吹っ切れたつもりでも…時には見てしまう瞬間・・・
落ちていく視界…湿った土の感触…
恐怖にゆがむ幼い真琴の顔…
その瞳は驚きで染まっていて…
ゆっくりと時間はすぎて…
そして全ては白くなって…
シスターパニック!?〜七人の妖精編〜
第四、五話
〜終わる年と来る年と〜Bパート
「…っ!」
ん?
「…いちゃんっ!」
この声は…真琴?
「寝たんじゃなかったのか?」
「あぅ…起きた…起きたよぉ…うぐっ」
わけもわからないまま、泣き出した真琴の頬を撫でる
…これは…真琴に膝枕されてるのか?
「具合はどうですか? お兄様…」
「具合?…ああ、そうか…大丈夫だ。…時間は?」
体を起こし、泣き止むように真琴の頭をなでて聞いてみる
「もう五時すぎです。ずっと気を失っていたんですよ?」
そっか…名雪までが目を覚ましてベッドに寝かされた俺の方を向いている
『ごめんなさい…』
「次からは順番な?」
どこか違う、でも心配をかけないように言う
「はいっ、次からは気をつけますね。お兄ちゃん」
「…私も…兄様に迷惑かけない…」
「ようし、じゃあちょうど良いからみんなで日の出を見ようか?」
おっと…
「じゃあ先に明けましておめでとうっ!」
ふと思い出して言う
全員から…ちょっと湿った…新年の挨拶を聞いた
「それにしても…そんなになるまで泣いてたんだな、みんな…」
舞なんかウサギみたいに真っ赤だ…おっ
「ほいっ」
ひょこんと隅に置いたまんまだったリュックから途中で折れ曲がるうさ耳を舞に着ける
?って感じで首をかしげて耳を弄る舞がかわいらしい
それを見て周りから小さな笑いが漏れる
暗かった表情を明るくするには十分だったようだ
「お兄さん、アレはこのとき渡すのでは?」
美汐の声に思い出す
「おおっ…えっと…あったあった。じゃあ佐祐理」
「はい?」
「今年もがんばってくれよ」
秋子さんから預かっていた各自へのお年玉を順々に渡していく
…
受け取るとそれぞれ開けて中身を確認していた
「あれ? 残った…これは俺のか?」
秋子さん…俺のまで…
ちょっと申し訳なく思いながら中身を妹達のように覗く
…は?
中には紙が一枚
『了承』
とあった…
これは…つまり…そういうことですか?
…なるほど…
思った以上に秋子さんが気を使ってくれていたことに俺は感心した
いつもより時間がない仕事…あれももしかしたら…?
秋子さんは新年と…自分の娘を全員俺に預けたのだ…
それに答えなくてどうするのだろう?
そんなこんなで空が白くなってきた
『あっ!』
全員の声がそろう
初日の出…
わずかづつ昇ってきた太陽が家々の屋根の霜を溶かし、朝霧が立ちこめる
光は反射を繰り返し、幻想的な雰囲気を作り出す
朝の一瞬が生み出す光景…
沈黙を作り出すのには十分だった
部屋にさしこんでくる光…
彼女達の瞳に映る新年の始まり…
一緒にいるだけで…陽光に当たっている、それだけでは説明できない暖かさに包まれる
それは心の温かさ…みんなの思いは…きっと
『この瞬間を永遠に』
あゆと栞が背中に乗っかり、舞と佐祐理は左、美汐と名雪は右に、
真琴は俺の前に直接滑りこんできた
「…今年も…よろしく…」
両手を伸ばし、左右を向き、下も向き一言一言かみ締めるように言う
言葉は発せず、みんな頷く
端から見れば、傷の舐めあいなのだろうか?
傷ついた者どうしが寄り添い、暖めあって癒し合う…
そうかもしれないしそうじゃないかもしれない…
でも、どうだって構わない
どうだって…今一緒にいる妹達を…幸せにするだけだから…
おじさん…俺…守るよ約束、義務じゃなく…自分の意思で…
全員の頭を撫で、少し寝ることにした…
その瞬間一つのことが頭に浮かんだ
俺って裸じゃなかったか?
いつもの服装を着ていたということは…お?
「お兄さん…声に出てます…着替えさせました」
顔を赤くする美汐に不思議そうな表情を向けるとこう言った
「…私も…」
舞も答える
えっと…ぐはっ!
その答えの行きつく先に俺は絶句する
「大丈夫です。最初に見ないようにして下着をはかせましたから…」
そうは言っても真っ赤な顔が全然見ていないわけではないことを証明している…
しょうがないか・・
あきらめて寝ることにした
目が覚めたのはそれから約三時間後、もう十時近くである
TVでは恒例の新年のニュースがやっている時間帯だ
「お?…俺だけか…よっと、着替えてと」
妹達はみんな起きて下に降りたようだ
「おはよう」
「おはようございます。お兄様」
「お兄さん、寝癖がありますよ」
キッチンでおせちとお雑煮の支度をしていた二人が挨拶をする
「うぐぅ、おはようございますっ」
「お兄ちゃんっ、初詣は行くのかな?」
「おはよう…さあ? とにかく食ってからだ」
手伝いをしていたあゆと名雪に手を振って答える
栞と舞と真琴はのんびりTVを見ていた
俺も準備が出来るまでのんびりするかな…
「出来ましたよ〜」
佐祐理の声にみんなで手伝うことにした
テーブルには一緒に選んだおせちと各種お雑煮があった
『いただきま〜す』 「いただきます…」
舞は何時だって自分のペースを崩さない
俺はふと妹達は全部一緒なわけではないことに気がついた
「…白味噌やらなんやらいろいろあるんだな…」
関東ベースや関西ベース、白味噌、合わせ味噌等と小鍋で
各自の好きなお雑煮を作ったようである
ちなみに俺は…しょうゆベースだ
「はい、味の薄い濃いとかは好みがありますからね」
そう言うと美汐は自分のあっさりとしたしょうゆベースのお雑煮をすする
お餅も焼き餅である…うむ…なんと言うか…似合ってるな…
名雪は…お? あの餅妙に丸いな…ってまさか
「名雪…やっぱりそのお餅は…イチゴか?」
恐る恐る聞いてみる
「うん、イチゴ大福餅だよ?…お兄ちゃんも食べる?」
思ったとおりの返答と、半分ほどで箸でちぎった餅が俺のほうへと向けられた
「いや、名雪が食べれば良い」
断面によってはっきりとその言葉が真実であることを確認する
舞と佐祐理は仲良く合わせ味噌のようだ
しかしながらお餅が焼き餅か、煮た餅かの違いがあった
「舞は柔らかいのが良いのか?」
「…(コクッ)、喉越しが良い…」
こだわりであった
栞、真琴、あゆの3人は比較的と言うか確実に甘い白味噌風のようだ、
甘い匂いが漂ってくる
佐祐理と美汐の配慮か、3人のお餅は細かくしてある
まあそれでも…
「うぐぅっ!?」
あゆがうめいた
「あぅっ!? あゆっ、大丈夫!?」
「えぅ〜…あゆちゃん…息は出来ますか?」
自分のことのように驚く真琴とさらに先のことを聞く栞
あゆは必死に喉を動かして何とかのみほしたようだ…ふぅ…
ちゃんと汁に浸してからだったために滑りやすかったようだな…
その後は何事もなくすぎていった
「あっ、まだ一つ焼いたお餅がありますね〜。誰か食べますか?」
「あぅーっ、真琴が食べるっ」
一番早く食べ終えていた真琴が食べることとなった
「中は熱いから気をつけてるんですよ」
美汐がそっと真琴の器に焼き餅を入れる
真琴はすぐさまそれを口に…って!?
俺が止める間もなく
「っっ!?」
真琴が喉を押さえて倒れこむ
くそっ、もっと早く気がついていればっ!
恐らくまともに喉に詰まらせたのだろう、声も出ていない
「佐祐理っ! 洗面器をっ! 美汐っ、タオル持って来いっ!」
真琴の傍に駆け寄りながら叫ぶ
「真琴、どこに詰まらせたっ?」
突然のことに動けない名雪達…
「ん〜〜っ!!」
真琴は必死に喉の上の部分を指す
(ここだとしたら飲もうとしても入っていかない…)
真琴が指を指したのは喉の入り口付近、喉を動かしてもなかなか飲み込めない位置だ
このままでは息も出来ない…こうなったら
「真琴っ、我慢しろよっ!」
「?…っ!? ん〜〜」
真琴の頭をクッションに寝かせ、右手で鼻をつまみ、一気に口付ける
耳が痛くならないようにに慌てず、でも早めに息を吸い込む
左手で力を入れ過ぎないように気を使いながらあごを押さえ、
口が閉じないようにする
中の空気が動く感触…来たっ!
ぽんっと音がしたかのような勢いで
真琴の喉に詰まっていた餅が俺の口にぶつかる
俺は真琴から口を離す
「よしっ」
指でそれをつまんで佐祐理が持ってきた洗面器に入れる
続いて美汐が差し出したタオルで真琴の口の回りを拭く
しばらく咳き込んだ後、真琴はゆっくりとこちらを見る
「おっ、おにいちゃ〜ん…うぐっ、あぅ〜〜〜っ」
無事だと悟り、緊張が解けて恐怖が真琴に一気に迫る
押しつぶされないように、俺はしっかりと真琴を抱きしめて撫で続ける
ゆっくりと、優しく…
「あっ、私お水を持ってきますね」
「お布団持ってきたほうが良いかな…あゆちゃん、行こう?」
「うんっ」
硬直から脱した3人が駆け出す
「救急車呼んだほうが良い?」
「多分大丈夫だ。舞も落ちついて休んでてくれ」
舞は頷き佐祐理と一緒にソファーに座る
「私は…恐怖で動けませんでした…」
「それが普通さ。美汐…」
申し訳なさそうにする美汐を空いた左手で抱きしめる
その体は震えている…怖いのだ美汐も…家族を失うことが…
でも真琴は生きている…よかった
俺は真琴の顔が突然襲いかかってきた出来事に驚き、
恐怖で染まったとき脳裏に蘇った光景を振り払う
失いたくない、いや失わせやしない
俺の腕の中で震える小さな、でも大切な存在を抱きつづける
「よっと…まあ少し寝てろ。みんないるし、TVでも見ていようぜ」
「お参り行けなかった…」
真琴はそれでも布団の中でうつむくように言う
「後で行けば良い。秋子さんも夕方には帰ってくるんだからな」
安心させるように真琴の頭に手を置いてつぶやく
「うん…ごめんなさい…」
真琴はつぶやいてその瞳を潤ませる
「ほら…正月早々そんなんでどうするんだ?」
俺の言葉に真琴もようやく落ちつきを取り戻す
その後は静かに時はすぎていった…
やがて帰ってきた秋子さんと共にお参りに行った事を記しておく
今年は…良い意味で気の休まる時はないようである
大切な妹達に囲まれて、充実した年がすごせそうである
続く
後書き
ユウ「シスプリボーカルアルバム〜12人の天使達〜…癖になるなあ…」
真琴「ついにシスパニシリーズの執筆BGMは決まったわけ?」
ユウ「んっとそうでもない。基本はここでも使ってるカノンのMIDIだな…
お気に入りは『冬の花火』かな…シリアスが書きやすいし、一番好きだから」
真琴「これを聞きながら真琴のラストを考えるとピンチなのよね?」
ユウ「うっ…(脳裏に展開する恥ずかしい過去)」
真琴「つまらない授業中にSSを考えてていきなり潤み出したり…しかも最前列」
ユウ「がふぅっ!?」
真琴「ラッシュの電車の中で真琴のドラマCD聞いてて秋子さんの『行ってらっしゃい』
で思わず目じりを押さえないとやばいぐらいあふれてきたんでしょ?」
ユウ「がはぁっ!?」
作者転倒中
ユウ「ぜはー、ぜはー…ふぅ…悪いか(開き直った)」
真琴「あとは舞の雪うさぎに…」
ユウ「言うな…頼む…自分じゃどうにもならんのだ(涙)」
真琴「それだけ芯まで染まってるんだ…」
ユウ「まあSS書いてるんだったら普通だとは思いたいが…気のせいだなきっと…」
真琴「あきらめたら?」
ユウ「そうする」
真琴「で? 今回のは?」
ユウ「普通ファーストキスって小さい時に親にされてるからいいよねってことで(汗」
真琴「あぅ〜…恥ずかしかったんだから…」
ユウ「ふっ…命の危機を前に何を…」
真琴「後5人…どうやって距離を縮めるのよ…」
ユウ「まあ追々」
真琴「追々って…まっ、良いか…じゃ」
二人『でわでわ〜っ♪』