恐らく毎日繰り返される悲劇(笑)

 

 

シスターパニック!?〜七人の妖精編〜


第三話

〜スタートライン〜

学生達は冬休み、ここ水瀬家でも変わらず、朝はのんびりしていた

 

「ううっ・・・」

そんな朝、俺はうなされていた

「やめろ・・・たい焼き団・・・」

朝から妙なことをうめく俺の頭の中では・・・
 

「はっ、はっ、はっ、あきらめるんだな水瀬祐一。おとなしく我らがたい焼き団の
同士になるのだ。たい焼きを食べつづけなければ生きれない体にしてやる」

「なっ、なんのために?」

俺は動かせない手足に力をこめて言う

台に寝かされ、枷のせいで自由が利かない上に
乗せられた重石が胸を圧迫し、息苦しい

「知れたこと、今言ったような怪人が増えれば見る間に世界は食糧不足になり破滅する」

笑顔で馬鹿らしいのか恐ろしいのかいまいちわからないことを言い放つ首領

「そんなことに協力できるかっ!」

「・・・ほう? これを見てもそう言ってられるかな。つれて来いっ!」

えっ?

「なっ、みんな!?」

俺の前へ戦闘員につれられた妹たち7人がいた

その顔は皆一様に恐怖に支配されている

『お兄ちゃんっ』 「お兄様っ」 「お兄さん、無事でしたか…」 「…よかった」

俺を見つけるとその顔が少し明るくなる

「卑怯なっ」

その状況から推測されることに俺は怒り、
唯一自由になる視線を首領に向ける

「悪人にそれは誉め言葉だ。どうだ? 水瀬祐一、言うことを聞けば
彼女たちは自由にしてやろう。断るなら・・・こうだ」

『キャーーっ!!』

首領が指し示した指の先で布の切り裂かれる音が響く

「栞っ、あゆっ!」

戦闘員が二人の上着を力任せに引き裂いたのだ
白い下着姿をさらした二人はしゃがみこむ

羞恥に顔を染める姿もまた…ってそんなこと考えてる場合じゃない
しかし、年長組の佐祐理たちではなく、あゆ達を狙うとは…この首領…

…くっ! やるなっ!(爆)

…ってこれも考えることではない

話を戻そう

「ふふっ、どうする?」

「くっ、わかった・・・」

これ以上妹たちを危険な目に合わせるわけには行かない

『だめですっ!』

「佐祐理・・・美汐・・・」

二人が声を大きくして叫んだ
俺は呆然として二人を見る

「お兄様・・・それで佐祐理たちが喜ぶとでも思っているんですか?」

「そうです。私たちだけ助かってもしょうがないですよ」

「しかし、この状況では・・・」

俺は説得を試みる

「生きていれば希望はありますよ」

「美しい兄弟愛だな・・・お望みどおりにしてやろう。牢に運べっ!
じっくり立場を思い知らせてやる」
 
 
 

「寒いだろ。二人とも」

俺は上着を脱いで二人にかけてやる

『祐一お兄ちゃん・・・』

二人に続いてみんなが俺のほうに寄り添う

「あぅー・・・これからどうなるんだろう?」

「わからない。・・・だけど・・・」

脳裏に浮かんでは消える種々の想像を振り払う

「お兄様?」

「必ず・・・守るっ! 誰かに言われたんじゃなくて自分自身の意思でっ!」

「・・・そうですよ。お兄さん」

「え?」

つぶやいた美汐のほうを向く

とたんに視界が白く染まる

「なっ!? みんな!?」

俺は必死に体を動かしながら叫ぶ

意識が少しづつ遠のいて・・・
 
 
 

「はっ!?・・・夢か・・・」

俺は天井を見ながらその後に硬直した

「うっ、動けん・・・無理も無いか・・・」

俺は目を動かす
 
 
左腕には舞と佐祐理、右腕には美汐と真琴が乗っかって腕が痺れている…

胸の上にあゆと栞が乗っかり、胸を圧迫していた

(息苦しかったのはこのためか…)

ふと見れば名雪はぎりぎり手が届くぐらいの所で一人だった

「よっと…遠慮することは無いんだぞ」

根性で右手を伸ばし、名雪の頭をなでる

眠ったままの名雪の顔が笑顔になる

痺れた腕を復活させる意味も兼ねてしばらくそうする

……

「…ずるい」

「どわわっっ!?」

「うぐぅっ!?」

「あぅーっ!」

「きゃっ」

「えぅー、痛いです〜」

「お兄様、どうしたんですか?」

舞が突然耳元でつぶやいたので俺は驚いて体を跳ね上げ、みんなを起こしてしまったようだ

「何でも無い。舞、いきなり耳元でささやくのはやめてくれ」

俺はなおも動悸する胸を押さえて言う

「…わかった」

舞はコクッと頷いてくれた

「くー…」

名雪はこの騒ぎでも起きなかった

「名雪お姉ちゃんはね、『眠りの名雪』って呼ばれるぐらい寝るのが得意なんだよっ」

「それは良いことなのか?」

笑顔でそう言うあゆにつぶやく

しかし…これは…

『?』

みんなを見つめる俺を不思議そうに見る彼女達

朝日に照らされるパジャマ姿…良い…(某お空のお城のある人物より)

朝から幸せいっぱいであった

「名雪〜っ、起きろ〜っ」

気を取りなおして俺は名雪の体を揺らす

だがなかなか起きない

「こうなったら…こうだっ!…ふっ」

勢い良く名雪の耳に息を吹きかける

「きゃうっ!?…え?…わわっ、祐一お兄ちゃんっ!?」

「起きたか…」

俺は名雪の敏感な耳とその反応に満足し、耳元から顔を離す

その顔は真っ赤だ。無理も無い

俺はやられたことは少ないが、通常の人間ならかなり驚くはずだ

こんど身近な人物に試してみてはいかがだろうか?
なに? 男にやるのは嫌だ? なら妹を探せ、妹を(きっぱり)

何はともあれ起きた名雪がベッドから離れたのを見届けてから、
俺も着替えるために自分の荷物が置いてある部屋に行く

 

 

 

「おはようございます。秋子さ…おっと、義母さん」

俺は言いなおす

「言いにくいでしょう? 『秋子さん』で良いですよ」

「そうですか? そうさせてもらいます」

俺は例のごとく巨大なテーブルにつく

位置的におじさんが座っていた所だ

生活の何気ない場所にも思い出はある物である

「今日はどうするんですか?」

全員分のサラダやハムエッグを用意しながら秋子さんが聞いてくる

「そうですね。大学の下見と編入用書類の確認に行ってきます」

「気をつけてね」

「はい」

「お兄様、佐祐理も行って良いですか?」

「私も…良い?」

「私もお兄さんの大学に興味がありますし…」

「あぅーっ、私もっ♪」

「お願いします。お兄ちゃん♪」

「うぐぅ…大学って何? でもお兄ちゃんと一緒にいたい」

降りてきた佐祐理たちが口々に言う

「まあ構わないが…名雪? 名雪はどうする?」

話に入ってこなかった名雪に近づいて聞いてみる

「えっと…その…」

「名雪はどうしたいんだ?」

かがんで視線の高さを合わせる

じっと見詰め合い、互いの瞳に相手しか映ってはいない

「…行きたい」

「よしっ!」

決心を固めて言いきった名雪の髪をわしわしと撫でて微笑む

「くすぐったいよ。お兄ちゃん…」

「うぐぅ…名雪お姉ちゃんばっかりずるいな…」

「良いんだ。今日は名雪をかわいがりたい気分なんだ。あゆもちゃんと構ってやるから」

あゆを向いてそう言いながらも撫でる手は休めない

ふと見れば名雪は照れて顔を赤くしながらもいやがってはいない
その顔からもさっきまでの遠慮が消えたように感じる

「さあさあ、朝御飯ですよ」

『は〜いっ』

響く声と共に恒例のじゃんけんが始まるかと思ったが、

「スケジュールを決めておいたんです」

美汐のその一言にみんなが頷く

「今日はちょうど良く名雪が右側ですよ〜。さっ、座って座って」

佐祐理が名雪を席に座らせた後、残った6人でじゃんけんが始まった

どうやら右側は交代制らしい。残った場所はじゃんけんのようだ

長いのでじゃんけんは省略する

「なんか学校が始まったらどうなるか楽しみな気がする」

「それを言ったらおしまいだよ。お兄ちゃん…」

ぼやいた俺に向って飽きれた表情と口調の名雪の声

「そうは言っても遅刻するだろ?」

「その時はまた考えれば良いんじゃないですか?」

「栞の言うとおりね」

栞と真琴の言葉が続く

「わかった…ほい佐祐理、あ〜んだ」

「はいっ♪」

結局今日もみんなに食べさせている俺…腹減ったな…

 

 

朝食もなんとか?終わり、全員を引き連れての出発となった

「お昼には帰ってくると思いますので」

「わかりました。娘達をよろしくお願いしますね」

「わかってますよ」

俺は手を振って玄関を出る

 

 

「お兄さん、お兄さんの通う大学はどこにあるんですか?」

「確かそんなに遠くは無いはずだ」

「そうですか…ならあそこしかありませんね」

佐祐理がわかったように頷く

「知ってるのか?」

「はいっ、来年香里お姉さんが通う大学です」

「香里お姉さん?」

俺は聞き返す

「はい、この中では一番栞と仲が良いんですけど、今までも
私達の面倒をよく見てくださった方なんですよ〜」

みんなもその意見に頷いている

そうか…きちんと挨拶しておかないとな

そうこうしているうちに地図の通りの場所についた

「ここか…さてと学務関係はどこに行けばいいんだ?」

「あの黒い屋根の建物よ」

「えっ?」

後からかかった声に振り向くとウェーブのかかった髪を肩まで伸ばした女性と金髪の男がいた

「あっ、香里お姉ちゃんだっ」

「おはよございます。香里お姉ちゃん」

あゆと栞が真っ先に叫ぶ

「おはようみんな。…どうしたの? 北川君」

「いや…俺のことが苦手みたいだから…」

苦笑して距離を取る北川

それを舞、真琴、名雪は白い目でにらむ

「(こそこそ)なあ佐祐理、何があったんだ?」

「(ぼそぼそ)以前遊びにいらしたとき、あの3人が着替えてる
最中の部屋のドアを開けてしまったんです」

時が凍る

「許さん(ぼそっ)」

吹きぬける風と焦げ臭い匂い

まばたきほどの間に俺は北川の目の前まできていた

「なぜ止める? というかどうやって止めた?」

「秘密よ。それに彼とは一応他人じゃないから…ね」

一瞬で北川に必殺の一撃を叩きこもうとしたが直前で腕を香里に押さえられた

地面には俺が踏み込んだ後が焦げ目を残している

「そうか…だが一応報復は…」

「彼女達の目の前で?」

…そうだな…

「わかった。今回はあきらめよう」

俺は構えを解く

「絶対攻撃が来るってわかってたから何とか防げたけど…やるわね」

「香里もな」

俺は答える

北川は俺が指向的に放った殺気によって硬直している

妹達には殺気は伝わっていないはずだ

「あぅー…香里お姉ちゃんは祐一お兄ちゃんと同じ大学なんだ…クラスは?」

「さあ…入学するまではわからないわよ。そう言えば自己紹介がまだだったわね。
私の名前は美坂香里、この大学の一年よ」

「彼は?」

「北川潤、同じくここの一年よ」

「そうか、俺の名前は相沢祐一、実家からは通えない距離だから
こっちに引っ越してきた地元の大学から編入予定の一年だ。
今は秋子さんのうちの養子になったから水瀬祐一になるんだな」

親を説得するのにずいぶんと時間がかかってしまい、
しばらくは地元の大学に通っていたが、説得は成功して
結果として編入に問題の少ないこの時期を選んだのだ

「そう…あなたが…なるほどね」

香里は俺の差し出した手をつかんで握手を交わしながらいった

「ん? もしかして俺のことを聞いてる?」

付き合いがあったらしいからな、きっとそうだろう

「ええ、しっかりと。良いお兄さんになれると良いわね」

「まあな。ちょっと妹達を頼む」

「行ってらっしゃい。あの噴水の前で待ってるわ」

「わかった」

俺は教えてもらった建物に駆け込み、チェックと合わせて書類を渡す

……

「はーっ、広いんだな」

「そうね、千人はいるから自然とね」

学食に二人の声が静かに響く

…いや

「はぇ〜、おっきいですね〜」

「…沢山メニューがある」

「意外とバラエティがありますね」

「天井のステンドグラスとても綺麗だよ♪」

「ほんとうですぅ〜っ♪」

「あぅ〜っ、走っても全然はじに着かないよ〜」

「うぐぅ…天井が高くてくらくらするよぉ〜」

妹達の声が響く…

北川はサークルの用事があるとかで何処かへ行き、香里に案内してもらっているわけだ

一通り見まわって校門に来る

「今日はありがとう」

「良いのよ。じゃあまた休み明けに」

「ああ、それじゃあな」

『ばいば〜い』

香里は北川に付き合って大学に来ただけらしく、そのまま帰っていった

 

 

 

 

 

『ただいま〜』

「お帰りなさい。手を洗ってうがいをしてらっしゃい。お昼御飯ですよ」

『は〜い』

ドタバタと音を立てて全員が立ち去る

「ふぅ、やっぱり七人いっぺんは疲れますね」

「ふふっ、がんばってくださいね?」

「大丈夫ですよ」

見たところ素うどんの釜茹でらしいの器を用意していく

きっとうどんやつゆも秋子さん手製なんだろうな…

 

 

 

昼食はあゆが勢い良くうどんを吸いこんで泣き出したり、
真琴が箸でうまく掴めずにあたりに撒き散らしたりした以外は
和やかな食卓であった

 

 

 

「さてと…どうするかな…ふぁ…」

朝は疲れる起きかたをしたためにあくびが出た

「お兄様、お昼寝をなさったらどうです?」

食後のお茶をくれた佐祐理が言う

舞と美汐は後片付けの手伝い、真琴とあゆ、栞は歯を磨いている

名雪は…ソファーで既に寝ていた

「そうだな…ついでに名雪もベッドに運ぶか…よっと」

名雪を起こさないように(なかなか起きないだろうが)気をつけながら持ち上げる

長い髪が垂れて右手にかかり、その感触がいい感じだ

「お休み、名雪」

陽光が当たるために寒くはないが、念のために毛布をかけて寝る
昨晩やってやれなかった分も兼ねて腕枕をしてやることにした

朝は疲れる起きかただったためにすぐに眠くなってきた…

 

 

 

祐一が寝息を立ててしばらくすると、寝ていたはずの名雪が目を開ける

祐一の腕枕を嬉しく思いながら、自分のほうをむいている祐一の
顔をじっと見つめる

「祐一お兄ちゃん…」

そっとつぶやいて顔を近づけ、その唇に一瞬だが自分のそれを合わせる

「なかなか自分の気持ちに正直になれなくてお姉ちゃんや
妹たちとスタートラインは違うかもしれないけど…私も…祐一お兄ちゃんが大好きだから…」

再び距離を取って名雪がつぶやく

「俺も名雪のことが好きだよ」

「祐一おにい・・きゃっ」

さすがに起きた俺は、痛くないように柔らかく、
でも体全体で名雪をしっかりと抱きしめる

胸に顔をうずめているために本当のところはわからないがきっと名雪の顔は真っ赤だろう

名雪の体と髪から漂うやわらかな香りが俺の鼻をくすぐる

「名雪も佐祐理も美汐も舞も…みんな俺の大切な存在だからな…」

「うん…嬉しいよ」

ぎゅっと抱く力を強くする名雪を優しく撫でる

再び眠気が二人を襲う

 

 

 

「成功したみたいですね」

「あははーっ、これでスタートラインは一緒ですっ♪」

「…差がついたかもしれない…何があったかはわからないから…」

舞のつっこみに美汐と佐祐理は硬直する

「そうでしたね…」

「良いですよ。がんばった名雪へのプレゼントですっ♪」

3人は微笑み合って寝室のドアのそばから離れる

 

 

 

その後、夕飯の準備が出きるまで二人はぐっすりお昼寝をしました…

 

 

 

続く

 


後書き

ユウ「さて、予定では毎回、夜寝る場面で終わろうかと思いましたが、やめました」

名雪「…なんでなの?」

ユウ「そりゃ今回みたいな場合長くなる…このシリーズは長いと辛いんだ…」

名雪「えっと…書き萌えするから?」

ユウ「そう…長いほどUP出来るまでが長くなってしまう…」

名雪「しょうがないのかな?」

ユウ「まあ七倍以上だからな…今回はちょっとばたばたしてたし…」

名雪「でも意欲はあるんでしょう?」

ユウ「おうっ! カノンTCGのエキスパションを買ったからな…ふふっ、ウェディングドレス真琴が三枚…
   ウェイトレス名雪もかわいいぞぉっ!!」

名雪「あはは…がんばってね」

二人『でわでわ〜っ♪』

 

なおカノン大戦α十六話とは平行して書かれています