シスターパニック!?〜七人の妖精編〜


第七話

〜降り注ぐ思いと受けとめし者〜

 

「……まだか?」

俺は暇を持て余して意味も無く寝室をうろつく

今日は3月3日、雛祭りだ

何時もなら下に降りて昼食を食べ、午後はどう過ごすか考えるのだが…

『佐祐理達が良いと言うまで上で待っていてくださいね?』

と言われてしまったのだから仕方が無い

恐らく、というか確実に準備や着替えをしているのだろう

こういうとき、男の出番は無いのだ

「…ってどこを開けようとしているんだっ、俺っ」

気がつけば寝室のたんすに伸びていた手を引っ込める

確かにこの中は秘密の詰まったパンドラの箱だ

そう、見つかったときの絶望も詰まっているのだ

「かと言って部屋を出るのもなあ…」

偶然妹達に出会うかもしれないのだ

そうなったら妹達の考えが無駄になってしまうだろう

結局窓から差しこむ陽光の中、まどろむことにした

 

 

こんこん

「ん?」

「お兄様、準備が出来ましたのでゆっくり降りてきてください」

「わかった」

佐祐理が階段を降りる音を聞きながら、そろそろかと部屋を出る

(雛人形は居間に飾るって言っていたよな…)

いきなり開けるのいけないかと思い、とりあえずノックしてみる

こんっこんっ

『もう良いよ〜っ』

俺はその声を聞いて扉を開ける

がちゃ

「おおおぉぉっっ!?」

俺は目に入った光景に声を上げる

「どうですか〜?」「似合ってますか?」「…変じゃない?」

「えっと…かわいいかな?」「あぅーっ、ちょっと苦しいよぉ…」

「真琴お姉ちゃん、帯がきついんですか?」「うぐぅ…ボクも…」

自分の服のすそを持ってみたり指をあごに持ってきて首をひねったり、
もじもじと指を意味も無くあそばせたり、さまざまな反応だ

「みんな、良く似合ってるぞ」

俺はいつも通りに騒がしくなるのを笑顔で眺めながら言う
妹達は晴れ着に身を包んでいた

金の刺繍等が光を反射する

「よかったよ〜っ、ねっ、お姉ちゃんたちもっ」

あゆの声にうなずく佐祐理達

そして小さな宴が始まる

 

「こんなに明るい雛祭は久しぶりですね…本当に…」

「秋子さん…」

七人が歌うのをソファーで眺めていた俺のそばに秋子さんが座った

「表情は明るくなっても…内面が癒されていないことが…わかってしまうのがつらかった…
わかっていても癒しきれない自分が嫌でした…ありがとうございます。祐一さん」

顔は七人に向けたままで、でも俺にだけ聞こえる小さな声で…秋子さんは言った

「それは…」

秋子さんのほうを向き、なおも言おうとした俺の口を秋子さんの指がふさぐ

「だめですよ。そんなことを言っては。祐一さんが事故の事を気にするのも事実なら、
祐一さんがいることで私達が救われていることも事実なんですよ?」

すべてを乗り切った表情で秋子さんが微笑む

俺はその言葉に目を細めながら七人と飾られた雛人形を眺めた

一人を中心として七人が円を作って周りを囲んでいる人形…

その背格好も一つ一つ微妙に違う

「あれはやっぱり…」

「ええ、あなたと娘達ですよ。あの子達のああして欲しいという希望です」

俺の脳裏に人形店の女将の言葉と表情が蘇る

 

「祐一さん、どうぞ」

「え?…って中身は何です?」

「大丈夫ですよ。おとそですから…」

秋子さんに進められるままに注がれたそれを飲み干す

暖かさと甘い香りが広がる

「もしかしてこれも自家製ですか?」

「あまり飲みませんでしたからね。たくさんありますよ」

のほほんと一升瓶をどこからかテーブルの上に置く秋子さん

「あっ、真琴も飲む〜」

「うぐぅ、ボクもっ」

「私も飲みたいですっ」

真琴たちが飲み始めるとみんな飲み始めた

「飲みすぎるなよ」

「おいしいよ〜っ、甘いよ〜」

「あぅーっ、本当だっ」

「やめられませんね」

っておいおい…

俺が冷や汗をたらす中、一升瓶は七人の胃袋に消えて行った

 

そして…

「お姉ちゃん、大丈夫ですか?」

「あぅーっ、暑いよう…」

「はい、お水だよっ」

飲みすぎた真琴と介抱する二人

「……」←良い気持ちでまどろんでいるらしい

「はぇ〜っ、あれ? お兄様は飲まないんですか?」

「そうですよ、飲んでください」

舞はソファーで転がり、年長者二人は無事なようで無事ではなかった

とろんとした目でこちらを見る

(うっ…これは…)

桜色に頬を染め、左右から俺を挟みこんでくる二人

触れた場所から伝わる体温も高くなっている

「祐一お兄ちゃんっ」

「栞、どうした?」

突然栞が叫んだ

「アレやってください」

「アレ?」

「アレですよ。ぐるぐる〜って」

栞は帯をつかんでその場でぐるぐる回る

まさかこれは…

「お代官遊びをしろと?」

「そうですっ!」

「栞、飲みすぎてないよな?」

俺は栞の額に手を当てる

「着物といえばこれでしょうっ。お約束ですっ」

栞…時代劇も見ているんだな

「やるのか?」

「やってください」

お正月のときは出来なかったせいか、わくわくした感じだ

栞の帯を持ち、掛け声とともにひっぱる

「あれ〜〜っ、お兄ちゃんお戯れを〜っ」

栞ものって妙なお約束の声をあげ、肌じゅばんだけになると
笑いながらじゅうたんの上を転がる…うぉっ!?

「栞っ、はいてないのか?」

「え? 着物の下には下着はつけないんですよね?」

むくっと起きあがった拍子に栞の肌が覗く

乱れた純白の服と桜色の肌が生み出すコントラスト…ってな事を言っている場合ではない

「風邪ひくだろ? これはやめよう」

「えぅ〜、そうですか?」

「残念です」『残念』

「なにぃっ!?」

後ろを見ると佐祐理や名雪達が自分の帯をつかんでこちらを見ていた

一瞬のうちに頭に浮かんだ想像を頭を振って振り払う

「気分も悪くなるかもしれないからな。やめておこう」

「わかりました〜」

「う〜、残念だよ」

「うぐぅ、そうだね」

「残念です」

その言葉に苦笑していると視界に寝息を立てる舞が映った

「ん? 舞をベッドに運ぶか…佐祐理、美汐、寝やすいように着替えさせてやってくれないか?」

「はいっ、わかりました」

「はふ…私も眠いです。お昼寝でもしましょうか?」

「賛成っ」

「ボクも眠い…」

「真琴お姉ちゃんも休ませて上げましょう」

次々とみんなで階段を上がる

ずるっ

「うぐぅっ!?」

「おっと」

足を滑らせたあゆを両手で捕まえる

「びっくりしたよぉ…」

「ははっ、はきなれてないせいだな」

足袋をはいた事がまずないであろうあゆは歩きにくいようだ

 

 

「ちゃんとたためるんだな」

「練習しましたから」

着物を正確にたたむ姿を見て俺が言うと佐祐理はそう答えた

佐祐理以外も自分のをしっかりと片付けている

「それはそうと、その格好で寝るのか?」

「? いけませんか?」

「まあ良いけどな、別に…」

七人全員は純白の衣装のままでいた

 

「今日は佐祐理が隣ですっ♪」

ぎゅっと佐祐理が俺につかまる手に力をこめる

薄い生地一枚を介してほとんど直接にぬくもりが伝わる

「佐祐理?」

「こうしていたいんです」

「そっか…」

左から舞が同じように抱き着いてくる

お昼時とはなぜこうも眠たいのだろうか?

伝わるぬくもりと、思った以上の二人の女の子な感触に
自分の体温が上昇するのを実感しながら眠りに落ちた

 

 

 

 

ぼむっ

「なんだ!?」

真琴が俺に触れ、絶望した瞬間、爆音と煙とが充満した

混乱が満ちる中、驚く俺の枷が突然外れる

「え?」

「早くっ、娘達は先に脱出させましたから。祐一さんは真琴をつれて脱出をっ」

「秋子さんっ!?」

問いただす間もなく、秋子さんにつれられてたい焼き団のアジトを脱出する

 

 

 

落ち着いたのは水瀬家にあった地下室であった

「ここは…」

「いつか…戦う日が来ると思っていましたから…」

「戦う?」

俺は泣き崩れる妹達をなだめ、用意されてあったベッドに寝かせた後聞いてみた

「たい焼き団、彼らの怪人を生み出すたい焼き…アレは…」

俺にもその先がなんとなく読めた

「本来人間の持つ生命力を高め、体を丈夫にする効果のあったあのジャムを
彼らは改造し、肉体強化に使ったのです。さらに独自の研究成果である
食依存症を引き起こす細胞を材料に混ぜ、たい焼きへの依存を強制的に与えているのです」

秋子さんは一旦言葉を切る

「まさかこんな事に使われるなんて…健康食品を作るという嘘に
だまされた私が馬鹿だったんです。祐一さんを…巻き込んでしまった」

「秋子さん、真琴が…」

俺は秋子さんに真琴が俺から感染している可能性を話した

「わかりました。祐一さん、一緒に戦ってくれますか?」

「え? それと真琴がどう言う関係が…」

「これです」

秋子さんは地下室の棚の中からカプセルを取り出す

「出来たのはこれ一つですが、食依存症の細胞を自滅させ、服用者に特殊能力を与えられます」

「なら真琴にっ」

「それはだめです」

「なぜです?」

「これはまだ完成とは言えないんです。激しい痛みを伴います。
真琴には…耐えられないでしょう」

「でもこのままではっ」

「大丈夫ですよ」

秋子さんは俺の手をそっと握る

「秋子さん?」

「これを服用したものは心から信頼するものに自分の力を分け、
同じ力を持たせることが出来るんです」

「それで真琴を…」

「ええ…ですが先ほども言ったとおり激しい痛みが来ます。恐らく人間の限界ぎりぎりでしょう。
祐一さん、巻き込んでおいてこんなことを言うのも気が引けるのですが…やってくださいますか?」

「当たり前ですよ…俺は…兄なんです」

秋子さんに力強くうなずく

頭を下げる秋子さんからカプセルを受け取り、飲み込む

「うっ…ぐぁあぁっ!」

お腹から広がるどうしようもない痛み、
人が思いっきり乗っかっているような痛みが体全体に広がって行く

遠のく意識を必死につなぎ止める

「俺は…失いたくないっ」

 

そして反転…

 

 

 

「お兄ちゃん、起きてよっ」

どすっ

「ぐはっ!」

「あっ、お兄ちゃんが起きたよ〜っ」

突然の衝撃に涙を浮かべながら見ると名雪とあゆが俺の上に腰掛けていた

「重いぞ…」

「う〜っ、重くないもん」

「うぐぅ…そうだよっ、お兄ちゃん。女の子に失礼だよっ」

「そうだな…すまん。ところで何時だ?」

すねる二人をどかして腰を上げる

時計はすでに午後5時半

良く寝たな…

「もう晩御飯だって、お兄ちゃん。行こう?」

「そうするか」

二人を引き連れて下に降りる

 

 

 

 

雛祭りということもあって、ちらし寿司が食卓に並んだ

妹達の楽しそうな声が響く中、夕食の時間はすぎて行った

 

「お兄様、舞と栞、あゆの四人で先にお風呂に入りますね」

「3人はそれで良いのか?」

「あぅーっ、良いよ♪」

「はい、大丈夫です」

「お兄ちゃんとお風呂…楽しみだよっ」

水瀬家の夜は早い、名雪がすぐ寝る性もあるが、何よりも
布団で全員一緒にいればすぐに眠くなっていまうのだ

…誰だ? 毎日どきどきして良く寝られないんじゃないか?って思ったのは…

…なぜわかった?

 

 

 

「おっ、今日はちょっとぬるめだな」

秋子さんがおとそを飲みすぎた真琴のためにそうしたのだろう

それでも温まるには十分な暖かさだ

かけ湯をして湯船につかる

「お兄ちゃん?」

「名雪か?」

「私もいます」

「真琴もいるわよっ」

がらがらと音を立てて3人が浴室に入ってくる

「お兄ちゃんとお風呂だよっ♪ わわっ」

「名雪っ」

ばしゃぁっ

つま先まで来ていたタオルに足を取られ、名雪が勢い良く湯船に飛びこんできた

とっさに名雪の体を支えるものの、盛大な音がする

「けほっ、大丈夫か?」

「うん…お兄ちゃんあったかいね」

すりすりと猫のように頬を俺に擦り付ける名雪

「名雪ばっかりずるいっ」

「真琴、走ってはいけませんよ」

二人も湯船に入ってきた

「やったよ、真ん中だよっ」

「真琴が左側ねっ」

「じゃあ私は右ですか…」

じゃんけんをしだしたと思ったら誰がどこに来るかを決めたらしい

「お湯よりは温度が低いはずなのに暖かいですね…不思議です…
それに…優しい気持ちになれます」

「美汐はおばさんくさいな」

「失礼ですよ、お兄さん」

くすっと微笑んで俺の肩に頭を乗せる美汐

タオルのざらざら感と伝わるぬくもりが気持ち良い

「あぅ〜…」

真琴は終始笑顔で長い髪を湯船にたゆたせながらくっついてくる

「重くない?」

「お湯の中だからな、ぜんぜん大丈夫だぞ」

見上げるようにして聞いてくる名雪に答える

俺にはそんなことは問題ではなかった

左右だけならともかく、名雪が俺の前にその身を預けているのだ

名雪の体重が俺の体に心地よくかかってくる

同時にその柔らかさも…

3人の特徴のある甘い香りと暖かさとが合わさってくる

無下に振り払うわけにもいかず、俺は耐えた

落ち着いて名雪達のことを考えれば思ったよりも簡単なことだった

手で3人の頭を撫で、だいぶ温まったので上がることにした

 

「ほら、真琴。まだ水が残ってるぞ」

「あぅ?」

下着を着けようとした真琴の体を捕まえて背中を拭いてやる

痛くないように優しく拭いてやると真琴の顔が緩む

「お兄ちゃんって体を拭くのが上手なんだ…」

「まあな」

そんな真琴を見て名雪も拭いてくれと言い出したのには驚いた…

前は…さすがに拭けないぞ…名雪・・・

 

 

『可能な限り一緒に寝る』

妹達が自身で決めた約束の元、佐祐理達は居間でくつろいでいた

俺達も一緒にしばらくTVを見ているとなんだかんだでもう九時になった

「じゃあ寝ましょうか?」

「そうするか…」

名雪が船を漕ぎ始めたのを確認すると寝室に向かう

 

 

 

「すー、すー…」

「良く寝てるな…」

左側に寝た名雪を起こさないように(まず起きないだろうが)静かにつぶやく

すぐに眠くなるとは言っても、この年になれば昼にあれだけ寝れば夜は寝にくいものである

俺はなにをするでもなく、天井を眺める

「寝れないんですか?」

「ん?」

俺の右隣に陣取った美汐がつぶやいた

「ああ…さすがにな」

「じゃあ良く寝れるおまじないをしましょうか?」

「…そうだな…」

美汐なら良い方法を知っているだろう

「ちょっとこっちを向いてください」

「どうする…っ!?」

俺が美汐の方を向いた瞬間、美汐は自分からキスをしてきた

「美汐?」

「これで私は寝られます…誰もお兄さんが寝られるおまじないだなんて言ってませんよ?」

「ぐはっ…確かに」

女の子らしく微笑む美汐を見たら文句もどこかに行ってしまった

「不意打ちみたいですいませんでした」

「別に良いさ。美汐?」

「はい?」

きょとんとする美汐に今度は俺からキスをする

「…お兄さん…」

「俺から良く寝られるようにおまじないだ」

「…はいっ、おやすみなさい」

目を瞑る美汐の顔を眺め、幸せに胸を一杯にしながら目を閉じる・・・

(おまじないは…効いたな…)

そんなことを思いながら俺の意識は閉じて行く

 

 

 

春の息吹がすぐそこまで来たある日のお話…

 

 

続く

 


後書き

ユウ「な〜んか毎回祐一君がぴんちなきがする今日この頃。妖精編七話をお送りします」

美汐「今回は私がメインですか?」

ユウ「最後はね。帯ぐるぐる〜っ、は栞以外は言いそうになかったからな…」

美汐「次はどうするんですか?」

ユウ「う〜ん、二つほど書いて行って作品の中の時間は進む」

美汐「ついに学校ですか?」

ユウ「そうだね〜、あまり書いてないから…なんたって書いてるときは
   私自身が休みの真っ只中だからね…どうしても休みの日を書いちゃうんだ」

美汐「しょうがないですかね…ところで…」

ユウ「おお、ちなみにたい焼き団シーン(爆)はこれからコメディタッチになると思います。
   名づけて『フェアリー・シスターズ』まんまだけど…」

美汐「今までのシリアスは一体…なんだったんでしょう?」

ユウ「この面子でシリアスが書き続けられるわけが無かろう」

美汐「そうですね。絶対暴走させてしまいますからね」

ユウ「…なぜわかった(汗」

美汐「さあ? 今日はこのぐらいで」

二人『でわでわ〜っ♪』