シスターパニック!?〜七人の妖精編〜


第十話

〜桜色の思い出〜

 

ぱちっ

「朝か…」

今日はなぜかあっさりと目が覚めた。こんな日もあるものである

目覚めたといっても少しぼうっとしてはいるが…

「おはようございます。お兄さん」

俺の右側から声がする

「おはよう」

妹達の中で最初に起きたのは美汐だった
俺が目覚めたのを気配で察したらしい

「今日も良い天気ですね」

「みたいだな」

美汐の方をむいて言う。
窓から差し込む陽光はその元気の良さを主張している

「そっちは頼んだ」

「はい」

美汐に言って左側を見る

「舞、佐祐理、朝だぞ」

自由になった右手で舞の、腕枕をしたままの左手で佐祐理、
それぞれの肩を揺らす

「ふぁ…あっ、おはようございます」

「兄様おはよう…くー…」

「舞、寝るな」

ぽすっ

二度寝しようとした舞の頭にチョップの真似をする

「…起きる…」

舞も目をこすりながら起きた

「後は名雪か…」

「ふぇ…お兄様に無視されて佐祐理は悲しいです…」

「いや…無視したわけじゃ…おはよう」

佐祐理の言葉にどもりながら答える

「はいっ、おはようございますっ♪」

朝から疲れながらさらに疲れる物に挑む

「さて…」

俺は脳裏に展開される作戦を吟味する

ほっぺたぷにぷに作戦…だめだ。

他の妹達も巻き込む可能性がある

足をくすぐる作戦…これもだ

前寝ぼけて蹴られたときは痛かったな…

お目覚めの…って論外だな…

そうなったら全員にそうするはめになる…

やはり…これしかないか。今日はこれなら起きるだろう

「名雪っ! 早く起きないと一人で留守番だぞっ!!」

なぜこれで起きるか、後でわかることではあるが…ともかく

「え?…お兄ちゃん???…わわっ、起きなきゃっ!!」

慌てて起きる名雪

そのままばたばたと全員が各自の部屋に着替えに行った…が、

「栞、どうした?」

「はいっ、今日はお兄ちゃんに着て行く服を選んでもらおうかなって…だめですか?」

いや…パジャマ姿で上目使いされて断れるわけが…

「わかった。早く決めなきゃな」

うなずいてから栞の部屋に入る

栞の部屋はかわいらしいぬいぐるみや小物が多い

「じゃあどれにしたら良いと思います?」

栞が何着も服を持ってこちらを見る

「う〜ん…」

正直、何を着てもかわいいのだが…

「これが良いんじゃないか?」

俺が選んだのは純白の服

手首近くまでそでがあるやつだ

腰の部分は後ろにあるリボンを調節して締めることが出来るようだ

「じゃあそうします♪」

栞は微笑んでパジャマを…

「えぅ〜、恥ずかしいですっ!!」

「おっと、すまん」

栞の声に慌てて部屋を出る

(朝から何やってるんだろうな…)

栞の下着姿に動揺する胸を押さえながら嘆息する

「俺も着替えるか…」

 

 

 

 

 

『いっただきま〜すっ♪』

元気な声がキッチンに響く

「祐一さん、お友達はもうすぐいらっしゃるんですか?」

「ええ、そのうちに…」

そう言ったとたんに車のエンジン音が聞こえた

「あっ、来ましたね。佐祐理が行ってきます」

玄関に駆けて行く佐祐理

俺も席を立つ

 

 

「よう。持ってきたぞ」

北川がこちらを見とめるなりいってきた

「今日はすまないな」

「良いのよ。別に暇だったんだし」

香里が答える

二人が乗ってきたのは普通に言うワゴンよりもさらに一回り大きいものである

「お二人とも朝食はお食べになったんですか?」

「いや、美坂にたたき起こされてすぐだったし…」

「途中で食べようと思ってたけど?」

佐祐理に答える二人

「じゃあご一緒しませんか?」

「そうだな。食べて行ったらどうだ? まだ妹達は食べてるし」

「そうね。じゃあお邪魔するわ」

「だな」

 

 

『おはようございますっ♪』

「おはよう。相変わらず元気ね」

「香里お姉ちゃんも元気ですか?」

「ええ、元気よ」

栞と話す香里

「水瀬、今日は二人で運転か?」

「頼めるか?」

「ああ、構わないぞ」

付き合ってみて(変な意味じゃないぞ)わかったのだが
北川は良いやつだった。例の事件も偶然だということがはっきりとわかった

そんな俺の仲介もあって気の良い年上として認識されたらしい

なぜか「北川お兄ちゃん」とは呼ばれないのだが…まあ良い

そうこうしているうちに朝食が終わり、準備も終わったので車に乗りこむ

春休み最後の日曜日、今日は花見に行くのだ

まだこの地では桜は早いようなのでドライブがてらに少し南に下るのだ

メンバーは妹達+俺と秋子さん、そして北川と香里の二人である

「みんな、乗ったか?」

『は〜いっ♪』「乗った…」

俺の運転で動き出す

…ああ、ちゃんと免許はとってるぞ

ちなみに行きは俺、帰りは北川だ。

 

 

国道を抜けて高速に乗る。

目的地はここから三時間ほどらしい…

 

 

 

 

 

 

 

途中、

「うぐぅ…お兄ちゃん…」

「どうした?」

もじもじと顔を赤らめてつぶやくあゆを見てぴんと来た

「次のパーキングに寄るからな」

「うぐぅ…うん」

恥ずかしそうに沈黙するあゆ

寄ったパーキングで車を止めると妹達は全員降りて行った

「女の子って近いんだよな」

「それってセクハラよ」

「ぐはっ、そうなのか?」

気をつけようと心に誓う

戻ってきた妹達を乗せて再び高速をひた走る

 

 

 

 

 

 

 

「着きましたね〜♪」

「うわぁ〜〜♪」

「うぐぅ、花びらが飛んでるよっ」

「あぅっ!…口に入った…」

高速を降りてしばらく国道を走り、ついたのは行楽地ではなく、山に囲まれた小さな町だった

山並みは桜のピンク色に染まっている

「あっ、あの角を曲がったところです」

「わかりました」

秋子さんの案内で車を止める

 

 

「ん?…もしかして秋子かい?」

「はい、お久しぶりです」

山のふもとにある車を止めた茶屋のおばあさんがこちらを見るなり言ってきた

秋子さんが答えたところを見ると知り合いのようだ

「娘達も大きくなったねえ…もう七年になるのかい?」

「はい…ようやく整頓が出来ました」

秋子さんの視線をたどって俺を見るおばあさん

「そうか…良かったねえ…今日は花見に来たんだろ?」

「ええ、よろしくお願いします」

「わかったよ。座って待ってなさい」

おばあさんはそう言うと奥に入っていった

「お兄ちゃん、鯉さん見てきても良い?」

「落ちるなよ」

名雪に言う

わ〜いと嬉しそうに名雪とあゆ、それに栞と真琴も走り出した

すぐそばに流れる川には色とりどりの鯉が放流されていた

「秋子さん、何をしてもらってるんです?」

「すぐにわかりますよ」

美汐や舞、佐祐理はわかっているようで落ち着いている

北川と香里は車でまだ何かやっているようだ

 

 

「ほら、持っておいき。たくさん入れておいたからね」

「ありがとうございます」

おばあさんが持ってきた荷物を受け取ると秋子さんは深々と頭を下げた

重そうなそれを俺が持つ

「お兄様、こっちですよ」

佐祐理の案内で店の裏の山道を上って行く

 

 

 

 

 

「広場になっているのか…」

着いた先は丁度桜に囲まれたちょっとした広場になっていた

荷物を適当に降ろす

「じゃあ広げましょう」

「そうですね」

秋子さんの差し出したシートを広げ、飛ばないように物を置く

「あぅー…お腹すいた…」

「うぐぅ…ボクも…」

「はいはい、じゃあお昼にしましょうか」

『わ〜い♪』

ぱかぱかと開けられた箱の中身は…

「…花よりだんごを地で行ってるな…」

おなじみの花見団子やおはぎ等がつまった豪華なものだった

「お兄ちゃん、あの茶屋のお団子はすごくおいしいんですよ」

「そうなのか?」

栞の薦めで団子を一口含む

口に広がるほのかな甘味と良い歯ごたえ…確かに…

「水瀬、うまいな…」

「ああ…」

桜を眺めながらもくもくと食べる

 

「飲み物はいらない?」

「持ってきたのか?」

香里の差し出した缶を手に取る

烏龍茶か…丁度良い

甘くなった口の中をさっぱりさせようと…ぐっ!

「香里、これっ!?」

その味わいは、烏龍ハイだった

「大丈夫よ。秋子さんには了承とったから」

「え?」

秋子さんの方をむく

「了承。無礼講で行きましょう」

いや…それで良いんですか?

「えへへ…お兄ちゃ〜ん」

「おっと、どうした名雪?って」

肩越しに見える名雪の顔は真っ赤だった…まさかっ

「ああっ! 用意してきた分がかなりなくなってるわっ!!」

香里がクーラーボックスを覗き込んで叫ぶ

「何が入ってたんだ?」

笑い声がするほうを見ずに聞く

「…あのオレンジやピーチの…ジュースと間違えやすいアレよ…」

香里も少し顔を引きつらせて俺の背後を見る

「俺は残ってるやつを回収しよう」

「北川、頼む」

俺は背中にぶら下がったままの名雪を見ながら後ろを振り向く

そこには…

「あははーっ♪ ふわふわしてます〜♪」

「あぅーっ、あったかい♪」

「うぐぅ、おいしいね〜っ♪」

「…兄様も飲む…」

「どうせ私は地味で目立たないですよ〜…」

「だめですっ! そんなだから目立たないって言われるんですよっ!!」

出来あがった彼女達がいた

美汐は泣き上戸か…栞が絡んでるな…

散らばる一人二つづつの缶・・・

「お酒は飲んじゃだめだって教わらなかったか?」

「あははーっ♪ じゅーすですよ、じゅーすっ! お兄様も飲みましょうよ〜♪」

「…兄様、飲む」

「ぐはっ…完全に出来あがってるな…こらっ、二人して体を押さえるなっ!」

手足を二人に捕まえられてうめく。背中に名雪を背負ったまま…

「あぅーっ、えいっ!」

「うわわっ」

「北川君っ!」

真琴の足払いが北川に決まり、こけそうになったところを香里が支える

「うぐぅ、失敗しちゃったね〜♪」

「次がありますよ♪」

彼女達の視線は…俺かっ!?

「お兄ちゃんに突撃〜♪」

『お〜〜っ!!』

落ち込んでいた美汐までもが加わって突撃してくる

「名雪っ、離れろっ」

ぼすっ

当然のことながら四人の突撃をこらえられるはずも無く倒れこむ

名雪はちゃんと離れたようだ

「いつつ…怪我は無い様だな…」

今だ笑顔で笑っている彼女達を見てつぶやく

妹達は立ちあがると、

「あぅーっ、暑いっ!」

「そうですね〜、脱いじゃいましょうか?」

『賛成〜♪』

「ちょっと待ったーっ!」

俺の制止も聞かずに各自の服に手をかける妹達

「おっと」

すばやく後ろを向く北川と近いほうの名雪と真琴、あゆに持ってきたコートをかける香里

俺も佐祐理と舞、栞と美汐に同じようにコートをかぶせる

「いくらなんでも風邪を…ん?」

顔にかかった栞の服をどかしながら文句を言おうとしたが、

「すー…すー…」

台風が過ぎ去った後のように静かになる妹達

「なんとか…終わったのか?」

思いっきり脱力する俺

「見たいね………そうでもないみたいよ…」

「なにっ!?」

香里の声に振り向くとそこには

「くすっ、了承です♪」

何が了承なのかわからないのだが明らかに酔った秋子さんがいた

陽気に乗ってハイペースで飲んだらしい…2桁に近い缶が転がっている

「…北川…香里…」

「はぁ…帰りましょうか…」

「俺は荷物を持って先に準備しておくぞ」

「すまん」

脱ぎ散らかされた服を集めながらつぶやく

香里に手伝ってもらいながら着せて行く

いかん…妖しい人物じゃないか…

眠る妹達に着させている自分を客観的に考えて自爆する俺

(でかいコートを用意しておいてよかった…)

思考を逃避させながらなんとか着させることに成功する

その場を香里に任せて次々と妹達を背負って山道を下る

 

 

「お兄ちゃん…」

「栞、起きたのか?」

最後に栞を背負って降りている途中で栞が起きた

「はい…すいません。私がみんなに薦めたばっかりに…」

「まあ苦労はしたけど楽しかったぞ」

これも事実だ

「くすっ、お兄ちゃんは優しいですね」

「まあお兄ちゃんだからな…」

背負っている以上照れた表情を隠すことも出来ない

「これからも一緒にいてくださいね」

「当たり前だ。たとえ…死が俺とお前達を分け隔てようと寂しい思いはさせない」

「死んじゃ嫌ですよ」

「たとえだたとえ」

 

「…お兄ちゃん…」

「寝たのか…」

耳にかかる寝息に心地よさを感じながら店の裏手に出る

車へ起こさないようにそっと寝かせる

「まあ水瀬もゆっくり寝て行けよ」

「良いのか?」

「ははっ、俺は飲んでないからな」

ここは北川の好意に甘えることにした

 

 

 

 

 

 

 

「幸せそうだよな…」

「ええ、思わず守ってあげたくなるぐらいにね。
せっかくつかんだ幸せのきっかけだもの…」

「じゃあ無事に送り届けないとな」

「そうね」

ミラーに映るのは健やかに眠る祐一と彼女達の姿…

 

 

 

続く

 


後書き

「なぅ…春も真っ只中、皆さんはどうお過ごしですか?
私は外伝やってます(爆)加奈もやってます(笑)…
シスプリはもっとやってます(ぉぉぉ」

「更新なかったりしますが、その間、シスプリSS書いたりオリジナルSSのネタ考えたり…
死んでます(爆)…まあ楽しいんですけどね(苦笑)」

「次は…どうなるんでしょう?(笑)多分たい焼き団編が入りますね(爆)」

「では」