それらが何か、知る存在にとっては
畏怖であり、邪魔な存在でもあり…希望でもあった

地表から忽然と消え去ったはずのロンド・ベル旗艦、さらにはオーラシップ二艦

そして、シャイン・シーズン旗艦ホーン・クラウド、プロミス・リレーション旗艦グレイファントム

艦隊としては数はそこそこ、しかし…

集結しようとする彼らは地球圏で最大規模の1つとしてふさわしい力があった

そう…十分に

 

 

カノン大戦α

〜戦場を駆ける奇跡〜


第三十四話

〜戦場の冷たさ〜

 

「彼らが無事ということは、何らかの転移現象が起きたということでしょうね」

「まるでSFだな…というか俺たちの状況がSFそのものか…」

ブリッジの一角で俺はキャニーの言葉に耳を傾けていた

気に入ったのか、手のひらサイズのキャニーがぺらぺらと電子データの紙片、
まあ視覚化してるだけだが…それをめくって報告してくれる

カイラスギリー無力化後、補給をかねたロンド=ベル隊との合流に俺たちは資源惑星フィフス・ルナへと向かっていた
ラビアンローズもそちらに向かい、フィフス・ルナの資源を用い全艦隊の作業を進めるらしい

短く伝えられた電文によれば合流後、艦隊を分けて作戦活動を行うということだ

俺たちはブリッジ近くの場で語らっていた

「唐突に戦うことになってしかも相手は異星人、まるでアニメそのままですよね」

栞はフィフスルナにつけば大量の作業が待っている
本来パイロットなのだから必要無いのだが、
少しでも…との本人の希望で兼職となっているのだ

「あぅーっ、そんなのダメよ!」

「真琴、何がダメなんだ?」

不思議そうに聞きかえすと、怒った様子で真琴が指を突きつけてくる

「アニメとかじゃ味方が死んじゃって仇は取る!とかなるのがパターンでしょ」

…なるほど

「そう言われればそうだな。そうなりたくはないよなあ…」

宇宙に光る星を眺めつつそうつぶやいた

視界には一定の距離で同じく進むホーン・クラウドがある

「ところで祐一、どうしてそれ持ったままなの?」

名雪が指差すのは俺が身に付けている二振りの剣

舞から受け取った奴だ

「大切なものだからな、やはり身に付けておくものが筋かと思うぞ」

言った瞬間、背後に殺気が生まれる

「うぉっ!?」

その場を飛びずさり、双剣にそれぞれ手をかける

「…」

「…」

鞘に入ったままの剣を俺に向かって振った舞がそこにいた

「…ちゃんと避けた。偉い偉い」

「あはは〜、舞はお茶目さんですね〜」

…いや、そうなのか…?

舞についていっている佐祐理さん以外は事態に追いついてきていないが…

 

 

 

 

 

「艦長、リーンホースJrならびにオーラシップ二隻の到着を確認しました」

その後、一足早くたどり着いた俺たちに遅れることほぼ半日、行方不明だったメンバーが合流した

修理の間に、俺たちは共だってリーンホースJrでの会議に参加することになった

「どうして行方不明になったか聞けるんですかね」

「さあ、わからないわ。今はそれよりも大事なことがあるでしょうしね」

年齢的にも(失礼)経験的にも由紀子さんは俺たちの隊長のような位置にいる

ともすれば緩みがちだった緊張感が常に引き締まっているかのようだ

でも…本当の隊長ではない。いつかは自分達で今の雰囲気を作らなければいけないのだ

 

 

「艦隊を三つに、ですか」

「ああ、現状存在する問題に対処するにはそのほうがいいと判断した」

静かに響く美汐の声とブライト艦長の声

地上で侵略の道を選んだドレイク軍、そしてティターンズ、
宇宙ではエアロゲイターとコロニー、そして
ロンド=ベルの出会った俺たちの知らない複数の陣営

それらにそれぞれ交渉を行うというものだ

リーンホースJrはネオ・ジオンとの交渉、グラン・ガランは月へと向かい、各コロニーの説得、
そしてゴラオンは地上でのバイストンウェル軍やティターンズを担当することになった

陣営の数と、コロニーは当然複数あること、そしていつ外来の攻撃を受けるかわからないということで
宇宙のほうへと戦力を多めに割り振るために、浩平達シャイン・シーズンはリーンホース部隊へと同行し、
グラン・ガランへは俺たちが同行することになった

その中でも舞と佐祐理さんが地上方面、そして栞がアクシズ方面へ。
逆に浩平達から澪と川名先輩が、そして遠野さんとみちるがこちらに出向するらしい

ブライト中佐から各部隊への戦力の割り振りが発表され、
俺たちはその場を解散することになった

 

機体の搬入が進む中、パイロット達は各々自由な時間を過ごしていた

 

自然と俺たちは集まり、互いのことを話し合っていた

「祐一、…観鈴には…会ったそうだが?」

「ええ…記憶喪失…という感じでした。
宇宙に来てからは出会ってませんが…」

俺の答えに往人さんの顔が少し曇る

「気にしないでくれていい…あいつは俺が…必ず取り戻す」

最後の言葉を言い切った往人さんからわずかに圧迫感がやってくる

感情の高ぶりに相まって力が放出されたのだろう

「…強く…なったようだな」

何かを悟ったように往人さんが俺を見てくる
この力に関しては往人さんのほうが何倍も経験がある

ましてや力の正体を把握した以上、どんどん扱いをうまくしているに違いない
同時に近づけば強さの程度ぐらいはわかるのだろう

「なんとか、生きてますよ」

頭をかいた拍子に腰の鞘が音を立てる

「剣か…俺は操縦はともかく剣技は素人だからなあ…」

悩む姿は昔と変わらないままの往人さんだった

「俺たちは月ですが往人さんは地上ですか?」

今の話から、神尾さんに会うならば地上が確率が高い

「ああ、地上にいるような気がしてな…偶然かはわからないが、
最初から地上の申請をしてある」

艦内放送が響き、作戦が開始されることになった

「がんばれよ」

「はい」

力強く手を握る往人さんの手は前のように大きくて、暖かく、
日常がすぐそばにあることに、俺はふと…安心してしまった

そして、自分がそんな日常と今は離れた場所にいることを再確認したのだった

…艦隊はそれぞれに目的地へと出撃する

 

 

 

 

「急に減っちゃったね」

「ああ、だけど皆なら大丈夫だろ」

名雪とともに格納庫へと歩きながら答える

真琴は美汐と一緒にブリッジだ。
栞と舞、そして佐祐理さんの三人が別行動となる

「あれ、あゆちゃん」

「うぐぅ、名雪さん、それに祐一君。格納庫に行くの?」

先に行っていたのか、あゆが格納庫の方向から歩いてきた

「ああ。あゆはどうするんだ?」

「ボクは少し休憩にするよ。ダイアナはすぐ疲れるから…」

あゆは笑うが、確かに少し疲れた様子だ

「大丈夫? 部屋まで送ろうか?」

あゆは名雪に首を振り、じゃあね、と歩き出した

俺たちはあゆを見送って格納庫へと踏み入れる

「あれは…ヴァルキ・・ぐふぁっ!?」

「元気だったかー!」

お腹にめり込む異音、犯人は目線が一緒になった相手

「くそ…不意打ちとは卑怯な」

うずくまりかけながら、犯人であるみちるを見る

明らかに慣れて来ている。もしかしたら戦闘訓練でも受けているのだろうか

「遺言は何にしますか?」

「まだ死んどらんわっ!」

腹に気合を入れ、なんとか立ち上がる

視線に入るのはこちらに出向してきた遠野姉妹だ

騒ぎを聞きつけてか、先輩らもやってくる

「元気そうだね。祐一君」

「取り得だからな」

「え〜、いつ取り得になったの?」

名雪のつっこみに脱力する

「名雪、そこはつっこみ所じゃないぞ」

『先輩らしくて面白いの』

相変わらず澪は素直に笑ってくれる

「しばらくは一緒だな。4人とも何はともあれよろしく頼む」

4人はそれに笑顔で答えてくれた

 

〜グレイファントムブリッジ〜

「少し…寂しいですね」

部屋に戻った真琴のぬくもりを探るように手を動かしながら美汐は誰にでもなく小さくつぶやいた

艦長であるからには非常時でなくとも、ブリッジにいて事態に備えなくてはならない

本当ならば真琴と、祐一らと語らったり、一緒に笑いたいのだ

しかし、なかなかそれはかなわない

年頃の少女としてはかなり辛いことなのだろう

だが、自分が彼らの帰ってくる場所を、笑顔を守ってるのだと
帰還報告を抱きついてきながらする真琴を見るたびに彼女は思うのだ

「艦長、月ネオ・テクネチウム基地からの誘導ビーコンを確認しました」

「はい。誘導にしたがってグラン・ガランに続き着艦します。
警戒は怠らないようにお願いします」

美汐は考えを振り払い、目の前の現実に集中する

『ねーねー美汐。基地についたらどうするの?』

「多分、半舷休息は取れると思いますよ、真琴」

手元のモニタに微笑む美汐

ブリッジのメンバーも細かい部分はともかく祐一達の関係はもう知っているようで、
美汐が艦長らしかぬ口調であっても気にしない

むしろ、祐一達少年少女すら前線に狩り出している現実を見据え、
大人としての義務に半ば目覚めているかのように暖かく見守るのだった

 

 

 

 

 

〜月、ネオ・テクネチウム基地〜

俺は真琴と名雪を引き連れて基地へと降り立った

「ねえねえ祐一。どうして月って色々な陣営の基地があるの?」

真琴の質問に俺は頭をひねるがいまいちわからない

確かに色々な陣営の基地があるよなあ…

「資源と…地上では成し得にくい低重力下、
というものは合金や開発作業には都合が良いんだ。
本当に一番なのは無重力だと思うが、コストがかかるからな」

雑誌などの知識から適当にでっち上げてみる

「ふーん…そうなんだ」

だが真琴は信じたようである

「月とは言え、ようやく帰ってきたって気がするな」

近くにいた…確かマジンガーZの操縦者の甲児さんだったかな、の感慨深い声がする

「ついこないだまで冥王星とか土星にいたからな」

それに答えるように数人も同様の声をあげる

確かに彼らは話によれば太陽系ぎりぎりまで行ってしまったらしいからな…

「そう言えば、この基地ってヒュッケバイン1号機の事故で消滅したとか聞いてるんだが、
やっぱりアナハイムやらが再建設したってことなのか?」

思い出したことをそのまま口に出す

「なんでもかんでもアナハイムがやるわけじゃないのだけれど、今回はそうね」

「おばさん誰?」

ニナさんへの真琴の一言に空気が凍る

「あー…気にしないでください」

「フォローかどうかいまいち判断しにくいわね。基地の話に戻るけど、あの事故の後、
アナハイム・エレクトロニクスが跡地を軍から買収したのよ。
そしてアナハイムによって急ピッチで再建設され、
表向きはモビルスーツの開発工場やテスト場になっているわ」

ニナさんの視線を追うと、戦艦や武装した機体が目に入る

「裏は違うってことですね」

機体がVガンダムにどこか似た構造だということでなんとなくわかる

「そう、ここがリガ・ミリティアの拠点だからよ」

「じゃあ、ウッソ君やわたしが乗ってるモビルスーツもここから?」

「ええ、ヴィクトリーやV2、外にいるガンイージはここで開発されたの」

いつだったか、ウッソやメカニックのおじいさんたちと出会ったときに見た女性が答えてくれた

(ここ以外にもアナハイム協力の下、各地で開発が行われていると思っていいのだろうか…)

そんな俺の想像は正しいのだとすぐに知ることになった

「地球外からの侵略が大規模であることは企業のトップも知っているわ。
そのためにアナハイムやリガ・ミリティア、サナリィやエゥーゴ、
企業や陣営の枠を超えた対策用の機体の開発も平行して進められているわ」

もっとも、有志の企画の部分が大きく、
資金面で難航してるのだけれども、と…とニナさんは続けた

どうやらここでは新型機が数多くロールアウトされているらしい

その後、直接指名されたウッソやウラキ少尉と別れ、俺たちは休息をかねて基地をうろつくことになった

 

 

「相沢…祐一君だったわよね? 少し、いいかしら?」

「はい。由紀子さん」

あゆや遠野さんらとの交代のため、俺はグレイファントムに戻っていた

「先の戦闘のせいかはわからないけど、月宮あゆちゃんの体調が悪化してるらしいの。
本人は疲れてるだけだ、って言うのだけれども、念のためにここよりは医療施設のある
マオ社の本社に出向いて精密検査を受けさせようと思うのだけれど…」

俺は顔をしかめていたに違いない

あゆがそんな状況だというのに休息をとっていたのだから…

「ちょうど良い機会だし、カノンのオーバーホールを専門のあちらで
行ってもらうこともかねて、搬送してもらえるかしら?」

「了解しました」

短く答え、すでにあゆが運び込まれているシャトルと、カノンへと向かう

 

 

 

「マスター」

「キャニー?」

カノンとダイアナをつんだシャトルのコックピットにキャニーがたたずんでいた

「私が集める事ができたあゆさんの戦闘データならびに体調のデータを、
カノンのメモリに保存しておきました。何かの役に立つかもしれません…お気をつけて」

俺が頷くとキャニーはふっと姿を消す

マオ社本社への航路をセットし、シートに身を沈める

・・・

・・

…う?

(眠気…? いや…なんだ…? 何かが…聞こえる?…鈴の音…?)

どこからかやってくる思念、いや。意識…なのか

俺はそれに押し流されそうになるのを必死に耐える内に気を失った

 

 

俺が次に目覚めたのはベッドの上のようだった

「…う?」

「ん? あ〜。目が覚めたね〜♪」

耳に届いたのは予想だにしなかった子供っぽい声だった

「んーと、顔色良し。特に問題はなさそうだから体起こしても大丈夫だよ」

顔を覗き込んできたのはやっぱり子供、見た目10〜13ほどの少女だった

「君は…? というかここは?」

「にゃ? えーと…ここはマオ社の医務室。そして、ナノハはナノハだよ〜?」

「ああ、わかった。ナノハちゃんなんだな?」

「…うう、ひどい…」

急に顔をしかめるナノハ…ちゃんはまずいのか知らないが、彼女に慌てて体を起こす

「えーと、その…何がまずかったんだ?」

本人に聞くのはあまりよろしくないと思うが、他に相手がいないのだから仕方が無い

「目がお母さんはどこだい?とかいうような目してるもん…」

う”・・・

「これでもナノハはおにーさんの担当医に決まったんだよ?」

…え?

「そしておにーさんの機体、Hシリーズでも異色、カノンのメカニック担当でもありまーす。
正式な辞令はまだだけどね、どう? どう? びっくりした?」

聞いてくる彼女に呆然とした顔で向くしかなかった

「・・・ところで、あゆの容態は?」

ようやく活動しだした脳が思い出した大事な事

「え? あ、あのお姉さんは寝てるはずだよ。多分、疲労だから。
動けると思うから、見に行く?」

無言で頷き、かけられていた上着を着、同じく剣を腰に挿し案内されるがままに歩き出す

道すがらの話によれば、あの後オートで無事に到着し、
マオ社スタッフが気絶した俺と、奥で安静にしているあゆを運び込んだらしい

…また迷惑をかけてしまったようだ

途中恐らくはグレイファントムへだろう連絡をするのを聞きつつ、角を曲がる

「ここだよ〜」

プシュ、と音を立ててドアが開き、あゆがベッドに寝かされている部屋についた

「まだ寝てるみたいだね」

言われるままに顔をのぞくが、大丈夫そうだった

「軽く診察したけど、疲労、だね」

ぺらぺらとカルテらしき紙をめくるナノハちゃん…ちゃんでいいのか、結局

「やっぱりあのダイアナのせいか?」

「ん〜、きっとそうなんだけど、まだはっきりしないな〜」

うーんうーんとうねるようにして答える彼女を見ていると、
そんなに簡単なことではないのがわかった

「それよりもおにーさんのほうだよ」

「俺?」

びしっと指差され、少々戸惑う

「うんうん。記録を見させてもらったけど、T-LINK兵器の使いすぎだよ?
確かに強力だし、データが取れるのはいいことだけど、少しは使い方を考えたほうがいいと思うな〜」

思い当たる節があるのでうめきそうになるが踏みとどまる

「とはいえ、そうでもしなきゃ生き残れない作戦が多いのだが…」

そう、無茶ばっかしてる気がするぞ…

「ん〜、そーなんだよねえ〜…ここはやっぱり自身の特訓と機体の調整かな〜」

カノンは今オーバーホール中だから動かせないよ〜と彼女は言い、
俺に会わせたい人がいるからと手招きした

 

 

 

「君がゼロやカノンのパイロットか、こうして会うのは初めましてだな」

そして通された部屋に現れたのはマオ社社長のリンさんだった

俺にカノンを託してくれた人…

「かしこまらなくてもいい。そのほうがこちらも楽だ」

どうやら物をはっきりと言うタイプらしい

「それで、何か御用でしょうか? 大体はカノンのことだろうと想像はつきますけど」

「その通りだ。話が早くて助かる。君のおかげでかなり有用な戦闘データが手に入ったのでね、
お礼もかねてこの場に誘ったわけだ。カノンの使い心地は問題無いかい?」

「ここに生きているのが何よりの証拠だと思います。
大切なものを、大切な人たちを守る力を与えてもらって、感謝しています」

それは事実だ。守りたくても振るう力が無ければ泣くしかない

最初にゼロに乗って幾度となく死線をくぐる事になった

それも、乗ったせいとも言えないことも無いが、
乗らなければあっさり戦火に消えていた可能性もあるのだ

「今、君のカノンは専門スタッフによってデータ収集とオーバーホールを行っている。
それが終わるまでここでゆっくりしていってもらって構わない。希望するなら
相談などにも乗るが、どうするかね?」

「お言葉に甘えて…カノンと、そして念動力のことについて知りうる限りを」

俺の言葉にリン社長はナノハちゃんを向いた

「じゃあナノハから説明するね〜。おにーさん、おにーさんの力は何だと思う?」

「? 正直、よくいう超能力、みたいな感じがしてるんだが…」

部屋の隅にあったホワイトボードをころころ動かし、ナノハちゃんが指を振った

「大筋はそれでOKでもあり大間違いでもあるの。
念動力そのものは一般に言われるそういうものとほぼ同質、
ううん、結果的に見える現象がそれに酷似するから同一視されるだけなの」

ホワイトボードによくわからない数式や文字が書き連ねられる

「ただ、それらの念動力者の中にある一定の割合で特殊な特質を持った人がいるの。
それがサイコドライバー、汎超能力者とおじーさん達は呼んでるみたいだけど」

「おじーさんじゃわからないと思うが、ケンゾウ博士のことだ」

リン社長のフォローで疑問は消える

「一説によれば神に一番近い存在、とも言われるけど、
その力を発生させるには人の器としての耐久が足りない、と。余談だけどね〜」

ほえほえした口調ながらも中身はずいぶんとすごい事を言っているナノハちゃん

「ともあれ、カノンはもとよりT-LINKシステムそのものは
念動力、コネクターでテレキネシスαパルス、っていうものを感知、
そして増幅する装置なの。動作補助や、専用兵器の動力になるのね」

後で読んでおいてね、と冊子を渡されるが、これの中身全部それ系なのだろうか…

「おにーさんがサイコドライバーなのかはわからない上に、関係があるのかは知らないけど
搭載されているシステム上、一定の資質がないと動かないものは確かにあるんだよ。
それがおにーさんが一回起動させたっていうシステム・・・これはオフレコだよ?」

どうやら結構機密部分らしい

今考えれば、この部屋も事前に盗聴装置なんかを排除した場所なのだろう

「記録によればウラヌスシステムって言うみたいだけど、
かなり危険なのは確か。多分、運が悪ければ念動力が全て開放されちゃって、
命はともかく人格とかは保証できないと思うよ〜」

となると、簡易版とでもいうべき普段のシステム…
まんまLウラヌスも多様は禁物、ということだろうか

「それと、結構便利に思ってるとは思うこれもLウラヌスシステム、
正直に言って、おにーさんは疲れるし、機体の間接や装甲なんかにも
徐々に金属疲労なんかが蓄積されていくんだよ。定期的に
部品交換とかを行えばいいけど、できれば温存したほうがいいね」

と、そこでいったんマジックペンをナノハちゃんは置いた

「でも、一個だけどーしてもわからないことがあるの」

「え?」

とはいえ俺に聞かれても多分わからないと思うのだが…?

「さっきから言ってるけど、T−LINKは明らかに機体にも、何より
搭乗者自身が疲労するし、蓄積されていきかねないものなの。
なのにおにーさんは、おにーさんのカノンやゼロのデータを見る限り、
何かの要因がそれを軽減してるとしか思えないデータなの」

「俺の素質、とかいう次元じゃなさそうってことか?」

ぱっと思いついた事だが、それは違うのだとすぐわかる

「うん。そうならそれで、より高出力の念動力が使用されて、
損傷も増えるはずなのに、逆に減っている…明らかにおかしいの」

「スメラギ君。今はそれを論議しても仕方あるまい。目の前に事実があるのだから」

「社長の言う通りですね〜。ともあれ、教えられるのはこのぐらいかな〜」

「なるほど、よくわからんがわかった。俺がすごい奴ってことは」

えっへんと胸を張るとナノハちゃんは脱力した様子でこちらを見る

「いいの…? そんな軽くて…」

はぁー…とため息をつくナノハちゃんを思わず撫で撫でする

「あぅ〜、子ども扱い禁止〜」

ナノハちゃんがう〜とにらむが、あまり怖くは無かった

三人がそれを機に笑い出したすぐだった

「くっ」

俺は唐突に頭を襲う頭痛に顔をしかめた

これは今までにも嫌な事の起きる予兆のようなものだった

「…念動力が何かを察知したか?」

リン社長に静かに頷く

「最近噂の謎の部隊かも知れんな…」

「謎の部隊?」

俺はすぐさま問い返す

「ああ。ここ最近ある渓谷でレーダーにも映らない不思議な目撃情報が相次いでいる。
私たちも警戒を続けてはいるが…大した成果は無い」

俺なら…何かわかるかもしれない

だが今はカノンは無い。待つしかないのだろうか…

そのとき、リン社長に通信が入ったのか、何事か手もとのコンソールで話し始めた

「…わかった。少尉、君の所属部隊が先ほど言っていた場所へと
偵察に出撃したという連絡が入った。念のためにシェルターへの避難を薦めるが?」

その言葉に感謝しながらも、俺は口を開いた

「あの…カノンが直るまで俺に戦える機体をください。
ここなら予備のPTの一つや二つはあるんじゃないですか?」

「確かにあるよ〜。でも今動かせるのは…うーん…」

「慣れない機体で戦うのは想像以上に危険なことだ。それでもやるというのか?」

悩むナノハちゃんに手をやり、リン社長が俺の目を見る

「やって見せます。奢りたくはありませんが、自分を過小評価して
萎縮はしたくありません。あゆは…まだここにいますし…」

「…わかった。タイプは同じヒュッケバインMk−Uの3号機を使いたまえ。
試作量産の一機のため一般人の動作を前提として各機能はオミットされているものが多いがな…。
戦闘データ取得のための起動準備はしてある。すぐに動かせるはずだ。
場所は…ここから右に出て、まっすぐだ。現場には伝えておこう 」

「これにはT−LINKやグラビコンシステムは一切無いから十分気をつけるんだよ〜?」

ナノハちゃんの忠告と、社長の案内を元に機体へと走る

(何もしないで…後悔はしたくない!)

ベッドで眠るあゆが、昔大木から落下する瞬間のあゆにダブった

動けずに大切なものが失われていく姿はもう見たくない

この頭痛の正体もなんなのか気になる…


 

 

「T−LINK無しで大丈夫かなぁ…」

「スメラギ君。君は出向の準備を進めたまえ。
彼に万全の状態でアレを渡すのが一番だろう」

「はにゃ、そーします〜」

 

 

 

〜一方テクネチウム基地〜

「…あぅ〜…あゆ、大丈夫かなあ〜」

「大丈夫ですよ、きっと」

ブリッジにぼーっとしてた美汐を見かね、
ブリッジ要員達は休息を提案したのだ

美汐は艦長が離れるわけには、といったんは拒否したが
聞きつけた真琴が『たまにはゆっくりしておかないと』と
強く言ったのが後押しとなって承諾したのだ

「…天野艦長、リガ・ミリティアのスタッフが
受領申請を処理して欲しいとのことですけど…」

ロンド・ベルからの出向となった美凪が後ろにみちるを引き連れつつ伝える

「では休息ついでに向かいましょうか」

「…お供します」

「みちるも行くぞ〜」

先に艦を降りた澪、みさきを追う形となり、三人は艦を降りた

「いってらっしゃ〜い」

名雪も手を振り、新しく搬入された自分の機体用のパーツを見に格納庫に向かった

 

 

〜テクネチウム基地奥〜

「あれ、天野艦長じゃないですか」

ウッソがその母親、ミューラとともに美汐を迎える
美汐は途中で美凪らと別れ、一人で指定された場に向かっていたのだ

「受領申請のことで呼ばれたのですが、こちらでよろしいですか?」

「ええ、ずいぶんお若いのね」

意外そうなミューラの声に美汐は顔を伏す

「…託されましたから…」

「そういうこと…。ともあれ、一応目を通していただけるかしら?」

頷き、渡された書類にはNT向けパーツを組み込んだ
試作先行機のV2一機をデータ収集のためにも、という趣旨の文章があった

同様に、データ収集者の乗り込める副座式コックピットの採用機であるとも…

「ニュータイプ向け…、サイコミュ兵器でも?」

「いえ、他の会社の技術を参考に装甲材や火気管制に反応速度の追従を向上させるものを少々、
というレベルですがヴィクトリーは基本的に量産を意識してるものですから、
オンリーワン、専用機種というのは前例が少ないのです。それとヴィクトリーは先も言ったように
量産機です。乗り手を限定する機構は可能な限り避けて開発しておりますわ」

「了解しました。副座式とのことですから、彼女達に使ってもらいましょう」

美汐は書類を受け取りながらそう答えた

「輸送はこちらで行いますので後でご確認をお願いします」

「天野艦長、さっそく搭乗しながらの帰還、というのはどうかな?」

『慣熟飛行も兼ねるの』

受領する事になるV2の足をたたきながら二人は言う

「…わかりました。着艦のために識別信号はきちんとしておいてくださいね」

 

 

 

…帰還した艦内

「ジュピター・ゴースト…ですか」

「…はい。報告は以上です」

「ですっ」

基地に出かけていた美凪およびみちるから広まっている噂を聞き、
美汐は口をつむぐ

ここ最近月面都市ではある噂が広まっているということだった

正体不明の艦隊やMSが目撃されているというのだ

「一度女王と連絡を取ったほうがよさそうですね…」

嫌な予感のした美汐はすぐさまグラン・ガランとの通信を号令する

 

 

 

〜グレイファントムブリッジ〜

「祐一が倒れたっ!?」

「落ち着きなさい、真琴。命に別状は無いそうですから」

ブリッジに戻った皆を待っていたのはいくつもの重要な事柄だった

祐一の状態、あゆの状態、そして現状

「メイプルさん、シーラ女王と通信はできますか?」

「あ、はい。今繋ぎます」

祐一達は知らない甘味の名人?であるオペレーターのメイプルがそれに答える

『何かありましたか?』

「はい。こちらで確認した妙な噂のことについて…」

美汐の口から噂や目撃情報などをまとめた話がされる

 

『確かに探索の必要がありそうですね』

「はい。そこで今動ける中から機動力の高い機体を選び、偵察に出そうと思うのですが」

もとより祐一達グレイファントム搭載のMSやPTは
パイロット数のために機動力、回避を念頭においたチューニングを施してある

そのために誰が出ても問題無いのだった

『わかりました。場所はネオ・カタルヘナ渓谷になるでしょう。
一番噂や目撃情報が多い場所です。こちらからは…』

 

 

〜グレイファントム格納庫〜

 

「というわけで、出向の遠野機らを含め、こちらは全員出てもらいます。
今回は母艦はありませんので注意してください」

「ただし、私は今回地上の秋子達との連絡などが残ってるから出れないわ。
各自、自分の判断を信じつつ、ロンド・ベルのベテランに意見を聞きなさい」

一旦グラン・ガランに出向き、同時に行動するために全員が動き出す

 

 

「レーダーに映らない…あう〜…祐一がいればすぐ発見できるかもしれないけど…」

「…今はいないからね、でもがんばらなくちゃ」

肩を落とす真琴に名雪がぽんぽんと手を置く

「…相沢さんは国崎さんと同じ…?」

「おおっ、じゃあ人形動かせるんだー?」

その後を静々と歩いていた二人の言葉に名雪達も振り返る

「確か…前会った時に見せてもらった気がする…ねえ?」

「あぅ? あ、うん」

「へー…今度見せてもらおうかな。澪ちゃんとならわかるからね」

みさきはそう言って澪の頭を撫でる

『そのときは一緒なの』

かすかに頬を赤くしながら澪はそう書く

そして6人の前の扉が開き、ブリッジらしき場所に出る

「水瀬および沢渡軍曹、そして川名曹長、上月伍長、最後に遠野少尉、同伍長で間違いないな?」

「…はい。グレイファントムより6名、到着いたしました」

声をかけてきたバニングへと美凪が静かに返答する

「ではメンバーを整理する。諸君ら6名に加え、
サイバスター、ヴァルシオーネ、V2などを俺が指揮する。
何か質問はあるか?」

「あぅ、祐一…じゃなかった。相沢少尉の向かっているマオ社から
何か連絡は来ていませんでしょうか?」

おずおずと手を挙げる真琴に名雪は優しい目を向ける

「ああ…無事に意識を取り戻したという連絡は来ている。
…他にはないな? では各自出撃準備をしろ」

「「了解」」

真琴と名雪は軽い足取りでグラン・ガランの格納庫へと足を向けた

 

 

 

 

〜ネオ・カタルヘナ渓谷近く〜

『各機何か異常は無いか?』

『サイバスターは異常は無いぜ。静か過ぎて退屈なぐらいだ』

『同じく殺風景な風景以外特に無いね。ま、ヴァルシオーネに恐れをなして隠れてるかもしれないけどね』

真琴の耳にそれからも同様に異常無しの報告が届く

『でも噂がある以上何かあるんでしょうね。僕は…嫌な予感がします』

「こちら沢渡機…上手く言えないけど嫌な予感はずっとしてる…以上」

『ニュータイプの勘というやつか、信じよう。各機、センサー類のみならず
自らの目で不審なものが無いか警戒しながら進め』

ウッソと真琴の意見にバニングは答え、
それへの短い返答の後、真琴は隣の名雪を見つつ、
先ほどからの感覚に顔をしかめる

「何…この薄く敵意を延ばしたような感覚…」

『む? 各機、三時の方向の反応をチェック。
あれは…PTか…?』

『…ヒュッケバイン系列…ですね』

「…祐一?」

バニングと美凪の声に真琴がそうつぶやく

『でも真琴、祐一のとは違うよ…?』

『通信を送ってみたらどうかな? あ、あっちから来たみたいだね』

みさきの言葉どおり、そのPTからの通信がバニング以下の機体をコールする

 

「こちら相沢機、応答願う」

ごつごつした月面を多少ふらつきながら疾走する

レーダーにあった反応が真琴達だったので通信を送ることにした

うっかり攻撃されてはたまらない

『プロミス・リレーション所属相沢機で間違い無いな?』

「ええ、間違いありません」

男性の声を聞きつつ、部隊を目視する

名雪、真琴、遠野姉妹に…Vガンダムが二機だから片方はみさき先輩達だな。
後は…お、マサキもいるじゃないか

「相沢機、これより偵察に合流します」

そうしてブースターを噴かして浮いたところへ真琴が滑り込んできた

『祐一、この方がいいでしょ』

「ああ、すまん」

軽い振動の後、真琴のZに俺のヒュッケバインが乗る

『それで、相沢の機体はどうした』

ここでやっと資料にあったバニング大尉だとわかった

「はい。現在オーバーホール中のためこちらを仮に受領してきました」

『なるほどな。事情は把握しているな? このまま偵察を続行する』

「「「了解」」」

 

 

バニングのVヘキサを中心に一行は渓谷へと侵入する

 

 

「あうー、祐一は何か感じない?」

「ん・・・T−LINKがついていないこれにそう言われても難しいぞ」

一通りチェックしたが、言われた通りに量産を目的にしたタイプらしい

フォトンライフルも弾種は一種、しかも装弾数も多くない。
接近用兵装もライトソードという軽量型らしい

ふと目を向ければ動きの無い殺風景な山々と漆黒の空に輝く星達

(何も無い・・・何者の意識も・・・)

一般市民でもなんとか手の届くようになっている宇宙への旅

しかし俺はそんな次元ではないところで今、ここにいる

戦って、戦い抜いて、こいつらと一緒に駆け抜けた先に何があるのだろう・・・

 

静かに・・・静かに祐一の意識が伸びていく

それは殺気を感じる達人の技とは違う、
しかしながら結果はそれと同等の物をもたらすものだった

自分のアンテナ範囲を広げるという意味では・・・

 

「10時の方向!」

俺は叫んで奇襲のフォトンライフルを何も見えない空間へと撃ち放つ

何をと他が声を出す前に空間が揺らぐ

『何っ!? EOTでも使用していたというわけか・・・数は多くない、各機迎撃準備!』

バニング大尉の号令に散会し、迎撃の体制をとる

暴かれた事で覚悟を決めたのか、次々と敵がその姿をあらわした

悪趣味なバイクをでかくしたような戦艦らに、タイヤ付きのMS達・・・

「ジュピトリアン・・・しかしアレは・・・?」

『地球クリーン計画とかいうものに何か関係があるんじゃないでしょうか?』

『どうだっていいぜ。敵なら叩き潰すのみ!』

『そうそう、考えるのはそれからってね』

俺の疑問にウッソが答えてすぐにマサキと、声からして女性の二人が先陣を切る

俺の機体では戦艦は相手にしにくい、MSを相手にすべきだろう

「よし、真琴頼むぞ」

『まっかせて』

加速するZの横にVガンダムが滑り込む

『祐一、わたしも援護するよ』

『・・・じゃあこちらがかく乱します』

『しっかり狙うんだぞ〜』

そしてヴァルキリーが迫るMS編隊へと白い尾を残して駆けて行く

「先輩達は戦艦を頼む。その肩のは伊達じゃないだろう?」

『多分ね。うん、大丈夫だと思うよ。行こうか澪ちゃん』

はじかれるようにウッソの機体に似たみさき先輩達の機体がマサキたちを追う

さあ・・・先へは行かせない・・・

『祐一、タイヤはビームが効き難いの。でも祐一なら大丈夫よね?』

「ああ、その辺は任せろ」

戦艦から出撃してくるMS達はすぐさま俺たちへと攻撃を仕掛けてきた

「だがっ、散発的過ぎる!」

真琴のZの背から飛び出すようにしてブースターを吹かし、俺はフォトンライフルを右手に持たせて打ち込む

パンクした自転車のように確実にそれはMSのタイヤを貫く

MS形態に戻ったZがその隙にショットガンを至近距離で叩き込んでいく

「さあ、プロミス・リレーションの相沢が相手になってやるっ!」

わざと周波数を重ねて周囲に叫ぶ

思った通り、少しは名が売れているのか何機かが確実にこちらを向く

「向いてる暇が命取りってことだっ」

名雪や真琴の援護射撃で狙いの定まっていない攻撃を避け、
二人のために恐らくコーティングが施してあるタイヤを貫く

 

「ひとつっ、ふたつっ!」

肩のオーバーハングキャノンに加え、両手にビームライフルを持たせて
名雪は完全に射撃体勢に入る

(祐一はいつもの機体じゃない、しっかり援護しなくっちゃ・・・)

発射時の衝撃さえも移動に利用し、連射していく

ビームは弾かれるものの、エネルギーとしての運動エネルギーは
各自に敵機の体勢を崩していく

「・・・逃さないっ!」

空中でタイヤを回転させる意味があるのかは名雪にはわからなかったが、
何機かは回転させつつ速度を上げていくのを見る

(撃つだけじゃ・・・ダメなんだよ)

名雪は機体をわざと敵MS、ゲドラフへと接近させ、そのまま背後へと抜ける

その場で撃つものと思っていた敵兵はその動きに戸惑う

「近距離装備が無いわけじゃないからね・・・」

その隙を逃さず持ち替えたサーベルで手早く撃墜する

「第一波はこれぐらいかな・・・後は・・・」

 

 

「思ったより戦艦の数が多いね・・・止められるかな」

(止めるしかないの)

「そうだよね、うん」

敵戦艦からの砲撃を回避しつづけ、ビームライフルを撃ち返すものの効果的とは言い難い

『各機、落とそうとは考えるな。少しでも戦力としての意味をなくすことを考えろ。
間に合えば援軍は来る。間に合わなくとも意味のある戦いをすることだ』

『よし、二人で足を止めるぞ、リューネ』

『ま、こういうときの訓練よね』

「じゃあこっちは砲塔をダメにしていこうかな」

(来たの)

(見えている戦艦は6隻・・・でも別働隊がいるかな?)

(考えていても仕方が無いの、先輩)

駆け出すサイバスター達を援護するべく、みさき達は間合いを取る

『・・・こちらで弾幕をはります・・・その隙に』

「了解だよ。行くよ、澪ちゃんっ!」

(はいなのっ!)

みさき達の新しい乗機となったV2がそのブースターを白く光らせ、
先行して発射されたヴァルキリーからのミサイル群を縫うようにして駆ける

 

「むー、火力が足りないっ!」

「仕方が無いです・・・はい」

戦艦を火力でなぎ倒していくヴァルキリーはそれはそれで怖いと美凪はみちるの言葉に思うのであった

その間にも各戦艦に兵装を駆使して攻撃をしかけ、 弾幕を次々と展開していく

「右後方メガ粒子砲っ!」

「・・・ひょいっとな」

これだけの加速である、美凪自身はもとよりみちるも相当Gが来るはずだが少し顔をしかめた程度で耐えている

(SDF艦隊の技術の賜物でしょうか・・・)

実際、既存の航空機ではほとんど不可能な回避運動ですら可能にしている

6機の戦艦、そして残存するMS部隊の攻撃を回避しつづけるところがその証拠であろう

「前方にタイヤ付き一機発見!」

「ちぇんじ・・・」

宙返りでの回避の終わりにバトロイドモードへと変換する

「なーーーっくるっ!」

ガンポッドを構えたままのヴァルキリーの拳がガンポッドごとゲドラフを横から殴りつけ、沈黙させる

「・・・回避回避」

後退した所にメガ粒子が交差し、白光を産み出した

「・・・来ましたか」

美凪の視線の先には、MS部隊をひきつけるようにして戦艦に迫る祐一達が見えた

 

 

 

〜一方〜

「そっか・・・祐一君は出撃したんだ・・・?」

「うん。お姉さんはどうするの?」

(ボクは・・・また何も出来ないのかな・・・?)

祐一達がいればそんなことはない、と言えるのであろうがここには誰もいない

いや・・・もれたその言葉を聞いた人物はここにはいた

「そんなことないよ、お姉さん。ここでこうして・・・心配してるのが何よりの証拠だもん」

そうじゃなきゃ倒れたりしないよ、とナノハは付け加える

「うぐぅ・・・そうかな? あっ! ダイアナは?」

目覚めたあゆは言われるままに元の服に着替え、シャトルへと足を進めていた

「もちろんあるよ。カノンのほうはオーバーホールとかが終わってからだね〜。
ちゃんと届けるから安心していいよ〜。さ、起動チェックしてみよ〜」

角を曲がると、シャトルのそばにダイアナが固定されていた

「あ、本当だ。・・・よいしょっと」

『細部を見たけど、ほとんど放置だった専門的な調整なんかは
ナノハがなんとかやっておいたから、だいぶ効率が違うはずだよ〜』

閉じたコックピットに通信が入る

「うん、わかったよ。・・・行くよ、ダイアナ・・・」

『メンタルボックス起動確認・・・あ、仮につけた機構名だからね・・・』

ナノハの声をあゆは聞きながらパネルの電源たちを入れていく

「駆動系統異常無し・・・武装出力・・・あ、本当に違うんだね・・・」

『問題は無さそう? じゃあ一回おr』

「警報っ!?」

驚く二人に通信が入る

『二人とも、一緒か? 現在こちらへジュピトリアン戦艦が
進行中との連絡が入った。ロンド・ベル隊らが追撃しているがどうなるかわからない。
スメラギ君、君はそのままシャトルで一旦離れたまえ・・・』

緊急事態のためか、通信はそれで切れてしまった

「ボクは出ます・・・恩返しもしたいからねっ」

『病み上がりなんだよ、無茶はダメだよぉ・・・』

飛び立とうとするあゆの機体にナノハがすがる

「大丈夫・・・あそこには祐一君もいるから・・・なんとかなるよ」

『お姉さんにとってあのおにーさんは・・・?』

あゆの決心を感じたのか、ナノハが離れる

「そうだね・・・空気のように当たり前で・・・でも無くてはならない・・・そんな感じかな?」

静かに微笑み、あゆの顔が真剣なものになる

発信準備はすぐさま整い、ノーマルスーツ姿のナノハのみがその目撃者となる

「行くよ、みんな・・・」

月の重力にダイアナは一回の跳躍ではるか上空へと飛び上がる

 

残るのは響く警報の中立ち止まるナノハ・・・

「・・・あれは・・・動かせるだけで技術的には奇跡・・・
イングラム少佐達は何を考えてあんなものを・・・」

ナノハは手元のメモを見る

『理論上一般人とはかけ離れた強い意思力が必須。
現状では複数によるリンク以外に起動方法無し』

「動かせないとわかってるものを作る。それは自己満足か、乗り手が既に決められていたということ・・・」

その特異性故にPTの正式な開発番号すら与えられていない空白の機体

言うなれば技術者同士の気まぐれの産物

「まあ、作っただけが目的みたいだし、大丈夫だろうけど・・・」

 

 

 

 

〜祐一サイド〜

「なんだ・・・一隻ずれてる!?」

『あぅ〜っ、どういうことよっ』

再び真琴の背に乗り、戦艦を巻き込んだ戦いの中、
敵戦艦の一隻が方向を変え、明らかに違う方向へと動き始めた

『各機、ジュピトリアン戦艦が一隻エンジントラブルで暴走を始めたとの敵通信を傍受した。
どうやら敵さんも相当あせっているようだ。見捨てるような発言も出ている』

『・・・大尉、あの方向はマオ社のはずです』

遠野さんの声に確認すると本当にそうだった

(まだあゆがいるのにっ!)

「真琴、あいつを追ってくれっ!」

『ええ、あゆをやらせるわけにはいかないわっ!』

『よかろう。遠野、水瀬、川名らは一緒に奴を止めろっ! 残りは他をたたくぞっ!』

「とはいえ・・・どう・・・止める」

追いつきながらもフォトンライフルを撃ち込むが大した影響は与えられていない

エンジンを直接は難しい、下手に狙えば月の表面で大爆発を起こしてしまう

ブリッジは既に放棄されている様子だから無駄・・・となると

『壊れない程度に削るしかないね、祐一君』

「みたいですね、先輩」

真琴のZが戦艦の正面に回りこむ

『やっぱり既に放棄された後だわ・・・』

ブリッジに人影は無い

「真琴、可能な限り振り切って離れてくれ。とにかく撃ちこむ!」

『出てくるMS達はわたしがなんとかするよ、祐一は・・・あゆちゃんの場所を守ってっ!』

「任せろっ!」

その通りに間合いを取り、大きくなってくる敵戦艦へとフォトンライフルを狂ったように撃ち続ける

ここを抜けてしまえばマオ社を含めた施設をその巨体が砕いていってしまう

V2のビームが、ヴァルキリーのミサイルが装甲を削っていくが、その運動エネルギーはいまだ健在のようだ

「くそ、止まれ、止まってくれぇっっ!!」

こんなところで戦場の無慈悲さを味わいたくは無いっ!

「止まれったら・・・」『そんな大声を出してると喉がかれちゃうよ、祐一君』

声と同時に後方から光の矢が戦艦に突き刺さる

月面に浮かぶ一機のPT・・・

「あゆ、来てたのか・・・?」

『あゆちゃんっ』

『ただいま、祐一君、名雪さん。なんとかね、ボクだけ寝てるわけにはいかないもん』

通信の中であゆが何時もの顔で微笑む

『余計な心配かけちゃって・・・馬鹿』

『ごめんね、真琴ちゃん。ボクもがんばるよ』

そしてその顔が真剣に・・・俺との記憶を思い出し、
夕焼けの中静かに告白を始めたときのように・・・

『我が手に宿る白き輝き・・・貫く意志、駆ける声っ!!』

気合の叫び(内容そのものには必要性は無いのだが)に
あゆの構えた弓状の中心に光が産まれていく

迫ってきた戦艦の下にぎりぎりで回りこむ

『ボクの意思を乗せて貫けっ! 神槍よっ!!』

戦艦があゆの上空、ちょうど渓谷の出口になるあたりを通過する直前に、
その身を光が貫いた

その衝撃で戦艦は渓谷の出口に当たり岩山にぶつかり、
岩山を崩しながらその動きを停止させた

「なんとかやったみたいだな」

(でも、守るつもりが守られた・・・少し情けないな)

そしてバニング大尉から帰還命令が出される

「あゆ、疲れてないか?」

『あぅ〜、そうよ。無理しなくても・・・』

『うぐぅ、お腹はすいたよ・・・』

あゆの声に答えるようにダイアナも少しフラフラとその身を揺らす

『じゃあ帰ったら補給されたばかりの食材で何か作ろうか。
うん、それがいいね。澪ちゃんもそう言ってるよ』

『(なのなの〜♪)』

『あ・・・でも生野菜とかは無理だと思うよ、腐っちゃうし』

『・・・ドライ状態でも戻せば何とか・・・』

名雪のつぶやきに遠野さんが解決策を出して微笑む

『美凪はそういうの得意だもんね〜』

「もしかしてお前は食うだけか?」

俺は思わずつっこんだ

『む〜、そんなこという奴は月夜の晩にお仕置きだぞっ』

みちるの声に笑いが漏れる

そして俺たちは美汐達の待つ基地へと帰還する

 

新しい事実らがそんな俺たちを待つ

 

 

 

 

続く

 

次回予告

襲撃を受けていると言うフロンティアコロニー群

否応無しに祐一達はその調査に乗り込むことになる

 

「カノンを含め、先行して偵察に出てもらいます」

 

宇宙を駆け、祐一達は再びそれを目の当たりにする

漆黒の闇にうごめく無情の刃

 

「俺がその隙を作るっ! あゆ、撃てっ!」

まばゆい光が照らすのは希望か、絶望か・・・

 

徐々に見えてくる大きな敵の影・・・

 

次回カノン大戦α〜戦場を駆ける奇跡〜第三十五話

〜決意対決意〜

「覚悟も無しに人を殺しつづけられるかよっ!!」

そして少年は一人の戦士として階段を駆け上がる・・・

 


あとがき

なんとなくアニメチックな予告にしてみました、おはようございます@午前三時

ようやく敵にも大物を出せるようになってきた気がする感じです。

これからは少しは・・・燃える展開になれるといいです。

感想その他はメールなりBBSでどうぞ。

TOPへ