シスターパニック!?〜七人の妖精編〜
「すいませ〜ん、いつもの十匹」
若者の声がまだ日の昇りきらない町に静かに響く
人気の無い路地を抜けた先にある空間…あたりには何も無い、空き地だった
そんな中に屋台が一軒あった
「はいよ」
親父が手渡したたい焼きをむさぼるように食い尽くす若者
「親父さん、もう5匹」
十分ほどでそれを食べ尽くした若者が言う
「あいよ」
(ふふふ…これでこいつもはまったな…)
親父、たい焼き団の怪人であるその男は胸中でつぶやいた
「そこまでだっ!」
叫びが聞こえた瞬間、若者の手からたい焼きがすべて消え去る
「あああっ!?」
「何者っ!?」
朝もやの中、光が差す
日が昇ったのだ
「イチゴも食べなきゃいけないよ♪ シスターレッドっ!」
「バニラだってあったほうが楽しいです。シスターホワイトっ」
「あぅーっ、肉まんだって暖かいわよっ。シスターオレンジ!」
「…牛丼はお腹一杯になる…。シスターブルー…」
「あははーっ、栄養は偏ってはいけませんよ〜っ。シスターピンクです〜」
「そうです。好き嫌いはだめですよ。あっ、シスターブラックです」
「うぐぅ…それにっ、味あわないでたい焼きを食べるなんて許せないっ! シスターフェザーっ!!」
朝もやの中から進み出たのは…
『フェアリー・シスターズ参上っ!』「…参上」
名雪を中心に、正面から左に真琴、あゆ、右に栞、舞だ
佐祐理は右後方、美汐は左後方にいる
秋子さんお手製の見た感じ魔法少女の衣装を全員纏っている
名雪はイチゴを先にかたどったステッキ、栞はバニラアイス、
真琴は肉まん、舞は牛丼、あゆは無論たい焼き、と各自好きなものらしい…
佐祐理はハート、美汐は星マークだ
背中には全員各自の色をした半透明の羽根がついている
あゆは白い羽根だ。
「お〜い…あゆ、もぐもぐしながらは、はしたないぞ」
ばさっ
俺は近くの屋根から飛び降りる
俺の衣装は漆黒のコート、あたかも自らの罪をあらわしているように…
羽根も透明ではない、黒だ。
「貴様っ、祐一!? 裏切ったというのは本当だったのかっ!?」
親父、いや怪人がうめく
「問答無用っ! いくぞっ!」
すばやく俺は駆け出す
「必殺だよっ…くーっ…」
名雪の必殺技、見てると眠くなる姿、が炸裂したっ!
「うぉぉっ!? 何か妙に眠たいぞっ!?」
怪人はその場にひざをつく
「今ですっ、アイスフォールドっ!」
栞のステッキから冷気が伸びると怪人を包み、動きを鈍らせた
「食らえっ!」
「卑怯っ、ぐはっ!」
下に来た怪人の顔面を思いっきり膝蹴りで吹き飛ばす
木の葉のように宙を舞う怪人
「チャンスだよっ、お姉ちゃんたちっ! シスターエナジー開放っ」
妹達からそれぞれの色の光があゆに伸びる
あゆの手の中でそれは一振りの剣となって輝き出す
「超必殺っ、フェアリースラッシュっ!!」
あゆは羽根を羽ばたかせ、怪人とすれ違いざまに剣を繰り出した
一瞬の閃光
あゆが駆け抜けた後には胸にたい焼きマークの傷を負った怪人があった
「ふふふ…俺がやられても怪人はまだまだいるぞ…たい焼き団は不滅だ…ぐふっ」
「伏せろっ!!」
俺は叫んでから近くにいた誰かを組み伏せる
爆発、衝撃
怪人はその場で自爆した
爆風にもやがすべて吹き飛び、あたりの地面がえぐれる
「つつっ、自爆とは…」
「あっ、お兄様だめですよ朝からは…でもお兄様がそうしたいのなら…」
「…は?」
シスターパニック!?〜七人の妖精編〜
第八話
〜白い思い出〜
「あれ?…」
俺は呆然とつぶやく
「お兄様…(ぽっ)」
「…は?」
状況を整理しよう。今は朝、いつものように窓から光が差している
巨大なベッドには俺+七人
そして腕の中にはそのうちの一人の佐祐理…なるほど
「すまん。寝ぼけてたな」
俺は手を離して起きあがる
「心の準備は出来ました・・・さあっ」
「さあって…佐祐理?」
「ふぇ?」
佐祐理はようやく状況を飲みこんだようだ
「お兄様、おはようございますっ」
「おはよう」
そしてどたばたした朝が再び始まる
「う〜ん…」
いつも明るい食卓を眺め、トーストをかじりながら俺はうめく
今日は3月14日…そうホワイトデーだ
もちろんお返しを考えているわけではあるが…
なにせ七人+秋子さんである(秋子さんにはあの日、ココアをもらったのだ)
お金はともかく、何を贈るかである
欲しいもの…をたとえ聞いたとしてもあゆたちは好きな食べ物だろうし、
佐祐理や美汐、秋子さんは気持ちだけで無理はしないで、というようなことを言うのだろう
「むむむむ…」
うなりながら機械的にトーストにジャムを塗りかじる
「むぐぅっ!?」
一気に意識が戻る
目線の先にはにこやかに瓶を持つ秋子さんと成功に微笑む真琴の姿があった
やられた…
後は半分もない、食べるしかないだろう
食べなければ何をされるか…ん?
「これだぁっ!!」
「うぐぅ!?」「わわっ」「きゃっ」「あぅーっ!?」
俺の叫びにみんなが驚く
それに気がつきもせずに俺はすばやくトーストを食べると席を立つ
「じゃ、行ってきます」
『いってらっしゃ〜い♪』
今日は大学に用事があるのだ
「おはよう。今日も早いわね」
「まあな、妹達は規則正しいから寝ていられないせいもあるが…」
場所は図書室
来期受けようとしている講義の中に数人でグループを作り、本一冊を解釈、要約といった分類で
まとめて行くものがあるのだ。講義はその説明と評価に使われる。
俺は知っているのを重なって北川と香里とくんでいる
「北川は?」
「トイレよ」
俺の視界にこちらにくる北川が見えた
「今日はこのぐらいかしらね」
「そうだな…」
窓からは色の変わり始めた光が差し込んでいる
「で? 結局どうするの?」
「ああ…遺憾ながら最終作戦を実行するしかない気がするぞ…」
「それだけじゃねえ…そうだ。こんなのはどう?」
俺は香里の意見に耳を傾ける
…
……
「なるほど、だがどこで入手しろと?」
「いい場所を教えてあげるわ。あっ、北川君、例の場所を
水瀬君に教えてあげようと思うんだけど…」
ぴきっと北川の表情が固まる
が、それも一瞬のことだった
「行けばわかる。確かここから…」
「なるほど…」
俺は背中どころかすべてから感じる視線に耐えながらつぶやいた
教えてもらったのは商店街にあった一軒の『ファンシーショップ』
当然俺みたいな男が進んでくる場所ではないわけで…
「ぐはっ…まるっきり変態だよな…うぐぅ…」
思わず声が出るほどの状況だった
とにかく視線が痛い
主婦からそのへんの学生まで、あらゆる女性からの視線が…
(耐えろ、耐えるんだ…)
気の遠くなるような時間と極限状態の中、俺は目的のものを選び出した
後は御菓子屋か…
「ただいま〜」
『おかえりなさいっ♪』
たまたま二階にあがろうとしていたあゆと名雪が迎えてくれた
「お兄ちゃん、それは?」
「ん? ほら」
「えっ? うぐぅ…もらっても良いの?」
「良いぞ。名雪にも…」
「うんっ、何かな〜…あ〜っ、猫さんだっ♪」
「うわぁ…天使さん…だよね♪ かわいいよっ♪」
袋から出てきたぬいぐるみを抱きしめる二人
いくつあってもぬいぐるみは嬉しいものらしい。よかった…
「後はクッキーだ」
名雪には赤いリボン、あゆには半透明のリボンでしばった袋を渡す
「ご飯が食べられなくなるからごはんの後でな」
俺は二人の頭を撫でて居間に入る
「あっ、お兄さん、お帰りなさい」
「あぅーっ、お帰り♪」
美汐と真琴は神経衰弱をやっているようだ
圧倒的に美汐が有利のようだが…
さて…ここは…
「邪魔するようだが…プレゼントだ」
二人に包みを渡す
「何だろ? あぅ? 狐だ〜♪ ふかふかしてる〜♪」
今にも本当に尻尾や耳が出てきそうな勢いで真琴が飛び跳ねる
「…お兄さん、これは…本気ですか?」
喜ぶ真琴と対照的に美汐はぷるぷると震えた
「冗談だ。本物はこっちだ」
美汐の手から狸のぬいぐるみを受け取り、新しい袋を渡す
「梟(ふくろう)…ですね?」
「ああ…森の番人、そして賢者とも言われる存在。
時に神聖なものとしてあがめられる…良いかなと思って」
「そうですか…嬉しいです。でも…知ってます?」
「ん? 何がだ?」
「梟って時にはいたずら好きな存在の象徴にも使われるんですよ?」
不意打ちしたときのようなにこやかな笑みを浮かべる美汐
「それならそれでいいさ。嬉しいいたずらだろうからな」
「お兄さん…」
美汐はその言葉に頬を染めてうつむいた
「ねえお兄ちゃん。その袋は?」
「おお、忘れていた。クッキーだ」
真琴にはオレンジ色の、美汐には落ち着きのある黒いリボンの包みを渡す
「我慢できないなら少しだけにしておけよ」
一番先に食べてしまいそうな真琴にそう言って頭を撫でてからキッチンに向かう
キッチンではすでに秋子さん達によって夕食の準備がはじめられていた
「お母様、どうします?」
「じゃあ、これをお願いね」
「えぅ〜、うまく切れないです〜」
「…こうする」
「あっ、できました♪ うわぁ〜、舞お姉ちゃんは包丁使いが上手です〜♪
どうしたらそういう風にうまくやれるんですか?」
「…切るだけ」
秋子さんの補佐になっててきぱきと動く佐祐理
嘆く栞に手ほどきする舞
(それにしてもここのキッチン広いよな…)
四人がいても余裕なのだ
「あら祐一さん。お帰りなさい…了承。みんな、もう大丈夫だからできるまでTVでも見てたらどう?」
俺のほうを見るなり秋子さんはみんなをキッチンから出した
「クマさん…かわいい…」
ぎゅっ
「あははーっ、ウサギさんですね〜♪」
「犬さんです♪」
3人ともそれぞれのぬいぐるみを大切そうに抱きしめる
その笑顔だけでプレゼントしてよかったと思う…
3人にクッキーを渡したところで夕食となった
今日の夕食はホワイトシチュー、ジャガイモとソースがおいしかった…
「秋子さん、これどうぞ」
みんなが着替えを取りに行った間に秋子さんに渡す
「あら…なんでしょう…まあ…おいしそう」
「食べないでくださいっ!(汗」
冗談なのか本気なのか秋子さんはわからない…
「冗談ですよ。ありがとうございます」
秋子さんは優しい視線をそれに向ける
「キンセンカ…ですね」
「はい」
秋子さんにはぴったりだと思った
季節も丁度よかったし…
花言葉は…『慈愛』
「ふふっ、祐一さんの慈愛がもっと欲しいわ…」
「えっ!?」
秋子さんがそっと俺の隣に座る
…あの〜…
『だめぇぇぇっっ!!』
バンっと勢いよく扉が開くと妹達が飛びこんできた
「あらあら…冗談ですよ」
必死な彼女達の表情を見て微笑む秋子さん
「そうですか…」
俺は脱力する
冗談がきつい人である
そのままぐいぐいと引っ張られ、今日は妹達全員とお風呂に入ることになった
『お兄ちゃん、気持ち良い?』
「ああ、もっと強いほうが…そうそう、もっと大きく手を動かすんだ」
俺は言う
『うん…』
真琴と名雪は熱っぽく答えた
二人の手の動きが速くなる
「もう良いぞ…ふぅっ」
俺は息をはく
「んじゃ次は真琴達の背中を流してやるからな」
俺は二人の背中を眺めながら言った
流石に8人でばたばたしたために熱くなったので体を洗うことにしたのだ
「よしっ、じゃあ20数えたら上がるぞっ」
みんなで仲良く数えて行く
『い〜ち、に〜い、さ〜ん……』
春が目の前まで来たそんな日の夜のお話…
続く
後書き
ユウ「さあぎりぎり(爆)ホワイトデーになってるかなあ?」
祐一「今回は微妙だな」
ユウ「だな、なんていったって作者が他人への経験がないんじゃしょうがない」
祐一「あることはあるんだろう?」
ユウ「…ふっ(遠い目)」
祐一「何も聞くまい…」
ユウ「後、たい焼き団編は実は最後まで迷った、シスパニ妖精編のもう一つの姿です。
長く出来そうになかったのでこっちにしたんです。だからショートコントみたいに
つきあってってやってください(笑)」
二人『でわでわ〜っ♪』
ユウ「背中流すシーンでいけないこと考えた人は手を上げて〜♪(爆)」