速度もかなりのものだ

「ゆういちく〜ん」

ドップラー効果すら起きそうな状況のあゆの声、
俺につかまって慣性を殺すつもりなのだろう

両手を前に出して近寄ってくる

「お、あゆか」

一時中断だ、と浩平に言い、近寄ってくるあゆに近づき、
直前でブースターをふかして横に動く

ひょい

「えっ?」

間の抜けたあゆの声が響いたかと思うとカノンのわきをダイアナがそのままの
加速で駆け抜けていく・・・先は浩平

「うぐっ、よけてぇ〜!!」

パニックになりかけているあゆは自分でとめることを思いつかず、叫ぶだけのようだ

「よし、まかせとけ」

浩平の自信満々の声にふといつかの光景が蘇る

確かアレはいつかだったかの登校のとき・・・あ

「へ?」

いきなりのわけのわからない行動にあゆが目を丸くする。
そしてあゆはそのまま進み浩平の突き出した腕と衝突した。

「うぐっ!!」

戦闘状態の加速ではないとはいえ互いにトンを超える機体である
その衝撃たるや・・・

「く…よっと」

浩平はうめきつつも体勢を整えたようだ

だがあゆは・・・べちゃって音したしな・・・

「おーい、生きてるか?」

浩平の呼びかけにもあゆは答えない
それを知った浩平は胸をそらす

「よし、俺の勝ちだな」

『何がっ!!』

俺だけかと思いきや全員が同時に突っ込みを入れていた
当事者であるあゆもである

「なんだ、生きてたのか」

「うぐう、鼻打って痛くて返事できなかっただけだよ」

いつかのようにあゆは鼻をなきながらさすっている

「うう、祐一君が避けたあっ!!
しかもその上浩平君はカウンター入れたぁっ!!」

「えーとあゆ、今のは俺も一部悪かったと思う」

まさか浩平がこうするとは思っていなかった分確実に俺が悪い

「ふっ、この程度で音を上げるとはまだまだだな」

どうでもいいぐらいふんぞり返る浩平の声は偉そうである

「うう、ちょっと祐一君の側に行こうとしただけなのにぃ。
祐一君は避けるしその先にいた浩平君なんかカウンターを入れてくるし、
宇宙に来てまでこんな目に会うなんて、他の人はこんなことないよ」

「おめでとう、宇宙初だな」

真顔で褒め称える浩平が逆に面白いかもしれない

「全然ちっともまるっきりこれっぽっちも嬉しくないよっ!!」

「まあ落ち着け。浩平も悪気は……えーと、まあとにかく落ち着け」

無い、と続けようとしたが確実に悪気はあるはずだと気が付き言葉が消える

「祐一君も同罪だよっ!!」

「う……」

正論である。正論過ぎてうめくしかない

「あゆさん、相沢さん達はまだ模擬戦の途中です。一旦離れてください。
追求は後でいくらでもしていいですから」

「・・・・・・うん、わかったよ」

助かった・・・ってよく聞くと怖い言葉が混じっていたような・・・

美汐の声にしぶしぶ離れていくあゆを見ながらそう思った

 

 

 

十分離れてから模擬戦は再開された

 

「くらえっ!」

「なんの!!」

ざらりとした自分への意識が目で見るより早く
俺に攻撃を伝えてくれる

無論正確な方向や狙われる場所なんかはわかるはずがなく、
ただ狙われている、という感覚しかないのではあるが・・・

逆に俺の撃つペイントも浩平の小刻みな回避に全て避けられていく

ふと浩平の動きが一瞬止まり、すぐさま鋭い意識とともに
5発のペイントが見事なタイミングで飛来する

「くっ、うお!?」

避けきった、と思ったときに飛来した
意識を感じなかった最後の一発は危ないところで腕を掠めた

今ので並みのパイロットなら弾数分落とされているに違いない

直後の刺すような意識にブースターを一気にふかす

間一髪でその場を浩平の振るうサーベルがなぎった

「むう、速いな」

残念そうな浩平の声とは反対に、今の感覚に内心冷や汗をかいていた

「今のは何だったんだ?」

以前もどこかであった感覚、確か・・・あれは・・・

「簡単だ何も考えないようにしたんだ。とりあえず自分の考えをお前に
読まれないようにあまり動くことについて考えないようにした。
あまり考えなくても訓練のおかげで結構動けるし。
思いつきでぶっつけ本番だったがどうやらうまくいったみたいだな」

浩平の言葉にはっきりと思い出す

以前戦った赤いヒュッケバイン、あのパイロットも
念動力者との戦いになれていたのか、自分で意識を
読ませないようにしていた・・・

「さて、さっきは慣れてなかったから狙いにうまく集中できなかった
から逃したが次はそうはいかんぞ」

「へっ、二度も同じ手を食ってはやらんぞ」

さすがにぶっつけ本番なのか、意識の閉じ方が甘いのか、
完全に感じないわけではない

 

 

 

「考えずに動く・・・ほんとにそんなことできるんですか?」

「はい、出来ます。武道とかで無我の境地というものがありますがそれと同じ
ようなものです。何も考えなくても体に染み付いた動きでなら祐一さんに動き
を読ませないことは可能です。」

実際よほどの熟練者でもない限りとっさの行動をするまえに自分は
意識してしまうものだと由起子も付け加える

「ですが浩平ならそんなことしなくてもたいていは考えなんて読めませんよ。
ひねくれてますから」

「あ、いわれてみればそうね」

本人が聞いたらなんと言うのだろうか、キャニーは少し疑問を感じた

「そうですか。ですが相沢さんの方もかなりひねくれてますよ」

「そういえばそうでしたね。だから浩平とも気が合ったんでしょう」

自分達が何気にひどいことをいわれていることにも
気が付かず、祐一たちは戦いを続けていた

 

 

 

祐一たちと、同じく続いていた広瀬対佐祐理の戦いが終わりを迎えた

「今の戦い、あなた達はどう見る?」

「由起子さんの言ったとおり今のは倉田先輩の作戦勝ちですね。
周りの状況の利用、相手を誘導する能力、そして最後にしっかりと
広瀬さんを仕留められる腕前、自分の能力を見事に活かしきっていますね」

常に全体を見渡すことを要求される立場が多かった佐祐理は
自然と力量と状況を把握する能力を成長させていた。
どうすれば相手に不利で自分は有利か、
援護がないなら巻き込めばいい、佐祐理のねらいどおりに事態は動き
勝利は佐祐理の前に転がったのだ

「後は広瀬さんの方ですけどあちらは少し周りにもう少し注意を払うべきですね。
一対一ならともかく今のように多数対多数での戦いでは危険です」

遅れて美汐も続けて自分の考えを述べる
美汐の言った通り広瀬はこの状況を一対一と思いこんでおりその結果佐祐理の
誘導に気付かなかったのである

「よろしい、二人とも見事よ。しっかりとした目を持ってるわね」

由起子の先輩軍人としての態度がわずかに変わる

「これで浩平と祐一君の以外の模擬戦は終わったわね。ところでさっきも言ったけど
あの子達、応援してあげたら。あの子達も気合は入ると思うわよ」

驚くキャニーを尻目に茜と美汐は互いにそれぞれ通信機の元へと駆け寄る

「全く、あなたもいじわるですね。わざわざあんなこと言って・・・・・・
祐一さん達、困りますよ」
「いいじゃないの。面白そうでしょ」

それを聞けば誰もが由起子が浩平のおばであると納得するであろう

一方のキャニーもまんざらでもないようであるが・・・

 

 

 

(当たらんぞ・・・)

心で愚痴っても状況が好転するわけでもなく。
ようやく物にした速度を活かして浩平に休みない攻撃を繰り出す

こうして意識すると自分がいかにキャニーの補正に頼ってきたが
わかってくる。自分がやることが多いのだ、とにかく。

その分わかる、相手が浩平、いや
意識を閉ざせる行動を取れない相手でなければまず当てられているという
手ごたえを撃つたびに感じているのだ

これは初めての感覚である。浩平が最小限の動きで攻撃を回避しても
悔しい気持ちはあれどそれ以外は無い

「甘いぞ」

つぶやかれた声に続けて突き出されたサーベルを右に転じて
やり過ごそうとする

「甘いと言ったろ」

避けきる前に突きが斬撃に転じられる

経験から裏付けられた見事な攻撃。だが、事サーベルの扱いにおいては
舞じきじきに剣術の手ほどきを受けているのである

手早く自分のサーベルを振るい、それをはじく

機体の性能、念動力と言う点では祐一が。
浩平は経験、そして実力。念動の差が意識を閉ざす行動で埋められる

(ちっ、速いっ!)

 

浩平が完璧ではなくとも意識を感じさせない以上、
純粋に力勝負である

祐一はカノンの性能を徐々に物にし、浩平は経験に裏付けられた技術の応用が
カノンとリガズィカスタムの性能差を縮めていく

一進一退の進化劇は違った意味で終われなくなっていった

原因は二人にあるといえばあるという状況である

「浩平」
「相沢さん」

『なんだ?』

かけられた声に浩平と同時に返事をする

「負けちゃ駄目ですよ。ファイトです」

「浩平、ガッツです。頑張ってください」

『・・・・・・・・・・・・』

・・・え?

今の、美汐が言ったんだよな・・・

そう感じる前に耳にさらなる恐怖の始まりを告げる声が届く

「よーし皆で応援だ〜♪」

声の主は中学時代からトラブルメーカーであった詩子

「ううんと・・・祐一君、ちゃんと勝ったら避けたこと
問い詰めないであげるよ」
「あははー祐一さん、頑張ってくださいねー」

「折原君、負けないでね」
「浩平君、緊張とかせずに、リラックスだよ」

「ドラマでは応援が勝利の左右を分かつものが多いです。
なら私も頑張って応援を・・・」
「みゅー、こうへいは勝つよねっ」

耳に届く声はどれも期待とある種の脅しに満ちていた

「なあ浩平……」

俺はさすがに浩平に向けて別回線を開く

「みなまで言うな。わかっている」

細かい切りあいを繰り返しながらほぼ接触回線の
距離で静かにやり取りをする

そうでもしないと怪しまれるし聞こえてしまう

「この状況を打破するには方法はただ一つ」

「ああ」

このまま行けば出力的にカノンが押し切れてしまう

これは戦っている二人が一番よくわかることだ

だがそうなれば勝っても負けても何が起こるか
想像するだけで恐ろしいと二人は思っている

会話をしようにもまともに切りあうわけにもいかず、
わざわざ何度も切っては離れ、切手は離れることを
細かく繰り返すしかないのだった

二人が打ち合わせをしていくうちにも開いたままの
(閉じるわけにも行かないのだが)
回線から次々と声が届く

二人にとっては開けたくない扉への鍵

 

「浩平っ、負けたら駄目よっ!!」
『先輩負けちゃ駄目なの。負けたらお寿司おごってもらうの。
みさき先輩も一緒なの』
「浩平ー、負けたら特別ワッフルがまってるよー」

最後の言葉にいつも温厚な長森さんが・・・と
祐一はショックを受けつつワッフルの脅威に浩平がさらされることに同情する

一方・・・

「祐一、負けたら特訓特盛りコース」
「謎ジャムもつくよー」
「負けたら許さないんだから!!こてんぱんにやっつけちゃって」

何を特盛なのかはわからないが、このテンションからしてあまり食べたいものではないに違いない
しかも謎ジャムである。以前使徒ジャムを尋問に使った身としては
その元祖である物体に祐一が王手をかけられるさまを想像し、恐怖すると同時に哀れむ

どちらにせよすでに応援というより脅しに近いものになっていることに
気が付いているのは祐一と浩平、そして由起子、キャニー
呆然と事態を見詰める神楽ぐらいであった

 

「うう、怖い」

「いくぞ、浩平」

聞こえる浩平の言葉に心底同意しながら合図代わりに行動に移す

 

その言葉を合図として浩平がグレネードを、祐一がミサイルを放ち、
それら虚空でぶつかりそれぞれを巻き込んで爆発し、そこの周りに
煙が広がる

「ふぅ・・・」

成功したことに声をもらしながらも浩平と同じくその中に突っ込む

 

煙は濃く、中で何が起こっているのか全くわからずに皆、先ほどまでの
オーラは消えそれぞれが煙の方を見つめている
そうしているうちに次第に煙が晴れてきた。そして一体の影が見えてきた

「あうー、あれはどっちなのよぅ」

「落ち着きなさい真琴」

「あ、あれ浩平だよ」

瑞佳の言葉通り先に姿を現したのは浩平だった。だがその機体の首元には
煙の中から伸びた光が、そして腹部には銃口が押し付けられていた

まだ煙で隠れていた祐一の機体が姿を現した。
それは浩平と全く同様にサーベルとライフルをつきつけられている
状態だった

その状態を見つめる中、どちらとも無く武器を下ろし、そして同時に
呟いた

 

『引き分けだな』

心のうちは成功したことに安心する気持ちでいっぱいである

これでどっちも顔が立つ・・・ふぅ

 

 


「やっぱりこうなりましたね」

「あんたも気付いてたの?」

「二人が接近戦を妙に長く続けてた辺りから何かやるだろうとは
思ってました。」

当然と言う顔をする由起子にキャニーが返す

「それにしても残念ねー。あの子達戦いながら凄いスピードで成長
してくんだもの。もうちょっと見ていたかったわ」

「だったら最初から焚き付けなければ良いでしょうに」

残念そうに言う由起子に対し、ジト目でキャニーが由起子を見る
最終的には性能の差が出てくるはずだがまだあのペースでは先だったに違いない

「そうなのよね。でもまさかこうするとは思わなかったわ」

そして戻した視線の先には二人して戻る祐一と浩平が写る

「でもあの子達のはああいう感じで終わった方が良かったかもね」

「そう…ですね」

通信画面から送られてくるそれぞれの表情や言葉を見、そして
聞きながら二人がそう漏らす

 

 

 

 

中編に続く

 


あとがき

はい、予想以上に長くなったので一編どころか三篇になりました(汗

この三編を終えるとようやく往人たちが地球圏に帰還したことがわかる
タイムテーブルとなっております

 

インパクト燃え〜・・・

く・・・アドバンス買わねば・・・劇場版ナデシコのために(涙

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