この作品で、佐祐理さんはただ口調が丁寧であり、自分を名前で呼ぶだけです。
そのため、カノン本編とは口調が異なることがあることをご了承ください
「くっ…動けないか…」
俺は腕を必死に動かそうとするがはめられた枷はそれを許してはくれなかった
横になった十字架のような物にはりつけられた俺はうめく
「目覚めたようだな?」
横を向いた俺の視線の先にたい焼き団首領が現れた
俺は無言でにらみつける
「ふふっ、逃げられると思ったのか?」
そう、俺は結局たい焼き団の怪人として世界各地でたい焼き屋のオヤジとなり
アメリカ、中国、イギリス、インド等、多くの人間をたい焼き無しでは生きられない体にしてきてしまった…
妹達が無事ならそれでも良かった。だが、俺に下された次なる目標、
それは妹達が住む国、日本だった
俺は…逃げた。妹達を守るために…
他人は巻き込んでも平気で、妹達を巻き込むとなったらやめるなんて
そう思う人もいるだろう…それが普通だ。
だが彼女達は俺が絶対に失ってはいけない存在なのだ…許してほしい…
しかし、狭い日本だ。すぐにつかまり…ここにいる…
「正直に命令を聞いていれば妹達は見逃してやっても良かったのだぞ?」
ただの威圧だろう…やつらがそんな妥協をするはずが無い
今思えば…俺のたい焼き団への忠誠心を試すための命令だったのだろう。
その証拠に日本では俺がつかまった後、活動が行われていない
「だんまりか…それも良かろう。そうでなければ意味が無い」
そして…再び…彼女達が連れてこられた
薬でも使われたのかぐっすり眠っている
「2度目は無いといったはずだな?」
「まさかっ!? やめろ、やめてくれっ!!!」
「そうはいかん。約束だからな…つれて来いっ!」
首領の声に戦闘員の一人があゆを部屋の中央にある祭壇に乗せる
気付け薬をかがされ、あゆがうめく
「あゆっ!」
「お兄ちゃんっ!」
目が覚め、俺を見るとあゆが暴れる
もがいても所詮少女の力、戦闘員は揺るがない
「やめろ…何でもするから妹だけは…彼女達だけは助けてくれ…頼む…」
俺はしぼりだすようにして懇願する…
「知らんな…それっ!」
「あゆぅぅぅっっっ!」
俺の目の前であゆの口にたい焼き団特製のたい焼きが入れられる…だめか…
あの味に耐えられなければ…待つのは怪人になる道・・・
「ふふふ…っ、何っ!?」
首領の顔が驚きに染まる
「うぐぅ…ふしぎなあじだよ…」
あゆは平気な顔をしていた
「まさかっ! これに耐えられるものなど…そうか…おまえ達は…
やるな…ならば他の方法にしよう。おい、アレを持って来い」
戦闘員が持ってきたのは注射器とアンプルだった
俺に一人が近づき、右手に打つ
「く…何のつもりだ…っ!? これは…」
「教えてやろう。おまえ達怪人にはたい焼きを介さない、
直接相手をたい焼き好きに変える能力があるのを知っているな?」
知っているに決まっている。最初に教えられた。相手の体に長く触れるほど良い…まさかっ
「おまえは知らない、と言うより教えていないが、この効果は粘膜どうしの方が移りやすいのだよ…ふっ」
首領の合図で今度は真琴が俺の前につれてこられた
「あぅー…お兄ちゃん…」
突然のことに真琴は震えている…当たり前か…
俺は体の疼きを押さえるのに必死だった
「苦しそうだな? さっき打ったのはその能力の強化とともに…
十分以内に誰かを怪人にしなければ命が尽きる…そういう効果がある」
「お兄ちゃんがっ!?」
真琴の悲鳴が響く
「娘、兄を助けたければ…わかるな?」
「やめろっ!」
「あぅー…真琴が…お兄ちゃんと同じ立場になればいいのね」
「利口な子だ…さあ…」
真琴は意を決したように俺に近づく
「真琴…やめろ…おまえ達を失ったら俺がこうしてきた意味が…」
死に物狂いで体を動かす。だが体は動かない
「お兄ちゃん…信じてるから…」
そして恐る恐ると言った感じで俺に触れる唇…
真琴の匂いと暖かさに俺は包まれた
長い口付け…
…
……
くっ、苦しい…息が…
真琴の髪が顔にかかりうまく息ができない
意識が…
シスターパニック!?〜七人の妖精編〜
第六話
〜春に向けて〜
「んんっ!?」
「あぅっ、起きちゃった…」
目を覚ますと目の前に真琴の顔があった
髪が鼻にかかり、息苦しかったのだ
俺が起きたと知ると顔を上げる
両手はいつもの状況で痺れ、うまく動かない
目に映る時計を見ると午後二時…昼飯も食わないで寝てたのか…
二月最後の休日、朝食の後、まだ眠いという栞に付き合って昼まで寝る事にしたのだ
俺と一緒に寝ているのは栞とあゆ、真琴の三人だった
後は…秋子さんの手伝いに行ったのだろうか?
「あぅーっ…お腹すいた…」
真琴のつぶやきに答えるように二人が目を覚ます
「はふ…おはようございます〜…」
「うぐぅ…おはよぉ…」
まだ寝ぼけているのか目を閉じかけ、
体も俺にくっつけたままでその体温を感じさせている
「ほら、起きて昼食を食べに行くぞ」
俺は体を起こして二人を揺する
「はい、あゆちゃん行きましょうっ」
「うんっ」
年相応に、起きればすばやく駆け出して行った
後に残るのは腰を上げた俺と隣に座る真琴
「で? 真琴、なんでキスしたんだ?」
「あぅ〜…しちゃいけなかったの?」
いや…そう言われると…
俺が言葉に詰まると真琴が続けた
「だって…今度はお兄ちゃんとちゃんとしたいなと思ったから…」
確かに、真琴とのキス…あれをそう判断するならばまともな状況ではあるまい
「それはわかったが、俺が寝たままでも同じことじゃないのか?」
「…あぅ〜…」
思いもしなかったのか真琴が恥ずかしそうにうつむく
俺は微笑みながらそんな真琴のあごに手をやりゆっくりと持ち上げる
「?…あっ…ん…」
一瞬、真琴は驚きに体を硬くしたが、すぐにそれも力が抜けた
唇だけだったが、本当の意味でのキス
「真琴、顔が赤いですよ? どうかしたんですか?」
降りてきた二人を見て美汐が言う
「ベッドが暖かすぎただけだから大丈夫よ」
真琴は照れた表情でそう言った
美汐もそれ以降の追及は止めたようだ
イスに座ると佐祐理と舞が二人分の食事を持ってきてくれた
俺達は少し遅れただけですんだようだ。まだ誰も手をつけていないし、
テーブルに並んだトーストも湯気も立っている
「悪いな…秋子さんは?」
「ここですよ」
「うどわぁっ!?」
真後ろからかけられた声に俺は本気で驚く
まだ動悸の収まらない胸を押さえながら振り向く
「なんでまたそんな近くなんですか?」
「丁度祐一さんにお願いを言おうとしまして」
「お願い?…俺にできることだったら」
秋子さんは俺の言葉を聞いて真剣な表情をすると
「私の出番を増やしてください」
「無理です(即効)。俺がどうこうできることじゃありません」
きっぱりと言い返す
「そう…ですか…」
「っ!? 俺ができることならなんでもしますからっ!」
秋子さんが悲痛な表情で手に取ろうとしたブツを見た瞬間叫ぶ
「そうですか? じゃあお言葉に甘えます。お話は食事の後に…」
いつもの秋子さんに戻り歩き出す
「わかりました」
俺は胸をなでおろして言う
秋子さんがキッチンを去った後、ふと見れば全員震えている
佐祐理までもが顔色を悪くしている
「まさか…食べたのか?って当然か…俺より確率高いのは…」
無言のまま全員がため息をついた
時計の音がいやに静かに響いた
黙々と遅い昼食をみんなで食べる
食事の後、秋子さんは居間に来て俺に一枚の書類を渡した
「雛人形、ですか?」
そうか、もう2月も終わりだしな…
最近は雨が降ったせいで急に暖かくなり、雪も全部溶けてしまった
「はい、あゆが…生まれてから新しく買ってないですから…」
秋子さんの表情がわずかに固まる
…七年は…薄められても直すことはできなかったようだ…
秋子さんが買いかえると言い出したのは俺のせいだと思いたい
それで秋子さんが心からの笑顔を取り戻すなら…
「わかりました…で、ここで注文書を渡せば良いんですね?」
「はい、良くしてもらっている職人さんですから…」
表情が硬くなったのも一瞬のこと、すぐに元に戻った
「みんなつれて行くんですか?」
「ええ、そうしてください」
「本当ですかっ!? じゃあ着替えなくてはいけませんね。行こう、みんなっ」
『うんっ』「わかった…」
どたばたと部屋を出て階段を駆け上がる妹達
姦しいというか…当たり前か…
しばらくして全員が思い思いの服装で降りてきた
「…………」
俺は並んだ彼女達に声も出ない
ずいぶん暖かくなってきた陽気に合わせて柔らかめの、暖かさを感じさせる服装だった
各自一色に統一されていたが、その色も薄いピンクやイエローと豊富である
すねまであるスカート、秋子さんの裁縫の賜物だろう。サイズもぴったりなワンピースだった
生地も良く見ると厚めだ。それでも寒くないよう、上に同じ色のカーディガンを着ている
何にせよ…
「お兄様、どうしたんですか?」
「お兄ちゃんが凍ってるよ…」
「うぐぅっ!? 大変だよっ、暖めなきゃっ」
名雪のつぶやきにあゆが叫ぶ
「違いますよ、あゆ。この場合は驚いていることをさしているんだと思いますよ」
『えっ?』
ばしゃぁぁっっ
「うぉぉぉっ!?」
栞と真琴の声とともに頭に熱めのお湯が降ってきた
幸いやけどするような熱さではなかった
「俺が着替えてくるまでしっかり拭くように」
『はい…ごめんなさい』
自分のことを心配した上での行動なのだから謝る二人に
それ以上は言わずに頭を撫でてから階段を上がり部屋に戻る
「ん〜っ、良い天気だな」
「はぇ〜…本当に良い天気ですね〜」
今日は快晴、そのせいですでに春らしい暖かさだ
全員で教えられた道を行く
ちなみに手はつないでいない。つなぐとつなげなかった妹がむくれるからだ
いつもの商店街へとおもむき、人形店を見つける
「あの〜…あい、いや水瀬ですが」
思わず以前の苗字を言うところだった
「はいはい…あらら佐祐理ちゃんお久しぶりね」
「はい、おば様もお元気そうでよかったです」
店の奥から出てきた人と佐祐理は話し始めた
その間みんなで店を見て回ることにした
季節がら雛人形が店に多く並んでいる
しばらくして…
「お兄様〜、注文書をお願いします」
「おうっ」
佐祐理の元に駆けよって書類を女将さんに渡す
それに女将さんは目を通すと
「なるほど…そういうことね。わかったわ。確実に2日には届けるわ。
みんな、楽しみにしてなさいよ」
女将さんは意味ありげな顔で俺のほうを向いて
「幸せね…あなたは」
「…まあ、そうです」
意味するところはわからなかったが幸せなのは事実であった
帰り際に商店街でついでに頼まれた夕食の材料を買って帰る
今日も楽しく一日がすぎる…
続く
後書き
ユウ「いやぁ、すっかり忘れてました。祐一君の苗字。今回のUPのついでに変えましたよ。
水瀬祐一に、養子に来たんですもんねぇ…そのままでも良かったかもしれませんが、
私の祐一なら少しでも近くなろうとこうするかな、と…」
ユウ「今回のお話は3.3にむけてのつなぎと、たい焼き団(爆)の活躍です。
ちなみにこの夢、最終話があります。次からはヒーロー物に変わります(笑)」
ユウ「今日はパートナーは無しです。それでは」