「MSと違って部品が交換しづらいのよ、注意することね。
後…忘れないように、物は交換できても命は交換できないわ」

度重なる衝撃と、戦闘行動によってカノンは予想以上の被害状況だったため、
カノンには乗らずに俺はシャトルで移動していた

無事なメンバーは今もコンテナを護衛しながら帰還している

そんな中、俺は由起子さんから忠告を受けていた

(部下に躊躇がなかったら俺は死んでいた)

ギラ・ドーガの銃口がこちらを向いたときのあの感覚

…死を目の前にした恐怖

生き残ってきた故に、薄れていた生死の飛び交う戦場にいるという危機感

「はい」

俺は深深とうなずいていた

「小坂隊長、シャイン・シーズンより簡易報告です」

「ありがとう。…」

美汐からのプリントアウトされた資料に目を通した由起子さんの表情は険しいままだ

「…あちらも交戦したようね。しかも相手はイングラムよ」

つながったままの各通信や、船内に緊張が走る

「それと、浩平達も久瀬、だったかしら。彼らと接触しているわ。同じことを言われたようね。
また、北川潤軍曹および美坂香里軍曹は彼らに保護された…という事実が確認されたわ。
他の嬉しい知らせとしてはもうすぐロンド・ベルが戻ってくるそうよ、早い話が生存報告ね。
…話は変わるけど、美坂栞軍曹、ラビアンローズに到着次第整備班と協力して整備を徹底して頂戴」

『わかりました。…あの』

何か言いたそうな栞に由起子さんは微笑んで口を開いた

「ええ、落ち着いたら行動を許可するわ。ぜひとも連れ帰してきなさい」

『はいっ!』

栞は嬉しそうに微笑み、通信を切った
ラビアンローズも近くなり、全員着艦体勢に動き始めた

他の皆の通信も切れている

「…とは言え、その時間をどう作るかよね…」

そのタイミングをはかったような俺に向かっての苦い笑みにはさまざまな思いが込められていた
俺には、それに答える言葉が無かった

往人さんたちが無事だという知らせの衝撃もあったからだ

 

 

そして、着艦…

 

 

 

カノン大戦α

〜戦場を駆ける奇跡〜


第三十三話

〜姉妹の輪舞(ロンド)〜後編

 

 

 

〜ラビアンローズ内ブリーフィングルーム〜

「はぇ〜…大型の建造物、ですか?」

「…しかもこの集合規模…一体なんなんでしょうか」

「ここからはすでに散布されたミノフスキー粒子によって詳しいデータが回収できないわ。
浩平、そっちの消耗状況は? ざっとでいいから報告お願い」

佐祐理さんと里村さんの言葉を受けて由起子さんが浩平のほうを向く

「イングラム少佐との予期せぬ戦闘のため、ニーベルングヘルディンへと合体を実行。
戦闘による損傷そのものは軽微ですが他は時間をください、としか言えない消耗です」

てきぱきと言外部分の報告を文章にまとめたものを手渡す浩平

…手馴れてるな

「…なるほど。美坂軍曹?」

『あ、はい。スタッフの協力のおかげで補給作業や消耗したカノン以下機動兵器の
調整は順調です。数時間もしないうちにほぼ終了すると思います。
ただ…ニーベルングヘルディンへの合体への影響は未知数としか…』

デッキからの通信が即座に帰ってくる

「ありがとう。聞いたわね。出撃可能になるまで可能な限りの調査は行うわ。
パイロットは各自確実な休養を取って出撃に備えること、以上」

一次解散の合図を伴い、俺達は各自自由行動となる

俺は…どうするかな

「あ、相沢少尉、T−LINK関係の調整には立ち会ったほうがいいと思うわよ」

背後にかかった由紀子さんの声に軽く振り返って会釈し、そうすることにする

・・・

・・

「幸い重要な部分へは被害は出ていませんでした。おかげでここにあるものでも
調整ができます。コックピットに入ってもらって調整お願いしますね」

「栞。無理はするなよ」

仕事に打ち込むことで感情を押し殺すように見えて少し痛々しかった

「大丈夫ですよ。無理をしたらお姉ちゃんに怒られちゃいます」

微笑む栞をどこか久しぶりの感覚で抱きしめる

「だめですよ。あゆさんや名雪さん達に申し訳ないです」

「高画質で動画でも送信しますか?」

「どわっ!?」

耳もとにかけられた声に栞を抱えたまま振り返る

「えぅ…いつからです?」

「さあ、いつからでしょね?」

にこにこしているが、カノンのそばにいたのだからほぼ最初からだろう

「ところで、キャニーのほうの調子は大丈夫なのか?」

ごまかしついでにここに来た理由の一つを聞く

「ええ、一時的に性能が低下していただけでしたから、調整時間さえもらえれば回復できましたよ。
とはいえ、たまたまですから、今後もT−LINK周りの消耗を考えると物資と知識をもったスタッフが
いてくれたほうが確実な調整が可能だと思いますよ」

キャニーの言うことはもっともである

浩平たちの報告ではもうすぐロンド・ベルが戻ってくるという。一度相談してみよう

「俺が必要なことはあるか?」

「ええ、一度システム周りの調整の成果を見たいので、
実際にシステムを稼動していただきたいです」

「じゃあ私は他の整備に回りますね」

栞が笑顔で作業へと戻っていく

「で、動画はどうしますか?」

「破棄してくれ…」

軽い頭痛を覚えながらカノンのコックピットへと移動する

 

 

〜ブリーフィングルーム〜

「女三人集まれば、ね」

「オレは慣れましたよ、さすがに」

わいわいと談笑するメンバーを横目に真剣なまなざしの二人

「で、浩平はどう見る?」

「…まず、形勢がひっくり返りかねない何かをジュピトリアンは持っている。
これは間違い無いだろうと思う。そうでなければわざわざ見つかるのを覚悟で陣を展開したりしない」

プリントアウトされた対象の宙域を指差す浩平

「そうね…。となると…何かの兵器的な建造物…、かしらね」

その後もいくらかの会話を交わし、二人は議論を続けた

 

 

 

 

「…祐一、これ」

整備も終わり、さあ…というところで舞が二振りの鞘を持って近寄ってきた

「…これは?」

俺から見てもずいぶん立派な威圧感を感じる二振りだ

「…私の師匠は一刀と二刀の両方の師匠だった…私は一刀、だから…」

確かに俺は二刀で戦うときもあるが…

「急にどうしたんだ?」

「…祐一、ハイパー化、聞いたことある?」

「ああ、一応は」

舞がサーバインを正式に受け取る際の注意点にあったはずだ

「…これから先、そうならないとも限らないから…渡す」

舞の目は澄んだ泉のように俺だけを映す

「舞…笑えない冗談だぞ。舞がそんな状況になるということは俺たちもどうなってるかわからないじゃないか」

それほどの窮地か、特殊な状況ということだからな

「…わかってる。普通に渡したんじゃ絵にならないから…」

「…」

ぽすっ

「…痛い」

とりあえずチョップを食らわしておいて、二振りを受け取る

「…それだけ」

「ああ、わかった」

舞は本気でそれだけの用事だったようで、手早くサーバインへと歩き出していった

…これは、少しは社交性が出たとでも考えるべきなのだろうか…

その答えは考えても出そうになかった

「…祐一」

「ん?」

終わりかと思ったがそうではないのだろうか…?

「…不思議に思ったことはない?」

「? 何をだ?」

俺が問い返すと舞は押し黙り、しばし考えた様子で顔を上げた

「…なんでもない」

そして改めて歩き出してしまった

俺はそんな舞の様子に顔を傾げるだけだった

 

 

 

 

そして俺達はラビアンローズを発つ前の最後のミーティング

 

「もう一度説明するわね。現時刻を持ってプロミスリレーションおよびシャイン・シーズンは
共同でジュピトリアンの集合宙域へと調査ならびに戦闘行動を前提とした進軍を行うことを決定したわ。
集合の理由が判明次第、それの目的を妨害、ただちに離脱を行うのよ。その作戦目標は
集合目的と敵陣営の混乱、以上。敵の全滅はこちらの戦力的に不可能でしょうから、
目的を達成、もしくは撤退すべきとなればすぐさま撤退よ」

「隊長、目標がなんらかの兵器的な建造物だった場合も含め、まとめてGイレイスキャノンを
撃つのは不可能でしょうか。敵の反撃を考えるとベストに思えますが」

俺は思ったままに聞いてみる

「そうね。普通の建造物だったらそれも可能でしょうけど、
なんらかのエネルギーを保持していた場合爆発やその衝撃は
撤退が間に合わない規模で訪れる場合が考えられるわ」

…仮に複数の核兵器でも準備していたとしたらそりゃ逃げられないよな…

「こちら側は少数による切込みを中心に一気に陣営をかき乱し、
その隙に本隊が周囲の敵を掃討しながら敵建造物の詳細を把握、
切り込み部隊により突破口を開き、双方を持って妨害に移るわ」

「こちらは…俺と…舞は確定か。真琴、行くか?」

「あぅ? あ、うん」

返事は軽いが目は真剣に向けてくる真琴がうなずく

「私も行きます! Sガンダムで・・・」

栞が一歩踏み出し、強く叫んだ
S…スペリオールガンダム。話によればロンド・ベルに受領されているZZガンダムの
後継機にあたる機体らしいが、フォーミュラシリーズなどの小型MSに
上層部の注目はうつり、コスト的にもSガンダムは追加武装案とその試作を残して
開発が中途したと説明を受けた。メタスが戦力的に穴になりかねないので栞が受領するようだ

「そうね…スペリオールなら戦力も不足しないでしょうし。許可するわ」

由紀子さんは栞の考えをわかっているようだった

なぜ久瀬達が情報を渡してきたかはわからないが、
教えた以上、経過を確認にくるだろう…

そこで香里に会えるかもしれないということだ

浩平側の人選も終え、出撃となった

 

 

 

 

 

「キャニー。どう思う」

「祐一さんがどのことについて聞いているか判断しかねますが、
作戦のことについてなら最悪でもジュピトリアンの狙いはおしゃかですね」

笑っているようでその瞳はどこか真剣みを帯びていた

「そう、マスターがいる以上、いったん能力が暴走したらロンド・ベルの国崎機か、
とにかくT−LINKにかかわる有力機か、同等以上の機体を持ってこなければ
とめることすらできませんから…最悪でも周囲は破壊されますよ」

…安心していいのかよくわからない気分だ

それにしてもジュピトリアンが集合しているという方角から大きな意思の塊というか、
何か頭にのしかかってくるものを感じる

「…マスター?」

「ん」

キャニーがマスターと呼ぶときは何かなりの理由があるのだといまさらながら気が付いた

「もし…もしも…、自分が止められない、と本気で思ったら…言ってください。
私が…責任を持ってあゆさんたちには矛先が向かないようにして見せます」

「…ああ」

 

 

 

『祐一君、がんばってね』

「あのな、がんばるのはあゆも同じだろう?」

『うぐぅ、そっか…』

交わす言葉は軽やかだがあゆも覚悟が染み付いてきたように思える

脱出装置が働いているとはいえ、被弾個所や状況によっては
相手は脱出できていないのだ

それを抑えるのは得策ではないが耐えないのも戦いという点では問題だ

「マスター、自分の手だけを汚すことにならないのを悔やんでると
皆さん怒って飛んできますよ、きっと」

俺のみんなへの気持ちを感じたのだろう、キャニーがやんわりといってくる

「そうか…そうだな…。探査範囲を限界まで拡大。とにかくデータ収集だ!」

『全員聞いてるわね。グレイファントムおよびホーン・クラウド両主砲で
戦闘の口火とするわ。切り込み人員はそれと同時に進軍開始、いいわね!』

「了解。高速機動モード準備。真琴、変形はすんだな?」

真琴のZプラス以外にもSガンダムも巡航モードとして変形はあるが、
MS形態への移行はそう早くないので俺が抱えることにする

舞のサーバインは使い捨ての補助ブースターを装着している

『沢渡機、準備完了よ』

『おなじく美坂機、OKです』

『…問題ない』

「T-LINKシステムオールグリーン。いつでも行けます、祐一さん」

『作戦開始!』

主砲の発射に一瞬モニターが白く染まり、同時にカノンを加速させる

グンッとホーン・クラウドからも数条の光が伸びるのがわかる

あの形は…浩平のリガズィカスタムか…
それと二人乗りのVガンダム…後はF90か

 

確実に俺達は作戦宙域へと近づいた

「両主砲着弾を確認。敵機がこちらに進軍してきます」

来たか…

「撃ちもらした敵は後方に任せ、俺達は突っ切るぞ!」

栞を手前で離し、モニタに早くも写り始めた敵機の情報を確認する

「さあて…最初から手加減は無しだ! T-LINKソード用意っ」

軽くなった分さらに加速をし、抜きざまにすれ違った赤い機体を両断する

「高速機動モードカット! 機動戦サポート頼む!」

爆発の動揺を利用しモードを切り替え、意識を集中させる

「了解っ!」

瞬間、周囲からの俺への敵意が束になって襲い掛かるのがわかった

「シールド全方位展開!」

すべてがデータから防ぎきれる威力のビーム兵器だと
確認した俺はその場で防ぐことを選択した

光度を下げたモニターが白い色を混じらせる

衝撃が収まった瞬間、その場から飛びのき、
手近な数機にI・ランスを発射する

回避しようとする敵の意識に俺の力は反応し、追いすがる形となった

「フォトンライフル拡散モードっ。GO!!」

撃墜を確認する前に軌道を変え、左手でフォトンライフルを放つ

そして過ぎ去るビームの閃光

見渡す限り敵、敵、敵

拡散モードでひるんだ相手の間合いを詰め、腕を斬り飛ばして叫んだ

「状況は!?」

「沢渡機、美坂機が交戦中。川澄機がこちらに向かっています」

そして宇宙を白刃が舞い、俺を狙おうとした黄色い機体がそのライフルを切り落とされる

ゆらゆらと、すでにその剣はオーラをまとっていた

 

「やっちゃう?」

「…やっちゃう」

オーラのプレッシャーに敵が気おされているのを見越した発言に舞は頷く
シャンっと振り払ったオーラソードが音を立てたかのように光を散らした

「気合じゅーてん!」

戦闘には似つかわしくない声ではあるが効果は絶大だ

半透明のちび舞が淡く光り、舞へと、そしてサーバインのオーラソードへと伝わる

オーラ力と奇跡をつむぐ希望の力

「…オーラ・ウェイブ」

静かに、力は剣筋から開放される

白い死は殺気のより多い方向へと放たれ、そして威力を行使した

敵達は撃破されたことに気が付くまもなくその機体を爆発に飲み込まれた

 

 

 

 

 

 

「ビームコーティング!?」

ビームスマートガンがはじかれたことに叫ぶ栞

「真琴に任せて!」

真琴の意識下、時の遅くなった中で、すばやく間合いを詰めた真琴の操るZがビームサーベルを何度も
限界ぎりぎりの速度で振るい、敵機のタイヤのような部分が切り裂かれる

衝撃に浮き上がった敵機はZが構えたショットガンの射線上にあった

「終わりよ…」

宇宙では聞こえないはずの轟音が響いたかのような感覚の後、拡散することなく弾丸は敵機に突き刺さる

隙を突いて一気に襲い掛かる狐そのままに数秒で沈黙させ、その場を離れる

「栞! 勝手に読み取りなさいよ!?」

「はい、わかってます、真琴さん!」

過去、ホワイトベース隊のメンバーは互いが互いのセンサーになったかのように
近くで戦うと戦果を向上させたという

言葉を介さず、すべてを分かり合う様子で二人は背中を向けながら加速する

「止まってなんかいられませんっ! 行ってください、インコム!」

ファンネルやビットと違い、インコムは準サイコミュ兵器といわれ、一般兵でも扱うことはできる

だが、NTが使えばその行動パターン、反応速度は劇的に違う

気が付き、打ち落とそうとする敵機の射線から逃れながらインコムはその役目を果たす

次の相手を狙おうとした栞のモニタにメガ粒子に飲み込まれる敵機が写る

『祐一はどうだ』

「真琴達より先に行ってるわよ。とはいえ数が多すぎて取り付けてないみたい」

油断なく周囲にライフルを構えながら聞く浩平に返す真琴
合流した二人と浩平、さらに澪、みさき、繭の三人が円陣を組む

『グレイファントムより各機へ。敵建造物の詳細を確認。
巨大エネルギー砲です!!』

そこにグレイファントムからの通信が入り、緊張が走る

浩平達にもホーン・クラウドから同様の通信が入る

『聞いたな? この中であの規模をどうにかできるのは相沢機と川澄機しかいない。
オレたちは二人の突破口を開く!!』

「了解。栞、一気に行くわよ」

「ええ、行きましょう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵戦力いまだ健在。消耗率10%にもなりません!!」

「最初から無茶なことは承知しています! 戦線を維持することに全力をお願いします!」

(こんな発言、艦長のセリフでは…。それにしても一体どれだけいるんですか…)

美汐は痛いほどわかっている。だが現実はそんな発言しか許さなかった
祐一達は確実に撃破を重ねている。だが、敵は数に物を言わせていた

止めを刺されなかった兵士が後退し、新しく乗り換えてきている様子さえある

軍人としては甘いと誰もが指摘する部分がここで苦戦の原因となった

「各砲座継続して発射! 護衛戦力の負担を減らせるようお願いします」

自分にはMSを駆って戦う技能は無い

だが、彼らの帰る場を守る責任も覚悟もある

美汐はしかめた表情のまま、それを覚悟する

敵の建造物が判明した以上、無理してでも破壊を目指すしかない

放置すれば、ジャブローすら一撃で滅ぶ

地球上、いや射程に入れば宇宙でも逃れる術は無い

それが、建造物…「カイラスギリー」の正体だった

「小坂隊長機より伝達。『両母艦を持って敵本陣へ突入。
先鋒のカイラスギリー取り付きを確実なものにすることを提案。
護衛はこちらに任せて欲しい』以上です!」

「確認しました。総員につぎます。…全員生きて帰りましょう。突入開始!!」

 

 

 

「好きには…やらせないのよっ!」

一瞬一瞬、限界ぎりぎりの機動で由紀子のディジェが舞う

武装は各機の物を流用し、完全に活かしきっている

迫るビームの光を収束ビームサーベルでなぎ払い、見抜いたもろい部分へと最小限の攻撃を打ち込む

白銀の鷹、さまに獲物を狩る鷹そのものの無用な行動が一切無い一撃必殺の動きがグレイファントムに迫る敵機を確実に減らす

(あっちはあっちで戦力が残っているから…がんばるのよ)

七瀬ならびに広瀬機がいる以上戦力は二機ではない

(こっちはこっちでたいしたものだけど…)

由紀子の視界にピンクのミノフスキーシールドに叩かれたとしか
思えない攻撃を食らう敵機が写る

 

「正面4機、右上合わせて8機ですよっ」

『うぐぅ、キリが無いけど、やるしかないよねっ!』

佐祐理の報告にあゆが答え、生み出された光は確実に狙い打つ

とはいえ集中の時間は乱戦のため作ることは難しく、
一発一発の威力はそう高くない

「う〜、祐一にたどり着けない…」

悲しそうな声で、名雪は両手にそれぞれ持たせたビームライフルを放つ

それはあゆの攻撃で鈍った動きの敵機に直撃した

「敵さんの攻撃が薄い…? ううん、祐一君の方向にいっぱいいってるんだよね…」

敵の目的がカイラスギリーの発射である以上、こちらの破壊より防衛を選ぶのは自明の理だ

「そうはさせないよ…光よ!」

敵の攻撃がやんだ隙をつき、あゆは太目の矢を放つ

それはグレイファントムのコースを確保する一矢となる

 

 

「ホーン・クラウド本艦と平行して進行中。先鋒の相沢機より伝達。
『敵戦力の壁は厚く突破は容易ではない』以上です」

「…ホーン・クラウドに伝達。彼女らの合体攻撃で
突破口は開けないか協力要請をお願いします」

美汐はそう言いながらもこの状況では合体する隙を
敵がくれそうに無いことを痛いほど感じていた

(何か、何か一手…)

 

 

 

 

「ぐはっ…本気で一体どれだけいるんだ?」

「落としつづければそのうちわかりますよ。
もっとも、パイロットを殺す方向で攻撃すればもっと早いですけど」

キャニーの身も蓋も無い発言に頷いてしまう
とはいえ、それができれば俺たちも苦労しないのだが…

『祐一さんっ!』

「栞かっ?」

真琴を引き連れて、栞の乗ったSガンダムがビームスマートガンを周囲に打ち込む

『天野さんや里村さんが突破口を開こうと艦を動かしています』

「それしかないか…しかし、突破口を開こうにも数がありすぎだ…」

無言で剣を振るう舞も息が上がり始めている

打開する一手が…欲しい

「マスター、戦闘宙域の外に一機だけ反応を発見したんですが…」

そんな俺に届いた報告はなんら関連性が無いものに思えた

が…

『この感覚は…お姉ちゃんっ!?』

栞の声と同時に、俺たちしか知らない専用回線で通信が入る

『…今はこれっきりよ』

「香里!」

そして、数瞬遅れてキャニーが反応をキャッチした方向から
一筋の光がカイラスギリーへと伸びた

着弾

威力的には致命傷は与えられていない

が、敵の混乱を招くには十分だった

「…コード認証、システム起動! 舞、行くぞ!!」

カノンが爆発的な加速を産む

サーバインも遅れることなくそれに続く

動揺した敵機の間をすり抜け、俺と舞は最終防衛ラインを超える

「これでも…くらぇぇぇーーーーーっっ!!」

体からあふれそうになる力を押さえ込み、両腕に
それぞれ持たせたT−LINKソードへと
すべてを収束させるイメージで力を制御する

カイラスギリーの長い砲身、恐らくは射出部分に向かい
飛び込んだ勢いをそのままにまず右腕で袈裟懸けに一閃、
そして向きを変える間際になぎ払って一閃

「舞っ!!」

『あわせる…』

片方をしまい、両腕で一本を構える

下から救い上げるような俺の攻撃、
上から振りぬく舞の攻撃

「「月断!!」」

爆発がしそうな動力部分は避け、そうでない場所を同時に切りつける

T−LINKソードもオーラソードもまとう力が
長いエネルギー部分となり、直接の刃は触れていない

切り抜け、俺と舞は位置を交換するようになった

「はぁっ、はぁっ…やったか!?」

「ええ、カイラスギリー内部のエネルギー流動沈黙。目的達成です、脱出を!」

舞も動き出すのを確認し、俺は群がる敵をにらんだ

『祐一っ、何か来る!』

真琴が叫び、あらぬ方向から数々の攻撃がジュピトリアンの機体に注がれる

「なっ!?」

「私達とは逆方向より襲撃を確認!」

『少年、ここは見逃してやる。腕を磨いておくんだな。
変わりに動力はこちらが無力化させてもらおうか』

「あんたは…」

黒いギラ・ドーガ、闇の狩人の隊長か…

『そういうこった。小僧』

(フェンリル隊までっ!?)

声は地上で戦った男のものだった

「どうする…信用するのか…?」

「おそらくは相手も目的は同じでしょうね。
後は私達とジュピトリアン戦力、どちらを削ることを選ぶか…ですね」

いまだ襲い来る敵機の攻撃を裁きつつ、撤退のタイミングをうかがっていた

言葉を信じて背中を向けて終わり、は避けたい

 

 

 

 

一方あゆたちは…

 

 

 

「うぐぅ、疲れた…」

あゆの機体は攻撃方法がすべて精神力を使うものである

早い話、精神的に疲れてしまうのだ

「うん。持久戦は不利だよ…なんとかしないと…」

「七瀬さん達の合体ならなんとかなりそうですね〜」

とはいえ、この攻撃の中ではそうそうそんなチャンスはやってこないことは誰もがわかっていた

そのとき、カイラスギリーに光が刺さるのをあゆたちは見た

「うぐぅ、どこからの攻撃!?」

「それより、今です!」

おそらくこの隙に祐一たちが包囲網を抜けるであろうと佐祐理は推測した

予想通り、同じ考えをもった七瀬および広瀬機が
合体を試みようとしている連絡が来る

『なんとか援護頼むぞっ』

前線から短く通信を送る浩平の映像がノイズに消える

「あゆさん、名雪さん、なんとかここはお願いしますね」

佐祐理はシールドを広範囲で展開する準備をし、二機のそばに向かう

妙な動きをしているように見える二機に気がついた
周囲の敵機の照準が合わされるのを確認した佐祐理は周囲に展開する

…装備しているシールド専用のユニットを…

無数の攻撃が、一瞬早く形成されたシールドによって完全に防がれる

「あははーっ、ヴィクトリーシリーズ最新の防衛力をなめてはいけませんよ〜」

そう言い、まわしてもらったミノフスキーシールドを誉める佐祐理

「そう…時間は十分稼ぎました」

シールドが消え、さあ、と機会をうかがっていた敵機の一部が光に飲まれる

ニーベルングヘルディンへの合体が終わった証拠だ

「さあ、祐一さんたちの退路を確保しますよ皆さん!」

 

 

 

「後方で敵混乱を確認。エネルギー量からして七瀬、広瀬機の合体攻撃と推測されます」

どうやらこの隙にどうにかして合体をすませたらしい

「よし、この隙に撤退だ」

幸いにもか、ジオンサイドは俺たちではなく本当にジュピトリアンを攻撃し始めた

散発的に追いすがる敵機を手早く打ち落とし、撤退する母艦二つを援護する

「栞…」

「お姉ちゃん…どうして…」

香里は生きていながらも栞の元には戻ってこなかった

その事実が、栞のヘルメット内部に雫を浮かばせた

真琴はそんな状態の栞を気遣い、言葉少なに援護を続ける

 

「なんとか…生きたか」

俺は後方にいまだ光る閃光を見ながら深く息をはく

「大破0、こちらの目的は達成。これだけで驚くべき戦果ですけどね」

そう、そうなのだ

いくら俺たちの機体が限定機だとしても、
俺が念動力を持ち、真琴達がニュータイプ能力を持っているとしても…

戦死者が出ないというのは何か…腑に落ちない

もちろん、嬉しがるべきことだ
また、自分達の腕に自信を持つべきことだ

だが…だが…

俺たちはどれだけの訓練をしたのだ?

俺たちは…どうしてここまで戦えるのだ?

まるで奇跡の連続のような戦い

(…連続する…奇跡…?)

「マスター、通信です」

『全員に通達』

何かが頭に浮かんだとき、通信が入った
相手は由紀子さんだった

『先ほど行方不明だったロンド・ベルからの通信を確認。
作戦のため一度全部隊を集合させることが決定したわ』

そうか、帰ってきたのか…

 

 

合流してどんなことが待っているのか

それは何もわからないし、不安はいつも胸に渦巻いていた

そして…

 

 

彼が通信が来るまでに考えていたこと…
それについてかなり後に思い出すまでそれ以後、ずっと忘れたままだったことに
彼は最後まで気が付かなかった

 

 

 

 

〜???〜

「いいのか?」

「ええ…決めたことだもの」

そんな少女を見た少年は、あざの痛みに顔をしかめながらも
それを見せないように抱き寄せた

ウェーブのかかった髪が彼の首筋をくすぐる

「潤…」

 

「俺にまで嘘をつく必要はないだろう?」

優しく、それでいて力を与えてくれる声

あたしは…潤のそんなところを好きになったのだ

そして、それはあたしの心の堰を切り崩した

「う…うぁ…」

「わかってる…今は…耐えよう」

会おうと思えば会える。久瀬らもそれは否定しなかった

しかし、会いたくても会ってしまったら妹達は
精神的に自分を頼り、正しい方向への成長を抑えてしまうだろう

自分たちで行える導きなどはたかが知れている

よかれと思った見守る役が思わぬところで
枷になっていたことを離れて感じたのだ

(栞…今は…許して)

彼の胸に顔をうずめながら、あたしは空の彼方の妹に祈った

 

 

さまざまな思惑が飛び交う空に…

互いは離れても互いを思う姉妹の心が踊る

 

 

 

 

 

 

続く

 

次回予告

無事に戻ってきたロンド・ベルと合流する祐一達

実質、地球圏最大の部隊たちは
事態を一気にひっくり返すべく部隊を分けることになった

月へと向かうことになったグラン・ガランおよびロンド・ベル隊の一部

月と、地球と…宇宙

戦いの火花はあらゆるところで跳ね、
そして新しい叫びと、悲しみを産む

「死んでもここを…通さないっ!!」

カノンの背後に大切な人のいる場を位置させ、祐一が叫ぶ

勝つのは非情な現実か、祐一の叫びか…

 

次回カノン大戦α〜戦場を駆ける奇跡〜第三十四話

「戦場の冷たさ」



あとがき

お待たせしましたって立派な文庫本作家でもないのに、と自分に突っ込みを入れている今日この頃

皆さんどうお過ごしでしょうか。

ときなさんのパートも終わり、次回からはバトンタッチとなります。

やっと終わりが見えてきて、イベントも盛りだくさん

今後はとっとといきたい・・・というか在学中にはこのシリーズは区切りつけたいです、先生(死

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