シスターパニック!?〜七人の妖精編〜


第十二話

〜思い出の積み重ね〜後編

 

「えーと…おっ、こっちか…」

最初はあゆだ。もう少し寝ていたら遅刻するところだったな…

足を進めた先に生徒の父親や母親らしき大人たちが見える

もう入り始めているな…

それに続いて教室に入る

「あっ、お兄ちゃんっ♪」

後ろを向いて手をひらひらさせるあゆに手を上げて返す

授業の科目は…国語か…

教室にある教師用の机に座って何かを書いていた担任が席を立ち教壇に向かった

「はい、では授業を始めます」

しんと静まる教室

さすがに今日は静かか…

「起立・・・礼・・着席」

女の子のよく通る声の号令が響く

「皆さん、宿題はやってきましたか?」

『はーいっ!!』

あゆも一緒に勢いよく手が挙がる

「はい、よろしい。では…順番に発表してもらいます。その前に保護者の方に説明しますね。
一年生の時には自分の夢を作文にしてもらいました。今年は夢と、
それを実現させるためにはどうしたら良いか、自分なりの意見を含めた作文を書いてもらいました」

…以外というか妙に現実味のある話だ…

お約束どおりにア行の子から発表らしい…

サッカー選手になる。ピアノ奏者になる等様々である

中には高校卒業と同時に玉の輿になりたいという子がいたが、あてはあるのだろうか?

お、もうあゆの番か

「はい、じゃあ次はあゆちゃんの番ですよ」

「はいっ」

元気よく立ち上がるあゆ。その拍子に揺れるリボンがお似合いである

勢い良く動かされるイス

「うぐぅっ!?」

後ろの席に引っかかったイスのせいで中途半端に立ったあゆは倒れこむようにおでこを机にぶつけた

「ううっ…痛いよう…うぐぅ…」

涙ぐみながらもあゆはごしごしと目をこすって改めて立ち、作文を読み始めた

「えっと…ボクの夢は…大好きなお兄ちゃんのお嫁さんになることですっ♪」

がくっ

あゆのあまりといえばあまりの発言に思わずひざが抜けた

「お兄ちゃんはボク達のためにいつもがんばってくれています。
本当のお家からボクの家の子になってまでそばにいてくれます」

その後も長々とあゆの朗読は続く

ご飯のときに滑りやすい豆をつまんで食べさせてくれる…
お風呂でもしっかり洗ってくれる等々…はっきり言って恥ずかしいことこの上ない

本気でここから逃げ出したくなる

「お兄ちゃんにはいつもいつもお世話になっています。いつも助けてもらってばっかりです。
何かしてあげたいと言っても『みんなの笑顔を見れるならそれが一番嬉しいぞ』…そう言ってくれます。
だから…早く大きくなって少しでもお手伝いをしたいです。お兄ちゃんにとってボクたちが笑顔になるのが
嬉しいのと同じようにボクたちにはお兄ちゃんが笑顔になるのが嬉しいからです。終わりっ!」

えへへと恥ずかしがりながら座るあゆ

…むぅ…これでは恥ずかしいことを、とは怒れないじゃないか…

妙な視線を感じたままで時間は過ぎていった

チャイムが鳴って一時間目が終わる

「やっとか…」

「お兄ちゃんっ♪」

あゆがぱたぱたと駆けて来る

「嬉しかったぞ」

とりあえず一言

「うぐぅ…恥ずかしいよ…」

「んじゃ次行ってくる」

まだ二人分あるしな…

「うんっ、行ってらっしゃ〜いっ」

あゆ…手を振って叫ぶな…

 

真琴は…体育館か…

おっ、準備体操を始めてるな…真琴は…いた

「…むぅ…」

壁にもたれながらつぶやく

なぜか?それは…

「新鮮だな…」

真琴はその髪をゴムでポニーテールにし、柔軟体操に移っている

大き目の体操服と紺色ブルマー…この学校…やるっ

うっすらと浮かぶ汗が真琴の顔を輝かせている

「はいっ、準備体操は終わりです。ではチームごとに別れてください」

どうやらバスケットボールをやるらしい

「良い? 絶対勝つわよっ!!」

『うんっ!!』

真琴がチームメイトに檄を飛ばす

声をかけようとしてやめた。真剣な表情だったからだ

ジャンプボール…相手が取った

「一人はゴール下、他はマークについてっ!」

叫んで真琴はボールを持った相手に向かう

真琴が左に動いたのを見て逆方向にいるフリーの子にパスをしようとする相手

だが真琴がはねるようにそちらに飛ぶ

ぱんっ

真琴がボールを手にする音が響く

フェイント!?…真琴もうまいな、わずかに動き、相手のパスを誘ったか…

「打ってっ!」

ワンバンで出したパスを受けた味方がシュートし、ゴールに入る

「やった〜っ♪」

戻ってきた味方と手を組む真琴

その後も真琴を中心にチームはきれいな動きをする

真琴の頬を伝い、体操服をぬらしていく汗が真琴の運動量と活躍を物語る

ラスト一分…しかし

「あぅっ!?」

真琴が汗で足を滑らし、激しくこけた

「真琴っ!!」

俺は思わず駆け寄った

「あっ…お兄ちゃん…あぅーっ、変なところ見せちゃったよぅ…」

力なく笑う真琴が足首を押さえる

「まったく・・・あっと先生、妹を保健室に連れて行ってもいいですか?」

どうやら捻挫もしたらしい

先生の了解をもらって体育館を出る

揺らさないように気をつけて真琴を背負う

 

 

「せっかくの授業参観なのに失敗しちゃった…あぅー…」

「栞の授業は四時間目だからな…一時間そばにいてやれるぞ…まあ休んでろ」

「…うん…」

ことんと背中に感じる真琴の頭の重み

保健室に入り先生を探すが出かけているようだ

しょうがないので俺が応急手当をした

真琴をベッドに寝かせる

「栞の授業が終わったら迎えに来るからな…」

「あぅー…うん…」

俺を見上げる真琴の頭を優しく撫で続ける

疲れも手伝ってかすぐに寝息が聞こえてきた

そのまま時間を過ごし、授業が終わったので起こさないように気をつけて手を離し、家庭科室に向かう

栞は調理実習だとか…大丈夫なんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぅ〜〜…」

栞の泣き声と周囲の呆然とした表情がすべてを物語る

それだけの材料を準備する学校も学校ではあるが、栞が原因であることは間違いない

俺やテーブルごとに別れた親達の視線の先には手のつけられていない材料と何かがあった

「…硬い…苦い…」

無謀にもそれを一口含んだ男の子のつぶやきが静かに響く

こうなる前はもしかしたら目玉焼きだったかもしれない物体、
百歩譲ってもハンバーグとは言えそうに無い塊等々…散々である

「あ…お兄ちゃん…はぅっ、お昼ご飯なくなってしまいました…」

うつむく栞

原因はこうだ

栞が熱しすぎたフライパンに材料を乗せたものの、無論のことそれらは一気に焦げ始めたのだ

栞は慌てて油をひこうとしたのだがこれがまずかった。

油は高すぎる温度にそのまま発火、中華料理人も真っ青な火力で材料を焼き尽くしたのだ

その騒動に普通に作業をしていた周囲も振り返ってしまった

で、現状である

今日は四時間であり、実質給食の代わりであることがわかる

申し訳なさに泣き崩れる栞を班の他の子や俺で慰める

「…よし、みんな手伝え」

「はい?」

無言で先生に許可を貰い、包丁を構える

「え?」

背中に栞の視線を残して次々と野菜や肉を切っていく

班のほかの子に声をかけながら手際よく作業を進める

十数分後、卵を混ぜた野菜炒めやその他を完成させた

「こんなもんだろ」

今の時代、男子と言えども家事の一つや二つはできなければ情けない

普段は遠慮して、というか必要が無いから動いていなかっただけである

唖然としたままの栞に声をかけて他のテーブルと同じように食事をはじめる

 

 

 

 

「お兄ちゃんって料理が作れたんですね…」

「まあな…」

最初はもちろんカップ焼きそば水を捨てずにソースを入れたり、
インスタントを水のころから入れておいた上で沸騰してから待ったためにふやけさせたりしたが…

料理か?と言われればそれまでのことではあるが…

授業が終わり、栞を引き連れて保健室に向かう

…お?

「あゆ〜っ」

「あっ、うぐぅ、お兄ちゃんっ・・真琴お姉ちゃんが倒れたって本当?」

心配そうなあゆの手を取る

「まあこけて捻挫しただけだからな…まあ念のためにおぶって帰ろうとは思ってる」

しゃべりながら保健室に入る

「あっ、先生、真琴はどうです?」

帰ってきたらしい先生に聞く

「ええ、もう大丈夫よ。見たところ捻挫も軽いもののようね」

その言葉に安心する

「あぅーっ…遅いっ」

「その分なら大丈夫そうだな…ほら、背負ってやるから…」

背中に真琴の重みが来たのを確認して保健室を出る

 

 

「あぅー…お兄ちゃん?」

「ん?」

「お姉ちゃんたちを迎えに行こうっ」

校門を出たところで真琴が背中からそう言って来た

「まあ真琴が言うならそうするか」

足をそちらに向ける

 

 

 

 

「あっ、お兄様〜っ♪」

「お兄ちゃんっ!」

こちらを見止めるなり走り寄る二人と落ち着いて歩いてくる二人

保護者会の都合で中学も四時間らしい

となると授業参観には秋子さんが行くこともできたんだな…

俺がいない間に秋子さんにお願いする妹達の姿を想像して苦笑する

そのまま8人でにぎやかに帰路につく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぇ〜…そんなことがあったんですか〜」

家につき、今日のことを話していた

「はい…お兄ちゃんには迷惑をかけてしまいました…」

「うぐぅ…それならお兄ちゃんに何かしてほしいことが無いか聞いてみようっ?」

あゆの言葉に全員が頷いた

「そうですね、お兄さんにはいつもお世話になっていますし…」

「…恩返し…何が良い?」

実際はこっちのほうが多く助けれられているとは思うが…そういうのなら…

「そうだな…じゃあ…」

 

 

その後、俺が何を言ったか、何をしてもらったかはここでは記すまい

ただ…秋子さんが夕食の時間まで帰ってこなかったのは良かった…

 

 

 

 

 

 

 

「まだ痛むか?」

お風呂用の椅子に座った俺の右足に真琴を座らせて聞く

「あぅー…少し…」

弱弱しい真琴の声がする

「無理して痛めるとは…悪いことをさせたな」

「ううん…真琴がやりたかったからやったんだもん。気にしないで」

今日は怪我をした真琴と名雪、舞の四人で入浴である

名雪達は二人で洗いあっている

「じゃあゆっくりな…」

撫でるようにしてその部分をタオルで行き来する

「んっ・・・」

「強すぎたか、すまん」

痛みに少し顔をしかめる真琴を気遣いながら汗を落とすために一通り洗う

「ここ以外なら痛くは無いからな…」

他の部分はしっかり洗っていく

背中、首筋、両手…まあ他の部分もだ

「あぅ…やっぱり恥ずかしい…」

真琴の声を耳に聞きながら痛くないように撫でるようにして洗う

 

 

 

 

「踏まれるといけないから今日は端っこで良い…」

残念そうな声で真琴は布団に転がった

急遽空いた隣をかけてじゃんけん大会が勃発したのはいつもの平和の証…

 

 

 

 

 

続く

 


あとがき

祐一「作者ーーっ!!」

ユウ「来るかっ!?」

がしぃっ!!>組み合う二人

祐一「真琴に怪我をさせたなっ!!」

ユウ「ふっ…だからこそあーんなところやこーんなところまで洗えたんだろうがっ!!」

祐一「ぐはっ!!」

ユウ「自分で書いておきながら修正するのは大変だったんだぞ。
   恒例の勘違いシーンにするか否かで悩んだし…」

祐一「一つ聞いてもいいか?」

ユウ「ん?」

祐一「あんたは妹といつま、ごふぅっ!?」

祐一マットに沈む(爆)

ユウ「おろかな…好奇心は猫をも殺すというのに…」

作者、祐一のお腹に叩き込んだこぶしを引く

どすっ!!

ユウ「かはっ!?…槍っすか…」

槍にはこう記してある・・・『天誅』