サーーーーーーーー・・・

「雨か・・・梅雨・・・なのか?」

俺は耳に届いた雨音に目を覚ます

湿気を考慮して、みんな薄着である

俺としては風邪を引かないか心配ではあるのだが・・・

「・・・うぐぅ・・・おはようございます〜・・・」

「あぅー・・・おはよう」

あゆと真琴に続いて他のみんなも目を覚ましていく

「・・・やっぱ良い方法はないか?」

半ばあきらめて、かわいく寝息を立てる名雪を見ながら俺はつぶやく

「うーん・・・名雪お姉ちゃんの眠りの深さはマリアナ海峡よりも深いんでしょうか・・・」

いや・・・それはさすがに言い過ぎ・・・とも言えないか

結局いつものとおりに苦労して起こすことに成功した

 

 

 

 

シスターパニック!?〜七人の妖精編〜


第十三話

〜雨音が運ぶもの〜

 

「そろそろカビが生えてこないようにしなくてはいけませんね」

トーストを焼きながら秋子さんが言う

「確かにそうですね。どうします?」

「・・・ちょっと風味は落ちますけど、冷凍室に入れておきますね」

しばし考えた秋子さんが結論を言う

「あっ、お母さん。長靴ってどこにしまってあったっけ?」

目を覚ました名雪が思い出したように言う

「確か下駄箱の奥のほうに入れたままよ」

雨は結構降ってきており、普通の靴ではぬれてしまいそうだからだろう

 

 

 

「よいしょっと・・・」

俺の前であゆが懸命に長靴をはいている

色はみんな白である

汚れが目立つと思うんだが・・・うーむ

「それじゃ行って来ます」

秋子さんに挨拶をして玄関を出る

 

ザーーーーーー・・・

「・・・降ってるな・・・」

「そうですね。でも涼しいです」

佐祐理が湿った長い髪をかき分けながら言う

「あっ!」

「あぅ?」

あゆが叫び声をあげて駆け出し、真琴もそれに続く

「どうした?・・・お?」

「うぐぅ、かたつむりさんだよ〜〜♪」

あゆの視線の先にあるアジサイの葉の上をかたつむりが二匹動いていた

「うー・・・かわいいよー・・・」

名雪も同じように見入っている

「なんだ、だったらナメクジを眺めてれば濡れないんじゃないのか?」

「お兄さん、それはさすがに違うと思います」

「そ、そうか?」

美汐の突っ込みに慌てる俺

「・・・兄様」

「ん?」

舞が俺の袖を引っ張った

「・・・なんでここだけ赤いの?」

舞の言葉にあたりを見渡すと・・・確かに

このカタツムリの乗っかっているアジサイだけが赤く、同じ土地の他のアジサイは青い花だ

「確かアジサイが赤いと土壌が酸性なんだっけか?」

美汐に振ってみる

「ええ、確かそうだったはずです。サスペンスとかじゃ人が埋まっていて
土壌が酸性になり、そこだけ赤くアジサイが咲いて見つかるとかあったりしますが・・・」

・・・

・・・・・・

ザーーーーーーー・・・

美汐のセリフにしばし時が止まる

「おっ、お兄ちゃんっ・・・」

「うぐぅ・・・」

「いや・・・大丈夫だろ」

名雪とあゆが細かく震えて近づいてくる

俺自身、妙な冷や汗が出てくるのを実感していた

「あら、水瀬家のお嬢さん達、おはよう」

そのとき、アジサイの咲いている土地のおばさんが家から出てきた

「あっ、おはようございます」

『おはようございますっ』

おばさんは俺達が赤いアジサイを見ているのを見ると顔をほころばせた

「いいでしょう。園芸の人に聞いてわざわざここだけ肥料で酸性にしたのよ」

にこにことおばさんが言った言葉に妙な冷や汗は引いていった

「よかったら帰りに分けてあげるから寄っていきなさい」

「はい。失礼します」

頭を下げて歩き出す

結構時間を食ってしまったな

 

 

 

 

『雨、雨、降れ降れ、母さんが〜〜♪』

俺の前を歌いながらあゆたちが歩く

水溜りを見つけては遊んだり騒いだり、早めに出てきて正解だったな

「んじゃ、気をつけていってこいよ」

あゆたちと別れる

 

 

 

 

 

 

 

 

「今年は梅雨が長引きそうよ」

「そうなのか?」

「ああ、ニュースで言ってたぞ」

昼飯を終え、次の講義の準備をしながら二人と話す

「あたしは折りたたみじゃ意味がなくなってるから普通の傘にしようかと思ってるの」

折りたたみは小さいからな・・・

「ふっ・・・男はごみ袋があれば十分だ」

北川は自信満万に言いきった

「・・・もしかして・・・頭の入る部分を切って、かぶるのかしら?」

「よくわかったな」

香里の答えに感心する北川

「・・・あたし、そのままなら次から街中じゃ北川君とは他人よ。
せめてカッパにして頂戴・・・恥ずかしいから」

「・・・わかった」

しぶしぶとうなずく北川

「にしても・・・降り過ぎじゃないか?」

俺の声に二人が窓を向く

「・・・そうね・・・まさにバケツを・・・っていう表現がぴったりかも」

「・・だな・・・」

三人の視線の先で雨は屋根から流れ落ちる雨と合わさって、滝のごとき状態だった

そこに男子学生が飛び込んできた

「おい、講師の先生が道路の通行止めで来られないから休講だってさ」

その言葉を契機に講義室は騒がしくなり、次々と帰り始める学生達

「・・・帰るか」

俺の意見に二人はうなずいた

 

 

 

「迎えに行くの?」

「ああ、危ないからな」

香里に答え、佐祐理たちの学校の方向に向かう

 

 

 

 

 

「あっ、お兄様・・・一緒に行きましょう」

「お兄さん、早かったですね」

学校を出たばかりの佐祐理たちと出会った

佐祐理たちのほうも大雨のせいで午後の授業がなくなり、早めに帰ることになったようだ

「二人とも、これにかばんを入れておいたらどうだ?」

俺は朝出るときに持ってきた小さ目のごみ袋を二人に渡す

「…なるほど」

「服はともかく、教科書とかが濡れると厄介だからな」

結構役に立つのである

三人で小学校に向かう

 

 

 

 

 

 

「おーい」

「あっ、お兄ちゃんっ」

「うぐぅ、来てくれたんだ♪」

俺が手を振ると昇降口で空を見上げていたあゆと名雪が走ってくる

ずるっ

「うぉっと」

「うぐぅ・・・怖かったよぉ」

こけたあゆを受け止め、一息つく

「真琴や栞たちもすぐですか?」

「うんっ、そうだよっ。美汐お姉ちゃん」

「ふぇ? 来ましたよ」

見ると二人がこちらに向かってくるところだった

合流して家に向かう

 

 

 

 

「うぐぅ・・・すごいね・・・」

「ふわーー・・・すごいです〜」

橋の上から川を見てもれたあゆと栞の声も轟音に消される

いつもは穏やかな川も今は茶色い水の氾濫する状態となっている

「あぅーっ・・・危ないから行こう?」

真琴の声に二人が歩き出す

びゅうっっ!!

「うぐぅっ!?」

突然突風がふき、あゆの体を傘ごと、橋を超えて川のほうへと押しやった

あゆの小さな体が宙に舞いそうになる

「あゆっっ!!」

俺は迷わず橋から身を乗り出し、あゆに手を伸ばして手元に引き寄せる

ずるっ

「しまったっ!」

俺もそのときの勢いで足を滑らしてしまった

あゆが橋の上に戻ったのを視界に収めながらも自分の体が落下していくのを感じた

下は濁流・・・このままだと死ぬ・・・か・・・

ガクンッ

「え?」

俺は覚悟して閉じたままの目を開ける

俺の両手を佐祐理と真琴がつかんでいた

「今度は・・・」

青ざめ、それでもしっかりと・・・

「落とさせないからっ!」

真剣に俺を見つめる

二人で俺の落下を止められるとは思えない

恐らく何人かが後ろで佐祐理たちをつかんでいるのだろう

「くっ」

俺は何とか手を桟橋にかけ、体を持ち上げる

「はぁっ」

無言の中、荒い息と雨音が響く

「お兄ちゃんっ!」

「あゆ、大丈夫か?」

「うぐぅ、ボクは大丈夫だけど・・・」

泣きながら言うあゆ

「・・・雨に濡れちゃったな・・・すまん」

傘を放り出してつかんでくれたのだろう

遠くに居た舞と栞、美汐以外は傘をさしていない

「・・・いえ」

まだ震える佐祐理と真琴の肩を抱きとめながら歩き出す

全身ずぶぬれだが気にならなかった

 

 

 

 

 

「あらあら・・・お風呂はわいてるからすぐに入りなさい?」

「そうします」

かばんを玄関に置いて、ぞろぞろと浴室に向かう

 

 

 

ざばぁ・・・

「ふぅ・・・」

暖かいお湯は体の冷えと、震えを一緒に取り去ってくれる気がした

 

「ん? 髪は洗わないのか?」

俺の右側に入ってきた佐祐理に聞く

「・・・あはは・・・怖いんです・・・目を閉じるとお兄様が落下していくのが目に浮かんでしまって・・・」

苦笑する佐祐理の目にうっすらと涙が浮かぶ

「あぅー・・・」

同じようにもれる静かな真琴の声

肌が直接触れるのもかまわずに寄り添う二人

抱きしめるうちにゆっくりと震えが引いていく

大事な人がそばに居ると言うこと、それを実感した気がした

 

 

 

 

 

「はい、体が温まるようちゃんと食べてくださいね」

秋子さんの用意してくれた夕食がさらに体を中から温めていく

何があったかは聞かない

ただ温かく見守るだけの秋子さん

俺はその力強さに改めてここに来て良かったと思った

 

 

 

 

その日は・・・触れ合うぬくもりがいつもより暖かく感じた気がした

梅雨は・・・どたばたから始まった

 

 

続く


後書き

ユウ「なぅ・・・今回は・・ね。なんか書きたくなったので・・・(汗)」